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2018年8月7日(火)更新

イノベーションのジレンマ

グローバル化する世界経済において、ビジネス課題はより高度化・複雑化しています。そのため、新たな消費者市場を開拓する上でも企業はイノベーションを興さなければいけません。しかし、そこには企業を悩ます大きなジレンマが存在します。今回はイノベーションのジレンマについて、ご紹介いたします。

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イノベーションのジレンマとは?

日本の大手企業や優良企業は新たな収入源を確保のためにイノベーションを興しやすい組織へと改革しようとしています。しかし、そこには巨大企業ならではの「大きな落とし穴」があると指摘されています。それが「イノベーションのジレンマ」です。

イノベーションのジレンマの意味とは?

イノベーションのジレンマとは、米ハーバード・ビジネススクールのクレイトン・クリステンセン教授が提唱したイノベーション分野における理論の一つです。顧客ニーズを取り入れた新機能の付与や新技術による性能向上に注力することで、シェアを確保しようとする経営判断が失敗を招くという現象を指します。

イノベーションにより登場した優れた製品(商品)やサービスは、低機能(低性能)・低価格ですが、小型化・利便性などが追求されている特徴があります。また、これらの製品(商品)やサービスが莫大な収益を上げるには、技術の向上と多くの時間が必要となります。

そのため、株主などのステークホルダー(利害関係者)に利益を還元する義務を担う大企業や優良企業は、経済合理性の観点から イノベーションよりも既存技術の向上や高機能化を優先する傾向にあります。また、「高機能・高価格を求める主要顧客を抱えている」という慢心から、新興企業やベンチャー企業の事業や技術を過小評価し、新興市場への参入が遅れるという点もイノベーションのジレンマとされます。その結果、新興企業やベンチャー企業によりもたらされた破壊的技術(市場を一変する破壊技術)により、シェアを失い、経営環境が一気に悪くなるという状況に陥ってしまいます。

既存技術の向上によるシェアの拡大と維持は、経済合理性に見合った経営判断ですが、その合理的な判断そのものがイノベーション創出の障害となっていると指摘されています。また、業界のトップシェアを誇る企業や最適化された優良企業に多い現象としても知られています。

持続的イノベーションと破壊的イノベーションの存在

イノベーションには、持続的イノベーションと破壊的イノベーションの2種類が存在し、この2種類のイノベーションにはそれぞれ特徴があります。

持続的イノベーションとは、顧客のニーズや既存市場で求められている価値を改善・改良を目的とした持続的技術(持続技術)によって、実現する イノベーションを指します。持続的イノベーションで生み出された製品(商品)やサービスは、高機能・高価格という特徴があり、シェアの拡大と維持に役立ちます。

一方、破壊的イノベーションとは、低価格・低機能だが、破壊的技術(市場を一変する破壊技術)によって、実現された小型化と高い利便性が期待できるという特徴を持ちます。投入されたばかりの時期こそ売上・利益が立ちにくいですが、技術の向上により、一気にシェアを拡大できる可能性があります。

イノベーションのジレンマは、経済合理性に合った持続的イノベーションに集中しているが故に陥りやすく、破壊的イノベーションが起きてしまうと既存企業に莫大な損失や代償が発生すると考えられています。

【関連】「破壊的イノベーション」とは?意味や課題、企業事例を合わせてご紹介 / BizHint HR

イノベーションのジレンマが注目されている背景

大手企業や優良企業は、潤沢な資本力を背景に持続的イノベーションを実施することで、ほぼ間違いなく市場を獲得できると言っても過言ではありません。売上・利益を向上させることは経営者が責任を負うべき経営課題です。そのため、経済合理性に適った持続的イノベーションに舵を切ることは至極当然といえます。しかし、この経済合理的な経営判断を決定しがちな大企業や優良企業こそがイノベーションのジレンマに陥りやすいことも事実です。

