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【飲食業界の働き方改革】関連法のポイント、対策と成功事例も解説

BizHint 編集部 2019年3月5日(火)掲載
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働き方改革では、抜本的な労働制度改革によって労働力の確保と多様な働き方の促進に加え、生産性向上により経済の成長と分配の好循環を果たそうという目的があります。特に飲食業界では、人手不足や長時間労働が問題視されており、働き方改革関連法成立を機に業界全体で取り組みを加速させる必要があります。

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飲食業界で働き方改革が必要な理由

働き方改革とは、日本の深刻な人手不足問題を解決するため、労働者の働き方を見直し生産性を上げていく、一億総活躍社会実現に向けた最大のチャレンジです。

【関連】働き方改革とは?目的や背景、改正内容から企業の対策と事例まで徹底解説 / BizHint

これは飲食業界も例外ではありません。

売上=客単価×客数 」という原理原則から言えば、同じ売上高を維持しようとすると多くの客数が必要になります。多くの客数を受け入れるためには、多くの労働力が必要です。

しかし、飲食業界は他業界と比べても、深刻な人材不足に悩まされています。帝国データバンクが2018年4月に全国の2万3,118 社(有効回答企業数は9,924 社)に行った調査によると、飲食店では正社員で63.6%、非正社員で77.3%の企業が従業員不足と回答しています。

深刻な人材不足は、今いる従業員に負担を強いることになります。長時間労働や休みがとれないといった、労働環境の悪化です。

このような問題を解決するためにも、働き方改革の推進が急務なのです。

【参考】株式会社帝国データバンク:人手不足に対する企業の動向調査(2018 年 4 月)

飲食店経営者が覚えておくべき「働き方改革関連法」4つのポイント

2019年4月1日に、働き方改革関連法が施行されました。

【関連】働き方改革関連法とは?改正内容と企業に求められる対応について徹底解説/BizHint

各規制については、大企業・中小企業によって範囲が異なるため、まず自社がどちらに含まれるのか確認しましょう。


【働き方改革関連法における中小企業の定義】

中小企業は業種ごとに、資本金の額または出資の総額と、常時使用する労働者数で判断されることになっています。

【出典】厚生労働省:法定割増賃金率の引上げ

飲食店は「小売業」に該当するため、資本金の額または出資の総額が5,000万円以下または、常時使用する労働者数が50人以下の企業が「中小企業」となり、それ以上はすべて大企業の扱いとなります。

【参考】中小企業庁:日本標準産業分類第13回改訂に伴う中小企業の範囲の取扱いについて


労働基準法をはじめとし、さまざまな改正が行われていますが、飲食業においては、特に以下の4点が非常に重要となります。

①残業時間の上限規制

  • 大企業:2019年4月から適用
  • 中小企業:2020年4月から適用

残業時間の上限については、かねてより原則「月45時間、年間360時間」の限度基準が示されていたものの、法規制はされていませんでした。加えて、これまでは特別条項付36協定の締結により限度基準を超えた残業時間の設定が可能であり、飲食業界においては長時間労働の常態化が問題視されていました。

このたびの「残業時間の上限規制」の導入により、時間外労働の上限時間が正式に法律に盛り込まれます。

  • 「月45時間、年間360時間」を残業時間の上限の原則とする(休日労働は含まず)
  • 臨時的な特別の事情があって労使が合意する場合でも、下記の上限を超えることはできない
  • 時間外労働は「年720時間以内」
  • 時間外労働と休日労働をあわせて「月100時間未満、2~6ヵ月平均80時間以内」
  • 月45時間の原則を超えることができるのは「年間6ヵ月」まで

これらの規制が守られない場合は罰則の対象となり、「 6ヵ月以下の懲役または30万円以下の罰金 」が課せられます。

【関連】「時間外労働の上限規制」をわかりやすく解説!罰則や施行開始時期は?/BizHint

②有給休暇取得の義務化

  • 会社規模を問わず、すべての企業に対し2019年4月から適用

わが国の有給消化率は2017年にようやく5割超を達成しましたが、一方で慢性的な人手不足に悩む飲食業界では32.5%にとどまり、平均値には程遠い現状にあります。

本来、有給休暇は、従業員の申請にもとづき会社が付与するものですが、飲食業の多忙な現場においては、従業員が有休申請をしづらい、もしくはしても却下されてしまうことも珍しくありません。こうした問題が、飲食業界全体における進まぬ有休消化の要因となっています。

