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男性の育児休業取得による企業メリットとは?支援制度・助成金についても紹介

BizHint 編集部 2017年11月21日(火)掲載
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育児休業は「女性だけのもの」ではなく、育児中であれば男性でも当たり前に取得できる労働者の権利です。厚生労働省は2020年までに取得率13%の目標を掲げる一方、依然として進まぬ男性の育休取得。本稿では、その現状と背景、男性が育児休業を取得することのメリット・デメリットを考察します。併せて、男性の育児休業取得の支援制度や助成金についても解説します。

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男性の育児休業について

「男性が育児休業を取得する」ことについて、未だピンとこない方は多いのではないでしょうか。ひと昔前までは「男は仕事、女は家を護る」という考えが主流であり、男性が育児のために休暇をとるなど論外でした。しかしながら、今や女性の社会進出、核家族化、ワーク・ライフ・バランスの社会的認知が進み、男性であっても子育てに関わることが良しとされる時代へと変化しています。

国としても男性の育児休業取得を奨励すべく、平成28年4月に「両立支援等助成金(出生時両立支援コース)」が創設されました。育児休業は、女性だけの権利ではありません。男性が子育てのために、胸を張って使える制度として認識されつつあります。

育児休業とは

育児休業とは、労働者が子の誕生から原則1歳に達するまでの間、育児のために休業できる制度です。1歳に達する日の翌日以降も保育園に入れない等の事情がある場合には1歳6ヵ月まで、その後もやむを得ない事情が継続する場合には最長2歳まで延長することができます。

休業中は会社からの給料が支給されないケースが大半ですが、雇用保険から育児休業給付金を受け取ることができます。また、育児休業期間中の社会保険料(健康保険料・厚生年金保険料)は事業主分、被保険者分共に免除されます。

ちなみに、産前産後休業は出産した女性労働者のみの権利ですが、育児休業は要件を満たす労働者であれば男女問わず取得できます。

【関連】育児休業とは?育児休暇との違い、産前休業~復帰までの流れ、助成金制度まで徹底解説 / BizHint HR

男性の育児休業が推進される背景

中小企業においては未だ取得が進まぬ現状はあるものの、前述の通り、男性の育児休業取得率向上が目指されています。

推進の背景

男性でも育児休業を取得すべきと考えられるようになった背景として、「ワーク・ライフ・バランスの実現」が注目され始めたことが挙げられます。

ワーク・ライフ・バランスとは、仕事と仕事以外の生活との調和を図ることです。これまで当たり前だった仕事中心のライフスタイルは、今では、労働時間の長時間化とそれに伴う健康被害の増加、晩婚化と少子化、生産性の低下や活力の衰退の要因とされています。

昨今の働き方改革では、ワーク・ライフ・バランスの実現を柱の一つと位置付けることで、これら諸問題の解決につなげる考えが示されています。男性の育休取得推進は、まさに仕事と生活の調和を目指す上での重要な施策であると言えましょう。

【関連】ワーク・ライフ・バランスとは?メリットや推進ポイント・問題点や取組事例もご紹介 / BizHint HR

女性の負担軽減

以前は、「子育ては女性の仕事」というイメージが、ごく一般的に社会に浸透していました。しかしながら、最近では女性であっても社会に出て、男性と対等に仕事をする例は珍しくありません。結婚・妊娠・出産を経てもなお働き続ける女性は数を増し、もはや「男性は仕事、女性は家を護る」と括ることは出来なくなっています。

また、核家族化や疎遠地域化の進展に伴い、子育ての形は確実に変化しています。従来、親だけでなく、近隣に住む親族やご近所さんが一丸となり、皆で地域の子供を育てていましたが、こうした古き良き構図は崩れつつあります。特に都市部では親と子のみの世帯が増え、地域とのつながりは希薄です。こうした背景を鑑みれば、子育てに伴う親の苦労が一層大きなものになっていることは明らかです。

