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建設業の働き方改革実現に向けて/現状と課題、成功ポイント、事例を紹介

BizHint 編集部 2019年3月7日(木)掲載
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建設業の働き方改革では、長時間労働、週休2日未満、人手不足などが主な課題です。働き方改革関連法が施行され、国土交通省の「建設業働き方改革加速化プログラム」でも待遇改善・社会保険加入やICT活用、生産性向上が重視されています。本記事では建設業の働き方改革の現状と課題、行政の方針、推進のポイント、成功事例を紹介します。

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建設業の現状と課題

建設業の働き方改革に向けた主な課題として、長時間労働の是正、週休2日、人材確保があります。

長時間労働の常態化

建設業は、他の産業と比較しても長時間労働の傾向があり、また長年にわたり長時間労働が常態化しています。

国土交通省が「毎月勤労統計調査」を元に作成した資料によると、2016年度の建設業の年間総実労働時間は2056時間でした。調査対象になった全産業の平均1720時間と比較して300時間以上の差があります。また、長時間労働の傾向がある製造業と比較しても、建設業は100時間以上長いのが現状です。

さらに同資料によると、2007年と2016年度を比較して全産業では年間総実労働時間が87時間、製造業は42時間減少しているのに対し、建設業では9時間しか減少しておらず長時間労働の状態が続いていることがわかります。

働き方改革では、まずは長時間労働の改善が急務です。

【参考】建設業における働き方改革について/国土交通省

週休2日が確保できない

建設業では、週休2日が確保できている企業が少ないという課題もあります。

国土交通省の「建設業における働き方改革について」によると、2016年時点で建築・土木といった建設工事全体では半分以上が4週4休以下で、週休2日は全体のわずか7.7%でした。建築工事に限っては、週休2日を確保できている工事はわずか4.5%です。工期が縛られている中で人手が不足し、休日労働に頼らざるを得ないことが原因の1つになっています。

また同資料によると、全産業と比較しても建設業界の休暇取得日数の水準は低い傾向にあります。2016年度、調査対象になった全産業では年間出勤日数が平均222日で2007年度から11日減少していますが、建設業では出勤日数が251日と約30日も多く、同期間で5日しか減少していません

【参考】建設業における働き方改革について/国土交通省

慢性的な人手不足

全産業の中でも建設業は特に人材不足が激しく、また労働者の平均年齢が高いため、今後の大量離職でその傾向が加速する可能性もあります。

経済産業省が厚生労働省「一般職業紹介状況」を元に作成した2017年版「中小企業白書」によると、2016年職業別有効求⼈倍率(パートタイム含む常用)は保安の職業が最も高く、次いで建設・採掘です。この数値は2013年比で1.35倍に増えており、人手不足が拡大していることがわかります。

また、従業員数について「過剰している」あるいは「不足している」と答えた企業数の差を示した「従業員数過不足 DI 値」では、建設業は2017年全業種で最低のマイナス25.6という深刻な状況に陥りました。

そして2016年時点で建設業の就業者は、55歳以上が33.9%、29歳以下が11.4%です。業界全体が少子高齢化の傾向の中、加えて直近の10数年で建設業従事者の大量離職が見込まれるため、人手不足が加速すると予想されています。

【参考】2017年版 中小企業白書 第1部 第3章:中小企業の雇用環境と人手不足の現状/経済産業省
【参考】建設産業の現状/国土交通省

「建設業働き方改革加速化プログラム」について

建設業では長時間労働や休暇日数の少なさといった課題があり、今後の大量離職の準備として人手不足の解消・労働環境の改善をしなければ事業存続が困難です。

建設業の働き方改革を進めるために、2018年に国土交通省が策定したのが「建設業働き方改革加速化プログラム」です。長時間労働の是正給与・社会保険生産性向上の3本柱のもと、建設現場の運営や施工管理に加えて、工事の発注・受注にも関わる内容が盛り込まれています。

【参考】建設業働き方改革加速化プログラム/経済産業省

長時間労働の是正

本プログラムの中で、長時間労働を是正するための主な取り組み内容は以下の2つです。

  • 週休2日制の導入
  • 適正な工期設定

週休2日制の導入の背景にあるのは「建設業の現状と課題」で解説した通りですが、これを改善するため、まずは公共工事で週休2日工事を拡大しながら、民間でもモデル工事を試行し、評価も行うことでモデルケースの展開を目指します。また、公共工事については、週休2日の実施に伴って労務費・共通仮設費といった必要経費を計上するための補正率の見直しも行われます。

適正な工期設定とは、適切な働き方を目指すための指針をまとめた、国土交通省の「建設工事における適正な工期設定等のためのガイドラインについて」の中で示された方針を具体化したものです。

