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2018年10月18日(木)更新

トランザクティブメモリー

「トランザクティブメモリー」とは組織学習に関する概念で、組織全体が同じ知識を記憶するのではなく、組織内の「誰が」「何を」知っているのかを把握する事です。今回は、トランザクティブメモリーについてご紹介します。

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1.トランザクティブメモリーとは

それではまず、トランザクティブメモリーの意味についてご紹介します。

トランザクティブメモリーとは

トランザクティブメモリーとは、1980年代半ばにアメリカの社会心理学者ダニエル・ウェグナー氏が提唱した、「組織学習」に関する概念です。

この概念は、組織全体が同じ知識を記憶するのではなく、組織内の「誰が」「何を」知っているのかという情報を把握する事を重視する考え方です。つまり、「What」ではなく「Who knows what」が共有されている状態を指します。日本語では「交換記憶」「対人交流的記憶」とも訳されます。

組織学習とは

そもそも「組織学習」とは、個人が学習により成長するように、組織もまた新たな知識を習得する事で発展する、つまり「組織も学習すべき」という考え方に基づいた言葉です。

この組織学習力は、企業の維持可能な競争優位性とも言えるのではないか、という考え方も一般的となっています。現在では、この組織学習を効率的に行うためのグループウェアの開発や、組織内のスムーズな知識管理にも注目が集まっています。

2.通常みられる「組織内状況共有」との違い

それでは、通常みられる「組織内状況共有」とトランザクティブメモリーはどう違うのでしょうか。個人視点も併せてご紹介します。

一般的な「組織内の状況共有」と、トランザクティブメモリー

一般的に「組織内の状況共有」とは、「全員が同じ情報を知っている」状態を指します。一方トランザクティブメモリーは、「誰が何を知っているのか」という情報が共有されている状態。

例えば、「◯◯さんは××の技術に詳しい」「△△さんは、□□の流通の知識が豊富」といった具合です。これが、組織における学習を促進すると考えられています。

個人視点でのトランザクティブメモリー

トランザクティブメモリーを、個人視点で見てみましょう。

トランザクティブメモリーの恩恵を受けるには、自分自身もまず何かしらの専門性を身につける、あるいは既に持っているスキルを深め「誰かに必要とされる人」になっておく必要があります。

あとは、他のスタッフがそれぞれ何の専門家なのかを把握しておきましょう。そうすれば、自分自身は得意分野の専門知識を深め、その他については浅い知識を持ち、深い知識が必要な場合に専門家の知識を借りれば良いのです。

まさにゲーテの唱えた「考える人間の最も美しい幸福は、究め得るものを究めてしまい、究め得ないものを静かに崇めることである」という考え方に繋がります。

3.トランザクティブメモリーのメリット

それでは、具体的にトランザクティブメモリーを進める事で、どのようなメリットがあるのか、そして米国に現れた「トランザクティブメモリー専門職」についてご紹介します。

トランザクティブメモリーのメリット

まず、トランザクティブメモリーを推進する事でどのようなメリットがあるのでしょうか。

大規模な組織で特に有効

組織の強みとは、本来組織に属するそれぞれが異なる専門家としての深い知識を持っていて、それを組み合わせる事ができる点にあります。

そう考えると、全員が同じ知識を持っておくのは非効率とも言えますし、1人の記憶力には限界もあります。トランザクティブメモリーは、「誰が何を知っているのか」という情報のみを把握しておく事で、異なる専門家の集団である組織を効率的かつスピーディーに回す事ができます。

これは、特に所属する人数の多い組織で有効に作用します。 また、ある研究ではトランザクティブメモリーが「企業の生産性を高める」というメリットも指摘されています。これについては、次章でご紹介します。

具体的なシチュエーション

組織の規模が数人・数十人など少数であれば、必要に応じて全員が同じ知識を持っていた方が良いケースもあるでしょう。

しかし、何百人・何千人という規模の組織になると、全員が同じ知識を持つという事は、個人のキャパンシティの視点からも不可能に近いと言えるでしょう。

しかし、「この業種の動向調査なら、◯◯部の△△さんがデータを持っている」「このジャンルの顧客対応なら、◯◯支社の△△さんが詳しい」など、「誰が何を知っているのか」という情報を把握するだけなら個人の負担も軽減されます。

