連載:第63回 リーダーが紡ぐ組織力
「組織を変えれば売上が上がる」は経営者の驕り。利益10倍、100億企業のリーダーが徹底したこと


「組織改革をしたから売上や利益が伸びる?それは経営者の驕りです」——こう断言するのは、日本サニパック株式会社の井上充治社長。ゴミ袋メーカーである同社は、脱プラスチックが叫ばれる昨今、「何もしなければ暗い未来しか見えない」という状況だったそう。そんな中2015年に社長へ就任した井上社長は、あることを徹底してきました。それが同社のビジネスモデルを大きく変え、事業に誇りをもって働ける組織へと変わり、利益を10倍に導く原動力となりました。変革の起点は意外にも「ボロボロだった椅子の買い替え」。なぜ椅子の買い替えが会社を変えたのか。10年間の歩みを伺います。

「組織改革で会社が変わる」という経営者の勘違い
——2015年に社長に就任された際の経営状況について教えてください。
井上充治さん(以下、井上): 好調とは言えない中での社長就任でしたね。まず当社が扱っている「ゴミ袋」は、製品及び原材料の90%以上が海外からの輸入であるため、為替変動や原材料価格の影響を直接受けやすいんです。一方で、取引先は大手小売店が多く、価格交渉が難しく利益率が低いという、業界全体で構造的な課題を抱えていました。
特に社長就任前は、過当競争により業界全体で赤字と厳しい状況でした。業界内でNo.1のマーケットシェアを獲得していたものの、営業利益ベースでみると収支はトントン。このままでは、どんどん状況が悪化してしまうことは目に見えていました。
「利益率が低い」という問題は、組織内にも悪影響を及ぼしていました。具体的には、 行き過ぎた「コスト削減」 です。
——どういうことでしょうか?
井上: コスト削減は一見いいことのように見えますが、その意識が行き過ぎていたことにより、設備投資を控え、工場は老朽化。新規採用も停止していたため、平均年齢が数年後には50歳を超える状況となっていました。
新規採用をしなかったのは、離職率がほぼゼロだったという驚異的な数字も背景にあるのですが、決してよい状態ではなかったと思っています。流動性がなく、組織が硬直化していたのです。新しい人材が入ってこなければ、時代の変化に対応できません。
社員は皆真面目に業務をこなしてくれるのですが、新しいビジネスアイデアや改善提案を出すという雰囲気はなく、 「現状維持で問題ない」という空気が会社全体を支配していた のです。
——社長就任から10年が経ち、現在は全く別の企業に生まれ変わっているそうですね。
井上: そうですね。一番大きな変化としては、 「ゴミ袋のブランド化」という業界初の挑戦に踏み切った こと。その商品のひとつが、環境配慮型のゴミ袋「nocoo(ノクー)」です。現在は、全体の売上の五分の一を占めるほどに成長しました。商品ブランドとコーポレートブランドの両面で差別化を実現し、持続的競争優位の基盤を構築できたことで、2024年度の売上実績は139億円、営業利益は社長就任前の10倍に成長しています。
このような成果は、「現状維持で問題ない」組織から、社員一人ひとりが自発的に課題を発見し、解決策を考える組織に変わったことも、大きな要因だと考えています。
――現在の組織になるまでに、どのような組織改革を進められたのでしょうか?
井上: 私は組織改革をしたわけではありません。 むしろ『組織改革によって売上が上がる、会社が変わる』という考えは、経営者の驕り だとすら思っています。
たしかに組織改革の旗を掲げて進めれば「仕事をした気」にはなるでしょう。しかしそれで本質的な課題が解決したという話を私は聞いたことがありません。
私がやったことは、たった一つです。
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リーダーが紡ぐ組織力
- 第63回 「組織を変えれば売上が上がる」は経営者の驕り。利益10倍、100億企業のリーダーが徹底したこと
- 第62回 人が辞めない組織を実現したリーダーが徹底したこと。経営者が避けたがる「ある行動」が会社を蘇らせた
- 第61回 「指示待ち組織」を引き継いだリーダーの覚悟。社員の主体性を引き出すために貫いた一つのこと
- 第60回 社員の能力を封印していたのは自分。組織の大量離職を止めたリーダーの「気づき」
- 第59回 「すべてを社員に任せたら会社は伸びる」。組織の主体性を高めるために必要なリーダーシップの極意