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2018年8月15日(水)更新

リバース・イノベーション

海外進出を手掛ける企業が実践しているリバース・イノベーション。従来の海外展開とは異なる手法で次々と成果を挙げており、注目を集めています。今回は、海外進出を目指すなら知っておきたいリバース・イノベーションの意味や注目されている理由、導入方法、日本企業が抱える課題、企業事例を紹介いたします。

リバース・イノベーション に関するビジネス事例や製品の情報を受取る

リバース・イノベーションとは?

リバース・イノベーションとは、先進国企業が新興国や途上国に開発拠点を設け、現地のニーズを基にゼロから開発した製品や商品を先進国市場に流通・展開させる戦略を指します。先進国や富裕国で開発された製品や商品を新興国市場に流通させる従来のグローバリゼーションとは逆の流れを汲むのが特徴です。

この命名は米ゼネラル・エレクトリックの成功事例を、米ダートマス大学タック・スクール・オブ・ビジネスのビジャイ・ゴビンダラジャン教授と、クリス・トリンブル教授の両者が理論化したことが始まりとなっています。日本では慶應義塾大学大学院経営管理研究科の小林喜一郎教授がリバース・イノベーションの必要性を提唱しています。

研究開発・マーケティングチームを国内ではなく、新興国に置くことで、新たな発想や需要を見出し、新たな技術の創出や市場開拓にメリットがあります。また、現地の優秀な人材の確保にもつながることからグローバル展開を目指す企業にとっても最良の経営戦略といえます。

しかし、リバース・イノベーションを起こすためにはグローバル人事の構築など大規模な組織改革が必要となります。他の先進国企業に比べ、グローバル人事構築の遅れが指摘されている日本企業にとっては実施までのハードルが高いことも事実です。さらに新興国は赴任先として人気が高い国ばかりではなく、本社の社員のモチベーションを配慮した人事配置を行なう必要もあります。

リバース・イノベーションが注目される理由とは?

グローバル市場の拡大とともに国内需要が減少する中、日本企業の多くは海外へと活路を見出す戦略を次々と打ち出しています。しかし、従来のグローカリゼーション(世界と地域を同時に考え、展開するグローバリゼーションとローカリゼーションの造語)では、新興国の中間層やBOP層(新興国の年間所得3,000ドル以下の低所得者層)の市場を開拓できず、また「破壊的イノベーション」を武器に台頭する新興国企業に太刀打ちできずにいます。そこで注目を集めているのがリバース・イノベーションです。

近年、リバース・イノベーションが注目を集めているのは以下の理由が考えられます。

新興国が生産拠点から開発拠点へ

従来、先進国にとっての新興国は本国で開発した製品の開発拠点として活用されてきました。その後、新興国の経済が発展する中で、新興国自体も消費市場として注目をされるようになり、現地ニーズに合った製品・商品の開発・展開が必要不可欠となってきています。

しかし、新興国の中には宗教・文化の違い、制約の厳しい国もあるため、先進国内で開発された製品・商品の流通が困難になることが珍しくありません。そのため、新興国に自社の製品を流通させるためには、現地に研究開発・マーケティングチームを置いて、興国市場向けにゼロから製品開発を行なった方が効率的だという認識が広まりつつあります。

成長戦略の一環

先にも少しご説明したとおり、先進国生まれの製品を新興国に合わせた廉価版を展開するグローカリゼーションでは新興国の消費者市場を制することが難しくなっています。発展途上国ではインフラが整備されていない、貧富の差が激しいなどその国独自の問題を抱えています。そのため、現地のニーズを満たす製品を開発・展開させることが求められています。また、新興国の中間層やBOP層の成長も著しく、これらをターゲットにした市場開拓は企業の成長戦略の鍵ともいえます。今後成長が期待できる大規模な消費者市場を狙うことは、海外進出企業にとっては至極当然といえます。

