連載:第20回 アトツギが切り拓く、中小企業の未来
「経営者がバカだと社員が不幸」覚醒からのV字成長。松下幸之助“指導者の条件”がバイブル
松下幸之助の最後の愛弟子とされる木野親之氏が「素晴らしい」と称賛したのが株式会社ミューテック35の経営手法。同社社長の谷口栄美子さんは事業承継後、松下幸之助の書籍を手に取り、それが今に至る「バイブル」となります。その後のリーマンショックの経営危機の最中、自身の至らなさを知り、意識変革・会社変革に着手。組織づくり・人づくりからV字成長につなげた経緯を伺いました。
株式会社ミューテック35
代表取締役 谷口 栄美子さん
2007年、家業である株式会社ミューテクノ(2018年「ミューテック35」に社名変更)を承継。「東京都ベンチャー技術特別賞受賞」「優秀板金製品技能フェア(アマダ)受賞」「女性活躍推進特別賞」等、受賞多数。
あなたの会社、社会に必要なんですか?なくなってもいいんじゃないですか?
――事業承継後すぐ、経営危機に直面されたとのこと。
谷口栄美子さん(以下、谷口): 当社は父が1990年に立ち上げた、電光掲示板や精密板金・プレス加工を手掛ける会社です。2007年に私が専務、弟が社長と技術担当という形で事業承継。その後の社名変更の際に、私が社長に就任しました。
ただ、私はそれまで社会に出たことも働いたこともない主婦だったため、仕事やパソコン、経営の勉強からスタート。父からはまず経理をやるように言われたものの、質問しては怒られる毎日で、本屋に行っては関連書籍を読み漁っていました。
そんな中で翌2008年にリーマンショック…当社の売上は7割減ってしまいました。
――どうされたのでしょう?
谷口: 待っていても仕事は来ないので、見よう見まねで営業を始めました。
営業に行くと「御社の強みは何?」と聞かれ、「強みは技術で…」と説明するのですが、実際にはそのやり取りに意味はありませんでした。
分厚い書類を見せられて「そこに希望金額が書いてあるから、それより下だったら発注するよ」で商談は終わり。
持ち帰って工場長に相談すると「こんなの材料費にもならないですよ」と呆れられます。そうして何も知らないまま営業を繰り返しては「安かったらやる」と言われ続け、自分の至らなさを痛感しました。
経営者としてあまりにも不甲斐なく、一生懸命がんばってくれている社員に申し訳ない思いでいっぱいでした。同時に、戦慄したのが「経営者がバカだと価格競争に巻き込まれる。儲からない。そして、社員が不幸になる」ということ。
そこから「価格競争に巻き込まれないためには、安く叩かれないためにはどうすれば?」と悩む日々が始まりました。しかし、自分では答えが見つけられません。
そうして4か月ほどが過ぎたころ、私は重い腰を上げて参加した中小企業家同友会のセミナーで、 初対面の講師にかけられた言葉に、大きな憤怒とショックを受けます。
「ミューテックって会社、社会に必要なんですか?なくなってもいいんじゃないですか?」 と。
――…どうされたのでしょう?
谷口: それはもう、頭にきましたよ。「こんな所、二度と来るか!」と。
ただ、後になって振り返るとこの一件は、私や当社にとって幸運な出来事でした。
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バックナンバー (21)
アトツギが切り拓く、中小企業の未来
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