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組織・チームワーク

2017年12月1日(金)更新

モチベーション理論とは?やる気を高めるための理論を徹底解説

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企業に所属する全ての人材のモチベーションを上げるため、様々な手法が開発されています。これらのほとんどは、モチベーション理論と呼ばれる、古くからの研究を元に考案されてきました。こうした基礎的な理論を習得することは、それぞれのモチベーション向上策の本質を知ることになり、より効果的な実践へとつながっていくはずです。

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モチベーションとは?

モチベーションとは、「やる気」という言葉で表されるように、「何かをやろうとする気持ち」に他なりません。もう少し具体的には、「人が何かしらの行動をするために必要な原動力」と言えます。モチベーションには2つのタイプがあり、自分自身の心の中から湧いてくる感情によって行動へとつなげられる「動因(ドライブ)」と、外から向けられた報酬などによって行動が始まる「誘因(インセンティブ)」があります。

また、モチベーションは、「やる気」、「意欲」、「動機」などの言葉とほぼ同義と考えられますが、モチベーションを向上させるためによく用いられる「動機づけ」にも2つの方向があります。自分の心によるモチベーションアップである「動因」をきっかけとする「内発的動機付け」と、報酬を与えるなど「誘因」を用いた「外発的動機付け」です。

職場という環境において、モチベーションをいかに向上させるかが人材部門・人事部門の重要課題であることは、言うまでもありません。その際には、成功体験などによって心の内側からやる気を向上させるか、賃金アップや賞与などのインセンティブによって外側からモチベーションを上げるかなど、様々な手法を駆使して社員の心を理解し、意欲を引き出す必要があります。

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モチベーション理論10選

人の意欲を引き出すための手法は様々ありますが、全てに共通して言えるのは、モチベーションアップとは人の心を企業が望む方向へと導くことであって、人の心に関する知識や理解がなければ決して成し得ないということです。

モチベーションを研究することは、言い換えてみれば人の心の研究です。ここからは、長い歴史によって高度化されてきた仕事における心の理論についてその変遷を追い、理解を進めていきましょう。

1.業務を「見える化」 テイラーの科学的管理法

仕事場におけるモチベーション理論の始まりとして語られるのが、1911年、アメリカのフレデリック・テイラーが提唱した「科学的管理法」です。

歴史・背景

現代では、業務を進めるにあたって効率を考えることは当たり前のことですが、1911年当時、特にテイラーが従事していた工場現場では、仕事はいかにこなすかが大事で、効率的に業務を進めることなどは考えられることがなかったようです。テイラーはスチールを扱う工場で機械工として働いていましたが、工場内の仕事は、基本的に個人任せで、賃金は全員一律で頑張るかいもなく、作業の進捗が管理されることもありませんでした。

テイラーが問題視したのは、こうした各作業員がバラバラにある風土が蔓延し、全員が怠け始める「組織的怠慢」でした。一工員でしかなかったテイラーですが、あるときその働きぶりが管理者に評価され、職場改革を依頼されることになります。

テイラーが行ったこととは、作業を目に見える形にし、科学的に作業の進捗や成果を管理することで、こうした取り組みを通して、作業員のやる気が刺激され、業務効率が向上することを示しました。単なる一機械工だったテイラーは、これをきっかけに職場改善のスペシャリストとしての道を歩み始めます。今でこそ知られるコンサルタントという職業は、このテイラーが第一人者だと言われています。

理論の概要

科学的管理法の第一は、「課業管理」から始まります。課業とは「タスク」や「ノルマ」のことで、各作業員が実施すべき作業内容を明確に定め、管理することが科学的管理法のベースとなります。

タスクを明確にするため、テイラーはまず工場内の作業を細かく分解しました。そして、それぞれにかかる時間をストップウォッチで計測する「時間研究」と、多数いる機械工の中でも特に熟練の人材の動きを観察し、効率的に作業を進めるための「動作研究」を実施します。これらの研究結果をもとに、一つ一つの作業内容や手順をマニュアルにし(標準化)、全工程を「見える化」することが、テイラー・システムとも呼ばれる科学的管理法です。

その他にも、出来高によって人材ごとに報酬を変える「差別出来高給」や、それまで管理者が企画から管理、執行までを一元的に行っていた体制を、職種ごとに領域を明確にし、それぞれの責任者を設ける「職能別組織」なども、科学的管理法の特徴です。

「見える化」「標準化」「マニュアル化」など、いまでも耳にするこうした用語からわかるように、テイラーが進めた科学的管理法は、現代の業務管理の基礎を築いた研究に違いありません。

【関連】科学的管理法とは?わかりやすく解説 / BizHint HR

人事戦略への応用

古典的な理論とはいえ、科学的管理法から参考にできることは、社内にある業務を細分化して把握し、標準化・マニュアル化することができれば、人事評価にも公平性が保たれるという点です。

近年の人事評価においては、自己目標の設定と、それに基づく上司との面談による、目標管理型の人事評価システムが主流となっています。。目標管理型の人事評価は、柔軟な考査を可能とする一方で、目標設定する社員も、評価する上長も、明確に人事規定を把握しているわけではなく、属人的な結果になりやすいリスクがあることも実際です。人の好き嫌いや、業務外での付き合いなどの印象によって、評価が左右されることも否定できません。

科学的管理法は、こうした人に頼った風土を排除し、数値によって人材を管理しようとするもので、こうした視点も活用することで、より公正・公平な人事評価に貢献することも考えられます。

2.「人間関係」でやる気向上 メイヨーのホーソン実験

テイラーが行った科学的に人材を管理しようとする試みに対して、「我々はロボットではない」と異を唱えたのが、産業心理学者ジョージ・エルトン・メイヨーでした。

歴史・背景

1911年にテイラーが科学的管理法を提唱してからしばらくの間、テイラー・システムは、作業現場における業務効率化の手法としての確固たる位置を築いていました。しかし、その一方で、アメリカにおける離職率、特に企業の製造部門における離職率は高騰を続けていました。