そうする事で「Who knows what」が浸透し、組織も効率的に回るようになります。

米巨大企業に現れた「トランザクティブメモリー専門職」

米国で現れた「トランザクティブメモリー専門職」とは、どのような役割を持つのでしょうか。

トランザクティブメモリー専門職

企業規模がさらに大きくなると、この「トランザクティブメモリー」自体を把握する事も難しくなるケースがあります。

そこで現れたのが「トランザクティブメモリー専門職」。組織に所属するスタッフの「Who knows what」を少数の人に集約させるという考え方に基づいています。

そうすれば、一般のスタッフは全員分の「Who knows what」を把握する必要はなく、専門的な知識が必要な場合は、トランザクティブメモリー専門職から「誰に聞けば良いか」を聞き出せば良いのです。

具体例

実際に北米のIBMでは、この「トランザクティブメモリー専門職」と言える職種があります。

北米のIBMのR&D(研究開発)部門のエピソードです。大企業では、このR&D・マーケティング・営業などの、部門間の交流不足を理由に、成果が挙がりにくいという課題が挙げられています。

一方北米のIBMでは、まるでカツオ(回遊魚)のように、社内を回遊して情報を集め流通させる少人数の専門職が存在します。

その専門職に、R&D・マーケティング・営業の「Who knows what」が集約される仕組みになっているのです。それが功を奏してか、北米は他の拠点に比べて戦略的に大きなプロジェクトを受注できています。

【参考】日経ビジネスONLINE「米巨大企業の超エリートは”カツオ型”社員」
http://business.nikkeibp.co.jp/atcl/opinion/15/238970/122100006/

4.トランザクティブメモリーは本当に組織の生産性を高めるのか

実際にトランザクティブメモリーが組織の生産性を高めるものであるのか、研究事例とともに見ていきましょう。

研究者による分析

「トランザクティブメモリー」を提唱したダニエル・ウェグナー氏の他にも、あらゆる研究者による実験・分析により、トランザクティブメモリーが組織の生産性向上に寄与することは実証されています。

研究事例

米テキサス大学のカイル・ルイス氏は、米国大学のMBAの学生が地元企業に行ったコンサルティング・プロジェクトについて研究しました。学生はみな社会人経験があり、それぞれにマーケティング・財務・営業など、得意分野を持っていました。

ここでルイス氏は、61チームに分かれた261人の学生に対し「同チームの他メンバーの専門性をよく知っているか」「同チームの他メンバーから得られる専門知識を信頼しているか」などの、トランザクティブメモリーの高さを数値化するための質問を投げかけます。

これを分析すると、「トランザクティブメモリーの高いチームほど、プロジェクトのパフォーマンスが高い」という結果が得られました。また、「直接対話によるコミュニケーションの頻度が多いチーム」に限っては、トランザクティブメモリーが高い状態にあったという興味深い結果も得られました。

【参考】日経ビジネスONLINE「組織の知を高めるには、”タバコ部屋”が欠かせない」
http://business.nikkeibp.co.jp/article/opinion/20130925/253852/

5.トランザクティブメモリーを高めるポイント

組織の生産性アップに繋がるトランザクティブメモリー。これを高めるには、どのような方法があるのでしょうか。

Face to Faceの対話を増やす

まずは、Face to Faceでの直接対話を増やす事から始めましょう。

研究により実証

先ほど触れたカイル・ルイス氏の研究によって、直接対話「Face to Face」がトランザクティブメモリーを高める事が分かりました。

また、米イリノイ大学のアンドレア・ホリングスヘッド氏の研究でも、顔の表情を使ったコミュニケーションや「アイコンタクト」が、トランザクティブメモリーを高めるという結果が出ています。

「目は口ほどにものを言う」というコトワザがありますが、人は言葉だけではなく、相手の表情や目を見ることで、「誰が何を知っているか」を判断していると考えられています。

これらの研究結果を見ると、現代多用されているメールや電話だけのコミュニケーションではなく、「言語を超えたコミュニケーション」を増やすことがトランザクティブメモリーを高めると言えます。

Face to Faceの事例

米グーグルの本社オフィス内には、スタッフに様々な「遊び」を提供する施設があります。

ビーチバレーができるコートがあったり、カフェや食堂も至る所に設置されています。

無料のカフェテリアも有名ですね。企業が積極的にこのような場を設ける事で、自然と部門間のスタッフ同士の直接対話が増え、結果的にトランザクティブメモリーを高める要因になっていると考えられています。