持続的イノベーションによる市場シェア確保と維持を行ないつつも、次世代技術による破壊的イノベーションの脅威にも対応しなければいけません。そのため、イノベーションのジレンマのメカニズムに注目が集まっていると考えられます。また、イノベーションのジレンマをしっかりと理解することで、次世代技術の開発や新製品(商品)・新サービスの実現に役立てようとする風潮が広まっているとも考えられます。

イノベーションのジレンマの事例

イノベーションのジレンマは、多くの日本企業が陥っており、企業の経営を圧迫しています。かつて日本の市場で起こった現象のほとんどは、このイノベーションのジレンマが起因していると考えられます。

日本メーカーが撤退した日本の携帯電話市場

日本の電機メーカーが生み出した携帯電話は、日本の技術の高さを世界中に広めるきっかけにもなりました。日本独自の携帯電話文化が醸成したこともあり、海外製の携帯電話の参入を許さず、まさに日本メーカーの独占市場となっていました。

しかし、米アップル社のiPhoneや韓国サムスン製スマートフォン、中国製の格安スマートフォンが世界の携帯電話市場でシェアを広める中、日本の携帯電話市場にも大きな変化が表れました。日本の携帯電話市場においても、日本メーカーが得意とするハイエンド戦略が通用しなくなり、2000年時点で10社以上参入していた日本メーカーは2017年8月の富士通の撤退発表時点で残り3社となってしまいました。

この日本メーカーの敗北劇もイノベーションのジレンマによって起きた現象として、知られています。

【参考】ダイヤモンド オンライン 富士通の携帯撤退は英断、ハイエンド戦略はもう通じない

カメラフィルム市場

日本企業の技術の高さは、世界のカメラ市場においても絶大な影響を与えてきました。フィルムカメラからデジタルカメラへの移行時期においては、一定のダメージは受けたものの、その高い技術力によって、何とかシェアを維持することができました。高度な撮影技術や経験を持たない人であっても、簡単に綺麗な写真を撮影できる高機能・高価格の一眼レフデジタルカメラは、まさに持続的イノベーションにより、生み出された製品といえます。

一方で、カメラが内蔵された携帯電話の登場により、売上が低迷し始めましたが、当初は画質も悪く、画像サイズも小さいことからデジタルカメラとの差別化が可能でした。しかし、スマートフォンの登場により、画質・サイズともに優れた写真の撮影が可能となり、一気に市場は変化。現在でもカメラメーカーは苦戦を強いられています。

携帯電話という全く異なる製品がもたらす 破壊的イノベーションを予想できずに、イノベーションのジレンマにはまってしまった事例といえるでしょう。

日本の居酒屋業界

長期的なデフレ経済を経験してきた日本において、豊富なメニューと低価格・利便性に優れた総合居酒屋チェーン店の登場は、日本の外食市場のシェアを一気に変えました。しかし、縮小する外食市場において、素材や産地、展開エリア、業態を絞り込み、高品質・低価格を実現する特化型もしくは専門店型の居酒屋が参入したことで、新たな破壊的イノベーションが起きてしまいました。さらに深刻な人手不足による長時間労働過労死が社会問題化したことで、ブラック企業が多いというイメージが広がったことも追い討ちとなりました。

その結果、手間がかかり、非効率とみなしていた手法で新たな価値を提供する新興居酒屋が顧客の賛同を得られるようになり、全国展開を前提とした居酒屋チェーン店のシェアが一気に減ってしまいました。これも過去の成功体験による事業展開に終始してしまうというイノベーションのジレンマが引き起こした現象と捉えることができます。

イノベーションのジレンマが起きる理由とは?

