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2018年11月13日(火)更新

退職金制度

退職金制度は、従業員の雇用確保などを目的として多くの企業が導入している制度です。しかし、近年では退職金制度の見直しをする企業が増え、中には制度廃止に踏み切った企業もあります。退職金制度を継続する場合も退職金の算出方法を変えたり、給付水準を引き下げたりした企業は少なくないようです。今回は、退職金制度の見直しや導入に際し押さえておきたいポイントとして、退職金制度の種類や退職金の相場、設計方法などを詳細に説明します。

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退職金制度とは

「退職金制度」と一般的に呼んでいますが、正式には「退職給付制度」といいます。退職金制度には、支給形態によって「退職一時金制度」と「退職年金制度」の2つに分けることができます。

  • 退職一時金制度:退職金を退職時に一括して支給する制度
  • 退職年金制度:一定の期間、あるいは生涯にわたり一定額を年金として支払う制度

退職金制度の定義

厚生労働省は労働時間や賃金、退職金などに関する調査「就労条件総合調査」を行う際に、退職金(給付)制度を次のように定義しています。

「退職給付(一時金・年金)制度」
任意退職、定年、解雇、死亡等の事由で雇用関係が消滅することによって、事業主又はその委託機関等から当該労働者(又は当該労働者と特定の関係にある者)に対して、一定の金額を支給する制度をいう。
【引用】厚生労働省:平成25年就労条件総合調査結果の概況、主な用語の定義、p27 

退職金が支給される事由には、自己都合退職のほかに定年や解雇、死亡などが考えられます。また、退職金の原資を準備する方法には社内で準備する方法、あるいは事業主が外部機関に月々積立てをし、退職金が必要になったときに外部機関から退職者に支払う方法があります。中小企業の場合は、大企業に比べて社内準備をしている企業の割合が低く、外部機関の利用率が高いことが特徴です。

財形貯蓄制度との違い

財形貯蓄制度には「財形年金貯蓄」という貯蓄方法があります。退職金年金制度と財形年金貯蓄は、両方とも一定の年齢に達すると年金として受け取ることができる制度です。どのような違いがあるのかを説明します。

財形貯蓄制度とは

財形貯蓄制度は、社員が希望する金額を月々の給与から「天引き」して積立てておく貯蓄制度です。財形貯蓄制度を利用できるのは勤労者に限られ、前提として勤め先が財形貯蓄制度を導入していることが必要となります。

財形貯蓄制度には「一般財形貯蓄」、「財形住宅貯蓄」、「財形年金貯蓄」の3つの種類があり、このうち「一般財形貯蓄」は出費目的(貯金の使用目的)に制限がありません。しかし、「財形住宅貯蓄」の出費は住宅の建築や購入、リフォームなどに限定され、「財形年金貯蓄」は60歳以降に年金の形で受け取る場合に限り利息が非課税になるなどの制約があります。

退職金制度と財形貯蓄制度は、積立ての資金を誰が拠出しているかという点で異なっています。たとえば、退職金制度において中小企業退職金共済制度などを利用する場合、掛金は全額、事業主負担です。一方、財形貯蓄制度は、社員の給与から天引きしているため社員自身が拠出して積立てています。

会社に支払い義務はあるのか

退職金制度は法律上、会社(事業主)に制度導入の義務はありません。そのため、退職金制度のない会社では、事業主は退職金を支払う必要がないのです。

しかし、就業規則等で退職金の支給条件を定めている場合、退職金は「賃金」とみなされるため、賃金の支払い義務を定めた労働基準法11条によって退職金を支給する義務が発生します。

第十一条 
この法律で賃金とは、賃金、給料、手当、賞与その他名称の如何を問わず、労働の対償として使用者が労働者に支払うすべてのものをいう。
【引用】e-Gov:労働基準法、第11条

ただし、社内に退職金規定がない企業でも過去に退職金を支給しており、一定のルールに基づき慣行として支給している場合は支払い義務が生じる可能性もあります。「就業規則に規定はないが慣行として退職金を出している」という企業の場合は注意が必要です。