主な内容は、建設工事の受注者は従事者の長時間労働が前提になるような過密な工期での請負を避ける一方、発注者は施工条件の明確化を図り、適正な工期設定を推進するものです。

給与・社会保険

給与・社会保険とは、以下の2つの内容を指します。

  • 技能と経験にふさわしい処遇(給与)
  • 社会保険加入の徹底に向けた環境を整備

処遇(給与)についてのポイントは、建設技能者への能力評価制度の導入と、施工業者・団体への待遇改善です。技能者の能力を把握するために、まず高い技術・経験を持った技能者を公共工事で評価し、施工企業の施工能力などの見える化を実施します。また、適切な単価が下請企業にも浸透するように工事の発注者側に対して要請するとしています。

2つ目の内容ついて、社会保険加入を建設業の最低限の基準として徹底させるために、発注者は施工企業を社会保険加入企業に限定させ、下請企業が施工企業を選ぶ際もこの方針を守るよう要請します。さらに、社会保険に未加入の企業は建設業の許可・更新を認めない仕組み作りも行います。

生産性向上

生産性向上を行う上で国土交通省は「i-Construction」を掲げています。これは建設現場の効率性や業務負担を減らすためのICT(Information and Communication Technology:情報通信技術)の活用が主な内容となっています。

ICTとは調査から施工、検査といったあらゆる場面でIT技術を活用することを指し、例えばタブレット端末によるペーパーレス化やドローンによる測量などを想定しています。

【参考】国土交通省:「i-Construction」

生産性向上の具体的な取り組み内容は以下の4つです。

  • 生産性の向上に取り組む建設企業を後押しする
  • 仕事を効率化する
  • 限られた人材・資機材の効率的な活用を促進する
  • 重層下請構造改善のため、下請次数削減方策を検討する

特に一番上の項目については、ICTの活用を推進することが主要なテーマです。ICTを活用して生産性向上に取り組んでいる企業には公共工事の積算基準を改善したり、表彰制度の拡大も行われます。

仕事の効率化についても、公的な申請の電子化や公共工事での書類負担の軽減を目指し、後者2の項目では将来的な技術者の減少を見据えた技術者配置要件の合理化、多重下請け構造のスリム化を推進します。

建設業が働き方改革を成功させるポイント

働き方改革を実現していくためには、労務・施工管理のシステム化、ICTの活用、健康経営への取り組みが有効な解決策として挙げられます。

労務・施工管理のシステム化

労務管理や施工管理は、働き方改革の前提である現状把握のためにも重要なポイントです。管理業務をシステム化することで、従業員の労働時間・生産性・業務負担を、簡単かつ効率的に見える化することが可能になります。

労務管理のシステム化の一例としては、勤怠管理システムを導入してスマートフォンやタブレット端末で出勤・退勤を記録することや、勤怠データや体調測定データなどの一元管理が挙げられます。これにより労働時間の集計や健康状態の確認を効率化することが可能になり、過密労働の防止といった効果も期待できます。

同様に施工管理も紙ではなく電子化することで管理者の業務負担が軽減し、また施工状況が把握しやすくなります。この結果、作業員の心身に問題がないか、工事の遅延がないかといった異常の発見が早期に行えるだけでなく、管理業務の生産性も向上する可能性があります。

【関連】勤怠管理とは?基礎をきちんと理解し、働き方改革推進へ/BizHint

ICTによる業務負担の軽減

ICTの活用で業務負担を軽減することは、長時間労働の解消や人手不足の対策のためにも重要なポイントです。先述した通り国土交通省は「i-Construction」の取り組みを掲げており、ICT活用は大企業に限らず建設業界全体に求められている取り組みです。

建設工事は、工期が限られている中で、現場での工事作業に加えて記録・報告などの事務作業も発生するため長時間労働になりやすい仕事です。また、管理者も日々膨大な報告がある中で現場の施工状況を正確に把握し、現場作業者と円滑なコミュニケーションを行う必要があります。双方にとって業務負担は軽くありません。

ICTは先述の労務管理だけでなく、業務全般で活用することができます。例えば従来は紙で管理していた図面・資料・帳票を電子化したり、業務連絡や会議などのコミュニケーションツールの導入、ドローンでの測量や工機の遠隔操作といった活用方法により、業務を大幅に省力化することが可能です。

【参考】図面管理・情報共有システムSpiderPlus/レゴリス

健康経営の実施

健康経営の実施も働き方改革で大切なポイントです。建設工事では長時間労働に加え安全性に気を遣う業務も多く、従事者の心身の負担を軽減して事故を防止するためにも健康経営が欠かせません。