オーストラリア出身の産業心理学者、メイヨーはその根源がテイラーの科学的管理法にあると考えました。数値のみで人のモチベーションを管理することが当たり前になっていた製造現場に必要なことは、業務効率ではなく人間関係による動機づけだと主張しました。

「人間はロボットではなく、感情的な生き物だ」と訴えたメイヨーですが、当時の製造現場では、科学的管理法が主流であり、人間関係でモチベーションアップを図ろうなどという抽象的な主張は、各企業の経営者の納得を得ることができないのが実際でした。

そこでメイヨーは、1924年から1932年の長期にわたり、人間関係によるモチベーション向上を証明するための実験を開始します。アメリカ、シカゴにあるウェスタン・エレクトリック社のホーソン工場で行われたこの実験は、ホーソン実験として知られるようになります。

理論の概要

メイヨーが行った実験の1つは、「リレー組立実験」です。作業員の賃金や休憩時間、室内温度など、様々な条件を変えながら、2つの6名の作業グループに組立作業を行わせ、それぞれの能率に変化があるかを確かめるものでした。実験開始当初、これらインセンティブを変化させることによって、作業効率も伴って変化するとの仮説が立てられましたが、なぜかどのように条件を変えても、生産高が右肩上がりになるという現象が起きます。

分析を通して見出されたのが、能率の向上が、環境要因の変動によるものではなく、実験が選ばれた少人数にのみに行われたことで、彼らに注がれた関心の目や、実験への参加意識の芽生え、また彼らのグループ内の連帯感の醸成が変化をもたらしているということでした。

さらに分析を深めるため、メイヨーは作業員に対して「面接実験」を行います。面接では、作業員からは業務に対する多くの意見や不満などが発され、しかもそれらは根拠のない思い込みや勘違いなどが多く、これらを意見として述べる機会そのこと自体が、彼らの満足度を高めることも明らかになりました。

ホーソン実験を通してメイヨーが導き出した結論は、生産性を決定するのは、数値による管理でも、厳格な管理体制でもなく、職場にいる作業員同士で自然に作り上げられる仲間意識だということです。メイヨーはこれを「非公式組織(インフォーマル組織)」と呼び、人間は感情で動く生き物だという彼の考え方は、「人間関係論」として知られるようになり、その後のモチベーション理論に大きな影響を及ぼすことになりました。

【参考】エルトン・メイヨー ホーソン実験 / DIAMOND ONLINE

【関連】「ホーソン実験」とは?ホーソン実験によって注目された人間関係論/ BizHint HR
【関連】「ホーソン効果」とは?ピグマリオン効果・プラセボ効果との関係とは / BizHint HR

人事戦略への応用

ホーソン実験の結果は、現代の人事戦略にも多くの可能性をもたらすものです。社員のモチベーションアップを図るにあたっては、賃金や賞与、有給休暇、昇格など、制度的な面を変化させることが、手法としては簡単かもしれません。ですが、これら制度面による方法の多くは、直接的なコスト増大を伴う場合がほとんどで、企業運営としては必ずしもプラスの効果のみを発揮するものとは言えません。

一方、例えば社内でのサークル活動や勉強会の実施、社内SNSの利用促進など、社内でのインフォーマルな人間関係構築を奨励する手法は、企画の難しさはありながらも、比較的コストをかけずにモチベーション向上を図れることが想定されます。また、社員同士がお互いにモチベーションを高め合うような風土が醸成されれば、人事的な施策の投下や報酬制度の変更などを避けられる可能性もあると考えられます。

3.モチベーションは段階的に マズローの5段階欲求説

モチベーション研究に多大な影響をもたらしたメイヨーの人間関係論は、多くの研究者に引き継がれることになりました。その一人が、言わずと知れたアブラハム・マズローで、1943年に彼が提唱した「欲求5段階説」は、モチベーション研究はもちろん、マーケティングをはじめとした多くの分野で用いられる理論として知られています。

歴史・背景

ニューヨーク、ブルックリンで生まれたマズローは、ユダヤ系ロシア人移民家庭の長男として、貧しい幼少時代を過ごしたと言われています。心理学を学んだ彼が博士号を取得したのは1934年、メイヨーのホーソン実験が終わった数年後で、ホーソン実験が導き出した人間関係論に影響を受けた一人に違いありません。

その後マズローはユダヤ系大学として有名なブランダイス大学の教授に着任し、1969年までの長きに渡って研究を重ね、100編以上の研究論文を発出するなど、精力的に活動しました。

マズローが生みの親ともいわれる「人間性心理学」は、精神病理に関する研究と、人間が生き物として持つ本能的な心の分析を基礎とするもので、心の健康をテーマとなっています。幼少期の移民生活や貧しい環境体験が、彼をこうした人の心の研究へと導いたのかもしれません。

1960年、メイヨーの研究をさらに高次化させたと言われるマズローが発表した「欲求5段階説」は、現代でも多くの研究分野に加え、実業界でも多大な貢献を残す理論として知られています。

理論の概要

理論の根底にあるマズローの考えは、「人間は自己実現のために絶えず成長する生き物だ」というものです。人の欲求は、自己実現を達成するまでに段階的に満たされていくものとされ、「生理的欲求」、「安全欲求」、「社会的欲求」、「承認欲求」、「自己実現欲求」の5段階で構成されると考えられました。

最も低次にある「生理的欲求」は、人が生きていくために求める、「食べたい」、「寝たい」といった本能的で、基本的な欲求だとされます。

生理的欲求が満たされると、「安全に暮らしたい」、「健康でいたい」といった安全や安定を求める「安全欲求」が現れてきます。

生活の安全が満たされた次には、孤独感や一人でいることに不安を感じるようになり、「仲間が欲しい」「あの集団に加わりたい」といった「社会的欲求(帰属欲求)」へと変わっていきます。

この3つの欲求は「低次の欲求」と呼ばれ、外発的な要因に対して発生する欲求とされます。外に求める物に満足が得られると、内発的な心の部分に不足を感じるようになり、「高次の欲求」へと変化していきます。

