連載:第3回 アトツギが切り拓く、中小企業の未来
「オタク」との出会いが活路を開いた。斜陽産業が生き残るには「まずやってみなければ」。
大西常商店は、大正2年創業の扇子の製造・卸を行う老舗企業です。しかし、現在では扇子の需要は縮小傾向にあります。そこで、四代目若女将の大西里枝さんは、自分たちの技術を活かした新商品ルームフレグランス「かざ」の開発、社屋の京町家を利用したレンタルスペース、クラウドファウンディングの活用、在庫管理や経理などシステムのIT化など、事業存続のため様々な新規事業の開発に挑戦されています。古くからの慣習やしがらみも多い中、日本の伝統を次の世代に紡いでいくために尽力されている大西さんのお話を伺いました。
■プロフィール
四代目若女将 大西里枝さん
1990年、京都生まれ。大学卒業後、NTT西日本での営業等の業務を経て、2016年より家業である大西常商店に入社し、四代目若女将に。
次の世代を意識したことがきっかけとなり大手企業を退職
――まずは貴社の沿革と事業内容について教えてください。
大西 里枝さん(以下、大西): 大正2年の創業より100年以上の間、扇子の製造・卸をしています。扇子作りは完全な分業制で、1つの扇子を作るのに必要な87の工程に複数の職人さんが関わっています。大西常商店では約23名の職人さんに携わっていただいており、工程ごとに携わる職人さんはそれぞれご自宅で仕事をされていることがほとんどですので、その工程管理を滞りなくすすめることが我々の役割です。また、近年では京町家を活用したレンタルスペースや扇子作りの体験教室の開催など、扇子業界を未来へ繋げていくような取り組みも展開しています。
――大西さんが家業に入られるまでの経緯についてお聞かせいただけますでしょうか。
大西: ひとりっ子だったので、いずれは継がないと……と思っていたのですが、両親から強く言われたことはありませんでした。大学卒業後はNTT西日本で九州を中心にフレッツ光の営業をしていました。結婚・出産を経て、自分の家族が出来たときに転勤の多い仕事を続けることの難しさを実感しました。「子どものためにも、どこで子育てをすべきか」と考えたとき、自分が生まれ育った京都はとても魅力的に感じたんです。家業を継ぐ選択も検討してみようと思い立ち、会社のことを知っていきました。
新規事業のヒントは創業者から。できることを掛け合わせる。
――新規事業の開発の背景について教えてください。
大西: 入社前から扇子の需要減少を大きな課題として捉えていました。冷房技術の発展と、日本舞踊や能、お茶といったいわゆるお稽古事をされる方も少なくなって、扇子が使われる機会はどんどん減ってきている。「10年後にも扇子業界が同じ規模で残っているか」を考えると、非常に厳しいと感じました。
また、既存事業の利益率も放置してはいけない課題でした。扇子業界はまだ「手形」が現役で、今の時代に即さない取引形態がそのままになっている実情があります。入金が数ヶ月後になることもざらですから、キャッシュフローにも余裕があるとは言えず、不安要素が大きかった。とはいえ、既存取引の条件はなかなか変えられないですし、改善できたとしてもインパクトが小さいため、扇子の製造卸に固執せず新しいことをやった方が手っ取り早く改善できると考えました。
一方で、老舗として扇子以外の商売をやるのはどうなのかな……という葛藤もありました。
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