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建設業の人手不足の現状と理由、解消への対策方法と事例をご紹介

BizHint 編集部 2019年3月7日(木)掲載
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建設業は慢性的に人手不足の状況で、従事者数は減少、復興・五輪需要の中で有効求人倍率は上昇傾向にあり各企業は人材確保が課題です。本記事では建設業の人手不足の現状とその理由や、生産性向上、多様な人材の活用、待遇・福利厚生の改善といった対策方法を解説。また、人手不足解消に取り組んでいる企業の事例を紹介します。

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建設業の人手不足の現状と理由

建設業の人手不足の現状と、その理由を紹介します。前半では建設業界が慢性的に人手不足にあることを示すデータを、後半ではその背景の事情を解説します。

慢性的に人手不足の状態

建設業界は慢性的に人手不足の状態です。若年労働者の募集が進まず業界全体で少子高齢化が進み、復興需要・五輪需要が高まる中で有効求人倍率も増加傾向。現場の声である従業員過不足DI値も深刻な状態が続いています。

就業者数の減少

建設業の就業者数は徐々に減少を続けています。国土交通省が発表した「建設業の現状について」によると、技能労働者や管理・事務などを含めた建設業の従事者は2006年に559万人でしたが、2016年は492万人にまで減りました。これは最大のボリュームゾーンである技能労働者数が10年間で375万人から326万人へと10%以上減少したのが大きな要因です。

技術者や管理・事務系の就業者数は2010年以降横ばいで推移しています。それでも2016年はピーク時の1997年に比べて、技術者数は41万人から31万人に、管理・事務系の従事者は133万人から99万人に減少しており、建設業全体で従事者数が減っている状況です。

【参考】国土交通省:「建設業の現状について 建設業就業者の現状」

建設業の有効求人倍率は大幅に上昇している

2015年5月、建設業関連業種の有効求人倍率は「建設・土木・測量技術者の職業」が3.56倍、「建設の職業」が2.68倍、「土木の職業」が2.52倍、そして「建設躯体工事の職業」は6.53倍と顕著に高い水準なっています。

2009年から2015年5月にかけて、有効求人倍率の全業種平均は0.34倍から0.88倍へと比較的緩やかに上昇しました。一方で建設業関連は1倍程度から2倍〜6倍程度へと大幅に上昇しており、急激に人手不足が拡大していることがわかります。

【参考】厚生労働省:「建設労働者を取り巻く状況について」

従業員過不足DI値から見る人手不足

2017年7-9月期「従業員数過不足 DI 値」(従業員数が「過剰している」あるいは「不足している」と答えた企業数の差を示した数値)は、建設業はマイナス30.2でした。建設業は2011年後半以降、一貫してマイナスの水準でさらに数値は徐々に低下。慢性的に人手不足である状況が読み取れます。

同じ時期の全業種平均はマイナス18.7です。業種別に比較した場合、建設業と同じく人手不足の状況が続いている飲食・宿泊といったサービス業はマイナス22.2で、建設業の人手不足は最も深刻な水準となっています。

【参考】経済産業省:「第149回 中小企業景況調査(2017年7-9月期)」

建設業で人手不足が続く理由

建設業で人手不足が続く理由を解説します。主な要因は、肉体的・精神的にもハードな労働環境、また復興・東京五輪などによる建設ニーズの増加、さらに建設業従事者の人口・年齢的な事情が挙げられます。

厳しい労働環境

建設業で人手不足が起こりやすい理由は厳しい労働環境にあります。

労働環境の1つ目の特徴は、建設業ならではのハードワークです。建設現場では、天候・季節を問わず外気にさらされながら長時間の作業を行い、重い資材の運搬や機器類を取り扱うこともあるため肉体的な負担がかかります。また、現場では危険を伴う作業が多数あり、安全に神経を遣わなければならないため精神的にも負荷が発生します。

2つ目の特徴は、長時間労働と少ない休暇日数です。国土交通省が作成・発表した資料によると、2016年度の建設業の年間総実労働時間は、調査対象になった全産業の平均と比較して300時間以上も長いと判明。また、建設工事全体の半分以上が4週4休以下で、4週4休は全体の1割にも満たない状況でした。