4段階目に表れるのが「承認欲求」と呼ばれるものです。「周囲から認められたい」「尊敬されたい」というお金や物では解決できない名声や評判など、より人間的な評価に関わる部分の欲求です。

周囲からの尊敬を得られた後、最後に表れるのが「自己実現欲求」です。自分の能力を最大限に引き出し、より完全な自分になりたいといった創造的な気持ちが生まれてきます。

「欲求5段階説」を提唱したマズローは、その後、科学的な検証が欠落しているといった多くの批判に晒されることになり、後に理論にいくつかの修正を図っています。その一つが、欲求は必ずしも段階的に高次化していくものではなく、段階を飛ばしていくこともあるという点です。また晩年には、第6の段階があることにも言及し、自分のためではなく他人のために生きようとする「自己超越」という考えを表し、マズロー自身が目指す姿だと語っています。

【参考】マズロー「自己実現」の誤解と「ありのまま」 / PRESIDENT Online
【参考】マズローの欲求5段階説のマーケティング活用法をわかりやすく解説 / 夢を叶える生き方のすすめ

人事戦略への応用

「欲求5段階説」はその明快さがゆえに、多くの批判が集まっていることも事実です。ですが、この理論のポイントは、人の欲求が全員同じものではなく、それぞれが置かれた環境によって様々に変化することのフレームワークを残したことにあります。

入社したての新入社員と、数年間の実績を踏んだ中堅社員、管理職として業務に携わる人材とでは、モチベーションが向上するドライブやインセンティブが異なってくるはずです。もちろん、ライフスタイルによっても、賃金を求める社員、休暇を大切にする社員、立場や昇格に重きを置く社員など様々タイプの人材がいることに間違いありません。

社員のやる気を引き出すためには、一律的にモチベーションを向上させようとするのではなく、社員それぞれの環境や経歴、立場などを勘案し、満たすべき欲求を見極めることが重要であることを、マズローは示唆しているように考えられます。

4.人間の本質で考える マクレガーのX理論・Y理論

科学的な検証の不足が指摘され、批判にもさらされてきたマズローの「欲求5段階説」ですが、欲求という側面から人間を捉えたその視点は、多くの研究者に影響を与えました。

マズローの思想を経営組織の観点から深化させたと言われるのが、アメリカの心理学・経営学者のダグラス・マクレガ-です。「X理論・Y理論」は、人間の本性を「仕事嫌いで怠け者なX部分」と、「自己実現をしたいというY部分」に分けて捉え、それぞれに対する管理者の行動様式を提唱したものです。

歴史・背景

企業におけるマネジメント研究分野で、ハーバード大学やマサチューセッツ工科大学など、名立たる大学で教鞭をとったマクレガーは、わずか58年で生涯を閉じた短命の研究者でしたが、彼が残した功績と影響力は多大なものがあります。

マズローの「欲求5段階説」に影響を受けたマクレガーは、生理的欲求を中心とする低次の欲求と、自己実現欲求を中心とする高次の欲求に着目しました。そして、人材のモチベーションを高めるためには、本人の力だけではなく、管理者が人間行動や人間心理を理解した上で、それに基づく信念を持ち行動をすることが大きな影響を及ぼすと考えました。

まとめられた「X理論・Y理論」は、人の心を分析することに留まっていたマズローの思想をさらに深化させ、それに対する管理者の行動を明示するという、企業運営により重要な観点を盛り込んでいます。理論の内容はもちろんですが、マクレガーの望みは、人の可能性を制限する厳しい管理体制から脱却し、人間関係的・感情的な部分からモチベーションを考える風土が広まっていくことだったと言われています。

理論の概要

マクレガーの著書『企業の人間的側面』(1960年)で提唱された「X理論・Y理論」の考え方は、マズローの欲求5段階説に基づいて説明されています。

マクレガーは、人にはネガティブな部分(X)とポジティブな部分(Y)の2つの側面があると考え、それぞれ「X理論」・「Y理論」と名付けました。

まずはX理論です。ネガティブ面を表す《X》の要素が強い人材は、「人間がもともと持つ怠け者の部分が顕著であり、野心や責任感が見られず、強制されたり命令されたりしなければ仕事をしない」とされました。マズローの「欲求5段階説」でいう生理的欲求と安全欲求、社会的欲求で構成される、「低次の欲求」が強い状態のときに、こうした面が強く出てくると考えられます。

Xの要素が強い人材に対しては、その人材の業務範囲を明確に定め、懲罰をもって脅かすか、賃金アップを約束するといった「アメとムチ」によってモチベーションをコントロールする、言ってみれば独裁的なマネジメントが求められると、マクレガーは提唱しています。

次にY理論です。ポジティブな面を表す《Y》の要素が強い人材は、自己実現を目指そうとする気質があるとされました。「欲求5段階説」でいう承認欲求と自己実現欲求で構成される「高次な欲求」が強い場合に表れる人の側面です。

マクレガーによれば、自己実現を目指すYの要素が強い人材は、どこまで自分でコントロール可能かという条件次第で仕事に対するモチベーションが左右されるため、管理者 は従業員との間で協力関係を構築することと、各従業員の望むものが目標が企業の目標と一致するよう努力することが重要だと提唱しました。

【参考】ダグラス・マグレガー X理論とY理論 / DIAMOND Online
【参考】マクレガーのX理論Y理論/ INVENIO Leadership Insights

人事戦略への応用

マクレガーの功績は、マネジメントやリーダーシップの取り方に新たな視点をもたらした点です。それまでのリーダーシップ論は、リーダーが持つ性格や資質に着目するものがほとんどでしたが、「 X理論・Y理論」で示されたリーダーの在り方は、管理者個人の能力に帰属するものではなく、従業員との関係の上でコントロールできるというも斬新なものでした。

現在の人事戦略においても、従業員のモチベーションアップを図ろうとする際には、賃金アップの検討や、従業員研修の実施、福利厚生の充実などが初めに浮かびますが、これらは対象とする人材にのみ影響を及ぼすもので、管理者の行動に関わらない手法だと言えます。