子育ては夫婦が協力して行うものとなりつつある今、女性のみにその負担を強いるのではなく、男性も育児休業を取得して積極的に携わっていく姿勢が求められます。

男性の子育て参加促進

日本の子育て事情が変化する中、男性達自身が子育てに積極的に関わっていこうという動きがみられる様になりました。

例えば、企業のトップが率先して「イクボス」を宣言するケースが増えています。イクボスとは、仕事と子育てを自ら率先して楽しみつつ、部下である男性従業員、部下の育児参加を支援する経営者や管理職を指します。2014年3月、いち早く「イクボス・プロジェクト」を始動したNPO法人ファザーリングジャパンの活動への賛同企業には、日本経済を牽引する大手が名を連ねます。

男性の働き方が変わることで、子育ての形は着実に良い方向に変化していくことでしょう。

【参考】NPO法人ファザーリングジャパン:イクボス・プロジェクト

【関連】イクボスの意味とは?誕生の経緯と概要、イクボス宣言をご紹介 / BizHint HR

男性の育児休暇取得率

このように、男性の育児休暇取得は社会的に徐々に受け入れられつつありますが、一方で実際の取得に至るまでには未だ長い道のりがありそうです。厚生労働省の調査結果を元に、現状を考察しましょう。

男女別の取得率格差

厚生労働省が平成29年7月28日に公開した「平成 28 年度雇用均等基本調査」の結果によると、平成 26 年 10 月1日から平成 27 年9月 30 日までの1年間に出産した女性労働者のうち、平成28年10月1日までに育児休業を開始した、もしくは休業取得の申出をした者の割合は「81.8%」であったことが明らかになりました。

女性の育児休業取得率は平成20年以降、常に80%以上の高い数字で推移しており、平成28年度は前年の「81.5%」をわずかに上回る結果となりました。

【出典】厚生労働省:「平成 28 年度雇用均等基本調査」の結果概要

一方、平成 26 年 10 月1日から平成 27 年9月 30 日までの間に配偶者が出産した男性労働者で、平成28年10月1日までに育児休業を開始した、もしくは休業取得の申出をした者の割合は「3.16%」となっています。

調査結果によると、「3.16%」という結果は、平成8年からこれまでの間で過去最高ではあるものの、依然として男性の育児休業取得率は低迷していることが分かります。

【出典】厚生労働省:「平成 28 年度雇用均等基本調査」の結果概要

男性取得率の高い業種とは

同調査では、男性の育休取得の状況が「業種」によって大きく異なることが明らかになっています。男性の取得率が最も高い業種は「金融業,保険業」の12.33%が群を抜いており、次いで「情報通信業(6.01%)」、「学術研究,専門・技術サービス業(5.65%)」と並びます。

一方、「電気・ガス・熱供給・水道業(0.89%)」、「複合サービス業(0.48%)」等、取得率1%以下にとどまる業種の存在にも着目する必要がありそうです。

【出典】厚生労働省:「平成 28 年度雇用均等基本調査」の結果概要

育休がとれない理由

女性の場合、産前産後休業から育児休業への移行がごく自然である一方、出産を経験しない男性が育児のために休業するとなると周囲から「なぜ?」と後ろ指を指される例は、決して珍しいことではないでしょう。そういった意味で、企業においては男性の育児休業取得への理解を促進すること、男性であっても育休を取得しやすい職場環境を作ることに取り組む必要があります。

加えて、「育児休業中の収入減少」は、家計に直接的に影響を及ぼす問題です。昨今、ひと昔前と比較すればずいぶん女性の社会的活躍が認められるようになりましたが、かたや収入面においては未だ男女間に格差が生じる場合が多く、事実、女性の平均賃金は男性のおよそ7割にとどまる旨が厚生労働省の調査で明らかになっています。こうした状況を踏まえると、男性が気軽に育休取得にのりだせない現実が垣間見られるのではないでしょうか。