例えば、管理者は現場作業者が適切な睡眠時間は確保できているか、体力的に問題はないかといった基本的な体調・健康状態を把握するよう努めるだけでも、重大事故の事前防止につながります。また、健康管理のためのサポートとして専門知識を持った保健・医療機関との提携、事故防止研修といった取り組みも有効です。

【関連】【わかりやすく解説】健康経営とは?背景やメリット、取組事例まで!/BizHint

建設業の働き方改革の成功事例

建設業で働き方改革の取り組みを行った企業の成功事例を紹介します。

大京リフォーム・デザイン

大京リフォーム・デザインはマンションリフォームの営業から施工管理までを行っています。建設現場の施工品質管理サービスを導入して業務効率化に取り組んだ結果、残業時間の削減といった働き方改革に成功しました。

同社は年間5000件弱もの工事を請負っており、施工を担当する協力会社と同時並行的にプロジェクトを進めています。施工管理では協力会社との密な連携が必要になりますが、同社の主な課題は多数の工事を効率的に管理することで、その中でも特に膨大な工事資料の保管・共有ルールの明確化と、報告・連絡の効率化が重要でした。

そこで業務効率化のために、オクト社が提供する施工品質管理サービス「アンドパッド」を導入。クラウド上でデータを一元管理する仕様のため、工事資料の保管・共有が容易になりました。

また、データ更新の際に相手への通知も自動設定することで、協力会社との電話・FAX・メールといった手間が大幅に減少。さらに、報告・チャット機能でタイムリーなコミュニケーションが可能になり、双方の待ち時間が減り業務の短縮化にもつながりました。

結果として同社では施工管理業務について品質を落とさず効率化に成功し、1日当たり約1時間から1時間半程度の残業時間削減を達成しました。また、協力会社でも1時間以上の残業時間削減を実施でき、働き方改革に貢献しました。

【参考】【導入事例】株式会社大京リフォーム・デザイン様、株式会社錦様/アンドパッド

大林組

大林組は最大手ゼネコンの1社として建設現場のワークスタイル改善にいち早く取り組んでおり、ICTの活用に積極的です。

同社は、従来施工管理の際に現場で担当者が施工状況を紙にメモし、事務所に戻ってからパソコンに入力するという二重記入が発生しており非効率でした。また、他の担当者の施工状況を確認するためにはデータがパソコンに入力されるまで待たなければならず、情報のタイムリーな連携が難しいという課題もありました。

そこで、2012年に3000台のiPadを導入し、従来は紙で行なっていた図面の確認・記録作業も電子化。書類業務を大幅に効率化しました。さらにストレージサービスも導入。データを一元管理するよう変更し、利用者が誰でもどの端末からでもプロジェクトデータを共有することが可能になりました。

その他、朝礼・新規入場者教育、会議システム、図面共有といった日常業務も各種アプリケーションで効率化に成功しており、ICT活用の先駆的な事例と言えます。

【参考】建設業界に働き方改革をもたらす、大林組が選んだ単なるストレージサービスではない「Box」/BUILT

矢作建設工業

矢作建設工業は愛知県の従業員数850名規模の建設会社です。同社は「社員の心身の健康維持を経営上の重要な課題」として健康経営に取り組んでいます。主な施策は休暇取得・労働時間の削減といった働き方に関するものと、健康面のサポートが挙げられます。

同社はノー残業デーの指定、勤務間インターバル、内勤部門の現場支援強化で労働時間削減の取り組みを行うほか、年間5日間以上の年次有給休暇を義務化しています。また節目の年齢や結婚・出産といったライフイベントでも、ワークライフバランスに配慮し特別休暇制度を設けています。

健康面のサポートとしては、保健師との健康相談窓口や、外部カウンセラーによる外部相談窓口の設置といった健康促進の施策を行っています。また、社内報に保健師のコラムを掲載するなど普段から従業員に健康管理の意識づけを行ってもらうための仕組みづくりにも積極的です。

これらの施策の結果、2016年度は休暇取得日数が前年比21%増加し、2017年度上半期は過重労働社数が30%減少、健康診断の受診率は100%を達成しています。

【参考】「働き方改革」取組事例の業種別(建設業)/愛知労働局

まとめ

  • 建設業の働き方の現状は、長時間労働や週休2日未満など待遇面の課題だけでなく、慢性的な人手不足も深刻な状況です。
  • 「建設業働き方改革加速化プログラム」の柱は、長時間労働の是正、待遇改善・社会保険加入、生産性向上の3つです。
  • 建設業の働き方改革には、労務・施工管理のシステム化、ICT活用による業務負担の軽減、健康経営の実施が有効です。

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