成功する人材育成の手法とは?特徴からメリット・デメリット、選択ポイントまでご紹介
人手不足の現代において「人材」は貴重な経営資源であり、「人材育成」は企業の生き残りをかけた最重要課題となっています。この人材育成の手法には、OJTやOff-JT等を指す「狭義の人材育成」と、「人事評価制度」「目標管理制度」などを指す「広義の人材育成」があります。今回は、これらの手法について、その特徴からメリットやデメリット、手法の選択ポイントまで幅広くご紹介します。
「人材育成」の幅広い知識、対象別の人材育成方法を知りたい方は、こちらの記事をご覧ください。
【関連】人材育成とは?育成手段や施策・対象別の目的や求められるスキル・育成方法までご紹介/BizHint
1.OJT(On the Job Training)
OJTとはOn the Job Trainingの略で、実際に業務を実践しながら従業員教育を行うことを言います。
厚生労働省の平成29年「能力開発基本調査」によると、企業が重視する教育訓練として、「OJTを重視する」「OJTを重視するに近い」の合計が71.2%と、後述する「Off-JT(集合研修など)」と比較して特に重要視されている事がわかります。
OJTの特徴
OJTの主な特徴としては、以下のような点が挙げられます。
- 実際に業務を行っている現場で実践
- 主に部下と先輩社員(指導者)の1対1で行う
- 個々の業務に必要なスキルを経験から体得
OJTのメリット・デメリット
OJTのメリット・デメリットとしては、以下のような点が挙げられます。
メリット
- 実際に現場で学ぶため、即戦力の育成に有効
- 外部講師・場所・テキスト等の準備が不要で低コスト
- 指導する側の先輩社員の人材育成にも繋がる
デメリット
- 指導内容や指導力は、指導者によって左右される
- 指導者と教えられる側の相性などにより、コミュニケーションに課題
- 指導者の業務負担が増えたり、業務量によりスムーズに実施できない場合も
OJTの実践ポイント
OJTを実践する際には、以下の点を意識しましょう。
対象者に沿った計画を立てる
実施にあたっての計画は、必ず長期・学習目標も含め立てるようにしましょう。また、目標のレベルについては対象者の現状を見極め、高すぎず、低すぎず、本人が頑張って手が届くくらいに設定し、必ず対象者自身が納得する目標設定を行いましょう。
合意形成をせずに目標を決定してしまうことで、対象者が「上から落ちてきた目標」と認識してしまった途端に目標の意味がなくなってしまいます。
ある程度任せる
OJTが始まったら、指導者の仕事ぶりを実際に見せながら解説します。しかし、人間は自身が「経験」する事で学びを得ます。解説したら、次は自身で考えて仕事を進めさせます。
時には途中でつまずいたり、悪い結果を招く事もあるでしょう。その際は、なぜそうなったのかを指導者も一緒になって検討します。そして次の対策を考え、トライアンドエラーで成長を見守ります。
相手の立場に立ったコミュニケーションを心がける
対象者は、多くが経験の浅い新人です。「分からない事」「できない事」が多い事はある意味当然であるため、逆に取り組む姿勢やその発想、工夫した点などプロセスで良い点を見つけ、こまめな声かけを行いましょう。
指導者が対象者を「認めている」「関心を持っている」という姿勢を見せる事が重要です。また、説明する際には業界用語などを多用せず、相手にわかりやすい言葉使いを心がけましょう。
定期的なフィードバックを行う
フィードバックは非常に大切なコミュニケーションになります。基本的には、
努力を褒める
↓
話を聴く(この時、間で挟まず聞ききる)
↓
成功/失敗要因を考えさせる
↓
アドバイスする
という流れで行いましょう。
特に良かった点をアドバイスする際には出来るだけ具体的にし、努力を褒めるようにすることが重要です。 逆に叱る際には感情的にならず簡潔にしましょう。
職場全体として取り組む
指導者となる従業員に任せきりにするのではなく、組織全体で支える体制を作る事が重要です。指導者とは別に、俯瞰して見守る立場のOJTの管理者を置きましょう。
組織として取り組む姿勢を忘れず、要所で面談やサポートの機会を設け、「組織全体で推進している」という意識をメンバー全員に周知させます。
【関連】OJTの意味とは?計画~実行までのフロー、失敗例まで徹底解説/BizHint
2.Off-JT(OFF the Job Training)
OJTが職場での指導を指すのに対し、Off-JTは職場を離れて行う社員教育を指します。
先の厚生労働省の調査では、企業が実際に実施したOff-JTの内容として「新規採用者など初任者を対象とする研修」が最も多い75.2%でしたが、マネジメント(管理・監督能力を高める内容)・新たに中堅社員や管理職となった者を対象とする研修など、その内容は多岐にわたります。
Off-JTの特徴
Off-JTの主な特徴としては、以下のような点が挙げられます。
- 業務から離れて実施
- 集団で実施されるケースが多い
- 集合研修から、外部セミナー、通信教育、eラーニングなど様々な手法がある
- 基礎から応用までの一連の流れを体系的に習得
Off-JTの種類
具体的にOff-JTで行う研修としては、「集合研修」「eラーニング」「公開講座」が挙げられます。