その他、「職場の人手不足により、業務の引継ぎが困難」「昇進、昇給に影響がありそうだと感じられる」「復職後の降格、降級への不安」「男性自身が子育てに自信がない」等が、男性の育休取得を阻む要因として挙げられます。

【参考】厚生労働省:平成 28 年賃金構造基本統計調査の概況

男性の育児休業取得によるメリット

男性が育児休業することによる懸念事項は数あれど、それでもあえて企業が男性の育休取得を推奨すべき理由があります。ここでは、「仕事へのモチベーション向上」「企業のイメージアップ」「女性の社会進出」の3つの観点から、男性の育児休業取得のメリットを考えていきます。

帰属意識・モチベーションアップ

企業は、男性の育児休業取得を認めることで、社員のロイヤリティの向上、モチベーションアップを図ることができるでしょう。仕事一辺倒の毎日では心が疲弊するばかりですが、たとえ一時的であっても家庭生活中心の生活を送ることで、労働者本人が精神的な安定を得ることができるようになります。結果、「育児休業を認めてくれた会社のためにもっと頑張ろう」と思えたり、気分がリフレッシュされることで一層仕事へのやる気が湧いてきたり、時には新たなビジネスアイディアが生まれたりという効果が期待できます。

また、育児休業取得に前向きな会社は、男性労働者の家族にも好印象を与えます。同じ会社で長期的に働き続けるためには、家族の理解や応援が不可欠です。

少子高齢化の進展により、今後ますます企業における人手不足は深刻化する見込みです。「優秀な男性社員に休業を取得されると、現場が厳しくなる」という意見はあるでしょうが、長期的な観点で言えば、本人の意向通りに育休を取得させ、安心して長く働いてもらえる方が良いでしょう。

対外的なイメージアップ

男性の育休取得実績は、企業イメージの向上に寄与します。平成28年度の調査によると、男性の育休取得実績を有する事業所数は未だ5%程度にとどまり、依然として全事業所数から見ればごく少数です。男性の育休取得実績のある会社であれば、例えば採用活動を行う際、その実績を他社との差別化に活かすことができるのではないでしょうか?

採用活動といえば、最近の新卒採用の傾向として、男女共に「ワーク・ライフ・バランス」を重視する新卒者が増えています。特に女性の中には、会社選びの基準として「くるみんマーク認定」を挙げる学生が出てきていますが、この認定基準のひとつに「計画期間において、男性労働者のうち育児休業等をしたものが 1 人以上いること」という要件が掲げられています(ただし、例外規定あり)。つまり、くるみんマークの認定を受け、子育てサポート企業としてアピールするためには、原則、男性の育児休業取得実績が不可欠なのです。

企業にとって、男性の育児休業の取得奨励は「優良企業の証」となります。今後深刻化する人手不足を鑑みれば、求職者の目を引く要素をひとつでも多く備えておくに越したことはないでしょう。

【出典】厚生労働省:「平成 28 年度雇用均等基本調査」の結果概要

【関連】 「くるみん認定」とは?認定基準や認定企業、プラチナくるみんについてご紹介 / BizHint HR

女性社員の社会進出促進

男性が育児休業を取得することが当たり前になれば、働く女性の社会進出はますます進むはずです。現代では共働き世帯が増加しており、ひと昔前と比べれば、女性だけに子育ての負担が強いられる風潮は少しずつ薄れつつあります。

しかしながら、夫婦共に仕事を持っていたとしても、出産・育児というライフステージの節目に悩むのは、未だ圧倒的に女性側に多いと言えます。この点、男性が共に子育てに携わることができれば、女性はますます社会で輝くことができそうです。

男性の育児休業取得によるデメリット

男性の育児休業取得について、メリットと同時にデメリットにも目を向けておく必要があります。ここに挙げる問題点は、主に社内体制整備への課題であると言えます。想定できるデメリットを把握した上で、的確な対応策を検討しましょう。

