連載:第3回 労務・人事の課題解決。知っておきたいポイント
1on1ミーティングの目的とは?上司・部下それぞれのメリットや注意点も
企業にとって欠かせない経営戦略のひとつである人材育成。中でも定期的な上司と部下との個人面談である1on1ミーティングは上司・部下ともに成長を促す効果的な人事施策として注目されています。本記事は、1on1ミーティングの目的やメリット、実施時の注意点を中心にご紹介します。
1on1ミーティングとは
1on1ミーティングとは、上司(マネージャー)と部下が個人面談を通じて、日々の業務内容や進捗、成果・失敗を話し合い、部下に気づきを促すことで個人の能力(スキル)を最大限に発揮させるためのミーティングです。
1on1ミーティングでは、まず雑談からはじめ、部下が話しやすい雰囲気を作りだし、最近の業務で感じたことや成功・失敗の体験から得たことを聞きだします。それらの情報を基に「今後の仕事にどう活かすか」、「どんな仕事をしたいか」を部下自身が考え、発言し、上司は部下からの提案や課題に対して、アドバイスを行っていきます。
近年では1週間や1ヶ月といった頻度で1on1ミーティングを実施し、上司(マネージャー)が現場の状況を把握することで、適材適所の人材配置や業務効率化に活用している企業も増えています。また、上司と部下の信頼関係の構築にも役立ち、社員にとって居心地の良い労働環境を生み出すことも可能なため、定着率にも効果があります。
【関連】1on1の意味とは?話す内容や注意事項、効果を最大化するポイントをご紹介/BizHint
1on1ミーティングの目的
1on1ミーティングの主な目的は「人材育成」と「風通しの良い職場づくり」の2つが挙げられます。それぞれの目的を理解することで、自社に合った効果的な1on1ミーティングを導入できます。
人材育成
1on1ミーティングの目的は上司と部下の対話を通じた人材育成です。毎週1回、原則30分間といった高い頻度で上司と部下が対話することで、部下の自主性と経験学習を刺激し、部下の成長を促します。
1on1ミーティングでは、上司はアクティブリスニング(相手に話しやすい環境を作り、聞き手に徹する)に徹し、部下自らが具体的な対処方法を思いつくように促します。部下自身の成功体験・失敗体験に基づいた学習を意識させることで、次の仕事経験に活かすことが可能です。
1on1ミーティングは部下の成長を促すことが最大の目的ですが、1on1ミーティングを通じて、部下とのコミュニケーションの取り方も学べるため、結果的には上司のマネジメント能力の向上にもつながります。
風通しのよい職場づくり
1on1ミーティングの実施は風通しの良い職場づくりに役立ちます。
生産性の低下や長時間労働、職場での人間関係のトラブルの多くは、コミュニケーションの不足が原因と指摘されています。コミュニケーションの不足により相互理解が進まず、相談のタイミングを逃す、上司への不必要な機嫌伺いを取るなど、直接業務に関係がないことに時間を取られ、目に見えない損失が生じているのです。
1on1ミーティングでは、上司と部下との対談の場を定期的に設けるため、コミュニケーションを促進し、相互理解を深めることができます。また、上司がアクティブリスニングを心掛けることで部下は「上司は自分の考えや意見に耳を傾けてくれる」と感じ、信頼関係の構築につながります。
そのため、組織内での議論が活性化し、組織・個人パフォーマンスの向上だけでなく、「何でも意見を言える風通しのよい職場づくり」を実現できます。
1on1ミーティングの導入は、個人や組織のあり方を見直す機会となり、組織内で発生している課題解決と同時に、働きやすい労働環境の整備につながります。
1on1ミーティングで得られるメリット
1on1ミーティングの実施は上司、部下双方に大きなメリットをもたらしてくれます。
上司のメリット
1on1ミーティングでは、上司のマネジメント業務を軽減させつつ、部下への理解や現場の状況把握につながります。
部下のことを知るきっかけになる
上司と部下という上下関係がある中で、普段の業務からは互いに限られた情報しか取得できません。
1on1ミーティングという場を設けることで、業務の悩みはもちろん、仕事における考え方や、業務以外では知り得ない部下の性格や趣味などを知ることができ、信頼関係の構築や相互理解のきっかけ作りに役立ちます。
また、1on1ミーティングは「部下を知る」と同時に、自分(上司)がどんな人物か部下に知ってもらう機会にもなるのです。
現場の状況を把握できる
複数のチームメンバーを抱える上司にとって、客観的な視点で現場の状況を把握し、最適な対応策を取ることは必要不可欠な業務です。
1on1ミーティングでは、部下ひとり一人と綿密なコミュニケーションを取れるため、広い視点で現場の状況を把握できます。業務プロセスのどの部分でトラブルが発生しているか、どのような対策が有効かを考える判断材料にもなり、組織が機能不全に陥る前に迅速な対応が可能となります。
マネジメント層の課題解決にもつながる
世代間の考え方の違いや時短勤務の浸透、ダイバーシティ促進の影響により、「部下とどのように接して良いかわからない」と悩む管理職が増えており、会社から期待されている人材育成を思うように実施できない状況が指摘されています。
1on1ミーティングは、上司と部下の対話の場となり、部下が普段考えていることを把握し、上司が適切な対応方法を模索できる判断材料を得ることができます。また、人手不足によるマネジメント業務負荷が高まっている現代において、部下が自ら学習し、成長することはマネジメント業務の軽減にもつながります。
