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中小企業のIT活用の現状と、IT化すべき理由、課題を徹底解説

BizHint 編集部 2019年6月10日(月)掲載
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中小企業の生産性向上が課題となっています。しかし、生産性を向上させるための有効な手段となるIT活用は進んでいるとはいえません。こうした状況に対し、国も補助金などで中小企業のIT化を促すための支援に乗り出しました。本記事では、中小企業をめぐるIT利活用の実情やIT導入を成功させるためのポイントについて解説します。

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中小企業でのIT利活用の現状と課題

【出典】中小企業・小規模事業者のIT利用の状況及び課題について/中小企業庁

中小企業のITを使ったシステム化は遅れています。

中小企業が導入済みのITシステムは、オフィスソフトや電子メールといったパソコン環境にとどまります。しかも、こうしたパソコン環境についても、導入している中小企業の割合は50%をやっと超える程度というのが、IT利活用の実情です。大企業では当たり前の1人1台のパソコン環境を考えると、その差は大きいと言わざるを得ません。

パソコン環境が整備されていないとなると、業務を効率化するためのシステム化投資は後手に回ります。会計システムについてはある程度普及しているものの、ERP(Enterprise Resources Planning)やEDI(Electronic Data Interchange)、グループウェアといった業務効率化につながるシステム導入はほとんど進んでいません。

大企業では、ERPに対し億単位にもなる巨額のIT投資を実行に移し、更なる業務効率化を目指してRPA(Robotic Process Automation)を使った業務の自動化に取り組んでいます。SFA(Sales Force Automation)CRM(Customer Relationship Management)を使った、営業プロセス改革も活発におこなわれるようになりました。

システム化が企業の競争力を左右するという認識が広がる大企業と比較し、中小企業のシステム導入は、パソコンの導入やホームページ作成がやっとというのが現状で、その差は広がるばかりです。それだけに、中小企業がITを使って生産性を向上できる余地は大きく、今後のIT利活用が期待されています。

中小企業のIT活用はなぜ進まないのか

【出典】2016年度中小企業白書/中小企業庁

それでは、なぜ中小企業でIT活用は進まないのでしょうか。

中小企業白書からは、「ITを導入できる人材がいない」「導入効果が分からない、評価できない」、「コストが負担できない」といった理由が上位に上がってきます。

ここでは、それぞれの要因について詳しく説明します。

ITを導入できる人材がいない

IT投資をおこなわない理由として一番多いのが、IT導入できる人材がいないことです。その割合は全体の4割にのぼります。ほとんどの中小企業は、情報システム部門を専業とする従業員を確保するだけの余裕はありません。たとえ、情報システム担当者がいたとしても、本業と兼任している場合がほとんどです。

ITに詳しい人材を確保しようにも、採用が難しいという現状もあります。SEの求人倍率は高止まりしており、中小企業がSEを採用することは簡単ではありません。中小企業がIT導入を進めるためには、アウトソーシングを活用するなど、社内の人的資源への依存度を下げる工夫も必要になるといえそうです。

導入効果が分からない、評価できない

IT投資をすれば必ず業務効率化につながるとは限りません。場合によっては、高額なソフトウェアを導入したとしても効果は上がらず、投資が無駄になってしまうこともあるでしょう。このため、IT投資の判断をするために、投資対効果が得られる業務効率化が実現できるかどうかを検証する必要があります。

しかし、多くのITシステムは機能が複雑で分かりにくく、従業員が使いこなせるかどうかも不透明です。つまり、IT投資には、導入効果が分かりづらいという側面があるのです。

効果のあるIT導入を進めるためには、業務上の課題を明確にし、その課題解決策を明らかにした上で、必要となるソフトウェアなどを選定しなくてはなりません。業務とITの両方に精通しているという視点が必要になりますが、ITに詳しい人材がいない中小企業にはハードルが高いといえるのです。

コストが負担できない

システムを導入するためには、ソフトウェアの購入だけではなく、ソフトェアをインストールするためのサーバーやネットワークの整備が必要になります。ソフトウェアの導入に必要な設定やカスタマイズといった人件費負担も決して小さくはありません。

システム導入後もソフトウェアの保守費用やシステムメンテナンス費用も企業収益を圧迫します。IT投資には巨額の費用が必要となることが多く、中小企業には負担できない可能性が高いのです。

