連載:第53回 リーダーが紡ぐ組織力
「人が辞めない組織」に必要なたった一つの条件。社員の離職を止めたリーダーの「気づき」


どうすれば、若手社員を採用できるか。離職を減らし、いきいきと働ける職場になるのか――。この問いを紐解く、ヒントとなる企業があります。それが広島県に本社を置く精密鋳造メーカー 株式会社キャステム。かつては離職率が50%を超え、組織もバラバラ。社員のモチベーションも低い状態でした。しかし現在は、離職率6.1%という低水準を実現。新卒採用には年間1,000名を超える応募が集まる年もあり、「行列のできる鋳物屋」とも呼ばれています。同社はなぜ、人が集まり、辞めない組織へ生まれ変わることができたのか。そこには、代表取締役 戸田拓夫さんが気づいた「組織に必要な、たった一つの条件」がありました。詳しく伺います。

株式会社キャステム
代表取締役 戸田 拓夫 さん
1956年広島県生まれ。早稲田大学にて応用化学を学んだあと、1980年に家業の株式会社キャステム(旧キングインベスト)に入社。2007年グループ代表取締役・最高執行責任者に就任。株式会社キャステムは、精密鋳造部品などの製造・販売などを手がけ、国内屈指の技術力を誇る。近年は、自社ブランド商品の企画・製造・販売なども展開。従業員数331名、売上高89億円(2024年3月期・グループ計)
「1対1なら心を開いてくれる」は経営者の幻想だった
――貴社は2014年頃から組織改革に取り組まれ、離職率が50%超から6.1%に減少。まさに「人が辞めない組織」を実現されていますね。
戸田 拓夫さん(以下、戸田):ありがとうございます。一般的に鋳造業は離職率が高いと言われますが、当社の社員はいきいきと働き続けてくれています。
ただ、離職率が50%を超えていた頃は、なぜ人が定着しないのかと頭を悩ませていました。当時、社員が辞めていった理由は、給料が安い、休みが少ない、仕事がきついなどさまざま。下請けの仕事も多かったので、価格・品質・納期についてお客様からガンガン叩かれる。だから、利益も出ない。さらには、組織もバラバラでした。部署の失敗を、他の部署のせいにしたがるというか。とにかく、みんな自分の評価を守ることに必死で。だから、社員のモチベーションも低かったですね……。
当時は私のマネジメントもトップダウンでしたし、海外を飛び回っていたこともあって、あまり現場のことを分かっていませんでした。ただ離職率が50%を超え、課題は噴出しているはずなのに、なぜか幹部会議では議題が上がってこない。周りにはイエスマンが多いというか、僕の話にみんな「うんうん」とうなずいているだけ……。そのとき、「もしかして、私は裸の王様になっているのでは」と大きな危機感を覚えました。
それで、社員の声を直接聞こうと全社員面談を始めました。当時は200名を超える社員がいたので大変でしたし、頻度は年に一度ではありましたが、一人ひとりの声に耳を傾けました。抽出した課題は全社で共有し、会社が社員に向き合っていく姿勢を示すことができたと思います。ただ、3年ほど続けるなかで、「何か問題ない?」と聞いて「大丈夫です、問題ありません」と言っていた社員から、1週間後に辞表が出るということが何度か起きて……。聞いてみると「社長を目の前にして、不満なんて言えなかった」と言うのです。もちろん、本音で話してくれる社員もいましたよ。でも、マンツーマンで話せば社員のことが分かると思っていた自分の期待は、幻想だったという現実を突き付けられました。
この経験を経て、気づいたことがあります。それが、現在の組織づくりの礎となり、人が辞めない会社に変化したきっかけであると思います。
――どのような気づきだったのでしょうか?
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