もちろん、こうした方法も意欲向上のための重要な戦略である一方、マクレガーの言う人間関係によってモチベーションが大幅に向上できるという立場に立てば、そのやり方には幅が出てくるかもしれません。例えば、管理者が部下の欲求をうまく聴きだし、企業の目標と上手に紐づけられるようなインタビュースキルを身に付けさせる、部下のやる気アップに向けた管理者向け研修の導入などは、その一つだと考えられます。

関係理論:学習性無力感

人のネガティブな面が原因で、仕事へのモチベーションが下がってしまうという点に関連して「学習性無力感」というものがあります。

「学習性無力感」とは、失敗や嫌な経験をしたことが原因で何をしてもうまくいかないとあきらめてしまい、仕事や勉強に対してやる気がおきない無気力状態に陥る状態を指す心理学用語です。環境が悪化し、ストレスを感じるようになると、「自分にはできない」「何をしても無駄」だというあきらめの意識が芽生えやすくなり、学習的にそうしたクセが身についてしまいます。

こうしたやる気の低下には、成功体験を積んでもらえる機会を増やす、相手を否定する言葉は使わないようにする、部下の不平不満を聞く環境を整備するなどが対策として考えられます。「X理論・Y理論」同様、部下と上司との相互関係を考慮して、やる気の低下を防ぐことが大切です。

【関連】学習性無力感とは?学習性無力感の原因、具体例、対処法をご紹介 /BizHint HR

5.仕事を通した自己実現 アージリスの未成熟-成熟理論

マズローの「欲求5段階説」の根底には、人間が自己実現のために成長・発展することを目指す生き物だとする考えがあり、「自己実現論」とも呼ばれます。この自己実現を仕事環境に当てはめて研究を進めたのが、当時、アメリカでもトップクラスの大学であるエール大学で産業経営論を研究していたクリス・アージリスでした。

アージリスは、最初は未成熟な人材が次第に成熟していくにつれて起きる人間的な変化を「未成熟-成熟理論」としてまとめ、企業組織における人材管理に多大な影響をもたらしました。

歴史・背景

第二次世界大戦が終結を迎えた1945年、若干22歳だったアージリスは、漠然ながらも世界をよくするために尽くしたいと決意したと言います。心理学や行動科学など、人の心の研究に情熱を注いだ彼は、特に組織における個人の心や行動に関する研究に道を見出し、組織行動論の第一人者として名を馳せるようになります。

戦争の辛い体験を知っているからか、アージリスの思想には、仕事を通して豊かな心を創造することに強い使命感が表れていました。そのため、モチベーション理論の起源とされ、作業ロボットかのように人材を捉えがちなテイラーの科学的管理法に対して、より人道的な思想を重要視し、強く異を唱えたと言われています。

アージリスの思想の根底にあったのは、人間は自己実現を目指して未成熟な状態から、成熟した状態へと成長・発展する生き物であり、それぞれが行動を起こすための心のエネルギーをもともと持っている、というものでした。そのため、人のモチベーションを向上させるためには、制度的な報酬やインセンティブによって人為的に意欲を引き出そうとするよりも、人に備わっている心エネルギーを認識させ、目指すべき方向へと導くことの方が、組織にとっても個人にとっても有益であると主張しました。

理論の概要

アージリスがまず手掛けたのが、組織において人が未成熟の状態から、成熟した状態へと成長することによって、人格にどのような変化が生じるのかというパーソナリティ分析でした。1970年に提唱された「未成熟-成熟理論」と呼ばれるアージリスの集大成的な理論によれば、組織においては、人間の心には7つの次元で変化が起きると考えられています。

  • 受動的な人格から → 能動的な人格への変化
  • 依存的な人格から → 独立的な人格への変化
  • 単純な行動から → 多様な行動への変化
  • 浅い興味から → 深い興味への変化
  • 短期的な展望から → 長期的な展望への変化
  • 従属的な立場から → 対等・優越的な立場への変化
  • 自己認識が欠如している状態から → 自覚と自己統制する状態への変化

これらの変化は、例えば、経験が浅く未熟な新入社員から、経験を重ねて管理職へと昇格していく過程を想像してみると分かりやすいかもしれません。

アージリスは、こうした人材のパーソナリティの変化を踏まえて、管理者によるマネジメントのやり方にも言及しています。それは、テイラー・システムのように業務・作業が狭い範囲で専門化され、階層的に統制が敷かれた組織では、仕事への無関心、無気力、報酬のみが重視される風土などが醸成されやすく、成熟した人材を育成することが難しくなる、ということです。

人材を自己実現する生き物と捉えたアージリスは、企業組織において人材のモチベーションを高めるためには、一人一人がもつ職務や責任、権限を拡大し、各個人がより心理的に成功体験を得やすい環境やマネジメントを行う必要があると提唱しました。

【参考】ビジネス心理学入門 p.29/ 小泉修平著/三恵社
【参考】クリス・アージリス マネジャー論の研究者 / DIAMOND Online

人事戦略への応用

アージリス理論のポイントは、メイヨーやマズローと同様、人材を作業ロボットとしてではなく、自己実現を目指して地道に成長していく心のエネルギーを持っている、と捉えた点にあります。

組織内の人材のモチベーションを高めるためには、こうした成長に伴うパーソナリティの変化を見定める必要があります。例えば、モチベーション向上の戦略として常套手段ともいえるボーナス・賞与は、比較的未成熟で賃金も低い若手社員には有効だと想定されますが、経営層など上位の立場におり、既に十分な給与を得ている人材に対しては、それほどモチベーションが上がる要因にはならないように考えられます。こう考えると、手法や制度として、全社員に総じて効果を発揮するモチベーション施策は存在しないと言っても過言ではありません。

アージリスの考えに従えば、人事部門が考えるべきことの第一歩は、全ての従業員はロボットではなく、自己実現のためのエネルギーが職場活動の原動力になっていると認識することです。そして、安易に賃金や休暇など制度的なインセンティブでモチベーションの向上を諮るのではなく、各人材の成長過程を見定め、どのような動機づけがより人を成熟させていくかを判断し、それを施策として具体化していくことが重要です。