【参考】国土交通省:「建設業における働き方改革について」

復興・東京五輪などの建設需要

建設業の人手不足の背景には建設需要の高まりがあります。主な要因は2011年東日本大震災に伴う復興と、2020年東京オリンピック・パラリンピック関連の建設工事の増加です。また、その他にも住宅工事、再開発、リニア中央新幹線といった社会インフラ関連の工事もあり、需要が逼迫しています。

こうして建設需要が増加することで各地で人手不足が起こり、それが原因で建設会社が受注を受けられないというケースもあり、建設会社は難しい経営課題に直面しています。

建設業界の少子高齢化

リーマンショック直後は公共工事や企業による設備投資が控えられ建設需要が落ち込み、経験がある職人が大量離脱しました。特に2009年は建設業就業者全体で前年比20万人、翌年は19万人が減少。景気が回復した後は技能者の復帰数が伸びず不足感が発生しました。

さらに、建設業界では55歳以上の就業者が全体の3割以上、29歳以下は1割程度と少子高齢化が進行。今後、長年経験を積んできた職人が大量離職することで、就業者数の減少が加速するとの見込しもあり、人手不足を打破するための対策が求められています。

【参考】国土交通省:「建設業の現状について 建設業就業者の現状」

人手不足解消に向けた行政の取り組み

建設業の人手不足を解消するために行政が行なっている取り組みを紹介します。

中長期的な人材確保・人材育成、そして魅力ある職場づくりを推進することを目的に、国土交通省と厚生労働省が連携して若手や女性の採用・定着の促進や、働き方改革を行う方針を掲げています。

【参考】厚生労働省:「建設業の人材確保・育成に向けて(平成30年度予算の概要)」

人材確保

主な取り組みの1つ目は人材確保です。具体的な施策は以下の通りです。

1. 建設業の働き方改革の推進
2. 社会保険加入の徹底・定着
3. 専門工事企業に関する評価制度の構築に向けた検討
4. 建設事業主等に対する助成金による支援

働き方改革推進の具体的な施策の内容は、長時間労働是正や週休2日実現に向けた適切な工期設定、施工時期の平準化、ICT(Information and Communication Technology:情報通信技術)活用による業務の省力化が挙げられます。その他、女性の活躍を促すように柔軟な働き方や出産・育児後も復帰しやすい制度作り、建設業許可の申請などの電子化といった施策も行われます。

また、建設業は社会保険に加入している企業の割合が他業種と比較して低いのが現状です。今後技能労働者の処遇改善や働き手の確保を推進していくためにも、社会保険加入の徹底と定着を図る取り組みが掲げられています。

さらに、適正な評価・賃金といった処遇の実現に向けて、施工会社の能力・専門性を評価し、実力に応じてふさわしい対価が支払われる仕組み作りのための調査・検討も行われます。

4つ目の助成金については、若手や女性労働者を積極的に活用するため、若年層や女性労働者を対象に実習経費や賃金への助成率の引き上げ等が実施されます。

【関連】建設業の働き方改革の現状と課題、成功ポイント、事例をご紹介/BizHint
【関連】長時間労働の原因とは?削減に向けた対策・厚生労働省の取組をご紹介/BizHint
【関連】社会保険とは?加入条件や手続き、計算方法からパート・アルバイトの加入要件も/BizHint
【関連】人事評価制度とは?評価対象や評価手法、企業事例などもご紹介/BizHint

人材育成

行政の取り組みの2つ目は人材育成で、主な施策は以下の通りです。

1. 地域建設産業における多能工化の推進
2. 中小建設事業主等への支援
3. 建設分野におけるハロートレーニング(職業訓練)の実施

中小・中堅の建設会社が生産性を向上させるには長期的な人材育成が不可欠であり、そのための施策が多能工化です。多能工化とは1人の人材が複数の技術を習得することを指し、建設会社1社ごとに育成体制を整備するだけでなく、複数の企業間で技術・ノウハウを持ち寄り共有する取り組みを推進する方針が掲げられています。

2つ目の施策では人材育成のための様々な施策が盛り込まれており、例えば離転職者・新卒者・学卒の未就職者を対象に訓練から就職支援までを一体に行う育成事業、職業訓練の新規認定や訓練の実施にかかる経費の補助、その他企業単独・グループ企業単位で実学と座学の訓練を行なう場合の助成が挙げられます。

