連載:第25回 組織作り その要諦
従業員の意識を変えたのは「対話」。人が辞めない企業に生まれ変わった町工場の話
トップダウンに慣れて意見を言えず、無駄の多い業務を黙々と続ける社員たち…。昔ながらの経営手法を貫く中小企業では、「今までこのやり方で続けてきたのだから」と、効率化を拒む経営者やベテラン社員も多いことでしょう。1960年創業の名古屋の町工場、前田鉄工所もそんな企業のひとつでした。三代目の前田基樹さんは、コンサル会社で10年ほど経験を積んだ後、家業に就いた際、大きな危機感を覚えたと言います。自発的に動けない社員、変われない企業に対し、どのようなアプローチを行っていったのか、詳しく話を伺いました。
株式会社前田鉄工所(製造業/従業員数約50名)
代表取締役社長 前田 基樹さん
慶應義塾大学卒業後、新卒にて世界最大のコンサルティング会社アクセンチュアにコンサルタントとして入社。コンサルティング、人事、採用、経営管理などの業務を約10年経験し、社長への提言機関でのプレゼン内容から社長賞を受賞。2014年前田鉄工所に入社。2019年10月より現職。
コンサル業から町工場へ。「覚悟」はしていたはずだったが…
――アクセンチュアで働いていた前田さんが、なぜ全く異なる業種の前田鉄工所を継ごうと決心されたのでしょうか?
前田基樹さん(以下、前田): もともと大学の頃から経営に興味があり、経営学を専攻していました。ただ学生の頃は経営の中でも“人”への興味が強かったので、人に関わるコンサルティングがしてみたいと思ってアクセンチュアに入社したんです。でも、実際に入社してみるとなかなか思い描いたような仕事はできませんでした。
その後、人事に異動して経営管理に近いような仕事も経験できましたが、サラリーマンとしてやれる仕事に限界を感じていました。やっぱり「 自分で経営をやってみたいな 」という思いがあり、6年前の2014年に家業である前田鉄工所へ入社することを決めたんです。社長に就任したのは、昨年2019年10月のことですね。
――大企業でコンサル、人事を経験したのちに町工場社長。思い切ったキャリアチェンジですよね。何かきっかけはあったのでしょうか?
前田: 以前から家族には、「会社を継ぐ気があるのなら30までに決めろ」と言われてたんです。でもなかなか結論が出せなくて先延ばしになってしまい…。34歳の時に親から「会社を畳むかどうか判断をしなきゃいけないから、継がないのであれば連絡して欲しい」と声をかけられました。当時の社長であった父も定年に近い年となり、いつまでも無理して働かなくても…という気持ちがあったのでしょうね。もし私が会社を継がなければ、売却するか畳むかという状態だったと思います。
――それで後継者として会社を継ぐ決断をされたのですね。
前田: はい。ただ覚悟を決めて東京から名古屋に戻ってきたんですけど、会社的に歓迎ムードという雰囲気ではありませんでした…。どちらかというと、様子見されているような、少し距離を置かれている感じで。実際、 入社してから最初の数年間は社員との会話もほとんどなかった んです。
自分の意見を言わない社員。非効率な作業をやり続ける現場に違和感
――前職と比べ、違和感を覚えるようなことはありましたか?
前田: 当時の社長であり、現会長の父は、典型的なトップダウン経営をするタイプ。それに慣れている社員たちは、自分たちの意見を言うこともなく、どちらかというと “言われたことを淡々とこなしている” ような状態でした。 自発的に考えたり動いたりすることはほとんどなく、作業も非効率的に見えたんです。そんな状態に社員も疲弊していたのか、正直モチベーションが高い状態とは言えず、 全員で50名ほどの組織なのに、一年で10名離職したことも…。
しかも私が入社したタイミングは、会社の売上もどん底。これはどうにかしなくてはいけないという危機感を抱き、まずトップダウンの体制を変えていく必要があると思いました。言われた通りの仕事をただ続けるのではなく、 自分で考えて意見を出しながら自発的に動き、モチベーションも高く働いてもらってパフォーマンスをあげていきたい と考えたんです。
目指すべきは「対話」できる組織。トップダウンでは社員も売上も成長が見込めない。
――そもそも、なぜ社員のみなさんは意見を言わなかったのでしょうか。
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