今回の働き方改革関連法では、有給休暇の取得ができていない従業員に対して、取得奨励が義務付けられます。

具体的には、 会社側が従業員の希望を聴取した上で時季を指定し、年5日は確実に消化させるようにしなければなりません。

  • 年5日の有給休暇を取得させなかった場合や、使用者による時季指定を行う場合において就業規則に記載していない場合:30万円以下の罰金
  • 労働者の請求する時季に所定の年次有給休暇を与えなかった場合 :6ヵ月以下の懲役または30万円以下の罰金が科されるおそれがある

【参考】厚生労働省:平成30年就労条件総合調査 結果の概況

【関連】【有給休暇の取得義務化】企業が把握すべき内容と対応法を徹底解説/BizHint

③同一労働同一賃金

  • 大企業:2020年4月から適用
  • 中小企業:2021年4月から適用

同一企業内で、正社員と非正規社員(アルバイト・パートなど)が行う仕事について、職務内容や貢献度が同じであれば、給与や賞与において同等にしなければならないという制度です。さらに、同一職務内容で待遇に違いがある場合、従業員に対してその待遇差の理由も説明しなければならないことになりました。

アルバイト・パートの比率が高い飲食業にとって、多様な働き方を後押しする施策であるといえます。

【関連】2020年から施行!「同一労働同一賃金」とは?企業の対応まで徹底解説/BizHint

④勤務間インターバル制度

  • 会社規模を問わず、2019年4月から適用(ただし努力義務)

一日の勤務終了後に、一定の休憩時間(インターバル)を確保する仕組みです。この仕組みは法律の規制でなく、努力義務となっていますが、十分な生活時間と休息時間を確保することで、病気や過労死を防ぎ、労働力を安定的に確保することにもつながります。

特に飲食業においては、人材不足から、少人数でシフトを回すことが多く、大きな課題です。

【関連】勤務間インターバル制度とは?努力義務になる制度の内容や導入企業のご紹介/BizHint

飲食業界の働き方改革を進めるためには

飲食業において、「残業時間の上限規制」「有給休暇取得の義務化」「同一労働同一賃金」「勤務間インターバル制度」などの規制をクリアしつつ、さらに働き方改革を推進していくためには、次のような施策が考えられます。

成果報酬制の導入

最低賃金の引き上げに伴う、消極的な賃上げだけでなく、貢献度に応じたインセンティブの導入も有効です。例えば、目標達成時の成果配分やオーダーテイク数に応じた報酬を検討するなどが考えられます。

POS、OES活用による科学的シフト管理

シフトミスによる過剰な人員配置は人件費の高騰を招きますし、少なすぎる人員配置は販売機会損失につながります。

店長の勘に頼らず、まずはPOSデータから時間帯別入客数の把握を行い、オーダーエントリーシステムから時間帯別オーダー数を把握して、ムリ・ムダ・ムラの無い「科学的なシフト作り」を始めることが大切です。

【関連】POSシステムとは?歴史や仕組み、機能、種類、利点について解説/BizHint

従業員の多能工化

飲食業は調理(製造)とサービス(接客)が並存する特殊な業態です。そのため、それぞれの職種での専門化が重要ですが、過度な専門化は人件費の高騰を招きます。

調理の一部も出来るホール係やホールに出る調理要員など、従業員の多能工化を図ることにより、人件費の節約とチームワークの向上も同時に図れます。また、チェーン店の場合、複数の業態に対応出来る社員教育を行っていると、忙しい店に臨時的に応援に行く「タスクフォース」も可能になります。

【関連】多能工化の意味とは?メリット・デメリットと進め方/BizHint

IT機器導入による省力化

飲食業はオーダーを取る、調理する、提供するという作業があり、労働集約的な産業です。

ファーストフードや日常的な食事を提供するお店で、メニュー数が少ないのであれば券売機、居酒屋やファミリーレストランなどメニュー数が多い場合は、オーダーエントリーシステムの導入を検討してもよいでしょう。