最後のハロートレーニングについては、建設機械等を扱う技術だけでなく、普遍的なパソコンスキル等の訓練も継続して実施される方針です。

【関連】多能工化の意味とは?メリット・デメリットと進め方/BizHint
【関連】人材育成とは?育成手段や施策・対象別の目的や求められるスキル・育成方法までご紹介/BizHint

魅力ある職場づくりの推進

魅力ある職場づくりの推進についても様々な施策があります。主なものは以下の通りです。

1. 建設職人の安全・健康の確保の推進
2. 中小専門工事業者の安全衛生活動支援事業の実施
3. 雇用管理責任者等に対する研修等の実施

建設現場での事故件数は長期的には減少傾向ですが、現場工事では高所作業や重機の取り扱いといった危険を伴う仕事が必要なため、毎年1万件以上の死傷事故が発生しています。より安全性を高めることを目的に、安全衛生経費が適切に支払われるような取り組みや、建設会社による自主的な取り組みを評価する仕組みづくりを促進する方針です。

2つ目の施策について、建設業の労働災害は従業員規模29人以下の事業所が全体の88%と多くを占めています。そこで特に中小専門工事業者への安全啓発活動が重要であるとの考えから、技術研修、パトロール、個別指導といった取り組みが実施されます。

最後の項目については、雇用管理に必要な知識の習得に加え、コミュニケーションスキル等の向上を目的とした雇用管理責任者のための研修を行うことを指します。建設業では零細事業者が多く自主的な研修が難しいという問題があるため、国が必要な研修を実施することになっています。

【参考】建設業労働災害防止協会:「建設業における労働災害発生状況」

建設業で人手不足を解消するための対策

建設業で人手不足を解消するための主な対策方法を紹介します。

主な施策には業務効率化により1人あたりの労働生産性を高める、女性・高齢者といった多様な人材が活躍しやすい環境を整える、待遇・福利厚生を充実させるといったものがあります。

生産性向上

人手不足に対応するためには生産性向上が重要です。主なポイントには業務効率化と、その手段としてのICT活用が挙げられます。

建設業が長時間労働になる要因は、膨大な量の建設作業に加えて、勤怠管理の報告・確認、施工状況の記録・共有といった事務作業や、プロジェクトメンバーとのコミュニケーションといった様々な関連業務が発生する点です。人手不足の中で生産性を向上させるには、このような日常業務の効率化が重要な課題と言えます。

現在は勤怠管理情報や資料のデジタル化のツールが普及しており、これらを活用することも有効な解決策の1つです。例えば、施工に関する勤怠・進捗といった情報をサーバーに保管し、現場や事務所・協力会社などが持つどの端末からでも確認・更新が可能なツールもあります。ツールの活用が進めば書類のペーパーレス化、円滑なコミュニケーションの実現につながり、生産性向上を目指すことができます。

【関連】生産性向上のために企業が行うべき施策や取組事例をご紹介/BizHint

多様な人材の活用

人手不足を解消するためには、多様な人材を活用することも有効な手段です。

建設現場は肉体労働が多いのは事実ですが、それでも実際に高齢者・女性が現場で問題なく仕事をしているケースもあります。また、力仕事以外にも安全管理、施工管理といった事務的業務も多く、採用活動では従来のイメージを払拭して「建設業は多様な人材も働くことができる」という認識を広げることも重要です。

また、外国人材の活用も1つの解決策です。2018年12月に改正出入国管理法(いわゆる「入管法」)が成立し、建設業でも外国人労働者の受け入れ拡大が従来よりも容易になりました。

重機・工機の遠隔操作やドローンによる測量といった、建設現場業務のあり方を変えるようなツールも導入も有効です。このような業務負担を減らすような方法や、誰もが働きやすい環境づくりを行っていくことで、人材確保につながっていきます。

【関連】外国人雇用のメリットは?手続きや必要書類、注意点や助成金をご紹介/BizHint

待遇・福利厚生の改善

また、待遇や福利厚生を改善し、働きがいがある環境を用意することも重要です。

建設業では現場の技能者でも事務方スタッフでも専門的な技術や知識が必要とされます。優秀な人材を確保し、また人材のスキルアップを促していくためにも、能力・経験を評価する仕組みや、評価にふさわしい待遇を用意する施策が必要です。