しかし近年では、IT投資の初期負担を抑えることができるクラウドサービスが普及してきています。クラウドサービスとは、ソフトウェアやハードウェアを購入することなく、サービスとしてシステム利用することができるサービスです。一方で、従来型のソフトウェアやハードウェアを購入する形のシステム導入方法は「オンプレミス」と呼ばれるようになりました。

クラウドサービスの活用は、ハードウェアやネットワークへの投資負担を緩和する効果もあります。中小企業がIT投資をおこなうためには、クラウドサービスの積極的な利用も検討するべきでしょう。

中小企業がITを導入すべき理由

中小企業にとってハードルが高いIT投資ですが、一向に進まないIT化を放置できる状況ではなくなってきました。AIやIoTといったIT技術が大幅に進化するなか、今後進むであろうデジタル化の流れに中小企業が取り残される懸念があります。

国も中小企業のIT化を支援する動きを強めています。企業数の99.7%を占める中小企業の生産性を向上させることは、社会全体の豊かさや国際的な競争力強化にも繋がります。中小企業の生産性を向上させるための手段として、IT化に注目が集まっているのです。

ここでは、中小企業がIT導入を進めるべき理由について解説します。

人材不足の深刻化

【出典】2016年度中小企業白書/経済産業省

高齢化が進むなか、今後も生産年齢人口の減少は進むとみられます。中小企業の人手不足は受注が好調に推移しているにもかかわらず、人手不足で仕事が回らないことが原因で倒産にいたる、いわゆる「人手不足倒産」を引き起こすほど深刻化しています。中小企業の人手不足問題は、企業の存続をも左右する重要な経営課題になっているのです。

こうした人材不足を解消するために活用したいのが、ITの導入です。ITシステムが有効に機能すれば、従業員数人分の業務効率向上を実現することもできます。IT化は、人件費負担を減らすだけではなく、付加価値の向上や新規商品開発による売上向上を通じた生産性向上にも寄与することが期待できます。

【関連】6割の中小企業で深刻な人手不足!現状や原因、対策をご紹介/BizHint

働き方改革により生産性向上が必須

働き方改革を推進する必要性が中小企業でも高まっています。働き方改革関連法の施行により、有給休暇取得の義務化や60時間を超える残業時間の割増賃金の引上げなどが義務化されます。このような背景はもちろんですが、従業員の働き方改革を実現しないと従業員満足度は向上せず、場合によっては従業員の離職につながってしまい、人手不足がより深刻化する恐れもあります。

働き方改革を実現するためには、人事制度改革だけでは不十分です。働き方改革は、短い時間で従来と同等以上の成果を上げる必要があるため、生産性向上も実現する必要があります。中小企業には、IT化により生産性が向上できる余地が残されています。働き方改革は、中小企業にIT化を迫っているのです。

働き方改革は、従業員が場所を選ばず働ける環境の構築を促します。いわゆるテレワークを実現するためにも、IT化は欠かせません。パソコンの支給はもちろんのこと、リモート接続環境も必要になります。従業員が働きやすい環境の実現には、IT化は欠かせないと考えたほうがよいでしょう。

【関連】働き方改革とは?目的や背景、今後の施策や企業事例まで徹底解説 / BizHint
【関連】働き方改革関連法とは?改正内容と企業に求められる対応について徹底解説/BizHint

今後企業が勝ち残るため

【出典】2016年度中小企業白書/経済産業省

ITの導入は、業種を問わず売上高や経常利益率の向上を通じて、企業の収益力を底上げします。IT化は業務効率を向上させるだけではなく、商品開発の短納期化や付加価値の向上を通じて、売上の増加にも寄与します。つまり、IT投資の有無が企業競争力を左右する要因になっているといえるでしょう。

今後は、企業へのIoTやAIなどデジタル化の流れはさらに加速すると予想され、ITに目を背けているようでは、デジタル化時代を生き抜くことは困難でしょう。中小企業でも積極的にITを活用したデジタル化を実現し、長期的な成長戦略を描くことが求められています。

IT導入を成功させるためのポイント

IT化が求められているとはいえ、中小企業にとってはハードルが高いのも事実です。ここでは、IT化のハードルを下げるため覚えておきたい、中小企業がIT導入を成功させるためのポイントについて解説していきます。