さらにリバース・イノベーションは新興国で生まれた製品や技術を先進国に取り入れるという新しい戦略コンセプトでもあるため、国内向け事業展開の戦略としても活用できます。新興国で生まれたニーズはそのまま本国の消費市場に受け入れられることも多く、新たな製品の投入や市場の開拓が可能となります。このようにリバース・イノベーションは海外需要だけでなく、国内需要もカバーできるため、企業にとって成長戦略の一環として注目されています。

【参考】厚生労働省 貧困・格差の現状と分厚い中間層の復活に向けた課題

新たな発想や技術が生まれる

リバース・イノベーションは新興国で生まれたイノベーションを本国に取り入れる戦略コンセプトです。新興国に研究開発・マーケティングチームを置くことで、本国では考えつかなかった新たな発想や技術を生み出すことができます。

新興国では生活インフラが整備されていないこともあり、不便な生活を強いられている方も多いですが、逆に最新技術をすぐに取り入れられることを意味します。新興国の通信インフラの主流は、電話線をつないだ家庭用電話機でも日本を一世風靡したガラパゴスケータイでもなく、スマートフォンです。

また、先進国では当たり前とされている水や電気、医療などの衛生サービスも先進国のような既得権益がないため、民間企業が参入しやすい傾向にあります。医療分野においては、低所得者層向けの製品や医療サービスが次々と開発され、それが先進国市場にまで普及し、シェアを一気に拡大したという事例もあります。

日本企業におけるリバース・イノベーションの現状とは?

海外進出や国内事業展開の両方を手掛けられるリバース・イノベーションは、経営陣にとっても魅力的な経営戦略といえます。日本の企業におけるリバース・イノベーションの現状はどうなっているかをご紹介いたします。

日本企業の発展にはリバース・イノベーションが必要

輸出に依存している大企業が多い日本において、2016年の日本の経済動向は緩やかな回復基調が見られます。しかし、海外経済の不確実性に起因し、輸出入の実績は実質横ばいの状態です。また、最新の内閣府の発表によれば、国内消費推移は雇用・所得環境の改善と比べて、力強さがありません。そこで日本企業が今以上の経済発展を遂げるためには、海外進出を強化する他ないといえるでしょう。

しかし、従来のグローカリゼーションだけでは、新興国企業の台頭もあり、経済成長に結びつく成果を得ることができないのが現状です。そこで注目されているのが、世界人口の7割強(約50億)を占めるBOP層です。彼らのニーズに合った、低価格で良質な製品を開発することは、今までの消費者とは全く異なる消費者へのアプローチが可能となります。

また、新興国や発展途上国では生活・交通インフラの不備により、従来の大規模な機器の導入が難しい傾向にあります。導入しやすい小型化された機器は、先進国の現場にも受け入れやすいメリットがあります。そのため、日本人口の約40倍規模のBOP層という新たな市場の開拓は、日本企業が世界で生き残るための課題であり、その最適な手段こそがリバース・イノベーションといえるでしょう。

【参考】内閣府 日本経済2016-2017 第1節 日本経済の現状
【参考】内閣府 個人消費の動向について

日本企業の課題

今までにない消費者市場とイノベーションの魅力が詰まったリバース・イノベーションですが、日本企業が取り組むには多くの課題があります。

抜本的な意識改革の遅れ

戦後、世界に類を見ない経済発展を遂げた日本は、世界の国内総生産第2位までに上り詰めたの経済大国です。SONYやTOYOTAなど日本を代表する製造業が世界市場を席捲したことも日本人としては誇らしい歴史でもあります。

しかしその反面、過去の成功体験に囚われ、イノベーションを起こせずに、後手後手の戦略となり、日本経済全体を停滞させる原因にもなっています。その証拠に2010年には世界第2位を誇っていた国内総生産も中国に抜かれ、現在では追撃不可能なほど水をあけられています。現在、日本企業の中心を担う40代後半~50代前半の世代は、ちょうどバブル期入社組ということもあり、現状や見通しの把握が楽観的過ぎるという批判も起こっています。