支給の時期

退職金の支給時期についても、ときにはトラブルに発展することがあるので注意しましょう。トラブルの中には、賃金や積立金などの金品について請求があった場合は「7日以内」に返還するよう義務づけている労働基準法23条に関する誤解が多いようです。

(金品の返還)
第二十三条 使用者は、労働者の死亡又は退職の場合において、権利者の請求があつた場合においては、七日以内に賃金を支払い、積立金、保証金、貯蓄金その他名称の如何を問わず、労働者の権利に属する金品を返還しなければならない。
【引用】e-Gov:労働基準法、第23条

退職金の支給は、就業規則等に退職金規定があり、規定の中に退職金の支払時期を定めている場合は「退職金規定に定めた時期まで」でよいとされています。

退職金制度の種類

退職金制度の種類は、狭義には退職一時金制度と退職年金制度の二つです。退職一時金制度は退職時に退職給付手当や退職慰労金、退職功労報奨金などの名称で退職金を一括で支給します。一方、退職年金制度は退職金を分割して支給する制度です。分割方法は、期間に制限のある「有期」と生涯にわたって支給する「終身」があります。

なお、広義の退職金制度としては、在職中に前払い金として給与などに上乗せする退職金前払い制度もあります。

退職一時金制度

退職一時金制度における退職金の算出方法は、基本給に連動させる方法と、基本給とは切り離して別の賃金テーブル(賃金表)やポイントなどを基準として算出する方法があります。

厚生労働省の調査をみると企業規模によって採用している方法に差があり、規模が大きい企業ではポイント制が多く、規模が小さくなるほど基本給連動型の割合が多くなっています。

厚生労働省:平成25年就労条件総合調査結果の概況、4 退職給付(一時金・年金)制度情報を基に作成

基本給連動型

基本給連動型は退職時の賃金(基本給)を基準にして退職金額が決まるため、多くは勤続年数が長くなると支給額は高くなるのが特徴です。そのため、「年功序列型」と呼ばれることもあります。

基本給連動型はある程度、従業員の離職を防ぐといった効果が期待できます。しかし、勤続年数が長い方が有利になるため中途採用がハンディにつながり、さらに在職中の業績や企業への貢献度を反映させにくいのがデメリットです。

算出方法は、退職時の賃金に勤続年数別の支給率をかけて求めます。なお、支給率は退職事由別(自己都合退職か、会社都合退職か)で分かれており、自己都合退職の方が会社都合退職より低い率になるのが一般的です。

定額制

定額制(定額方式)は、賃金とは別に勤続年数や退職事由ごとに予め退職一時金の支給額を定めておく方法です。そのため、退職金の支給額が従業員にもわかりやすいというメリットがあります。

しかし、定額制も勤続年数が長いほど支給額が高くなり、従業員の業績や貢献度が反映されません。定額制の場合、従業員のモチベーションアップを図るためには、役職に就いたときに上乗せをするなどの対応が必要でしょう。

ポイント制

ポイント制は賃金と切り離し、職務給別のポイントや入社から退職までの累積ポイントを算出し、1ポイントあたりの単価をかけて退職金額を計算します。ポイントは、職能や資格、勤続年数、年功要素、人事考課の結果などを考慮します。

ポイント制はポイント単価のアップ率を調整することで将来支払う退職金額を調整することができ、また、貢献度を反映できるので中途採用者が不利にならないのがメリットです。そのため、「優秀な人材を中途採用したい」という企業など大企業を中心に近年、ポイント制の導入が進んでいます。

別テーブル方式

別テーブル方式は、賃金テーブルとは別に設けた退職金の算定基礎額表(等級別や勤務年数別などのテーブル)に基づき退職金の支給額を決定する方法です。別テーブル型はポイント制と同様、賃金と別に設定できるので退職金額表の調整により将来の支給額まで調整することができます。

中小企業退職金共済制度(中退共制度) 