6.実証に基づく動機づけ ハーズバーグの二要因理論

これまでのモチベーション理論は、仮説をベースにしたものが多かった一方、実証実験から生まれてきたのが、フレデリック・ハーズバーグが1959年に発表した「二要因理論」です。200人の従業員を対象に調査研究を進め、モチベーションを決定づけるのは、

  1. 仕事の内容からもたらさられる満足感(動機づけ要因)
  2. 仕事の環境からもたらされる不満

の2つの要因(衛生要因)であると主張しました。

歴史・背景

それまで主流となっていたモチベーション理論の研究は、企業経営分析にも造詣が深い研究者によって行われてきましたが、ハーズバーグは臨床心理学者であり、彼の信念は「メンタルヘルスはこの時代の中核的な課題である」という点に基づいていました。

彼が臨床心理学者としてメンタルヘルスに注目した背景には、第2次世界大戦の終結直後、強制収容所に配属された従軍経験が元になっていると言われています。企業経営よりも、人の心の健康に重きを置く彼の活動は、企業におけるモチベーション研究では異端と捉えられたのかもしれませんが、主張の信憑性を裏付けたのが、臨床学者ならではの実証実験に基づく理論でした。

ハーズバーグの理論は、アメリカ、ピッツバークで200人の技術者と経理担当者に対して行われた実験が元になりました。実験の内容は極めてシンプルと言ってよく、全ての被験者に対して、「仕事上どんなことによって幸福と感じ、また満足に感じたか」ということと、「どんなことによって不幸や不満を感じたか」という2点について質問を行うというものでした。

理論の概要

実証実験で得られた結果は、彼自身も驚くものだったと言います。当初、満足をもたらす要因と、不満をもたらす要因は、例えば、賃金が高いか安いかといったように、ある事項の逆のベクトルによって示されると考えられましたが、実際は、全く別の要因によって満足・不満が決定づけられていました。

実験の結果を踏まえ、ハーズバーグは、仕事に対するモチベーションに関わる要因を2つの方向性からなると考えました。その一つは、満足に関わる「動機づけ要因」と呼ばれる、仕事内容に関わるものです。

具体的には「達成すること」「承認されること」「仕事そのもの」「責任」「昇進」など、これらが満たされることによって満足感を覚えやすいことが明らかになりました。それと同時に結論付けられたのが、これらが欠けていても職務上の不満足を引き起こすわけではないことです。

そして、不満をもたらす要因とされるのが「衛生要因」と呼ばれる、職場環境に関わる要因でした。

具体的には、「会社の政策と管理方式」「監督方法」「給与」「対人関係」「作業条件」などで、これらに対する欲求はマズローの欲求5段階説で言う、生理的欲求や安全欲求などが該当し、日常生活でもそうであるように、こうした低次の基本的な欲求が満たされないことが、職務上の不満につながると考えられました。

「衛生要因」は、職務環境における基本的な内容がほとんどで、それらが不足していると不満に結びついてしまうものの、必要以上にあったところでモチベーションがさらに向上するものではないとされます。例えば、人が健康に対して気遣う一方、健康であることが当たり前になると、その状態は日常的なものになり、ありがたみを忘れてしまうことと同様の傾向が表れると考えられています。

ハーズバーグの功績は「二要因理論」だけではありません。現代でもモチベーションを語るにあたって頻繁に耳にする「外発的動機」と「内発的動機」という考え方を示したのがハーズバーグでした。人材の内なる心のエネルギーを高めることで仕事へのモチベーションを高める内発的動機と、外からのインセンティブを与えることによって意欲を引き出そうとする外発的動機という考え方は、1973年に彼が示したものでした。

人事戦略への応用

ハーズバーグの功績は、それまで欲求という単一の側面でしか捉えられてこなかったモチベーションを、動機づけ要因による満足と、衛星要因による不満という2つの観点から分析したことと、またそれぞれを決定付ける内容が全く異なる背景からもたらされることを実証的に明らかにした点にあります。

「二要因理論」の考え方からすると、報酬などによるインセンティブ策など制度面・環境面の「衛生要因」は、心のエネルギーである内発的動機を刺激するものではなく、いくら上げても満足度が高まることがありません。例えば、チーム内で積極的に情報・目標を共有するよう啓蒙する、達成感を味わえるような目標設定をする、仕事上で目指す自己実現を語る場を用意するなど、内発的動機を刺激する「動機付け要因」を考慮した方法との両輪で、モチベーション戦略を考えていく必要があります。 

7.リーダーシップへの影響を研究 マクレランドの欲求理論

ハーズバーグが示した内なる心のエネルギー、内発的動機に着目し、さらに詳細にわたって欲求のタイプを類型化したのが、アメリカの心理学者デイビッド・C・マクレランドです。マクレランドは、人が行動を起こす際に見られる動機を4つに分類し、程度の差はあれども、必ずこれらの動機によって人が動かされていることを主張しました。さらにマクレランドは、その動機タイプに応じて、リーダーシップの取り方も提唱することで、極めて実践的な理論を提供した研究者です。

歴史・背景

ハーバード大学の心理学教授であったマクレランドは、組織経営や実業の経験はそれほど十分ではなかったかもしれませんが、人の心を分析するという点においては、実証的な研究を重ね、実業界に通用する功績を残す研究者の一人です。

マクレランドも他の研究者同様、やはりマズローに多大な影響を受けた一人でしたが、彼の研究テーマは単純明快で、「なぜ人は動くのか」ということに焦点がありました。人の行動の原動力となる動機こそが彼の関心であり、1976年に発表された「欲求理論」では、わずか4つの動機が人を動かす要因になっていると唱えました。わかりやすくありながらも、実証的に裏付けられたマクレランドの理論は、現代におけるモチベーション研究の方向性を決定づけたものだとも言われています。