これらの自社に対する慢心は、新興国や発展途上国のニーズを汲み取り、発想する力の弱さにもつながっているといわれています。日本企業が持つ独特の組織マネジメント、人材・開発、経営管理などを見直すためにも、企業の古い意識を改革する必要があります。

グローバル人事導入の遅れ

リバース・イノベーションを行なうには、グローバル人事が欠かせません。しかし、他の先進国に比べても日本企業のグローバル人事の導入は進んでいないと指摘されています。

リバース・イノベーションは現地に研究・開発、マーケティングチームの拠点を移し、ゼロから製品開発を行なう戦略です。拠点を中心とした権限委譲や現地の優秀な人材の採用、ダイバーシティに対応したマネジメント層の充実が必要です。さらには本社から派遣する日本人社員のモチベーションアップなど本国の従業員のフォローアップのあり方も見直さなければいけません。

日本的慣習の横行

リバース・イノベーションが声高に叫ばれる中、日本企業の多くが実践できていない理由として、終身雇用年功序列といった日本的慣習が影響していると考えられます。これらの制度は古い考えや価値観、成功体験が基となり、新しい考え方や成果主義と前提にしたグローバル人事の導入を阻害している傾向にあります。

「一つの企業に勤め上げれば、人生安泰」という時代は既に終焉しています。企業・個人ともに現在の状況をしっかりと把握し、日本的慣習を前提にした考え方や制度から脱却することがリバース・イノベーションを成功させる鍵といえます。

リバース・イノベーションで取り組むべきことは?

今後、激化が予想される世界経済の中で、海外事業を手掛ける日本企業が生き残るためにはリバース・イノベーションが必要不可欠です。日本企業がリバース・イノベーションを起こすために取り組むべき内容をしっかりと把握しておきましょう。

グローバル人事制度の構築

既にご紹介したとおり、先進国の多国籍企業に比べて、日本企業によるグローバル人事の導入は遅れています。日本企業は国内の人材向けのキャリアパスは整備されていますが、現地人材に対するキャリアパスは不明確になっています。また、日本企業の業務は縦割り・属人型の体制になっているため、海外事業に不可欠な組織の横断的な連携が難しいとされています。そのため、優秀な現地人材の活用を想定した新たな人事制度と異なる部門が横断的に協力・支援できる組織体制の確立が必要です。

また、日本の人事制度は内向き平等主義や治外法権的な性質を持っています。企業内の主導権争いや日本的慣行を前提にした制度はグローバル人事制度の導入の遅延はおろか、企業の衰退を招いてしまいます。

現地ニーズの明確化

日本企業は過去の成功体験から現地ニーズを汲み取れていないと指摘されています。そのため、新たな消費者市場である新興国の中間層やBOP層を攻めきれずにいます。これらを打開するためには国内に拠点を置く研究開発・マーケティングチームが現地に出向き、現地の人材とともに現地のニーズを明確化する必要があります。しかし、日本企業の従業員が現地人材と一緒に働くことに抵抗感を持っていることも多く、現地の言語や文化を理解しないことから良い関係性を築けないでいます。

これらを解消するために、若手や中堅の日本従業員を中心に現地社員との接点を増やし、多文化の理解を深める研修制度の確立や実践の機会を創出する必要があります。また、現地社員とのコミュニケーションを図るためにも語学研修の充実化を図るのもおすすめです。このように現地の人材と密接に関わることで、隠れた現地ニーズを明確化することができ、リバース・イノベーションを起こすことができます。

組織の意識改革

リバース・イノベーションを起こすためには、新しい発想と意思決定のスピードが鍵となります。国内に企画・開発機能を置くだけでは、新しい発想や技術は生まれません。そのため、現地法人が主体的に製品・商品の企画や技術開発が行なえる体制の整備が大切です。これには現地人材への権限委譲はもちろん、さまざまな分野での人事交流や共同企画開発が必要となります。国内で生まれた製品や技術をローカライズするという古い意識を捨て去り、現地の人材とともにイノベーションを起こすという意識改革も大切です。