労働力の減少

社員が一人抜けることによる人手不足は、職場に大きな影響を及ぼす可能性があります。特に小規模事業所の場合、男性社員一人ひとりが担う業務量が膨大である傾向にありますが、会社としてそのフォローについて十分に検討しておかなければなりません。

職場によっては理不尽に他の社員への負担が増えてしまう例を散見しますが、これでは男性の育休取得は一向に進みません。とはいえ、安易に代替の社員を迎えてしまえば、人員調整が困難になる場合があり、現場においてはなかなか悩ましい問題と言えます。

社内トラブルの危険性

男性が育児休業を取得しようとすることで、社内に不穏な空気が流れる例は珍しくありません。「アイツに育休を取得されたら、自分の仕事量が増えるのではないか」という同僚の懸念や、「男のくせに育休なんて」という上司の無理解、さらに「育休は権利だから」と主張し周囲への配慮に欠ける当の本人等、それぞれのスタンスに社内不和の火種が潜んでいます。

パタハラとは

男性の育休取得が少しずつ増えつつある一方で、積極的に育児に参加しようとする男性社員に対し、育児休業等の制度の利用を認めなかったり、差別的な発言や嫌がらせをしたり、不合理な降格・降給をしたり等の不当な扱いをするケースも数を増しています。こうした扱いは「パタニティ・ハラスメント(以降「パタハラ」という)」と呼ばれ、問題視されています。

こうした状況を受け、平成29年1月に施行された改正育児・介護休業法では、マタニティ・ハラスメントに加え、パタハラに対する防止措置を講じることが事業主に義務付けられました。

【参考】育児・介護休業法のあらまし

社内整備の手間がかかる

その他、男性の育休取得を推進するためには、社内体制を整えておく必要があります。人員減少への対応の他、休業取得から復帰後までの支援、男性が育休取得しやすい風土作り等、検討すべき事項は多岐に渡ります。また、育児に積極的に携わりたい社員のために、労働時間ではなく「成果」を主軸とする評価・昇給制度の設計が必要になってくるでしょう。

通常業務と並行して、これら諸整備の対応を進めることは、ただでさえ人手不足が問題となる中小企業において容易ではありません。

男性の育児休業促進制度/育児休業法

男性の育休取得の推進は、2009年6月24日に成立した改正育児・介護休業法でぐんと進みました。従来、配偶者が専業主婦である場合には労使協定で男性を育休取得の対象外とできていましたが、この点が改正によって廃止されたのです。

また、後述する「パパ・ママ育休プラス」や「パパ休暇」等の諸制度が導入されたのもこの時で、2009年はまさに育児・介護休業法の大改正年であったと言えます。

パパ・ママ育休プラス

育休は原則「子が1歳に達するまでの1年間、取得できる休暇」ですが、父母両方が取得する場合には「子が1歳2か月に達するまで」延長可能となる「パパ・ママ育休プラス」という制度があります。

要件

この制度は「父母が同時に育児休業を取る場合」と「父母が交代で育児休業を取る場合」に利用可能です。女性が育休を取得する場合「産後休業期間とあわせて1年間」が原則ですが、男性も育休をとる場合「子の誕生から1年2ヵ月までの間の1年間」が取得可能な期間となります。

効果

パパ・ママ育休プラスが制度化された目的は、「期間を延長することによる男性の育休取得促進」「女性の職場復帰の際のフォロー体制の強化」等が挙げられます。

男性の育休取得支援制度成立の一方で、平成25年度の調査では、末子妊娠時にパパ・ママ育児プラスを「よく知っていた」と回答した男性正社員の割合はわずか3.6%、育休取得者のうち、実際に「パパ・ママ育休プラスを利用した」と回答した例はわずか4%程度であったことが明らかになっています。

【出典】厚生労働省:平成 25 年度 育児休業制度等に関する実態把握のための調査研究事業報告書

パパ休暇

「パパ休暇」とは、「1回の連続した休業」の取得が原則である育休について、父が配偶者の出産後8週間以内に育児休業を取得・終了した場合に限り、例外的に通算1年を超えない範囲での再取得が可能となる制度です。