また、長時間労働や週休2日未満という工事が多い中、時間外労働を減らしたり休暇の取得を推進するための取り組みも必要です。これはICT活用による業務の効率化や、適切な工期設定といった施策が有効です。

さらに、建設会社では中小・零細の事業所も多く、社会保険へ加入していない事業者が依然存在しています。2017年10月時点で、雇用・健康・厚生年金の3保険について元請会社は98.2%が加入しているのに対し、2次請は94.4%、3次請では90.5%という水準です。

国土交通省は社会保険への加入を建設業の最低限の水準にすることを目標に、建設業の許可・更新に社会保険加入を条件とする方針を示しています。労働者が安心して働ける環境を整備するためにも、社会保険加入の徹底は重要な取り組みです。

【参考】国土交通省:「建設業働き方改革加速化プログラム」
【関連】福利厚生とは?導入目的や種類、ユニークな企業事例までご紹介/BizHint
【関連】業務効率化とは?目的や進め方・ポイント、事例からツールまでご紹介/BizHint

建設業で人手不足解決に取り組んでいる企業事例

人手不足への対策に取り組んでいる建設業の企業事例を紹介します。

大手ゼネコンではICTといった新しい技術を活用した業務効率化が増加しており、またOJTによる教育体制が確立されています。

中小・中堅企業も、独自の働き方制度の整備や業務体制の見直しで生産性を向上させ、人手不足に対応しているケースが多数あります。

鹿島建設

大手ゼネコンの1社である鹿島建設は多様な人材の確保や活用、そして働き方改革に注力していますが、その建設工事の事例として大阪御堂筋でのIT企業ビル新築工事を紹介します。

この工事では女性人材の有効な配置と若手人材への教育を行うために2つの施策を行いました。

まずひとつは、専業・分業化を徹底し、女性による検査チームを構成。膨大な検査業務や写真整理を専業化することできめ細かい検査と記録が可能になり生産性が向上していまう。そしてふたつめは、若手社員へ安全管理・OJTなど習得するべき項目を明確化して成果報告を実施。若手のうちから生産性向上を意識させる効果的な教育を実現しました。

さらに、最新のテクノロジーを活用した生産性の向上にも力を入れています。例えば負担が大きい資材搬送を自動化・ロボット化し搬送に関わる負担削減と効率化を実施。また、ICTを活用しタブレット端末・スマートフォンによるスムーズな連絡やWebカメラによる現場状況の監視体制も導入しました。

【参考】日本建設業連合会:「日建連 生産性向上事例集 2017」

杉本工務店

杉本工務店は石川県の従業員数20名規模の建設会社です。従業員のうち半数の10名が60歳以上で、若い人材の確保が大きな課題であることから、人材育成と働きやすい職場作りをおこなっています。(人数は2017年当時)

同社は従来、土木部門と建築部門が区分けされていましたが、一方が忙しく他方が比較的余裕があるという時期もあり、会社全体としての生産性向上のためには無駄のない人材活用が課題でした。そこで2部門の垣根を取り払い柔軟な配置を実施。広く活躍できる多能工人材を育成する教育や資格手当の支給も推進しました。

また、同社には4名の女性社員が在籍し、家事・育児にも積極的な男性社員もいます。女性社員は1級建築士や1級土木管理技士の資格を保有している社員もおり、女性ならではのきめ細かい視点を持ち活躍しています。また、男女問わずフレックス制度や育児休暇制度が利用できるようワークワイフバランスにも配慮してるとのことです。

結果として、業務効率向上だけでなく「いしかわ男女共同参画推進企業」にも認定される優良企業となりました。

【参考】石川県ホームページ:「建設業サポートブック 第 4 章 建設業者の取組事例紹介」

まとめ

  • 建設業では慢性的に人手不足で、従事者数は減少傾向、有効求人倍率は上昇、従業員過不足DI値は深刻な低水準の状況にあります。
  • 建設業で人手不足が続く理由は、建設現場の厳しい労働環境、復興・五輪需要の増加、建設業界の少子高齢化が主な要因です。
  • 人手不足の解消に向けて国土交通省と厚生労働省が連携し、人材確保、人材育成、魅力ある職場づくりの推進に取り組んでいます。
  • 建設業で人手不足を解消するためのポイントは生産性向上、多様な人材の活用、待遇・福利厚生の改善が挙げられます。

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