中小企業では社内において退職金の支払準備をするのは難しく、退職金制度導入の妨げになっていることが少なくありません。

中退共制度は、「中小企業退職金共済法」に基づき国が作った中小企業の従業員向け退職金制度です。中退共制度の運営は独立行政法人勤労者退職金共済機構の中小企業退職金共済事業本部が行っています。

中退共制度は、事業主が中退共と契約して月々の掛金を全額負担することによって、従業員が退職したときに退職金を退職者本人に直接、支払うしくみです。退職金は一時金として受け取るだけでなく、一定の要件を満たせば本人の希望に応じて全部あるいは一部を年金の形で受け取ることもできます。

また、中退共制度に加入している企業間では掛金の納付月数を通算することも可能です。さらに、中退共に新規に加入したときや掛金月額を増額したときには国から掛金の一部が助成され、掛金が非課税になるなどのメリットもあります。

特定退職金共済制度(特退共制度)

特定退職金共済制度は中小企業に限らず、大企業も利用できる退職金の共済制度です。特退共制度は中退共制度とは異なり、所得税法施行令第73条に定める要件を備え、国(所轄税務署長)の承認を得た複数の団体(商工会議所や商工会など)が運営をしています。

ただし、中退共制度との共通点もあり、退職金の受け取り方は一時金のほかに条件を満たした人は希望により分割も可能です。また、特退共制度は、他の特退共制度や中退共制度に加入していた転職者の場合、前職の退職金分を通算できるというメリットもあります。

退職金保険制度

退職金の原資を準備する制度として、養老保険などの生命保険や医療保険、長期傷害保険などを利用する方法もあります。たとえば、養老保険の満期保険金を使ったり、保険を解約して解約返戻金を活用したりして退職金を支払します。

なお、生命保険を利用した場合、企業は掛金の一部、あるいは全額を税務上、損金に計上できるのがメリットです。

厚生年金基金制度

厚生年金基金制度は、「厚生年金基金法」に基づく企業年金制度(退職年金制度)です。企業年金制度は公的年金への上乗せ給付を保障するもので、厚生年金基金のほかに確定給付年金制度(DB)や確定拠出年金制度(DC)があります。

厚生年金基金制度の場合、国に代わり厚生年金保険の一部(老齢厚生年金の報酬比例部分)を給付(代行給付)するとともに、独自の上乗せ給付を行います。なお、厚生年金基金制度は、企業年金制度の中で「確定給付型」と呼ばれる制度です。「確定給付型」とは、加入した期間などによって予め退職金額が確定している年金制度を指します。

厚生年金基金の掛金は、税法上の優遇措置が認められているのがメリットです。事業主の負担する掛金は全額を必要経費(損金扱い)とすることができ、加入員(厚生年金基金の加入者)が負担した掛金は「社会保険料控除」の対象となります。

確定給付企業年金制度

確定給付企業年金制度(DB)は「確定給付企業年金法」に基づき設けられた企業年金制度です。文字通り、加入した期間などによって予め退職金額が確定している「確定給付型」となっています。

確定給付企業年金制度では労使合意のもとに規約を作り、事業主、あるいは企業年金基金が制度を運営します。事業主が実施主体となるタイプを「規約型」と呼び、企業年金基金が実施主体となるものを「基金型」と呼んで区別しています。

掛金は原則、企業側の負担です。また、企業は、たとえ運用がうまくいかなかった場合でも退職者に予め決まった退職金額を支給する必要があります。

確定拠出年金制度

確定拠出年金制度(DC)は、「確定拠出型」という拠出額が定められている年金制度です。「確定拠出年金法」に基づく制度で、社員は複数の商品から自分で選んで運用し、掛金と運用益との合計額によって退職金額が決まるしくみとなっています。そのため、選んだ商品や運用指図の仕方によって退職金額が増えることもあれば減ることもありますが、すべて社員の自己責任となります。

確定拠出年金制度の場合、企業は拠出額を約束し、社員(加入者)に対する投資教育などは必要ですが、社員が将来、受け取れる額を約束する必要はありません。

確定拠出年金制度の種類は2つで、事業主が拠出する企業型確定拠出年金制度と個人の拠出で行う個人型確定拠出年金制度(iDeCo)があります。従来、企業型の拠出は事業主のみでしたが、確定拠出年金法の改正により「マッチング拠出」が容認され、社員(加入者)の拠出も可能となりました。

