POSシステム
POSシステム(Point of Sale System)とは、物品販売に関するあらゆる情報を収集、管理、分析するシステムです。POSシステムの持つ数多くの機能を最大限に活用することで、業務の最適化やコスト削減、情報の可視化などのメリットを享受することができます。ここでは、POSシステムに対する理解を深め、導入効果を最大化するために必要POSシステムの歴史や仕組み、機能、種類、導入利点(メリット)などについて分かりやすく解説します。
POSシステムとは
POSシステムとは、物品販売に関するあらゆる情報を収集、管理、分析するシステムです。「Point of Sale System」の略称であるPOSシステムは、日本語で「販売時点情報管理」と訳されています。
商品名や金額、購入個数、購入者属性、販売日時、販売時点での天気や気温など、消費者の購買意思決定に影響を与える要素を網羅的に収集、管理、分析することができます。
リアルタイムでの売り上げや在庫数の把握を可能にしてくれるPOSシステムは、業務の最適化や戦略的な店舗運営を目的として数多くの小売業に導入されています。
なお、昨今では農産物の直売からタクシーの配車まで様々なビジネスシーンでPOSシステムが活用されていますが、当記事では主に小売業におけるPOSシステムついて扱っています。
POSシステムの歴史
1970年、アメリカのスーパーマーケットが急激な店舗数増加と徹底的な薄利多売という攻撃的な経営戦略を押し進めたことで発生した「商品管理コストの爆発的な増加による利益率の大幅減少」という難題を解決するために生み出されたのがPOSシステムです。
その後、1978年に生まれた世界共通の商品用バーコードシンボル(JANコード)と組み合わせることによって実用性が大幅に高められたPOSシステムは、世界中のメーカーがこぞって開発を進める魅力的な市場となり、目覚ましい成長を遂げることとなりました。
今日では、初期費用が一切発生しないPOSシステムや部門別など細かな管理や分析が可能なPOSシステム、購入者が自ら操作して決済まで行うことのできるPOSシステムなど個性豊かなPOSシステムが数多く存在しています。
個々のPOSシステムが持つ特徴を理解し、自社の導入目的と照らし合わせることで最適なPOSシステムを選択することが可能となるでしょう。
POSシステムの仕組み
POSシステムは導入目的や導入規模によってシステム全体の構成が大きく異なりますが、いずれのPOSシステムも次のような流れで情報を取得、処理しています。
- 商品についている商品コードをバーコードスキャナで読み取る
- 予め登録しておいた商品データ群から紐づけされているデータを検索し、商品を特定する
- スキャンされた商品の名前と販売価格をPOSレジスタの画面に表示する
- 決済後、販売情報を店舗や本社、サービス提供会社に設置されているオフィスサーバー(オフィスコンピューター)に送信する
- オフィスサーバーに蓄積された販売情報を活用して売上管理や在庫管理、顧客管理などの店舗管理を行う
POSシステムの種類
POSシステムはソフトウェアを動かすハードウェアによって「ターミナルPOSシステム」、「パソコンPOSシステム」、「タブレットPOSシステム」の3つに大別することができます。
ここでは、それぞれのPOSシステムが持つ特徴や長所、短所についてご紹介します。
ターミナルPOSシステム
数あるPOSシステムの中で最も一般的であり、スーパーマーケットやコンビニエンスストアなど大規模に展開している大手企業をはじめ数多くの企業で導入されているのが「ターミナルPOSシステム」です。
各メーカー独自のシステムやソフトウェアがハードウェアであるレジスタ本体に組み込まれた状態で提供されていることから「筐体一体型POSシステム」や「POSレジ」とも呼ばれています。
一口にターミナルPOSシステムといっても、カウンターが付いた大型のものからデスク上のわずかなスペースでも置くことができる小型のものまでバリエーションは実に様々です。
飲食店や専門店、ショッピングモール、病院など各業種に特化した機能を有するターミナルPOSシステムを導入することによって、大幅な業務効率化を実現することができるでしょう。
【長所】
- POSに特化した耐久性や機能性の高いハードウェア
- 多くの導入実績と導入ノウハウを活かしたサポート
【短所】
- 導入コストが比較的高額
- 周辺機器は基本的に全てメーカー指定のものとなる
パソコンPOSシステム