要件

パパ休暇を活用する上での要件は、「父の初回の育休が産後8週間以内で終了していること」「再取得した際の期間が、初回の育休とあわせて1年を超えないこと」です。

効果

産後8週間は、出産した女性が母体回復を図る上で重要な産褥期です。この期間、女性に代わって男性が育児を担う目的で育休を取得することは、育児支援のためである以上に、母体保護の観点から不可欠であると言えます。

一方育児休業とは、本来夫婦が育児のために必要なときに利用できるべきものですから、産後のフォローとは若干毛色の異なるものです。配偶者の産褥期以降、男性の育休再取得を可能とすることで、より自由度高く育休を活用できるようになる効果が期待されます。

男性の育児休業給付金について

育児休業中は事業主から給与が支給されないことがほとんどですが、その代わりに雇用保険から育児休業給付金を受け取ることができます。

育児休業給付金の額は、ざっくりいうと「育休開始から180日目までが月給の67%」、「180日目以降が月給の50%」となり、男女に差はありません。ただし、育休中に給与が支払われると、受け取った額によって減額されることがあります。また、雇用保険料については、事業主から給与の支払いを受けた場合には、その支給額に応じた保険料の負担が必要となります。

男性が利用可能なその他育児支援制度/両立支援制度

育児休業の他、男性社員が活用できる育児支援制度はいくつかあります。ここでは、育児・介護休業法に規定される、育児のための「所定労働時間短縮の措置」「時間外労働・所定外労働・深夜業の制限」「子の看護休暇」の他、企業が独自で設ける制度の一例として「育児参加休暇」「配偶者出産休暇」について解説します。

育児短時間勤務

育児・介護休業法では、3歳未満の子を育てる労働者について、1日の所定労働時間を原則6時間とする短時間勤務制度を設けるべき旨が規定されています。この制度の対象は「1日の労働時間が6時間を超える」労働者ですが、労使協定によって「入社1年未満の者」「1週間の所定労働日数が2日以下の者」「業務の性質上、短時間勤務が困難と認められる業務に従事する者」を対象外とすることも可能です。

ただし、短時間勤務制度を設けることが難しい場合、所定の代替措置を講じることが義務付けられています。

【参考】厚生労働省:育児・介護休業制度ガイドブック

時間外労働・所定外労働・深夜業の制限

育児中の労働者は、事業主に請求することで「就業時間」について配慮を受けられます。具体的には、3歳未満の子を育てる労働者は「所定外労働(残業)」、そして未就学児を育てる労働者は「1ヵ月24時間、1年150時間を超える時間外労働」「深夜業」の制限を申し出ることができます。

子の看護休暇

小さな子供は、頻繁に病気やケガをしたり、予防接種や健康診断を受けさせる必要があったりと、病院にかかる必要が多く生じるものです。育児・介護休業法では、未就学児を育てる労働者に対する「1年に5日(子が2人以上の場合は10日)の休暇の取得」が規定されています。子の看護休暇は、原則として1日単位の他、所定労働時間の1/2単位での取得も可能です。

育児参加休暇

2017年10月施行の改正育児・介護休業法では、「育児目的で利用できる休暇制度」の創設が事業主の努力義務として課せられました。その対応策として、子供の行事参加のための休暇や子供の通院・看護のために使える休暇を独自に設定する企業が、大手を中心に増えています。法定休暇ではないため、その要件は各社自由に設定することができます。

配偶者出産休暇

会社によっては、特別休暇として「配偶者の出産」に伴う2日程度の休暇を認めているケースがあります。取得が可能な期間や取得単位、有給・無給の別については、会社規程によります。