また、確定拠出年金制度は転職したときに積立金を持ち運ぶ(ポータビリティー)ことが可能です。なお、改正確定拠出年金法の施行に伴い、平成30年5月1日よりポータビリティーが拡大し、確定拠出年金の積立金を確定給付企業年金の年金資金にすることも可能となります。

退職金前払い制度

退職金前払い制度とは、退職金を月々の給与や賞与に上乗せして在職中に受け取る方法をいいます。退職金前払い制度は、1998年、松下電器(現:パナソニック)が、新入社員を対象に退職金前払い制度を導入するとして有名になりました。近年では、年功序列型の退職金制度や企業年金制度を廃止する動きが活発となり、退職金前払い制度を導入する企業は増加傾向にあります。

退職金前払い制度を導入すると、企業にとって将来の債務となる退職金支給がなくなるので将来の債務を抑えられるのがメリットです。また、従業員にとっては現在の生活を安定させ、モチベーションアップにもつながると期待できます。

しかし、退職金所得が税制面で優遇されているのに対し、退職金前払い制度の場合は上乗せ分も合わせて給与とみなされるため税金が高くなるといったデメリットもあります。

退職金制度導入の流れ

退職金の支給は高額となるため、経営に大きな影響を与えます。一方、従業員にとっては退職後の生活資金を得られるため、退職金制度は企業の魅力となりうるものです。

しかし、退職金制度を導入した場合、事業主の都合で支給額を減額したり、制度を廃止したりすることはできません。そのため、導入に際しては慎重な検討が必要です。

退職金支給の必要性検討

退職金は賃金と違い、本来は支給義務がありません。そのため、退職金を支給するかどうかは会社としての考え方次第です。

近年の傾向として、会社への貢献度を退職金に反映させる企業が増えていますが、退職金は退職後の生活保障であり、業績や貢献度は賞与に反映すればよいとする意見も少なくありません。もし、退職金の効果として会社への貢献を期待するのであれば「年功序列型」の退職金制度より、貢献度に応じて支給額が決まる「ポイント制」の方がインセンティブ効果は高くなるでしょう。

成果主義人事の高まりは、退職金制度によるインセンティブ機能にも変化をもたらしました。退職金制度の見直しでは、企業として「退職金をどのように位置づけるのか」「成果主義人事に舵を切るのか」などの検討が必要となるでしょう。

必要なしと判断された場合

退職金制度導入の必要性について検討した結果、「必要なし」と判断された場合は退職金を支給しなくても法的には問題ありません。ただし、減少傾向にあるといっても退職金制度のある企業は、平成25年の調査では100人未満の企業でも7割を超えています。

退職金を支給しない場合、従業員の就労意欲を維持・向上させるために、収益がアップした際には賞与に反映させるなどの対応は必要でしょう。

【参考】厚生労働省:平成25年就労条件総合調査結果の概況、4 退職給付(一時金・年金)制度

評価基準の見直し

ポイント制の退職金制度を採用する場合、評価の要素(どのような点で評価するか)には法的な決まりはないため企業が自由に決めることができます。しかし、職務や資格の等級制度を利用する場合であれば、社内に等級制度が整備され、適正に運営されていることが前提となるでしょう。

特に、ポイント制のように退職金制度に成果主義を反映させる場合、評価基準は退職金額の多寡に密接に関係するため、評価基準の見直しを適宜行う必要があります。

運用方法の設定

退職金制度には複数の種類があるため、「自社にとってどの退職金制度を選んだらよいか」と悩む企業も多いことでしょう。退職金制度を導入する際は、自社における退職金制度の必要性とともに「退職金の原資をどのように準備するか」という点も検討し、運用可能な方法を選ぶことが重要です。