まずは既存業務の見直しを行う

中小企業に関わらず、業務のシステム化をベンダーに丸投げすることは絶対に避けましょう。ベンダーは自社が販売できるシステムありきで提案をすることが多く、業務効率化に結びつきにくいことが多いのです。

まずは、自社の既存業務の見直しを行いましょう。業務フロー図などで業務を見える化し、どの業務のどこに非効率があるのかを把握することで、現場業務の問題点が明らかになるはずです。次に、顕在化した問題点を解決するためのシステム提案をベンダーにしてもらいます。こうすることで、自社の業務効率化を実現しやすいIT化を実現しやすくなります。

IT人材を確保するためには

IT人材の確保には、2つの方法が考えられます。

アウトソーシング・外注の活用

ITを導入できる人材がいないと嘆いていても何も始まりません。採用が難しく、社内にもIT導入できる人材がいないのであれば、アウトソーシングや外注の活用も検討しましょう。実際に、外注を活用することで高収益を生み出している中小企業は一定数存在します。

【関連】アウトソーシングとは?派遣との違いやメリット、業務例までご紹介/BizHint

IT教育の推進

ITに興味がある従業員が在籍しているのであれば、IT教育の推進も有効です。自社の従業員がIT導入に携わることで、ITリテラシーも加味した上で、本当に使えるIT化を実現することができます。

IT教育は、社外の講習会や研修をうけることで育成できますが、実践的な力を身につけるためにはOJTも重要です。外注を活用してIT化を進める場合には、自社の従業員もアサインし、外注社員のスキルやノウハウを学ばせるといった方法が考えられます。

クラウドを活用した検証・評価の徹底

クラウドの普及が進み、サーバーやネットワークへの多額のコスト負担を避けられるようになったことは、中小企業が初期投資負担を減らしてIT導入できる環境が整ったともいえます。

クラウド活用で得られるメリットは、初期投資のコスト削減だけでなく、サービスによっては運用後に期待した効果が得られないときはいつでも使用を止められたり、数ヶ月間、無料のものもあります。こうしたクラウドサービスの特性を活用し、中小企業は本当に導入効果のあるシステム導入を進めることができるのです。

中小企業がシステムを導入する際は、特別な事情がない限りクラウド型のシステム導入が得策です。オンプレミス型でシステム導入を進めると、サーバーをメンテナンスするためのIT人材が必要となります。クラウド型のシステム導入は、IT人材を補うというメリットも有るのです。

補助金の活用

中小企業の生産性を向上させるために、国も補助金という形で動き出しました。補助金を使えば、中小企業のIT投資負担を1/2から1/3に抑えることができます。ここでは、IT導入する場合に使える補助金についてご紹介します。

IT導入補助金

IT導入をする場合に、まず検討したい補助金です。IT導入支援事業者が販売するソフトウェアを導入する場合に、補助を受けることができます。昨年度までは補助上限額が50万円でしたが、今年度は補助上限額が大幅に引き上げられました。2019年6月現在、一次公募の受付が始まっています。

  • 補助上限額(A類型):150万円
  • 補助上限額(B類型):450万円
  • 補助率 :1/2

【参考】 IT導入補助金2019/一般社団法人 サービスデザイン推進協議会

小規模事業者持続化補助金

従業員数が5名以下(一部業種は20名以下)の小規模事業者が受けることができる補助金です。補助額は少ないですが、ホームページの作成やその他の少額のIT投資であれば、申請方法が簡単で、手軽に使うことができる補助金です。2019年6月現在、一次公募の受付が始まっています。

  • 補助上限額 :50万円
  • 補助率 :2/3

【参考】 平成30年度第二次補正予算「小規模事業者持続化補助金事業」(商工会議所地区分)の公募が開始されました/中小企業庁

ものづくり・商業・サービス生産性向上促進補助金

革新的サービスの開発・試作品開発・生産プロセスの改善を行うための設備投資等に対して、補助を受けることができます。他の補助金と比較して、補助額が大きいのが特徴です。生産性向上につながるIT導入であれば対象となるため、大規模IT投資の際には検討したい補助金です。