両立支援等助成金について

男性の育休取得支援の拡充は、法整備のみならず、助成金制度創設の観点からも進められています。「両立支援等助成金」とは、文字通り、育児・介護と仕事との両立を支援するための制度作りに活用できる雇用関係助成金です。ここでは、男性の育児休業取得奨励に役立つ3つのコースをご紹介します。

出生時両立支援コース

これまでに男性の育休取得の実績がなく、これから社内体制を整え、取得者を輩出していこうという会社が注目すべき助成金です。男性が育休を取得しやすいよう職場環境や諸規程を整え、実際に配偶者の出産後8週間以内に連続5日(大企業は14日)以上の育児休業を取得させた事業主に対し、支給されます。

支給額は、対象労働者一人目で「57万円(大企業は28.5万円)」、対象労働者二人目以降「14.25万円」となっており、生産性要件を満たした場合には上乗せがあります。なお、対象とできるのは一年度に1名までとなっています。

【参考】厚生労働省:両立支援等助成金支給申請の手引き(平成29年度版)出生時両立支援コース

育児休業等支援コース

育休取得者に対し、下記の取り組みを行った事業主に支給されるのが、育児休業等支援コースです。

  • 育休復帰支援プランを策定し、円滑な休業取得と職場復帰を実現した
  • 育休取得者に代わる労働力を確保した

それぞれの概要について、詳しく見ていくことにしましょう。

【参考】厚生労働省:両立支援等助成金支給申請の手引き(平成29年度版)育児休業等支援コース

育休取得時・職場復帰時

男性の育休取得の足かせとなっているのが、おそらく「育休取得と復帰への漠然とした不安」でしょう。こうした不安感を拭うべく、政府では育休前後の業務遂行をスムーズにするために、育休復帰支援プランの策定を推奨しています。本助成金は、個々の労働者に応じた育休復帰支援プランに基づき、育児休業の取得と職場復帰を進めた事業主に対して支給されるものです。

助成金の受給にあたり、まず法定の措置・制度に準じ、社内制度を整備します。その後、育休取得予定者との面談を実施の上、育休復帰支援プランを策定し、業務整理と引継ぎを行い、育休取得させます。育休取得3ヵ月経過後、「育休取得時」の支給申請が可能となります。支給額は一人につき28.5万円で、1企業あたり有期契約労働者と期間に定めのない労働者の各1名ずつを対象と出来ます。

育休終了後6ヵ月間継続雇用すると、「職場復帰時」の支給申請ができます。支給額は「育休取得時」同様、一人につき28.5万円で、1企業あたり有期契約労働者と期間に定めのない労働者の各1名ずつが対象です。なお、労働者の育休取得に伴い、代替の労働力を確保せずに既存の労働者のみで業務に対応した場合には、「職場復帰時」の助成金に「職場支援加算」を受けることができます。

なお、この加算を受ける場合には、業務見直しや効率化、業務代替者への賃金割増制度の確立が客観的に判断できるよう、社内体制を整える必要があります。「職場支援加算」の額は、「職場復帰時」の支給対象者一人につき19万円です。

代替要因確保時

日本労働組合総連合会の調査によると、「男性が育児休業を取得できなかった/取得できない」と思う理由の第1位として、「仕事の代替要員がいないこと」が挙げられています。

こうした状況を鑑み、育休取得者の原職復帰を原則として、新たな雇い入れや派遣受け入れ等により代替要員を確保し、育休終了後に復帰させた場合に支給されるのが「代替要員確保時」の助成金です。本助成金は、就業規則等に、育休取得者の原職もしくは原職相当職への復帰を規定し、3ヵ月以上の育児休業取得後、復帰6ヵ月を経過した時点で申請できます。

支給額は、育児休業取得者一人あたり47.5万円で、有期契約労働者を対象とした場合には一人当たり9.5万円が加算されます。対象者は、一年度あたりのべ10名までです。