【参考】モチベーション―「達成・パワー・親和・回避」動機の理論と実際 / デイビット・マクレランド著 生産性出版

理論の概要

マクレランドが「欲求理論」で提唱した行動の原動力となる4つの欲求は、「達成欲求」、「権力欲求」、「親和欲求」、「回避欲求」です。人の行動には必ずこれらの欲求のいずれか、もしくは複数が元になって起こっているとマクレランドは言います。当初、「欲求理論」は、回避欲求を除く3つの欲求で考えられていましたが、マクレランド自身によって4つの欲求による理論として修正されました。

それぞれの内容と、それらの欲求を持つ人材に対して、管理者が考えるべきポイントは以下の通りです。

【達成欲求】

成功によって得られる報酬よりも、何かを成し遂げることによる達成感や、より成果を残したいという向上心を求める欲求を指します。達成欲求が強い人材は、個人的な進捗に関心が強く、何事も自分の手でやることを好みます。また、その結果について迅速なフィードバックを求める傾向があることも特徴です。

管理者としては、本人のスキルや成果状況が向上していることを意識させることが、モチベーションを向上させるポイントになります。

【権力欲求】

部下や同僚など、他者に影響力を及ぼし、コントロールしたいという欲求を言います。こうした欲求が強い人材タイプは、責任を伴う仕事を好み、激しい競争を受け入れ、地位や身分が重視される状況を求める人材です。また、他者から指示されることを嫌い、自らが影響力やパワーを行使することに積極的になるタイプです。

こうした人材にチームのリーダー的ポジションを任命し、企画や計画に携わるような職務を与えることで、意欲を向上させることが可能になります。

【親和欲求】

周囲の人材と友好的な関係を構築したいと願う欲求です。この傾向が強いタイプは、他者から好かれたい、信頼を得たいという願望があり、人のために役立とうと努力する特性があります。ですが、心理的に緊張するような場面では一人では耐えられなくなる恐れを持っています。

自らがリーダーになることを望むタイプではないため、チームの中でサポート役として従事させ、複数の作業をこなしてもらうことが効果的です。

【回避欲求】

失敗や困難な業務から逃げようとする気持ちで、こうした感情が強い人材は、成果としてあるべき目標を避けて通ったり、率先してこうどうするよりは、周囲に合わせて行動したりする傾向が見られます。

これらの人材は、チームの一員としては足を引っ張りかねない存在ではありますが、将来的にそうした修正を克服させることを目指して、不安要素を洗い出し、周囲から十分なサポートを行う必要があります。

【参考】マクレランドの欲求理論 / モチベーションアップの法則
【参考】マクレランドの欲求理論 / INVENIO Leadership Insights

人事戦略への応用

人の行動を4つの欲求から類型化するというマクレランドの「欲求理論」は、フレームワークとして非常にわかりやすいものですが、もちろんすべての人材がこの4タイプのどれかに分類されるというものではありません。

例えば、重役を相手にした重要なプレゼンの機会があるとすれば、担当者の心情としては、成果を残したいという達成欲求と、できるなら逃げだしたいといった回避欲求が輻輳していることが通常です。このように、実際の職場環境においては、立場や状況に応じて、様々な欲求が複雑に絡み合い、人の行動を決定づけいていることは言うまでもありません。

マクレランドの欲求理論がモチベーション理論の重要な理論の一つとして功績を称えられているのは、特定の行動をさせる意欲を引き出すためには、心の内にある内発的動機を刺激することが重要であることを示したことです。また、欲求の強さのレベルは図れないにしても、人の行動を4つのタイプにわかりやすく分類し、管理者が部下のモチベーションを向上させるための行動指針をシンプルに提示した点が、画期的な点だと言えます。

マクレガーの「X理論・Y理論」でもそうだったように、部下を統制するにあたって、管理者個人の能力に基づく評価や管理では適正な組織運営は達成し得ません。従業員をある一定のフレームワークに従って分類し、それぞれが求める要望や希望を見極め、適したリーダーシップを発揮することは、モチベーション向上に向けた戦略の一つと考えられます。

8.目標がやる気を決める 目標設定理論

マクレランド同様、心理学的なアプローチでモチベーションの研究を行ったのが、エドウィン・ロックとゲイリー・レイサムです。これまでモチベーションに関する研究は、人の欲求や行動の動機など、人材の心の分析に着目したものが主流でした。裏を返せば、人がやる気を出すメカニズムについて主眼が置かれる傾向にありました。

ロック&レイサムが研究の中心に置いたのは、現代の職場で当然に行われる「目標設定」でした。1984年に発表された「目標設定理論」は、定める目標の内容によって、従業員のモチベーションが左右されることを示したもので、現代の多くの企業が取り入れる目標管理型の人事戦略に多大な影響をもたらしたことは言うまでもありません。

歴史・背景

ロック&レイサムによって、目標によるモチベーション向上が理論として発表されるきっかけになったのは、社会心理学者アルバート・バンデューラによる研究成果でした。社会の一員としての人の心理を研究していたバンデューラは、人はある環境の中で決められた行動を成し遂げられるという確信が強いほど、たとえ困難な状況であってもそれを続けようと努力し、高い業績を残す傾向があると考えました。彼は、この自分自身を高めるような感情を「自己効力感」と呼びました。

アメリカ、メリーランド大学で経営マネジメントと心理学の教鞭を取っていたロックは、バンデューラが示した「自己効力感」の考え方に着目、ビジネスや組織における人材管理への導入可能性を検討し、当時ワシントン大学で業務効率についての研究を行っていたレイサムと、その活用に挑み始めます。

理論の概要

「目標設定理論」では、単に目標を設定するだけではモチベーションへの効果はなく、自己効力感をいかに高めるかという視点から、目標設定に必要な4つの要件が定義されました。それが、「目標の困難度」、「目標の具体性」、「目標の受容」、「フィードバック」です。

「目標の困難度」は、困難であるものの達成可能な目標がより自己効力感を発揮させやすいことに基づく要件です。難しすぎず、簡単すぎない、なんとか達成できるような困難度の目標が、努力を継続させ、伴って業績を生み出しやすいと考えられています。