退職一時金制度を導入する場合、「賃金の支払の確保に関する法律」により、使用者は退職金の原資の一部を社外に保全する措置を講ずるように努めなければなりません。中退共や特退共、厚生年金基金などの企業年金制度に加入すると社外保全義務が免除されるので、社外積立として利用するとよいでしょう。しかし、掛金によって経営が圧迫されないように掛金の額を検討することが大切です。

また、退職金一時金制度のうち、「退職金の原資が膨大になるのを回避したい」「社員の貢献度を反映させたい」など基本給連動型から脱却したい場合は、別テーブル方式やポイント制を検討するとよいでしょう。特に、別テーブル方式はポイント制に比べると管理が容易といったメリットがあります。

退職金制度の中では、社員自身が運用に関与する確定拠出企業年金制度が注目されていますが、導入の際は改正点が多いので注意してください。たとえば、社員(加入員)への投資教育は導入時だけでなく、継続投資教育も努力義務となります。企業は社員の投資知識を高める機会をつくり、社員が上手に運用して将来の生活資金を増やせるようにしましょう。

退職金規定の作成

労働基準法によると退職金に関する規定を設ける場合は、就業規則に以下の点をできる限り具体的に記載してください。

  • 適用される労働者の範囲
  • 退職金の支給要件
  • 支給額の計算方法
  • 退職金の支払方法、支払時期

従業員の人数や在職年数、企業の経営状態などはそれぞれの企業で異なります。そのため、退職金規定はそれぞれの企業に合ったものを作成することが重要です。「規定を自社で作成したい」という場合は、東京労働局などで紹介している「退職金規定の作成例」などを参考にすると取り組みやすいでしょう。

【参考】東京労働局「就業規則の作成例」第8章退職金

また、独立行政法人中小企業退職金共済事業本部のホームページには、中小企業退職金共済制度を利用する企業向けに規定例があります。ただし、より適切な退職金制度を設計するためには、社会保険労務士などの専門家に助言を受けて設計しましょう。

【参考】独立行政法人中小企業退職金共済事業本部:Q&A 8. 退職金について、8-3-1. 退職金規程を作成したいのですが、ひな型はありますか?

さらに、退職金の水準をどの程度に設定するかという検討も必要です。高額な退職金を支給することは従業員の離職を防いだり、中途採用者を募るうえで有利に働いたりします。しかし、企業が退職金規定に則り退職金を支給できるのか、費用負担が実際に可能なのかを検討し、身の丈に合った制度とすることが重要です。

従業員への周知

退職金制度に関する規定を就業規則に定めた場合、労働基準法89条と90条1項に基づく変更手続きが必要となります。労働者を代表する者からの意見聴取、および所轄の労働基準監督署長への届出です。

また、使用者には就業規則を労働者に周知する義務(労働基準法106条1項)もあるので注意してください。

退職金制度の廃止

退職金制度の見直しに伴い、廃止した企業もあります。ここでは、退職金制度の廃止に至る背景や廃止する際に必要な手続きの流れなどを説明します。

廃止に至る背景とは

平成25年の就労条件総合調査をみると、廃止した企業だけでなく、今後3年間に「廃止を予定している」という企業も少なからず存在します。今後3年間に退職一時金制度の廃止・脱退を予定している企業は全企業の3.0%、退職年金制度の廃止予定については9.6%です。

廃止に至る背景としては経営不振により支払い準備が困難になったケース、あるいは年功序列的な退職金から成果主義へ人事制度の改革に伴うものや企業合併などもあります。

【参考】厚生労働省:平成25年就労条件総合調査結果の概況、4 退職給付(一時金・年金)制度

退職金廃止は不利益変更か

退職金制度を全廃し、何ら代替措置もない場合、従業員にとっては退職後の生活保障を失うこととなるので大きな痛手となるでしょう。また、裁判例をみると、労働契約法の9条や10条に違反していないかなどの点が問われています。

労働契約法9条は、使用者が就業規則の不利益変更により、使用者が一方的に労働条件を変更することを禁じています。ただし、就業規則の変更に合理性があり(労働契約法10条)、従業員に周知している(旧峡南信用組合事件:最高裁第2小法廷、平成28.2.19)などの条件を満たせば例外として労働条件の変更が可能となります。