【参考】日本労働組合総連合会:パタニティ・ハラスメント(パタハラ)に関する調査

再雇用者評価処遇コース

ライフスタイルに応じ、柔軟にキャリア形成を考えるべきは、今や女性だけではありません。男性であっても、子育てによる離職は当事者意識を持つべき問題であり、当然、離職後のキャリア形成についても検討しなくてはなりません。一番の理想は、育児を理由として一度は退職した場合でも、状況に応じて再び復職できることですが、本助成金を一助として育児による離職者の再雇用を制度化する企業が増えています。

「再雇用者評価処遇コース」は、育児を理由とした退職者を、自社の再雇用制度に基づき、退職前の評価・処遇を勘案の上で再度雇用した事業主に対する助成金です。支給申請の時期は、対象者一人につき2回に分かれており、再雇用1人目については継続雇用6ヵ月後で19万円(大企業は14.25万円)、1年後で再び同額が支給されます。再雇用2~5人目については継続雇用6ヵ月後と1年後でそれぞれ14.25万円(大企業は9.5万円)の支給となっています。

【参考】厚生労働省:両立支援等助成金支給申請の手引き(平成29年度版) 再雇用者評価処遇コース

男性の育児休業取得を後押しする社内整備

現状、「男性の育休取得を奨励したいが、そのために何をすれば良いか分からない」とお悩みの事業主は少なくないかもしれません。また、これまでに男性の育休取得実績がなくとも、今後「希望者が出て、早急に準備を進めなくてはならない」という状況に陥る可能性はどこの会社にもあることです。

今や、男性社員に対して「育児休業なんて・・・」と言い放つことは出来ない時代です。いつ対象者が現れても対処できる様、社内体制を整えておくことは不可欠であると言えます。

就業規則の整備

社内ルールの整備は、就業規則の見直しから始まります。まずは既存の育児・介護に関する規程を見直し、その内容が法に合ったものかを確認しましょう。育児・介護はたびたび法改正が行われる分野なので、規程があっても、改正に対応できていない例を散見します。社内規程を法律にあわせた上で、法定の内容に“+α”する形で制度を設けるのか、それとも会社独自の制度を作るのか等の必要性を検討していきます。

完成した制度は、労働者への周知を徹底することが大切です。制度だけ作ってそのままでは、必要な時に機能せず、何の意味もありません。会社として男性の育休取得に前向きであることをアピールすることで、育児休業を取得しやすい職場風土を築いていきましょう。

育児休業の規程がない場合

「そういえば、我が社には育児・介護休業規程がない」という会社も珍しくはないかもしれません。しかしながら、労働基準法上、「休暇」に関わる事項は絶対的必要記載事項に定められているため、育児・介護休業関連の規定は設けておくべきです。早急に準備を進めましょう。

万が一、規程がない状態で育休取得希望者が現れた場合でも、育児・介護休業法の定めに則って休業を与えなければならず、会社はこれを拒否することは出来ません。

【関連】就業規則の変更が必要となるケースとは?ケース別対応法や必要な書類、手続きのポイントをご紹介/BizHint HR

業務分担の適正化

いざ男性の育休取得希望者が現れたら、まずは今後の業務分担について検討を進めます。育休取得までの業務引継ぎの段取り、育休中の業務分担、育休明けの復帰予定先について、労働者本人とよく打ち合わせておきましょう。育休復帰支援プランを策定し、より具体的に話し合っておくことで、労使トラブルを回避することができます。

併せて、休暇取得中、業務を担うことになる同じ部署やチームのメンバーへの配慮も忘れてはなりません。十分な説明はもちろん、必要に応じて手当を支給する等して、育休取得者のためのフォローに対して理解を求めます。ただし、あまりにも周囲の業務負荷が問題となるようであれば、新たな採用や派遣の受け入れによって人を増やすことも必要です。

社員スケジュールの共有

育児休業の取得が決まったら、いつから休業に入るのか、復帰はいつ頃か、そのためにどのように業務分担を進めるのか等のスケジュールを明らかにしましょう。業務スケジュールの共有は、育休取得者本人と上司だけでなく、業務分担に関わる同僚やチームも対象にして幅広く行うことで、現場の混乱を回避することができます。