【参考】日経ビジネスONLINE「組織の知を高めるには、”タバコ部屋”が欠かせない」
http://business.nikkeibp.co.jp/article/opinion/20130925/253852/

ツールを使い「誰が何を知っているか」を可視化する

「誰が何を知っているのか」を素早く社内に浸透させたい場合、社内SNSという手段もあります。

ビジネスSNSなどを活用

ビジネスSNSなどの情報共有ツールを使用して、社内のトランザクティブメモリーを高める事も可能です。

これらのツールを使う事で、手軽に社員全員が「誰が何を知っているのか」を共有することができます。特に社員数の多い企業などでは有効で、支社内のみならずエリアを超えて専門家にその知識を借りる事ができます。

ツールを使った参考事例

NTTデータで、2006年に導入された社内SNS「Nexti」。2009年時点のデータでは、社員の8割以上にあたる8,300人が参加し、そのうち2割がアクティブという浸透率を誇っていました。

最新の2013年のデータでは、グループ会社を含む14,000人が参加しています。Nexti内に設けられた「Q&A コーナー」では、1日1件(平均)以上の質問に対し回答が複数件寄せられており、「社内の誰に聞けば良いか分からない」という課題の解決に繋がっています。

結果「Nexti」は「組織を越えた意見交換の活性化」「同僚の人となりを知るきっかけ」「既存の社内ネットワークの再構築・強化」などの効果をもたらしています。

【参考】ダイアモンドオンライン「日本が誇る社内SNSの成功例! NTTデータ「Nexti」の秘密」
http://diamond.jp/articles/-/1642

【参考】企業広報プラザ「社内SNS”Nexti”の活用によるセクショナリズムの打破」
https://www.kkc.or.jp/plaza/magazine/201403_12.html?cid=5

6.トランザクティブメモリーとダイバーシティ

現在注目されている「ダイバーシティ」という考え方。トランザクティブメモリーとはどのような関係性にあるのでしょうか。

トランザクティブメモリー×ダイバーシティ

ダイバーシティとは、多様な人材を活用し、その能力を最大限に発揮させようとするものです。このダイバーシティについては、様々な研究により「タスク型の人材多様性が、組織の生産性を向上させる」という結果が得られています。

タスク型とは、専門性のこと。能力・経験・知見などの目に見えない価値の多様化の事を指します。これと相対する言葉に「デモグラフィー型」があります。 これは、性別・国籍・年齢などの目に見える属性の多様化のこと。

トランザクティブメモリーは、相手の専門性を把握する事。つまり、「トランザクティブメモリー×専門性の高い人材の多様性」が企業の生産性を高める最強の組み合わせという事になります。

研究事例

ペンシルヴァニア州立大学ジョン・オースティン氏の、ある衣料スポーツ用品企業の従業員を対象した研究をご紹介します。

この調査では、まず自己評価の「自分自身がどのような技能や知識を持っているか」、そして他者評価の「グループの他のメンバーがどのような技能や知識を持っているか」という質問をしました。

これらのデータを集計し、「グループ内で誰が専門性を持っているのか」「自己評価と他者評価の間の整合性」=「トランザクティブメモリーの正確性の高さ」をチェック。併せて各グループのパフォーマンスも分析されました。

これにより、そもそもトランザクティブメモリーがグループの成績にプラスに影響したという結果が得られました。

併せて、トランザクティブメモリーが効果的に働く要素として、「組織のメンバーそれぞれが専門性を高めている」という事、そして「Who knows whatを正しく把握している」という事が重要だという結果となりました。

【参考】入山章栄「世界の経営学者はいま何を考えているのか—知られざるビジネスの知のフロンティア」

参考書籍

入山章栄『ビジネススクールでは学べない 世界最先端の経営学』日経BP社

入山章栄『世界の経営学者はいま何を考えているのか—知られざるビジネスの知のフロンティア』英治出版

まとめ

  • トランザクティブメモリーは企業規模が大きくなるほど有効な手だてとなる
  • トランザクティブメモリーは企業の生産性を高め、そのトランザクティブメモリーを高めるには「直接対話」が有効である
  • トランザクティブメモリー×専門性の高い人材の多様性は、企業の生産性を高めるための最高の組み合わせと言える

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