就業規則の変更が合理的かを判断するときの基準は、以下の点が重要となります。

  • 就業規則の変更によって労働者が受ける不利益の程度
  • 労働条件の変更の必要性
  • 変更後の就業規則の内容の相当性
  • 労働組合等との交渉の状況
  • その他の就業規則の変更に係る事情

退職金制度の廃止に伴うトラブルを回避するためには、廃止手続きを慎重に進めることが重要です。

【参考】厚生労働省:旧峡南信用組合事件(最高裁:平成28年2月19日判決)
【参考】日本経済新聞:退職金減額「事前説明が必要」信組訴訟で最高裁初判断、2016/2/20 1:19

廃止手続きの流れ

退職金制度を廃止するときは、制度廃止の必要性を丁寧に説明し、従業員の納得が得られるように十分に話し合うことが必要です。従業員を対象とする説明会を開催し、従業員の個別同意を得られた後は退職金に関する既得権分の支払い、および期待権に当たる分の代替措置の実施も必要となります。

従業員の合意を得る

退職金制度の廃止に伴う従業員の合意は、トラブルを回避するために「個別合意」を得る方がよいでしょう。個別合意は強制して得たものではなく、あくまで「本人の自由意思」による同意であることが求められます。また、思い違いなど錯誤によって合意した場合、民法の「錯誤無効」に該当し、従業員から得た合意が無効となってしまう可能性もあるので注意してください。

従業員の個別合意を取る方法としては口頭ではなく、同意書の提出を求めましょう。ただし、最高裁まで争われた判例(旧峡南信用組合事件)では、従業員の署名押印があっても充分ではないとしています。従業員の合意は、従業員が弱い立場にあることを考慮して従業員に事前説明を充分に行ったか、どのように説明したか(説明内容)なども含めて判断することを求めています。

旧峡南信用組合事件の判例をみると、社内の規定変更について従業員から単に署名押印を得るだけでなく、規定変更に関する説明会を開くなど情報提供の機会をつくる必要があるでしょう。また、従業員からの質問や問い合わせ等にも丁寧に対応することが重要です。

【参考】厚生労働省:旧峡南信用組合事件(最高裁:平成28年2月19日判決)

変更内容に合理性がある場合

先ほど就業規則変更に関する合理性の判断要素を示しましたが、退職金制度の廃止に関する合理性の判断は裁判においても難しいといわれています。変更によって労働者が受ける不利益の程度や規定を変更する必要性などを検討して合理性がある場合は、変更後の就業規則規定を従業員の新たな労働条件とすることができます。

就業規則の変更

退職金規定は、労働基準法において就業規則の「相対的必要記載事項」の1つです。相対的必要記載事項は、制度について何らかの規定を設けた場合には就業規則への記載が義務となります。

退職金廃止に伴い就業規則を変更したときは、前述したように就業規則の変更手続きを忘れずに行ってください。

今後の取扱い

退職金制度の廃止について説明するときは、既存退職金の清算などの方向性や今後のスケジュールなどについて従業員に周知し、無用な不安感や不信感を強めないようにしましょう。

既存退職金の清算支給

退職金制度の規定がある企業では退職金制度を廃止する場合、「既存退職金」には債務の1つである「既得権」が発生しているため清算支給が必要となります。既存退職金は、従業員がすでに在職した期間に対するもので、「今、退職した場合に請求できる退職金」の部分です。

従業員の既得権を保障するためには、退職事由は「会社都合退職」として退職金額を計算し、従業員の理解を得ましょう。

他制度への振替

退職金制度を廃止する場合、できるだけスムーズに従業員の同意を得るためには代替措置を設けることをおすすめします。ここでいう代替措置とは現在、発生している既得権ではなく、「退職金制度が継続していれば受け取れた」と期待される「期待権」に当たる部分の措置のことです。

代替措置としては、たとえば退職金前払い制度への移行などが考えられます。ただし、退職金前払い制度で給与に上乗せすると、従業員の税金と社会保険料の増加となりやすいので注意が必要です。