集合研修
その名の通り、複数の対象者を一堂に集めて行う研修のことで、従業員の中から講師を選任する内部講師型や、研修会社などから講師を招く外部講師型などがあります。
そのスタイルは、身近な知識のインプットを目的とした講義形式のものから、近年ではパソコンを用いたビジネスゲーム形式、参加者が双方向でコミュニケーションを取りながら行われるワークショップ形式、職場と近い状況下で意思決定を行い思考力を高めるアクションラーニング形式まで様々です。
通信教育(eラーニング)
通信教育とは、対象者にあらかじめテキストなどを配布しておき、テレビ・ラジオ・パソコンなどを使用して特定もしくは任意の時間に、遠隔で教育することを指します。
近年普及している「eラーニング」もこの手法の一つで、「いつでも」「どこでも」「何度でも」学べるスタイルが近年の生活スタイルにマッチしており、採用する企業が増えています。
【関連】eラーニングとは?メリット・デメリットや用途別eラーニングサービスまとめも/BizHint
公開講座
例えば、研修会社などが複数の企業の新入社員を集めて実施する研修を「公開講座」と呼びます。
自社にマッチした研修を選択し、その開催日に対象者を参加させることで、自社で研修の準備をする時間的コストや場所などを用意する必要がなく、比較的容易に採用できるのが特徴です。1名から参加できるものも多く、特に中小企業など新入社員が少ないケースなどに適しています。
Off-JTのメリット・デメリット
Off-JTのメリット・デメリットとしては、以下のような点が挙げられます。
メリット
- 集団に対し、集中的かつ平均的に知識や技術を伝達できる
- 普段の職場とは違う環境や人との出会いで、リフレッシュできたり新しい気づきを得られる
- 指導内容が指導者のスキルに左右されることがなく、効率的
- マネジメント研修や、対象者の広いコンプライアンス研修など、幅広い用途に適している
デメリット
- 学んだ知識を実際の業務に生かしきれないケースも多い
- 対象者の自主性により、理解度が左右される
- 複数の対象者にとって平均的な学びを提供するため、個々の課題解決につながりにくい
- 講師の準備・場所の確保・時間の設定や周知など、様々なコストがかかる
Off-JTの実践ポイント
Off-JTを実践する際には、以下の点を意識しましょう。
OJTと適切に組み合わせる
先述した通り、Off-JTは知識を得られるだけで実践の経験を伴わないため、机上の空論となりがちです。Off-JTとOJTとうまく組み合わせ、知識と経験を最適なタイミングでマッチさせる事により、より深い理解を促す事ができます。
学びの習慣化を促す
研修からしばらく経つと「内容を忘れてしまった」「現場に活かされていない」などの声がよく聞かれます。研修後にはまず、学んだ事をどの程度理解できているかチェックします。そこで理解不足な点については、個別にフォローする事が重要です。
また、学んだ知識を対象者のどの業務に活用できるのか、それを習慣化させるにはどうすれば良いのかを指導者と一緒に考えることも重要です。それを具体的な計画に落とし込み、定期的に振り返る事により、研修で得た知識を着実に経験と結びつけながら習得できます。
研修前後のフォローアップを含めて計画する
ウェストミシガン大学のロバート・ブリンカーホフ教授によれば、研修の各プロセスによる影響度は以下の通りになるとのこと。
- 研修前40%
- 研修中20%
- 研修後40%
つまり、研修がいかに素晴らしい時間になろうとも、20%程度の影響しか出ず、研修前後でフォローアップが出来なければ効果は80%減少するということです。
100%を目指すためには、研修の実施前・実施中・実施後をひとつのプロジェクトと捉え参加者へ効果的にアプローチ出来るよう設計する、プロジェクトマネジメント的視点が必要不可欠になります。
【関連】Off-JTとは?OJTとの違いやメリット・デメリットを解説/BizHint
3.自己啓発(Self Development)
「自己啓発(SD)」とは、会社から与えられる研修などではなく、従業員自身の意思により自発的にスキルアップを目指す取り組みを指します。
先の厚生労働省調査によると、自己啓発を行った従業員のうち、企業側から費用補助を受けた人は、正社員で41.8%、正社員以外でも29.3%である事がわかりました。
SDの特徴
SDの主な特徴としては、以下のような点が挙げられます。
- 従業員が、個人で自主的に行う
- 社外セミナーへの参加や、通信教育・eラーニングなど様々な手法がある
- 資格取得のための費用を負担するなど、援助を行っている企業も多い
SDのメリット・デメリット
SDのメリット・デメリットとしては、以下のような点が挙げられます。
メリット
- 内容・研修スタイル・時間など選択の幅が広く、自由度が高い
- 対象者個人の課題の解決につながりやすい
デメリット
- 個人で取り組むため、モチベーションの維持が難しい
- 時間が自由な反面、業務量に左右されがち
広義の人材育成手法
次に、広義の人材育成手法をご紹介します。
1.人事評価制度
まずは、人事評価制度の整備です。人は、働いてそれが正しく評価される事によって、やる気が出たりモチベーションをアップさせたりします。このモチベーションこそが、人材が成長する原動力となります。