1on1ミーティングは社員ひとり一人が自走するための振り返りの場として機能するため、組織全体のマネジメント強化も期待できます。
部下のメリット
1on1ミーティングでは、部下が経験学習を通じて、成長する機会を設け、抱える悩みや成功・失敗体験の共有できる機会につながります。
気軽に相談できる
プレイングマネージャーの増加に伴い、上司(マネージャー)の業務負担は増加傾向にあります。そのため、部下は悩みや相談事があったとしてもなかなか報告・相談がしづらいという状況に置かれていると考えられるでしょう。
しかし、1on1ミーティングは「週1回、30分間」など、自社のビジネスモデルや労働環境に応じて、定期的に対話の場を設けられるため、部下が気軽に相談できる状況を作ることができます。
普段は言えない自分の考えや意見を上司に伝える機会にもなり、経験学習による振り返りを習慣化し、課題解決能力を高める効果が期待できるため、自己成長につながります。
タイムリーな評価を受けられる
数ヶ月や半年、一年間毎の上司からの評価は、部下の行動と行動に対する評価にタイムラグが発生してしまいます。そのため、部下が目標を見失い、いち早く改善する機会を消滅させてしまうだけでなく、自ら考え行動する機会を制限してしまいます。
しかし、1on1ミーティングでは短期間での振り返りが可能なため、上司からのタイムリーな評価を受け、即座に軌道修正や改善に動くことができます。上司から常に評価を得られる環境は部下のチャレンジ精神を向上させ、自走する社員の育成につながります。
1on1ミーティングで注意すべきポイント
人材育成や職場の環境作りに加え、現場で働く管理職やチームメンバーに良い影響を与える1on1ミーティングですが、導入にはいくつか注意したいポイントが存在します。
評価や業務の進捗管理が目的ではない
1on1ミーティングの目的は、上司と部下の信頼関係・相互理解を促進し、人材育成や風通しの良い職場づくりです。また、部下の経験学習を促進し、能力や情熱を解放するために行われます。
そのため、1on1ミーティングの目的が評価や業務の進捗管理・確認、目標設定の場として使われてはいけません。評価や業務の進捗管理や確認を行う場合も、相手の話に耳を傾け、工夫された質問や会話の流れから評価の伝達や業務進捗を伺うタイミングを見極める必要があります。
あくまで部下自らが「このままではいけない」と考え、改善や軌道修正に導くことが、1on1ミーティングでの上司の役目といえます。
1on1は部下の成長を促す場である
1on1ミーティングは、上司よりも部下の成長に焦点を当てた機会として認識されています。そのため、上司は部下の成長を促すサポート役に徹しなければいけません。自分の意見を先に言わず、部下自らが解決策を考え、話してもらうように聞き役として徹することで、部下の成長を促すことができます。
また、1on1ミーティングは上司と部下の二者面談です。最初は雑談を通じて、会話自体を楽しみ、場の雰囲気を和らげることで、部下の本音を引き出します。1on1ミーティングは部下の成長を促すことが目的であることを認識した上で臨まなければいけません。
1on1が社内で浸透するような仕組みを作る
人手不足により、上司を含む現場の社員の一人あたりの業務量は増加傾向にあります。また、効果的な1on1ミーティングは短期間での実施が前提となっており、部下の数が多いほど上司の業務負担も増加します。そのため、1on1を導入する場合、社内から反発が起きる場合もあります。そのため、社内で1on1が浸透する仕組みを作る必要があるのです。
1on1ミーティングの導入で注目されたヤフーでは、大きく分けて以下の2つのことを意識したそうです。
- 1on1が人事評価とどう結びつくのかといった、他の人事制度との補完関係を説明すること
- 社員の疑問に答えること
現場の社員に1on1ミーティングの必要性を感じてもらうためにも、経営層を巻き込みながら事前に1on1ミーティングを体験してもらうなどを行いました。
その他、部下から上司の1on1ミーティングをフィードバックする逆評価やシャドウコーチング(サポート役や観察役を含めた5人1組で行う1on1ミーティングの模擬訓練)の実施、社内コーチの養成、組織単位での1on1ミーティングの勉強会の開催といった、1on1ミーティングの浸透に効果的な仕組みを作り出しています。
【関連】【要約掲載】ヤフーの1 on 1 部下を成長させるコミュニケーションの技法 (本間浩輔著)/BizHint
まとめ
- 1on1ミーティングの目的は、評価や業務進捗の把握・確認ではなく、部下の成長を促進する人材育成と風通しのよい職場づくりです。
- 1on1ミーティングの実施は、上司と部下の信頼関係と相互理解を深め、部下の経験学習を刺激した能力と情熱を解放する効果があります。
- 1on1ミーティングでの上司のメリットは、部下を知るきっかけとなり、現場の状況を把握できることです。一方部下は、普段の悩みや考え、意見を気軽に相談でき、タイムリーな評価を受けられることです。
- 1on1ミーティングは「部下の成長を促す場である」と認識し、上司はサポート役に徹しましょう。また、多忙な現場社員の理解を得るためには、その必要性を体験できる仕組みづくりが重要です。
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