また、日本企業は本社に意思決定プロセスが集約しており、その承認過程や期間も長く、迅速な意思決定ができないという問題が指摘されています。これらを解消するためにも中間管理職の意思決定を省き、最終決定者が決裁を行なう新たな意思決定プロセスを構築することが求められます。このように、今まで常識とされてきた組織の意識を抜本的に改革することがリバース・イノベーションには不可欠といえます。

リバース・イノベーションの企業事例

西欧諸国の多国籍企業に比べると遅れを取っているといわれる日本企業ですが、中にはリバース・イノベーションを実現している優秀な日本企業も数多く存在します。

株式会社LIXIL

住宅設備事業を手掛ける株式会社LIXIL(以下、リクシル)では、2008年よりベトナムで水を使用しない循環型無水トイレシステム「エコ・サニテーション」の開発を開始。インフラが普及していないベトナムの農村のニーズから着想を得たとされています。現地のハノイ建設大学と実証検証を進め、現在ではケニアやインドネシアでの水資源保全と衛生環境改善に活用されています。この取り組みの始まりとなったベトナムでは、機器の設計・デザインは全て現地人が担当しており、都市部に住むマスユーザーの獲得に成功しています。

【参考】株式会社LIXIL ニュースリリース
【参考】経済産業省 新興国イノベーション研究会報告書 成功要因の活⽤事例 ― LIXIL

デンソー株式会社

自動車部品メーカー大手のデンソー株式会社(以下、デンソー)は、海外企業を含めた自動車部品業界の中で、唯一、ASEANに9割以上の現地人材で構成された開発拠点を設置したことでも有名です。地域に密着したコア技術の開発と自社の現地人材を直接派遣した現地ニーズのヒアリングを実施しています。渋滞しやすい新興国の交通事情を考慮したバイク向けアイドリング機能をはじめ、現地人のニーズで実現したエアコンの吹き出し口の削減、高機能化のニーズを満たしたオート機能付きカーエアコンを実現しています。

【参考】経済産業省 新興国イノベーション研究会報告書 成功要因の活⽤事例 ― LIXIL

本田技研工業株式会社

日本を第供するグローバル企業、本田技研工業株式会社(以下、ホンダ)。中でも1958年に生まれたスーパーカブシリーズは日本のみならず、海外市場でも人気の高いモデルとなっています。ホンダは2000年に、高い品質のバイク製造技術を持つ中国企業に出資を行ない、生産コストを抑えたスーパーカブの生産拠点を作り、効率化を図りました。このように技術に長けた新興国企業の買収・投資を通して、自国の生産技術の向上に役立てる戦略もリバース・イノベーションといえます。

【参考】本田技研工業株式会社 ニュースリリース
【参考】日経ビジネス 新興国生まれのビジネスモデルが世界を席巻する

米ゼネラル・エレクトリック

リバース・イノベーションという戦略を生み出したとされる米ゼネラル・エレクトリック(以下、GM)では、新興国向けに製造された医療用診断機器が有名です。GEは世界の企業に先駆けて、中国やインドに開発拠点を移した企業でもあります。増加する中国の地方診療場に対応するために実現した音波診断装置(小型軽量・低価格)は、先進国においても新たな市場を開拓し、グローバル製品として成長しています。

【参考】日経ビジネス 新興国生まれのビジネスモデルが世界を席巻する

まとめ

  • 先進国の製品や技術を新興国に普及させるグローカリゼーションは既に古い海外戦略となっています。
  • これからは新興国の消費者市場の開拓と、新興国生まれのイノベーション取り入れる戦略が必要となります。
  • リバース・イノベーションは、日本企業にとって、クリアするべき課題も多いですが、それに見合う成果をもたらしくれます。海外進出を考えている企業は、リバース・イノベーションを前提に海外事業計画を立ててみてはいかがでしょうか。

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