会社側にとっても社会保険料の負担増、さらに残業代の算定基礎額も増加するので残業代のコスト増も起こる可能性があります。他の制度への振替を行う場合は、それぞれの制度にはメリット、デメリットがあるので十分に検討したうえで進めてください。

廃止時の注意点

退職金制度を廃止するときは、不利益を被る従業員への対応が重要です。廃止に関する説明を丁寧に行い、説明後に問い合わせをしたい社員や「どうにも納得できない」など疑義を唱える社員が問い合わせができるように、問い合わせ先や対応する期間などを伝えておきましょう。

従業員の中には法的に詳しく、規定や手続き等の不備を厳しく指摘するケースもあります。また、同意を得られない社員に対して「早く納得してもらおう」と会社側が性急な対応をするとトラブルになりかねません。本人の自由意思で同意を得られるように、根気よく対応することが必要です。

退職金制度の相場

退職金として支給する水準が相場から大きくかけ離れていると、労働者の不満につながりやすいといわれています。退職金制度の実態として、退職金制度の導入状況や退職金の相場について紹介します。

退職金制度の導入状況

退職金制度は近年、減少傾向にあります。厚生労働省が5年ごとに行っている「就労条件総合調査」のうち、平成25年版をみると「退職金制度あり」は75.5%、「なし」は24.5%でした。

【出典元】厚生労働省:平成25年就労条件総合調査結果の概況、4 退職給付(一時金・年金)制度

退職金制度なしの会社

退職金制度の有無を企業規模別にみると、「退職金制度がない」という企業割合は従業員が「1,000人以上」では6.4%でした。しかし、「300~999人」の場合、退職金制度のない企業は10.6%に上昇し、「100~299人」は18.0%、「30~99人」の規模では28.0%に及んでいます。

厚生労働省:平成20年就労条件総合調査結果の概況、3 退職給付(一時金・年金)制度厚生労働省:平成25年就労条件総合調査結果の概況、4 退職給付(一時金・年金)制度の情報を基に作成

退職金制度を廃止した会社

厚生労働省の調査で分析対象とした全企業のうち、過去3年間に退職金制度を見直した企退職一時金制度について過去3年間に廃止、もしくは脱退した企業を規模別にみると、下図に示したように「30~99人」の企業がもっとも多く、4.3%でした。退職年金制度についても、過去3年間に年金制度を廃止したのは「30~99人」の企業がもっとも多く、13.1%でした。

厚生労働省:平成25年就労条件総合調査結果の概況、4 退職給付(一時金・年金)制度の情報を基に作成

また、退職年金制度の見直しでもっとも多かったのは、「他の退職金制度に移行」の49.1%(複数回答)です。退職金制度を廃止した企業を規模別にすると「30~99人」の企業が13.1%を占めていました。退職一時金制度と同様に、規模の小さい企業では制度を廃止した企業割合が他の企業規模に比べて高くなっています。

【参考】厚生労働省:平成25年就労条件総合調査結果の概況、4 退職給付(一時金・年金)制度

中小企業の場合

退職金の支給形態(退職者が退職金をどのように受け取るか)について、独立行政法人勤労者退職金共済機構が中小企業退職金共済制度の加入企業を対象に行った調査を基に説明します。

調査では、退職金の支給形態は「退職一時金制度のみ」という企業が87.1%を占め、「退職一時金制度と退職年金制度の併用」は6.8%でした。

独立行政法人 勤労者退職金共済機構 中小企業退職金共済事業本部 業務運営部:中小企業退職金共済制度加入企業の実態に関する調査結果の概要、平成25年3月の情報を基に作成

大企業の場合

大企業における退職金制度の導入状況は、日本経済団体連合会(経団連)と東京経営者協会が行った「2016 年9月度 退職金・年金に関する実態調査結果」を見てみます。この調査に回答した企業は製造業が50.9%を占め、企業規模は従業員500人以上の企業が80.2%を占めています。

退職金制度の形態として多くの企業が採用しているのは、「退職一時金制度と退職年金制度の併用」(71.7%)でした。「退職金一時金制度のみ」が13.4%、「退職年金制度のみ」は11.7%に留まっています。