イノベーションのジレンマは、主に大企業や優良企業に起こりやすく、その理由や原因も既に分析されています。今回はイノベーションのジレンマが起きてしまう大きな理由をご紹介いたします。

過剰な顧客至上主義

日本特有の優れた接客サービス「おもてなし」が世界でも注目されている一方で、行き過ぎた顧客至上主義が違法な長時間労働過労死を助長する原因とも指摘されています。また、主要顧客の確保において、顧客ニーズに合った高機能な製品(商品)や優れたサービスを生み出し続けなければいけないという風潮も過剰な顧客至上主義がもたらした弊害といえます。

しかし、イノベーションは高価格・高機能と比べて、「技術性能は劣るものの低価格で利便性に優れている」という特徴があるため、顧客至上主義に従った経営方針のままではイノベーションのジレンマに陥りやすくなります。そのため、顧客の声に耳を傾け過ぎること、顧客に過剰満足を提供することは、後々、自社のシェアを失うきっかけとなってしまいます。

最適化された組織の存在

大企業や優良企業などのトップ企業は、コストを抑えた上で効率的な生産活動を維持するために、組織を最適化しようとします。分業制や指示系統の明確化、業務管理システムの導入を実施することで、短期間でより多くの売上・利益の確保につながります。

しかし、最適化された組織においては、過去の成功体験に囚われる、カニバリーゼーション(同業界における共食い現象)への抵抗、既存顧客重視路線、過剰なまでのリスク回避、保身によるチャレンジ精神の希薄化など合理的判断を優先する傾向にあります。また、経営者を含む管理職は優れた分析力と計画力を備えており、経済的合理性にあった判断に陥りやすく、社内からイノベーションが生まれにくい社風が醸成されると考えられます。

バリューネットワークの存在

バリューネットワークとは、共通するニーズを持つ顧客に対して、自社やサプライヤー、流通業者といった同様の価値を提供する企業群が構成するネットワーク(市場)を指します。このバリューネットワークは企業同士が生き残る上での生存環境としても認識されています。そのため、大企業や優良企業であればあるほど、特定のハイエンドバリューネットワークの中心を独占することが優先され、決まった価値基準や収益基準に縛られやすい傾向にあります。

また、企業が成長する上で、主要顧客が集中する上位バリューネットワークを目指すことは理に叶った経営戦略でもあることから、ローエンド市場である下位バリューネットワークを軽視する傾向にあります。しかし、ローエンド型破壊的イノベーションは、下位バリューネットワークから生まれ、技術革新により、徐々に上位バリューネットワークを侵食していく傾向にあります。そのため、上位バリューネットワークを重視するが故に、イノベーションのジレンマが発生すると考えられます。

イノベーションのジレンマによる脅威とは?

イノベーションのジレンマは、普段の経済活動からは気付きにくく、その代償は急に訪れます。イノベーションのジレンマから自社を守るためにも、イノベーションのジレンマによる脅威を理解しておきましょう。

成長事業の売却リスク

イノベーションのジレンマに陥ることで、成熟事業に注力し続けることは、企業が保有する成長事業を売却するリスクも高めてしまいます。現在、日本企業の多くは新たな収入源、技術の獲得のため、積極的にM&Aを実行しています。しかし、海外企業のガバナンスや見通しの甘さから、一転、巨額損失につながることも珍しくありません。

潤沢な資本を武器に成熟事業を獲得・維持することは、経済合理的に正しい判断ですが、破壊的イノベーションが興きてしまうと経営状況を逼迫してしまいます。イノベーションのジレンマに陥ることで、財務体制の強化や健全化が急務となり、今後成長が見込める「虎の子」事業を外部に売却し、資本金を調達しなければならない事態を誘発してしまいます。

イノベーションのジレンマは、成熟事業からの撤退だけでなく、大事に育ててきた成長事業も同時に失う危険性があるということを肝に銘じておく必要があります。

ターンオーバーリスク

ターンオーバーリスクとは、競合他社や異業界の会社が打ち出した新しい価値や概念、機軸により、自社の競争優位性が失われ、売上高をひっくり返されるリスクを指します。既にご紹介している通り、技術革新による破壊的イノベーションは、安定していた収入源を減少させ、企業業績に悪影響を与えてしまいます。

破壊的イノベーションによる市場介入は、低価格・低機能の導入期こそ影響を受けにくい傾向にありますが、後々ボディ・ブローのように効いてきます。最悪の場合、既存市場からの徹底も余儀なくされるため、経営者はターンオーバーリスクの僅かな兆候も見逃すことなく、新規事業の立ち上げや組織改革へと踏み切る大胆な経営判断を行わなければいけません。

