「そんな気持ちなら辞めてしまえ！」の檄で目覚めた。危機感ゼロの老舗企業を蘇らせた、たったひとつの要諦

株式会社虎屋本舗
取締役会長　高田 信吾（たかた しんご）さん

1963年広島県生まれ。虎屋本舗十六代目当主。國學院大學経済学部卒業後、大阪の大手アパレルメーカーに入社し、営業職として勤務。先代である父が余命宣告を受けたことをきっかけに、1990年、27歳で株式会社虎屋本舗へ入社。1994年、代表取締役社長に就任。2021年より現職。虎屋本舗は、1620年創業の老舗菓子店。従業員数80名、売上高5.6億円（2025年2月現在）

売上が上がっても、モチベーションは下降……。理由を追求して気づいたこと

――貴社は、創業400年以上という老舗企業でありながら、従業員の皆さんがいきいきと働き、ベテランの高齢社員から若手社員まで積極的にアイデアの出る組織だそうですね。ユニークな商品や活動で、多くのメディアに取り上げられています。

高田信吾さん（以下、高田）：ありがとうございます。まさに、高齢の職人と若手がコラボして開発した「はっさく大福」という商品が大ヒットし、今では虎屋本舗の代表的な和菓子の一つとなっています。現在の社長の声かけもあり、現場からは時代に鑑みた商品やサービスのアイデアがどんどん生まれています。

ただ、最初からうまくいっていたわけではありません。僕が虎屋本舗に戻ってきた1990年頃は従業員数30名程度、売上高は2億円ほどでした。年々売上を落としており、経営も厳しい状況で……。ただ、工場に行くと従業員は「どこ吹く風」。誰も危機感を持たず現状を変えようとしない、まさにぬるま湯組織でしたね。

ただ、危機感を持っていなかったのは、ある意味僕も同じだったかもしれません……。そんな僕を目覚めさせてくれた出来事があります。

業績も右肩下がり、社員もやる気が無い。そんな会社を継ぐことが決まり「俺のせいじゃないのに、なぜこんなに苦労しなければいけないのだ」と日々悶々としていました。そんなとき、地元に戻った僕のために先輩経営者たちが祝いの席を設けてくれたんです。高級クラブに連れて行ってもらい、ホステスさんに「名刺をください」と言われたとき、思わず「饅頭屋の名刺なんて恥ずかしい」と言ってしまって……。

すると、普段温厚な先輩が「そんな気持ちなら、辞めてしまえ！」と烈火の如く怒り出したんです。その会はお開きとなり、僕は泣きながら帰りました。そして冷静に「自分は何を恥ずかしいと感じていたのか」を考えてみました。すると、自分の「理想」ではない会社の現状に対し、ただただ不満を感じているだけなのだと気づきました。

そこで、ある「覚悟」を決めました。それが、その後の自分自身と会社の未来を大きく変えることになります。

――その「覚悟」とは、何だったのでしょうか？

高田：会社で起きていること、すべてを「自責」と捉え、自分自身で改善することです。僕はそれまで、すべてを人のせいにしていました。でも、それではどうにもならない。それなら、今の状況で自分にできることは何なのか。解決するために何が必要なのかを、考え、動くしかないと思ったんです。

そこから状況を変えるため、今までとはターゲットを変えた新規店舗の出店や商品ラインナップの改革を実施。それまでは「とんど饅頭」という観光客向けの商品が売上の60％を占めていたのですが、洋菓子、日常のおやつ、ギフト、季節のお菓子などさまざまな商品を展開していきました。改革の最中、役員が不動産詐欺に遭い、1.5億円の借金を抱え倒産の危機を迎えますが、とにかくやるしかないと挑戦を続けました。

そして2003年には、本物そっくりスイーツ「たこ焼きにしか見えないシュークリーム」を発売。これが多くのメディアに取り上げられ、爆発的にヒットしました。それによりお客さんも増え、売上も上がり、従業員のモチベーションも上がっていきました。以降も、次々とヒット商品を開発。これらの商品のお陰で借金を返済し、経営を立て直すことに成功。当時は、ヒット商品さえあればすべての問題を解消できる、そう確信していました。

しかし、ヒット商品を出してメディアに注目されることを何年も繰り返すうち、高まっていたはずの現場の士気が下がっていくように…。

この状況をどうすれば良いか考えあぐねていた中、あることに気がつきました。それこそが会社経営の本質であり、現在の組織をつくりあげた「礎」となるものだったのです。

――それは、何だったのでしょうか？