  • 補助上限額 :1,000万円
  • 補助率 :1/2(条件を満たせば2/3)

【参考】 平成30年度補正予算「ものづくり・商業・サービス生産性向上促進補助金」の公募を開始します/中小企業庁

中小企業のITツール活用事例

中小企業が導入に踏み切るのは難しいITシステムですが、導入をきっかけに業務効率化や売上向上に結びつけた事例は少なくありません。ここでは、中小企業のITツール活用の成功事例をご紹介します。

株式会社スター

株式会社スターは、飲食店の「もうやんカレー 新宿東口店」や、まつげエクステサロン「まつげ本舗 新宿店」、ネイルサロン「mariage」などの美容系サロンを、おもに東京都新宿地域で展開しています。同社は、クラウド型POSレジサービスを「もうやんカレー 新宿東口店」に導入しました。

従来型のPOSシステムは、費用負担が大きく、売上データの確認もPOS端末で確認する必要がありました。しかしクラウド型POSレジサービスは、売上データはスマートフォン一つあれば場所を選ばず、リアルタイムに確認できます。

消費税増税時に導入される軽減税率制度の導入の際にも対応が簡単にできることに加え、今後の普及が予想されるキャッシュレス決済にも対応できます。従来型のPOSシステムと比較して生産性は大幅に向上しました。

【参考】 ITツール活用事例/J-Net21

有限会社 肉の大栄

肉の大栄は、熊本県で昔ながらの量り売りの精肉店を営む、肉の卸売・小売業者です。従業員数11名で、ネット販売も手がけています。同社がITツール導入のきっかけになったのは、事業承継でした。

事業承継をきっかけに経営改善に取り組むことを検討しましたが、判断材料となるデータがなにもなく、利益構造を分析することができませんでした。そこで、伝票発行にしか使っていなかった販売管理システムの活用に乗り出します。日々の取引に伴うデータ入力を徹底し、経営分析ツールを最大限に活用。得意先別や商品別の粗利や粗利率を把握することができるようになりました。

経営状況が見える化できたことで、従業員の行動にも変化がありました。粗利率を意識し、不要な値引きを避けることができるようになったのです。実際に同社の粗利率は改善し、事業承継後に好調なスタートを切ることができました。

【参考】 IT経営マガジンCOMPASS ONLINE/株式会社リックテレコム

株式会社オーカワパン

地元福井県で70年におよぶ製パン業を展開するのが、株式会社オーカワパンです。従業員数は80名、地域に密着した事業を展開しています。同社は、本社工場の焼き立てパンを150箇所の売り場に届けています。そこで問題になるのが需要予測です。同社がこだわる焼き立てパンを機会損失や売れ残りを避けて売り場に並べるためには、前日や前年の販売実績を加味した需要予測が欠かせません。発酵時間や作業担当者のスキルも加味した生産計画を立てることが求められるのです。

このような複数要素を加味した生産計画を立案するために同社が導入したのが、AI生産管理システムです。AIはデータがなければ、判断をすることができません。同社では生産管理システムの完全自動化を目指し、データの収集をはじめました。同社は今後も積極的な攻めの姿勢でIT導入を進める構えです。

【参考】 IT経営マガジンCOMPASS ONLINE/株式会社リックテレコム

まとめ

  • 中小企業のIT導入はほとんど進んでおらず、巨額のIT投資を続ける大企業との差が拡大しています。
  • 中小企業のIT導入が進まない理由として「ITを導入できる人材がいない」「導入効果が分からない、評価できない」「コストが負担できない」が上位を占めます。
  • 深刻な人手不足や働き方改革を実現するためには生産性向上が求められており、中小企業においてはIT導入が有力なツールとなります。
  • 中小企業がIT導入を進めるには、課題解決につながるITシステムを導入する必要があります。クラウドサービスや補助金を活用することで導入効果の高いIT化を実現できる可能性も高まります。

<執筆者>
香川 大輔 中小企業診断士

千葉大学工学部卒業。ベンチャー企業における営業、企画、マーケティング業務を経て、富士ゼロックス関連会社でシステム提案営業に従事。

2015年、中小企業診断士登録。現在では独立し、地域に密着した経営支援や新規事業コンサルティングに加え、セミナー活動や執筆活動など幅広く活動している。


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