「変われない」リスクの増大

イノベーションのジレンマがもたらす致命的なリスクとして、「変われない」組織体質の蔓延が挙げられます。この「変われない」という組織体質は、既存事業が好調に推移している時にこそ、蔓延しやすいと言われています。自分達が生み出した成功体験や経済合理性に基づいた経営判断に囚われるあまり、会社全体に慢心を生み出し、社内でイノベーションが興きにくい社風が醸成してしまいます。この「変われない」リスクが一度組織に蔓延してしまうと、社員の意識改革やイノベーションを生み出す組織体制の確立に、莫大な費用と時間がかかります。

会社・社員ともに常に危機感を持ち、既存事業の収益性を高めつつ、イノベーションを模索する姿勢を維持しなければなりません。

イノベーションのジレンマへの対策

イノベーションのジレンマがもたらす脅威は、後々、企業に深刻な悪影響を与えます。そのため、大企業や優良企業はもちろん、それらを取引先としている中小企業はイノベーションのジレンマへの対策を怠ってはいけません。

2016年には経営学の権威である米スタンフォード大学経営大学院教授のチャールズ・オライリー教授が出版した「先導と破壊:イノベーションのジレンマの解決法」という書籍も話題となりました。

“小さな”戦略の重視

巨大企業であればあるほど、売上規模・市場規模の大きい商品開発や収益の最大化に取り組みます。これは経済合理性の観点からいえば、戦略上、正しい判断といえます。

しかし、イノベーションは小さな機会や小さな市場での成功が鍵となります。また、事業規模が小さいうちであれば、試行錯誤を前提とした研究開発が行なえます。例え失敗に終わったとしても、企業に与える損失はわずかなものとなり、リスクヘッジを行ないやすいメリットもあります。

イノベーションを興すためには、イノベーション専門の小さな事業部を組織し、小さい規模で研究開発を取り組む“小さな”戦略を実施することが大切です。

不確実性とリスクのコントロール

イノベーションには、不確実性とリスクが常につきまといます。この不確実性とリスクをしっかりとコントロールしなければ、イノベーションを含んだ新規事業を立ち上げることはできません。

また、イノベーションを含む新しいアイディアを上司や経営陣に提案する際は、あえて不確実性の存在を説明することが大切です。これは、不確実性の検証を行なう機会を生み出すだけでなく、リスクを把握した上でどれだけ経営資源を投資するかの判断にもつながります。数ある不確実性に対して、可視化・検証という作業を繰り返すことで、確信につながり、イノベーションを生み出しやすい環境を構築することができます。

「両利きの経営」を促進

企業にとって、企業の存続を支える成熟事業と、企業の未来を担うイノベーションの可能性を秘めた新規事業はどちらも大切です。そのため、経営者を含む経営陣はどちらの事業にも注力する「両利きの経営」を促進する必要があります。

成熟事業はコスト削減による効率化と技術向上による主要顧客の獲得・維持を目指すことで、企業生命を維持できます。一方で、新規事業は次世代の成長事業として、新たな消費者市場の開拓による収入軸の増加に寄与します。

世界では日々テクノロジーが進んでおり、大手企業や優良企業をはじめとする巨大企業も決して安泰ではいられなくなりました。どちらか一方の経営に傾斜することなく、「両利きの経営」を行なえる器用さこそが、今の日本企業には求められています。

まとめ

  • 急速に高度化・複雑化するビジネス課題に対して、持続的イノベーションのみでは到底太刀打ちできない時代に突入しています。また、経済合理性を重視するあまり、イノベーションのジレンマに陥ることで、致命的な損失を被る可能性は日々増しています。
  • 企業の規模に関係なく、イノベーションのジレンマを正しく理解し、次世代を担う成長企業へと変化していくことが、今の企業経営に求められています。

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