専用のハードウェアが必要となるターミナルPOSシステムに対し、使用しているパソコンにバーコードスキャナやキャッシュドロワ、レシートプリンタなどの周辺機器を接続して使うのがパソコンPOSシステムです。そこへソフトウェアをインストールし、POSシステム化して使用します。
POSシステムのソフトウェアがインストールされている以外は通常のパソコンと何の違いもないため、会計業務や勤怠管理、仕入発注、メール作成などPOSシステム以外の用途にも柔軟に活用することができます。
ターミナルPOSシステムと比べて機能性で大きく劣っていることもなく、求める機能を有する周辺機器を追加するだけで容易に機能拡張を行うことが可能なことから、将来的に事業拡大を目指している中小規模の小売店向けPOSシステムといえるでしょう。
【長所】
- ソフトウェアと周辺機器を自由に組み合わせて使用できる
- すでにパソコンを保有している場合、導入コストを抑えられる
- 故障などのトラブルが起きても該当機器を買い換えるだけで済む
【短所】
- パソコンに対するセキュリティ対策を十分に行う必要がある
- パソコンを保有していない場合には導入コストが増える
タブレットPOSシステム
タブレット型端末やスマートフォンの爆発的普及と高性能化に伴い、利用者が急増しているのが「タブレットPOSシステム(タブレットPOSレジ)」です。
iPadやiPhone、Android端末にPOSレジアプリをインストールするだけで利用を開始できる上、0円プランや無料プランを用意しているタブレットPOSシステムもあるため、誰でも今すぐに試用することができるため、注目度の高いPOSシステムです。
また、その手軽さから、簡易的なPOSシステムで十分だと考える個人経営の小規模な小売店や飲食店、移動販売事業者などで導入が進んでいます。
株式会社プレナスが2016年から2017年にかけて約2700ある「Hotto Motto」全店舗のPOSシステムをタブレットPOSシステムに切り替えるなど、大手企業の多くもタブレットPOSシステムに強い関心を示しています。
なお、一部のタブレットPOSシステムは軽減税率対策補助金(中小企業・小規模事業者等消費税軽減税率対策補助金)の対象外となっています。そのため、POSシステム導入の際に補助金の申請を予定している場合には十分に確認をした上で本格的な導入に取り掛かりましょう。
【長所】
- 導入コストが圧倒的に低い
- POS端末本体が軽量なため持ち運びが楽にできる
- クラウド会計ソフトと連携したものが多い
【短所】
- 無線LANやWi-Fiなどの無線通信環境が必須となる
- 端末の紛失や盗難、覗き見による個人情報の漏洩リスクが高まる
- 耐久性が低いため、落下や水没に注意しなければいけない
POSシステムの機能
POSシステムは店舗運営を多角的にサポートするため、数多くの機能を有しています。実際に使用できる機能はPOSシステムによって様々ですが、それらを予め把握しておくことで最適なPOSシステムを選択し、より効果的な形で導入することができます。
売上機能
機能 | 詳細 |
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売上登録 | 商品コードの情報から商品名や商品単価を取得 |
釣り銭計算 | 消費税を含めた総額と受領額の差額を計算 |
決済機能 | クレジットカードや電子マネーなど現金以外での支払いに対応 |
レシート発行 | 割引券やクーポン、店舗からのお知らせなども印字可能 |
訂正、返品処理 | 決済時の情報と照らし合わせることでヒューマンエラーを最小化 |
売上分析 | 時間軸や商品軸など多角的に分析し、レポートを作成 |
売上ジャーナル | 税務署への申告により電子データでの保存が認められる |
商品管理機能
機能 | 詳細 |
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商品情報登録 | 商品コード、商品名、販売価格、メーカー名など商品に関する情報を登録 |
在庫管理 | 在庫状況をリアルタイムで把握 |
発注依頼 | 在庫状況や売上分析の結果から適切な発注量を導き出し、発注依頼を行う |
棚卸機能 | 商品コードをスキャンし、実在庫の数を入力することで理論在庫との差異を計算 |
顧客管理機能
機能 | 詳細 |
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顧客情報登録 | 年齢や性別、住所など購入者の属性に関する情報を登録 |