この人事評価制度には、「不公平感」の無いようにする事、そして全員が「納得感」のあるものである事が重要です。そして、最終的に得られた結果だけを見るのではなく、そこに至るストーリーも踏まえて評価することがポイントとなります。
まずは、その評価基準を見える化し、分かりやすく誰もが納得する制度を確立しましょう。
【関連】人事評価制度とは?評価対象や評価手法、企業事例などもご紹介/BizHint
2.目標管理制度
次に、目標管理制度です。ただ闇雲に日々の作業に追われるのではなく、明確で適切な目標を追いかける事で、企業の業績アップとともに、人材の成長にもつながります。
企業の売り上げを達成するための数値目標だけを示すのではなく、従業員自らが組織の目標と自身のキャリアビジョンを照らし合わせ、一緒に考えて設定した目標である事が重要です。
設定する場合には、「いつまでに」「どのように」など、時間軸や手法も落とし込んだ具体的なものである必要があります。
【関連】目標管理制度の目的とは?問題点を克服し失敗しない制度導入に必要なこと/BizHint
3.オンボーディング
オンボーディングとは、新入社員・中途入社を問わず新しく入社した人材をいち早く即戦力化するため、組織ぐるみでサポートし人材育成を行うプロセスを指します。
例えば、これまでの新規入社社員の人材育成といえば入社時期に行われる新人研修がほとんどでしたが、オンボーディングの場合はそれ以降も継続的なサポートを実施するという部分に違いがあります。具体的には、継続的な研修・メンター制度などの幅広い施策を指します。
4.メンター制度
「オンボーディング」にも含まれる「メンター制度」について、詳しくご紹介します。これは、主に新入社員などの若手社員に対し、先輩社員を「メンター(指導者)」として選任し、業務についてだけでなく、人間関係や今後のキャリアについての悩みなども気兼ねなく相談できる関係性を構築する事を言います。
若者の早期離職が叫ばれる中、意図的に「先輩」「後輩」の縦のつながりを作る事で、人材育成のみならず、人材の定着や企業文化の伝承など様々な狙いを実現できます。
【関連】メンター制度導入の目的は?メリット&デメリット、導入方法など徹底解説/BizHint
5.ジョブローテーション制度
ジョブローテーションとはその名の通り、定期的かつ計画的に従業員の異動を行ことで、人材育成を促進する制度です。一つの業務を長く担当するのではなく、定期的に様々な職務をこなす事で、従業員一人ひとりの経験値やスキルの向上を期待できます。
また、様々な職務を経験する中で、企業側も本人も「適材適所」の見極めができ、結果的にモチベーションの維持や離職防止にも繋がります。
【関連】ジョブローテーションとは?導入目的やメリット・デメリットなど徹底解説/BizHint
人材育成の手法選択ポイント
それでは、人材育成の手法を選ぶ際、どのようなポイントに気をつければ良いのでしょうか。
様々な手法をうまく組み合わせる
今回は様々な手法をご紹介しましたが、どれも単独で完結するものではなく、バランス良く組み合わせて実施する事が大切です。
例えば、Off-JTで学んだ体系的な知識を、OJTにおいて実践で活用し身につけ、さらに不足しているスキルについて個別で自己啓発(SD)を実施するなど、それぞれのメリット・デメリットを加味したプランを策定し、継続的な人材育成に繋げましょう。
自社の課題を解決できるものを選ぶ
手法の実施前には必ず、人材育成についての自社の「課題」を把握しておく必要があります。闇雲に実施しても目的が明確にならず、意味のないものとなってしまいます。
いま、どのように人材育成がうまくいっていないのか、実際に現場の声をヒアリングし、そのニーズを把握しましょう。ニーズを探れば、自ずとその課題を解決できる手法が見えてきます。
事前に育成計画を明確に立案する
人材育成には、事前の計画が非常に重要です。対象者の現在のスキルの把握、そして目標となる具体的な姿を明確にしましょう。そして、そのギャップを把握し、具体的にいつまでにどのような状態になる事が望ましいのか、フェーズ毎に設定します。
育成計画を明確に立てる事で、どの部分でどのような研修が必要なのかが明確になるだけでなく、対象者も自身の現在地を把握でき、育成のモチベーション維持にもつながります。
まとめ
- 狭義の育成手法はOJT/Off-JT/自己啓発の大きく3つに分けられ、それぞれにメリット・デメリットがあり、時代とともに移り変わっています。
- 広義の育成手法には「人事評価」や「目標管理」など制度面の整備も含まれており、企業の人材育成の根幹となるものなので、綿密な計画と定期的な見直しが重要です。
- 様々な手法があるが、それぞれ単独で実施するのではなく、育成計画に基づいてバランス良く組み合わせて実施する事により高い効果が得られます。
この記事についてコメント({{ getTotalCommentCount() }})
{{selectedUser.name}}
{{selectedUser.company_name}} {{selectedUser.position_name}}
{{selectedUser.comment}}
{{selectedUser.introduction}}