【BizHintオリジナル記事】
なぜ、サービス業の生産性は上がらないのか

ビジネスモデルそのものの変革

そもそも、今の業態で今後戦えるのかも定期的に検証していく必要があります。現在の損益分岐点から利益計画を見直して新業態を開発することにより、現状の働き方を根本的に改善することも出来ます。

粗利益率や労働分配率など、他社の状況を知るには、中小企業庁の「中小企業実態基本調査」を参考になります。

【参考】中小企業庁:中小企業実態基本調査

働き方改革は新たな成長の機会

働き方改革は、他業界並みに労働環境を改善させるだけでなく、旧来型の飲食ビジネスに変革をもたらす好機でもあるといえます。その方向性を見ていきます。

現代人のニーズにマッチした新ビジネスの展開

飲食業とはこうあるべきであるという通説は、働き方改革を機に改めて見直すことも重要です。

そもそも「寿司は板前が対面で握る」というスタイルを打ち破ったのが回転寿司ですし、フレンチやステーキを立ち食いで提供するなど、従来の飲食業には無い発想により、新たな価値を創造することも求められます。

ニッチ市場への参入

汎用的なニーズばかりではなく、特定の地域や客層に絞った店舗展開も有効です。

特定分野での独り勝ちが出来れば、価格競争を回避できます。必ずしもチェーン化してコスト削減に躍起になる必要もありません。

従業員満足が顧客満足へ

飲食業は「人」の産業です。料理や飲み物の美味しさだけではなく、人と人との触れ合いも重要な商品です。お客様と従業員の触れ合いは、実は重要なファクターであることを飲食業は忘れています。

従業員の残業を減らして休日を増やすことは、マニュアル的な作業から従業員を開放し、本来の飲食業の魅力を増幅する力を持っています。この事は、来店頻度の向上や客単価アップに直結する具体的効果に繋がっていきます。

【関連】顧客満足とは?意味と顧客満足度調査の効果を高める5つのポイント / BizHint

飲食店の働き方改革企業事例【3選】

働き方改革にチャレンジしている飲食業の事例を紹介します。

スシロー

スシローは、高品質低価格競争が熾烈に続く回転寿司業界の中で、原価率50%を割らない品質を保ちつつ、現場の作業を軽減して従業員の負担軽減を目指す取り組みを行っています。

具体的には、約20年前からロボットやタッチパネルを使った注文システムを採用したり、最近では、お客様が食べた皿の枚数をICチップで読み取れる携帯端末を導入するなど、スタッフのミス防止や省力化を図っています。

しかし、中には省力化を目指したものの、結果的に顧客満足度が下がってしまった施策もあるようです。ロボットや外部に任せて自動化する作業と、社内の人手で行う作業の区別は、きわめて重要であるといえるでしょう。

【参考】日経ビジネス:スシロー、“皮引き”に込めた働き方改革

すかいらーく

ファミリーレストランのすかいらーくでは、深夜営業の短縮に踏み切っています。2017年から主力の「ガスト」などで原則深夜2時に閉店・朝7時開店にするというものです。労働環境を整えて、従業員満足を図る施策です。

さらに、パート・アルバイトのオペレーションの習熟度を上げることを目的に、メニュー改定回数を減らす施策も行っています。メニュー改定の縮小は常連客が感じる新鮮味を失う危険がありますが、利用履歴に応じたクーポンのデジタル化で既存店売り上げを維持しようとしているようです。

また、従来の採用の方法を見直し、採用された店以外でも働ける仕組みを構築しています。これにより、本人の空き時間に合わせて複数の店で勤務することができます。チェーン店の強みを活かした施策であると言えます。

【参考】日経ビジネス:すかいらーくがメニュー改定の頻度を減らす深謀

百食限定のステーキ丼専門店/佰食屋

ウーマン・オブ・ザ・イヤー2019に選ばれたminitts代表の中村朱美氏は、ユニークなビジネスモデルで飲食業の働き方改革を実践しています。

従来企業のような売上利益の追求や規模拡大を否定し、「1日100食を売り切ったら営業を終える!」という画期的なビジネスモデルを考案、残業ゼロを実現させています。

既存の飲食業の多くは、働き方改革に対応して、残業削減や休日増加をいかに達成するかについて頭を抱えている飲食業経営者が多い中、完全に労働者目線でビジネスを再定義した好例です。

