連載:第81回 経営危機からの復活
“無礼”は感染し、組織を壊す。V字回復のリーダーが貫いた覚悟と信念


うまくいっていたはずの経営が、いつの間にか歯車が狂い、気が付けば営業赤字に…。介護事業を運営する株式会社アライブメディケアがまさに直面した危機です。安田雄太社長は、当時の組織の様子を「“無礼”が蔓延していた」と振り返ります。2018年から現場改革に乗り出した安田さんは、数々の反発に遭いながらも、1000時間に及ぶ社員との対話を重ね、信頼関係を構築。人を大切にする「ウェルビーイング経営」に転換した結果、2024年には過去最高益を見込むまでV字回復を遂げました。“無礼”との闘いに勝利した改革の軌跡、そこで得た経営の神髄について伺いました。

成功企業が3期連続赤字に転落した理由
――安田さんは、アライブメディケアに新卒で入社し、2021年社長に就任されています。まさに「現場たたき上げ」のキャリアですが、就任当時は経営危機の真っただ中だったそうですね。
安田 雄太さん(以下、安田): はい。当社が介護事業へ参入したのは1999年です。当初は社会からも認められ、売上も右肩上がり、一時の成功を収めました。しかし、私が現場から本社に異動した2014年には深刻な経営状態に陥っていたのです。
2014年から各施設の稼働率が徐々に低下し始め、2017年頃にはそれが顕著に。2017年から19年にかけて3期連続で営業赤字を記録。その後も2022年まで実質的には赤字が続き、親会社によるテナントの賃料減免でかろうじて表面的な黒字を維持している状態でした。
――なぜ経営危機に陥ってしまったのでしょうか?
安田:組織の慢心と、それを放置した経営陣が要因 です。
現場では、困難に挑戦する意識が失われ、楽な方向へと思考が働いていました。営業担当が介護の必要な方を連れてくると、「この人はアライブの入居者じゃない」と現場が受け入れを拒否する。また、表向きは「お客様のために」と言いながら、実際には適切とは言えないケアが横行していたのです…。真摯にお客様と向き合う人材も一部いましたが、モラルが低下した風潮の中で埋もれていきました。
しかし、会社が成功を収めていたという体験から「自分たちはすごい」と慢心し、新興の競合施設に技術も品質も追い抜かれていることに気づかない。まさに茹でガエルの状態でした。
そして、このような状況を作り出し、放置した経営陣に、最大の責任があったと考えています。
当時の経営陣には、介護事業の運営や現場の世界観を知っている人がいなかったんです。だからこそ、口を出せなかった部分もありますし、現場の状況を見ようともしていなかった。
業界全体の品質が向上していく中で当然、当社も変わっていかないといけない。しかし人というのはもともと、成長する・学ぶことにものすごくストレスを感じる集団です。何もしなければ「今のままでいい」「変わりたくない」という気持ちが働きます。過去の成功体験があれば猶更のこと。
当時の経営陣はこの大きな問題に向き合うことをせず放置し、解決を先送りしました。その結果、現場と経営のギャップが生まれ、組織の慢心を生み出してしまった。お客様のケアよりも自分の都合を優先する風土が定着してしまっただけではなく、現場の成長の機会をも奪ってしまったのです。
私は現場の最前線にいる頃から、この状況に対して大きな違和感がありました。そして、2014年本社へ異動になったことで確信したことがあります。それこそが、当社を危機に陥れたものの正体だと。
――その「正体」とは…?
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