連載:第2回 ニュースが(ゼロから)わかる法律知識
富士そば事例に学ぶ「未払い残業代」。企業側の4つのリスク
時事的なニュースを法的に読み解くとどうなるか。今回は「未払い残業代」を取り上げます。「名代富士そば」を運営する会社の従業員で「富士そば労働組合」に加入する店長らが、2020年11月13日、未払い残業代など計約2億4785万円の支払いを求める労働審判を東京地方裁判所に申し立てました。未払い残業代が発生すると、企業にどのようなリスクが生じるか?予防策として何ができるのか?法律事務所ZeLo・外国法共同事業の松永昌之弁護士に聞きました。
松永 昌之 弁護士
法律事務所ZeLo・外国法共同事業、第二東京弁護士会所属
2009年早稲田大学法学部卒業、2012年東京大学法科大学院修了。2014年東京丸の内法律事務所入所。2018年2月法律事務所ZeLoに参画。弁護士としての主な取扱分野は、ジェネラル・コーポレート、スタートアップ支援、FinTech、訴訟対応、倒産・事業再生など。
労働時間の記録を改ざんし、残業代を支払わない問題
──「未払い残業代」とは、どのようなものを指すのですか。
実は、労働条件の最低基準を定める「労働基準法」や、使用者(会社)と労働者間の労働契約に関するルールを定める「労働契約法」などの法律には、「残業代」という用語は登場しません。一般的に、使用者(会社)が労働者に対し支払う義務があるにもかかわらず、支払われていない賃金が「未払い残業代」と呼ばれています。
──残業代支払いのルールについて教えてください。
原則として、使用者は、労働者を1日8時間・週40時間の「法定労働時間」を超えて働かせることはできません(労働基準法32条)。労働者の勤務時間数などが「割増賃金」の支払い条件に当てはまる場合、通常の賃金に一定の割増率を乗じた賃金が、使用者から支払われます。
(出典:「しっかりマスター労働基準法 割増賃金編/東京労働局(2018年9月公開)」より引用)
また、残業代を計算する際の前提として、使用者は健康管理の観点から、タイムカードによる記録、パソコンの使用時間の記録などの客観的な方法で、労働者の労働時間の状況を把握する義務があります(労働安全衛生法66条の8の3、労働安全衛生規則52条の7の3)。
──客観的な方法で、労働者の労働時間の状況を把握できない場合、使用者ができる対応はありますか。
最終手段として、労働者から労働時間を自己申告してもらうことも認められています。
ただし、使用者には、労働者や実際に労働時間を管理する担当者に対して、自己申告制の適正な運用について十分に説明したり、労働時間の実態調査を実施して自己申告の労働時間を実態に合わせて補正したりするなどの対応が求められます(参考:「労働時間の適正な把握のために使用者が講ずべき措置に関するガイドライン/厚生労働省(2017年1月20日策定)」)。
──富士そばの事案では、残業代についてどういった問題が起きたのでしょうか。
富士そばの運営会社は、従業員の勤務記録を残業していないように改ざんし、店長らの月200時間あった残業が、記録上0時間にされていた点が問題となりました。実際は残業があったのに記録を改ざんして残業代を支払わなかった場合、労働基準法37条1項の割増賃金支払義務に違反します。
また報道によると、従業員に対しタイムカードを押さずに勤務するようメールで指示したこともあったとのことで、世間の耳目を集めました。タイムカードを押さずに勤務させれば、使用者の労働時間把握義務にも違反することとなります。
未払い残業代で、会社が抱える4つのリスク
──会社が残業代を支払っていない場合、どんなリスクがありますか。
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