【参考】NIKKEI STYLE:ウーマン・オブ・ザ・イヤー、大賞に中村朱美さん

飲食業界の働き方改革の実態

飲食店.COMが2018年3月に飲食業の正社員245人に対して、仕事の満足度や働き方改革についての意識調査を行いました。その結果、以下のような傾向がみられたようです。

休日に関する現状と取り組み

【出典】飲食店.COM:飲食業界の「働き方改革」。従業員の6割が休日数の増加にむけた取り組みを実感

1カ月あたりの休日数は4~5日が最も多く、全体の35%を占めています。次に多かったのは8日以上で28%という結果になっています。

週1日と週休2日の回答が拮抗しており、飲食業の中でも二極化していることがうかがえます。

休日の日数別に見た従業員の満足度と休日増加への取り組み

【出典】飲食店.COM 飲食業界の「働き方改革」。従業員の6割が休日数の増加にむけた取り組みを実感

1カ月あたり休日数が4~5日の従業員のうち「十分な休みが取れていない」と回答した人は、全体の93%に上っています。反対に、月あたり8日以上の休日があると回答した従業員のうち、83%の人が「既に十分な休みが取れている」と回答しています。

また、「十分な休みを取れていないが、休日数の増加に向けて取り組み中」と回答した従業員は、1カ月あたり休日数が4~5日の場合は19%、6~7日では44%、8日以上では6%となっています。

休日数が少ない企業ではなかなか取り組みが進んでおらず、多い企業は取り組みを終えており、その中間である6~7日の企業が活発に取り組みを推進していることが読み取れます。

待遇面の満足度

【出典】飲食店.COM 飲食業界の「働き方改革」。従業員の6割が休日数の増加にむけた取り組みを実感

従業員に対して、「勤務時間」「休日数・休暇の取りやすさ」「給与・賞与・各種手当の金額」に対する満足度を聞いたところ、「非常に低い」と回答した項目は、「勤務時間」は28%、「休日数・休暇の取りやすさ」は24%、「給与・賞与・各種手当の金額」は17%となっており、長時間労働に対する根強い不満がうかがえます。

仕事や職場に対する満足度

【出典】飲食店.COM 飲食業界の「働き方改革」。従業員の6割が休日数の増加にむけた取り組みを実感

さらに、仕事や職場に関する満足度で「仕事内容・やりがい」「スタッフの人間関係」「スキルアップ・学びの機会」「昇進・出世のチャンス」の項目で聞いたところ、「スタッフの人間関係」の満足度が最も高く、「昇進・出世のチャンス」に関しては不満が大きいという結果になっています。

仲間との交流に満足しながらも、個人としての向上心は余り満たされていない様子が分かります。

【参考】飲食店リサーチ

まとめ

  • 飲食業界で働き方改革が必要な理由は、潜在的には「生産性改善の困難な業種特性」や「 デフレ体質から脱却出来ない事」があり、その要因が解決されてないために生じた顕在的理由である「深刻な人材不足」や「長時間労働」などがあります。
  • 飲食業界の働き方改革の実態については、休日取得について取り組みが進んでいる企業と遅れている企業の二極化が生じており、長時間労働に対する根強い不満があります。
  • 飲食店経営者が覚えておくべき働き方改革関連法のポイントは、「残業時間の上限規制」、 「有給休暇取得の義務化」、「同一労働同一賃金」、「勤務間インターバル制度」です。
  • 飲食業界の働き方改革取り組みには、「成果報酬制の導入」「POS、OES活用による科学的シフト管理」「従業員の多能工化」「IT機器導入による省力化」「ビジネスモデルそのものの変革」などが考えられます。
  • 働き方改革は新たな成長の機会ともとらえることができます。その方向性としては、「現代人のニーズにマッチした新ビジネスの展開」や「ニッチ市場への参入」、「従業員満足を顧客満足へつなげる事」などがあります。

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