これとは別に、育休取得に伴い必要な手続きと時期を本人と担当部署とで確認し、間違いなく育児休業給付金を受け取れるようにしましょう。

会議・打ち合わせの効率化

育児休業前後は、社員にとって働き方を見直すターニングポイントです。これまでは仕事中心の生活だった人でも、子が誕生すれば、極力子供のために費やす時間を確保したいと考えるのが自然ですし、時としては突発的な事由により子を優先せざるを得ない状況が生じることもあるでしょう。

ここで重要になってくるのが「業務効率化」です。この部分は労働者個々の問題とも言えますが、本人一人では完結しない「会議や打ち合わせのやり方の見直し」は、育休取得奨励策の一環として会社が率先して取り組むべき事項です。

会議や打ち合わせの頻度、進め方等の改善はもちろん、都度、テーマと参加者の選定、資料の事前提示を徹底していくことも効果的でしょう。また、場合によってはWEB会議を可能にする等の工夫が功を奏すこともあります。

【関連】「生産性向上」は日本経済の課題!知っておきたい法律や改善方法、導入事例をご紹介 / BizHint HR

ジョブローテーション

育休取得を推奨したい企業が、今後社内で取り組むべきは「ジョブローテーションの活性化」です。ジョブローテーションとは、労働者をひとつの業務にとどまらせず定期的に異動させることで、これまでは「能力開発」の手段として実践されてきました。しかしながら、この手法を活用することで、男性の育休取得をしやすくする以下の効果が期待できるのです。

  • 仕事の属人化を脱し、担当者がいなくとも代替者がチームを組んで仕事を進めることが可能になるため、第一線で働く男性社員であっても育児休業を取得しやすくなる
  • 休業以前のように働けなくなっても、育児休業明けに状況に合った柔軟な働き方が認められやすくなる

【関連】ジョブローテーションの意味とメリット・デメリット、目的や制度、事例 / BizHint HR

社内研修の活用

男性の育児休業取得を後押しするためには、何と言ってもそこで働く各人の理解が不可欠です。定期的に社内研修を実施し、労働者すべてが育児と仕事の両立、ワーク・ライフ・バランスの実現に目を向けられる職場作りを進めていきましょう。

社内研修に役立つ資料は、『イクメンプロジェクト』ポータルサイトよりダウンロード可能です。

【参考】厚生労働省:イクメンプロジェクト/男性の育休に取り組む社内研修資料について

まとめ

  • 「育児休業」は、男女を問わず取得可能な労働者の権利です。昨今の働き方改革において、男性の育休取得が推進されていますが、実際の取得率は依然として2~3%の低い数字で推移しています。
  • 男性が育休を取得することによるメリットとして挙げられるのは「社員自身が、会社や仕事に対して前向きな気持ちを取り戻すことができる」「会社のイメージアップにつながる」「女性の社会進出を応援できる」等です。一方、デメリットとしては「働き手の減少」「パタハラの危険性」「社内整備の必要性」等を挙げることができます。
  • 男性の育休取得のために法整備が進められ、2009年には「パパ・ママ育休プラス」「パパ休暇」の制度が導入されました。また、最近では、会社独自で育児のための制度を設けているケースもあります。
  • 男性の育休取得を進めるために、会社として適切な社内整備に努める必要があります。

<執筆者>
丸山博美 社会保険労務士(HM人事労務コンサルティング代表)

津田塾大学学芸学部国際関係学科卒業。一般企業(教育系)勤務時代、職場の労働環境、待遇に疑問を持ち、社会保険労務士を志す。2014年1月に社労士事務所「HM人事労務コンサルティング」を設立 。起業したての小さな会社サポートを得意とする。社労士業の傍ら、cotoba-design(屋号)名義でフリーライターとしても活動中。


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