そして目標は、それが達成できるかどうか、また自身の進捗や成果を実感できるよう、数値や期間などで具体的に示される必要があります。これが「目標の具体性」です。

さらに定められた目標は、一方的に指示されるものではなく、自らがその目標設定に関わり、コミットメントしたものでなければ、自己効力感は生まれにくいものとされます。自ら率先して目標に関わる要件を「目標の受容」と言います。

最後に重要な要件が「フィードバック」で、目標に対する達成度やそれに応じた成果水準を適切にフィードバックすることで、目標に対するモチベーションが継続的に維持されていきます。

【参考】現代のモチベーション理論―目標設定理論 / オフィス ジャスト アイ

【関連】自己効力感(セルフエフィカシー)の意味とは?尺度と高める方法/ BizHint HR

人事戦略への応用

目標管理制度は、すでに多くの企業で導入されているモチベーション向上施策の一つであり、制度としては浸透しているかもしれません。ですが、改めてロック&レイサムの理論に立ち返ってみると、目標設定をモチベーション施策として効果的に遂行するためには、上記の4つの要件が満たされていなければ、目標は絵に描いた餅となり、形骸化していくことが予想されます。

毎期ごとに行われる目標設定ですが、あまり多くの時間は割かず、提出することに重きが置かれてはいないでしょうか。目標設定の形骸化は、4つの欠落によってあらわすことができます。

  • 困難度があまりに低い、または高すぎる目標ではないか(困難度の欠落)
  • 特に企画部門において、進捗が管理しにくい具体性のない目標になっていないか(具体性の欠落)
  • 従業員自らが意志をもって設定した目標ではなく、上長の指示によって書かされた目標になっていないか(受容の欠落)
  • 設定された目標が期末まで放置されることなく、適宜、進捗の確認は行われているか(フィードバックの欠落)

今や汎用的なモチベーション施策とも言える目標管理ですが、その進め方に誤りがあっては意味を成しません。人事部門としては、今一度、各署で行われている目標設定をチェックする必要もあるかもしれません。

【関連】フィードバックの意味とは?ビジネスシーンにおける活用方法をご紹介/ BizHint HR
【関連】「MBO(目標管理)」で企業を強く!経営陣が意識すべき目的やメリット、デメリットとは?/ BizHint HR

9.期待を高めれば、実績も上がる 期待理論

現代のモチベーション理論は学術的な研究としてだけではなく、ビジネスへの転用が重視され、さらに具体性を増したものへとなっていきます。現代モチベーション研究の代表的な理論の一つである「期待理論」は、ビクター・H・ブルームによって基礎が作られ、レイマン・ポーターとエドワード・ローラー三世により精緻化、ステファン・ロビンスが広めたと考えられる理論です。

歴史・背景

モチベーション理論の研究は、個人の心理的な欲求や動機、そしてその変化を探求することと切っても切り離せない関係にあります。とはいえ、企業に従事する人材個人の心理状態を研究するだけでは十分ではなく、組織に所属する以上、対人関係の中での心の動きを把握することを欠かすことはできません。

組織行動を専門とするロビンスの「期待理論」は、ロック&レイサムの「目標設定理論」に影響を受けたものと考えられ、人事部門や管理者など、モチベーション向上を図る側と、その管理下にいる従業員などのモチベーションの向上を求められる側の双方の関係が重視されています。

そのため、現代のモチベーション理論の特徴は、モチベーションそのものに対する理論としてだけではなく、リーダーシップ理論や組織マネジメント理論としての色も持つようになります。

理論の概要

ロビンスの「期待理論」の根底には、「人の行動は、その行動が定められた報酬につながるという期待と、達成される成果が本人にとってどれだけ魅力があるかによって決定される」という考えがあります。そして、行動に対するモチベーションは、3つの変数の掛け算によって左右されます。理論は数理的な複雑なものであるため、あえて単純化して説明すると、その変数は、「努力」×「成果」×「魅力」です。

「努力」とは、その業務にどの程度努力すれば成果に結びつくかということで、途方もない努力が必要だとわかると、行動に対するモチベーションは上がりにくいものになります。もちろん、あまりに努力の必要性がないルーチン的な作業であっても、意欲は出にくいことが想像されます。

次の変数「成果」は、どの程度のレベルの仕事をすれば、望む成果が得られるかということで、言い換えれば、最終的に得られる報酬に結びつく可能性がどれだけあるかということです。たとえ、努力を傾けたとしても達成しようとする業務が、目指すべき目標と異なる場合、モチベーションが上がることはありません。

最後の「魅力」は、得られる報酬に対する魅力を表す変数です。努力を傾け、成果を上げることができるとしても、報酬に魅力を感じることがなければ、前向きに行動を起こすことは想定されにくくなります。

「期待理論」のポイントは、3つの変数が単独に作用するのではなく、掛け算であらわされている点で、努力・成果・魅力のうち、どれか一つでも期待できなければ、モチベーションが上がることはなく、行動が発揮されることはありません。

高いモチベーションが行動としてあらわされるためには、

  • 努力が成果へと結びつくことが期待できる
  • 成果が報酬へと結びつくことが期待できる
  • 報酬が魅力的である

この3つの関係がすべて期待を高めるものである必要があります。

【参考】期待理論 / 経営基礎用語集
【参考】期待理論 / モチベーションアップの法則

人事戦略への応用

「期待理論」は、考え方としては極めたシンプルな理論ですが、現代のビジネス環境で忘れがちな観点を示唆してくれます。

従業員が業務を進めるにあたって、担当する業務が何のためにやる作業なのかがわからなければ、努力を傾ける気力を引き出すことは難しくなります。例えば、会議終了後に行う議事録作成が、特に理由なく定例的に行うものなのか、経営層や外部の関係者に報告するために作成するものなのか、その成果が見えるかどうかは、作業のモチベーションを大きく左右します。

さらにその議事録に、作成担当者として名前を記載し、自身の成果をアピールすることにつながるのか、反対に上長の名前で報告され、自分の成果としては日の目を見ることがないのか、といったように得られる報酬に魅力がなければ、同様にやる気は失われていくに違いありません。