(一社)日本経済団体連合会・(一社)東京経営者協会:「2016 年9月度 退職金・年金に関する実態調査結果」、2017 年6月2日、p3の情報を基に作成

パナソニックをはじめ、ヤマト運輸などのヤマトホールディングスや三菱電機グループなど、大企業では独自の企業年基金を設立、運営しているケースが一般的です。自社で企業年金基金の設立が難しい企業では後述する厚生年金基金などを利用し、従業員にとって退職後の生活が安定するようにしています。

【参考】パナソニック企業年金基金
【参考】ヤマトグループ企業年金基金
【参考】三菱電機グループ企業年金基金

退職金額の相場

退職金額は、一般的に学歴や退職事由などの条件によって変動する傾向があり、高校卒より大学卒、自己都合退職より会社都合退職の方が高くなる傾向があります。経団連と東京経営者協会の2016年9月度調査を基に、学歴や退職事由などによって退職金額がいくらくらいになるかを見ていきましょう。

下図のように退職金額は大学卒が高校卒を上回っており、勤続年数が高くなるにつれて学歴による差は大きくなっています。勤続年数3年の場合、学歴による差は20万円ほどです。ところが、勤続年数20年ではおよそ270万円に開き、勤続年数が35年になると400万円以上の差となります。

ただし、定年退職における退職金は、高卒者の勤続年数が42年になるのに対し、大卒者は38年と短いため300万円ほどの差に収まっています。

(一社)日本経済団体連合会・(一社)東京経営者協会:「2016 年9月度 退職金・年金に関する実態調査結果」2017 年6月2日、p1 の情報を基に作成

学歴による退職金の違いは、厚生労働省の「平成 25 年就労条件総合調査」でも同じような傾向がみられます。下図は、平成 25 年就労条件総合調査のうち、「管理・事務・技術職」の平均退職金額を学歴別、退職事由別に示したものです。

退職事由別にみると、退職金は大学卒も高校卒も定年退職がもっとも高く、逆に自己都合退職は低くなっています。

平成25年就労条件総合調査結果の概況:結果の概要(5 退職給付(一時金・年金)の支給実態)の情報を基に作成 

厚生労働省の就労条件総合調査を基に企業規模別の退職金額を比較すると、大企業はどのような形で退職金を受け取っても他の企業規模より高くなっています。また、支給形態(受け取り方)による差をみると「退職一時金制度のみ」の退職金額より、「一時金制度と年金制度の併用」の方が上回っています。

平成25年就労条件総合調査結果の概況:結果の概要(5 退職給付(一時金・年金)の支給実態)の情報を基に作成 

退職金支給の最低勤続年数

退職金の支給要件としては、一定の勤続年数を定めているのが一般的です。東京都産業労働局が行った「中小企業の賃金・退職金事情」の平成28年版をみると、自己都合退職の場合は最低勤続年数を「3年」とする企業が52.2%を占めていました。自己都合退職には自己の都合による退職のほかに、私傷病や休職期間満了に伴う退職なども含まれています。

東京都産業労働局:中小企業の賃金・退職金事情(平成28年版)、p32の情報を基に作成

一方、会社都合退職は定年や会社の都合による解雇だけでなく、死亡や業務上の傷病などを理由に退職した場合も含まれます。そのため、会社都合退職の場合は勤続年数が「1年未満」でも8.2%の企業が退職金を支給しており、最低勤続を「1年」としている企業もおよそ3割を占めています。

東京都産業労働局:中小企業の賃金・退職金事情(平成28年版)、p32の情報を基に作成

まとめ

  • 退職金制度は、多くの従業員にとって退職後の生活保障として役立ちます。しかし、会社側からみると退職金は高額で、しかも将来の債務となりうるため制度の廃止や他の制度への移行などの見直しをする企業も少なくありません。
  • 退職金制度の見直しをする際は、法的な問題が起こらないように社内規定を整備し、従業員の事前説明なども含め慎重に進め、適正に運用することが大切です。

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