連載:第16回 アトツギが切り拓く、中小企業の未来
「もっとまじめにやりな!」。中川政七商店のコンサルでV字回復を果たした経営未経験の3代目
24歳で倒産寸前の家業に入った馬場匡平社長は、利益がほとんど出ない卸売からオリジナルブランドの立ち上げを決意します。ワケアリの焼き物を扱う“ガサ屋”だったマルヒロが、どのように再生を果たしたのか。その物語にビジネスのヒントを探します。
有限会社マルヒロ
代表取締役 馬場 匡平(ばば きょうへい)さん
長崎県波佐見町で、波佐見焼の露天商を行っていたマルヒロ(1957年創業)の三代目として生まれる。高校卒業後に福岡でフリーターとして働くが、父親から呼び戻されて家業を継ぐ。中川政七商店のコンサルタントを受け、新ブランド「HASAMI」を発表。
家業は捨てられる「C品」を集めて売る、露天商からのスタート
――マルヒロは、中川政七商店の会長(当時は社長)中川淳さんがはじめてコンサルティングを手掛けた会社だと聞いています。どのようなきっかけで依頼に至ったのでしょうか。
馬場 匡平さん(以下、馬場):2009年7月に父ちゃんが突然「この本読んでみろ」って渡してきたのが、中川淳さんの著書「奈良の小さな会社が表参道ヒルズに店を出すまでの道のり」だったんです。 その本の最後に「自分たちが教えられる伝統工芸を、他の人たちにも教えていきたい」と書いてありました。それで父ちゃんが「一度コンサルをお願いしてみるか」って、言ったんですよね。そこで中川政七商店の営業部の方を通じて電話してみたら、中川さんに会っていただけることになったんです。
――ご実家の家業は窯元だったのですか?
馬場: いえ、うちは窯元ではなく、ずっと商人です。焼き物には、厳しい検品をクリアした「A品」、A品には劣るがなんとか売れる“ワケあり品”を「B品」、割れたり欠けたりしているものを「C品」と呼びます。C品は昔「ガサ」と呼ばれていて、欠けた部分を直してたたき売りする商売は“ガサ屋”と呼ばれていました。
僕のじいちゃんは、そんな“ガサ”をサンテナ(やきものを運ぶためのカゴ)いっぱい買い込んできて、露天で売っていました。その後、僕の父ちゃんがB品の卸売を手がけ、最終的にはA品を扱うようになりました。でも、僕が家業に入る前から段々と商売がうまくいかなくなってきたようです。
――事業を継がれた経緯を教えてください。
馬場: 僕は生まれてからずっと波佐見から出たことがなく、18歳で憧れの福岡で一人暮らしをはじめました。一人暮らしをはじめる1週間前に、じいちゃんから昼食の席で「30歳まではいい。だが、30歳になったら継いでほしい」と言われたんです。
その時は、「よかばい」と適当に返しました。その後も「全然時間あるし」と思いながら、色々な仕事を転々としていました。
ある日、朝8時くらいに父ちゃんが福岡の僕の家にいきなりやって来て「帰ってこい」って言ったんです。ちょうど、仕事もキリのいいところで終わっていたから、「5日後ならいいよ」と答えてマルヒロに入りました。
それが23歳の時でした。結局30歳を待たずに呼び戻されることになりましたけど、僕自身もそんな約束をしたことなどすっかり忘れていましたね(笑)。だから、志とか使命感がある跡取りではないんです。
――家業に入られた時、マルヒロの経営状況はいかがでしたか?
馬場: 僕が家に戻る6年前ぐらいから、主力のB品が売れなくなってきていました。また、陶器の卸売業界の競争も激しくなり、せっかく窯元からA品、B品を仕入れて問屋に持ち込んでも、まったく同じ商品がすでに売られていることもあったそうです。
会社を続けるためには、マルヒロしか扱っていないオリジナルのA品を作らなければいけないと。そういう意識から、A品を売る決断をしたのだと思います。ただ、波佐見に100軒以上ある窯元のうち、オーダーを受けてくれたのは5軒だけでした。父にとっては断られたことよりも「“ガサ屋”に売れるわけないやろ」と言われたのが、一番こたえたと思います。
その後、オリジナルデザインを考えてくれていた女性が退職、彼女の跡を引き継いだ後輩の子も辞めますとなったときに、息子の僕に白羽の矢を立てたみたいです。
でも、上手くいかないほうが多かったですね。
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