社員のモチベーションを向上させるためには、各自の担当領域を明確にし、何のために行う業務なのか、それが何に結びつくのか、担当としてどのようなメリットや報酬が得られるかを開示していくことが、極めて重要であることがわかります。

関係理論:ピグマリオン効果

期待によるモチベーションアップという点に関連して、「ピグマリオン効果」というものがあります。

「ピグマリオン効果」とは、例えば、上司から期待されることがわかるとやる気が出てくるというように、他人の期待によって仕事や作業の成果が高まる心理的効果を言います。

従業員に対して、「あなたは高い成果を達成できる」と自信を持たせたり、「あなたはこのチームに欠かせない重要な役割を持っている」とポジティブな評価を積極的に行うことで、より意欲を向上させられることが期待されます。

【関連】ピグマリオン効果とは?意味と例をわかりやすくご紹介 / BizHint HR

10.過去の評価から、未来の評価へ コンピテンシー理論

企業が競争戦略上で保有する他社にはマネができない圧倒的な能力を指す言葉として、「コア・コンピタンス」というキーワードは、よく知られているところです。圧倒的能力を指す「コンピタンス」という言葉は、元々は「環境と効果的に相互作用を発揮する能力」という意味合いで、1959年、心理学者ロバート・ホワイトによってもたらされました。

置かれた状況や環境で適正を発揮するための能力を示す「コンピタンス」は、モチベーション理論にも応用され、現代における代表モデル、「コンピテンシー理論」として知られるようになりました。そして、その立役者は、先に紹介した「欲求理論」で功績を残したデイビッド・C・マクレランドでした。

歴史・背景

人の行動と欲求に関するモチベーション研究で功績を残したマクレランドは、より具体的な行動としての指針を示すことに精力を傾けます。「○○ができる」で表現される能力を意味する「コンピタンス」という概念に着目したマクレランドは、能力ではなく、「○○している」という個人の特性を示す「コンピテンシー」の概念を取り入れます。「コンピテンシー」は、厳密には「職務や環境において、効果的もしくは優れた行動に結びつく個人特性」と定義されます。

マクレランドが、「コンピテンシー」に着目した理由として想定できるのは、それまでの多くの人事評価制度は、「能力=できること」という結果部分に焦点を当てることが通例であったということです。一方、「特性=していること」に焦点をあてる「コンピテンシー理論」は、日常的な行動を評価することから、将来的な成果へと結びつきやすいものと考えられています。

それまでにはない評価視点をもたらした「コンピテンシー理論」は、その後、マクレランドが創設者の一人となったコンサルティング会社、マクバー社によって、現代を代表するモチベーション理論として知られるようになります。

【参考】コンピテンシー / 経営基礎用語

理論の概要

コンピテンシー理論は、優秀な人材とそうでない人材の行動の違いを表す尺度を示す理論とも言えます。マクレランドによれば、行動は、先天的にもつ特性と、後天的に得られる知識やスキルによって作り出されるもので、コンピテンシー理論をわかりやすく言えば、「どう行動すれば、より実績が得られるか」のポイントを示したものだと言います。

そしてコンピテンシー理論の最大の特徴は、決まった特性を明示するものではないという点です。というのも、そもそも原語となった「コンピタンス」が「環境と効果的に相互作用する」という概念であり、そこから派生するコンピテンシーは、企業ごと、環境ごとにカスタマイズされることが最も重要と考えられているからです。

マクレランドがコンサルティング会社、マクバー社を立ち上げた背景には、研究者として汎用的な理論を普及させるのではなく、それぞれの企業に適したコンピテンシーを見出すには、企業単位での活動が必須であったからだったと考えられます。

人事戦略への応用

まだ日本では導入例が少ないコンピテンシーによる人事評価ですが、未来における成果を評価するという考え方は、今後多くの企業で求められてくるはずです。

コンピテンシーを意識した制度を「コンピテンシーモデル」と言います。行動規範という抽象的な部分を多く含む評価を行うため、そのモデル化には詳細、正確な分析が必要ですが、こうしたモデルの導入は、企業に将来成果に大きく貢献することが期待されます。コンピテンシーモデルの作成は、優秀な人材(ハイパフォーマー)へのインタビューによる行動特性の抽出、それらと企業のビジョンとのすり合わせ、社員行動規範としての落とし込みの手順で進められます。

規範として定められたコンピテンシーモデルを元にした評価制度を「コンピテンシー評価」と呼びます。上司や自己による評価、場合によっては同僚など周囲からの評価を元に、人事査定や全体の行動改善に用いられます。評価のポイントは、実績やその人の思考ではなく、あくまで行動部分での評価を行うということです。

さらに、近年注目を集め始めているのが、こうした考え方を採用面接や評価面接に応用した「コンピテンシー面接」です。コンピテンシー面接の特徴は、これまで多くの面接で重視されていた採用担当者や役員が感じた第一印象や受験者の受け答えでなく、就活者の行動という客観的な要素を持って判断する点です。

また、規範として明文化されていることから、評価項目が明確で、面接者ごとの評価ブレを防ぐことにも効果があると期待されます。さらに、自社が求めるスキルや能力・レベルとのミスマッチを防ぐことも可能になります。

【参考】コンピテンシーモデルとは?モデルの作り方や面接や人事評価での活用例をご紹介 / BizHint HR
【参考】コンピテンシー評価とは?成果につながる行動特性に注目した制度 / BizHint HR
【参考】コンピテンシー面接とは?企業で導入する際のマニュアルや質問例まで / BizHint HR

まとめ

  • 基礎的なモチベーション理論の習得は、人の心に対する理解を促進し、より効果的なモチベーションアップの実践に貢献する
  • 行動に対するモチベーションの理解は、欲求を初めとする人の心理状態を理解することである
  • 過去に発揮した能力を評価することから、未来の成果を評価するコンピテンシー理論に基づく人事評価が今後求められていく

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