購買履歴管理 | 購入時の価格、個数、購入日時、購入間隔など購買意思決定に関する要素を保管 |
顧客条件抽出 | 個人単位や属性単位で条件を設定して情報を抽出する |
ポイント管理 | 商品の購入などアクションに対してポイントを付与し、利用時に割引などの特典を与える |
その他の機能
機能 | 詳細 |
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クラウド機能 | 各種データをクラウド上に保存し、定期的に自動バックアップを行う |
複数店舗管理 | 複数店舗の売上情報や在庫情報、顧客情報を共有、確認できる |
ECサイト連携 | 実店舗における販売実績や入荷情報をECサイトの在庫情報に自動反映 |
スタッフ管理機能 | スタッフ情報を登録し、レジスタとの紐付けやシフト管理、勤怠管理などを行う |
CSV出力 | POSシステム内の各種POSデータをCSV形式で出力 |
予約管理 | 予約日時や顧客情報、希望条件など予約に関する情報を紐付けて保管 |
座席管理 | 現在の着席状況や滞在時間、空席一覧など座席に関する情報を一元的に管理 |
オーダー管理 | オーダー内容や提供状況などオーダーに関する情報をホールと厨房で共有 |
POSシステムを導入する利点(メリット)
事業内容や環境に適したPOSシステムを導入し、その機能を最大限に活用することによって、以下のようなメリットを享受することができます。
- 業務の最適化とコスト削減
- 情報の可視化
- 顧客満足度の向上
- 販売機会の増加
業務の最適化とコスト削減
POSシステムの基本ともいえるPOSレジ機能を用いることで、入ったばかりの新人スタッフであってもベテランスタッフと同様の高い精度で素早くレジ入力業務を行うことができます。
また、POSシステムに蓄積された膨大なデータを活用することによって店舗運営に関する様々な業務を最適化することができます。
POSシステムが得意とすることを正しく理解した上で導入することにより、広範囲における業務の最適化と大幅なコスト削減を実現させることができるでしょう。
情報の可視化
売り上げ情報や商品の在庫情報、顧客情報など店舗運営に関する様々な情報を可視化(見える化)することができるのも、POSシステム導入による大きなメリットの1つです。
個々の情報に連動性や関連性を持たせることで、商品や顧客など異なる視点から複数のABC分析を実施したり、過去の購入時における諸条件が蓄積されたデータから次回の購入タイミングを予測することが可能です。そのため、これまで以上に高度で効果的な戦略を構築できます。
チェーン店など多店舗展開を行っている企業が複数店舗管理機能を保有するPOSシステムを選択すれば、全店舗のPOSデータをビックデータとして共有でき、スケールメリットを更に大きなものにすることができるでしょう。
顧客満足度の向上
レジ会計における待機時間の削減や決済方法の増加、ヒューマンエラー最小化による顧客負担の減少はいずれも顧客の満足度に直結する重要な要素です。
予約機能やポイント機能を利用した付加価値の提案や適切なプロモーション活動の実施など、独自に持つ追加機能を活用することで顧客満足度を非常に高いレベルで維持することが可能となるでしょう。
販売機会の増加
POSシステムを新規に導入することで、欠品時における自社ECサイトへの誘導や他店舗からの取り寄せ、予約機能の活用、在庫数や仕入れ量の最適化、作業速度や商品知識といった各スタッフのスキルレベルの均一化が進みます。
それにより、管理不足や育成不足により発生していたチャンスロス(機会損失)の多くを未然に防ぐことができます。
また、イベント開催時のDM一斉送信や顧客の好みに合わせた商品の提案など、より多くの販売機会を生み出す施策を積極的に打ち出すことが可能となります。
まとめ
- POSシステム(Point of Sale System)とは、物品販売に関するあらゆる情報を収集、管理、分析するシステムである
- POSシステムは、業務の最適化や戦略的な店舗運営を主な目的として数多くの小売業に導入されている
- POSシステムには、「ターミナルPOSシステム」、「パソコンPOSシステム」、「タブレットPOSシステム」の3種類がある
- POSシステムは、「売上機能」や「商品管理機能」、「顧客管理機能」など店舗運営を多角的にサポートする数多くの機能を有している
- 事業内容や環境に適したPOSシステムを導入し、その機能を最大限に活用することによって、業務の最適化とコスト削減など数多くのメリットを得ることができる