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2018年11月1日(木)更新

固定残業代

固定残業代とは、毎月定額で支払われる残業代のことです。「みなし残業代」「定額残業代」とも呼ばれます。通常の残業代は、実際の残業時間に連動して毎月の額が変わります。しかし必要事項を定め的確な運用を行うことで、残業代を固定の額で支払うことが認められています。ここでは、固定残業代のしくみ、導入や運用の方法、固定残業代が否認されるケースなどについて説明します。

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固定残業代とは 

固定残業代とは、あらかじめ一定の時間外労働や深夜労働等を想定し、その労働に対する割増賃金を、毎月固定の額で支払うものです。「定額残業代」「みなし残業代」とも呼ばれます。

固定残業代のしくみ

本来、残業手当は「5時間残業したら5時間分」「30時間残業したら30時間分」など、給与支給の都度、計算して支払うものです。そのため、残業手当の額はその残業時間に連動して毎月変わります。休日労働や深夜労働についても同様です。

しかし一定時間の時間外労働や休日労働、深夜労働を見込んで、「40時間分の時間外労働手当」「10時間分の深夜労働手当」というように、毎月同じ額で支払うことが認められています。これが「固定残業代」です。

固定残業代には、次の形態がみられます。

  1. 固定残業代を別手当とせず、基本給などの中に組み込むもの(組込型)
  2. 固定残業代を、「時間外手当」「業務手当」などの独立した定額手当として支給するもの(手当型)

不適切な運用のリスク

労働基準法の条文には「固定残業代」「定額残業代」という言葉は出てきません。固定残業代は、法令上の制度ではないからです。

しかし固定残業代制度そのものが違法というわけではありません。適切な運用をしていることを前提として、“残業手当を定額で支払うことを認める”という扱いがされています。

しかし、その「適切な運用」がされていないケースが多々あり、従来から問題とされてきました。「通常賃金部分と固定割増賃金部分が明確にされていない」「固定残業時間を超えて時間外勤務をしても超過分の割増手当が支払われない」など、不適切な運用をしている企業が多いのです。

不適切な運用をしていると、その“固定残業代”の残業手当としての性質が否認され、会社が全く残業代を支払っていなかったと解釈されることになります。更に、その“固定残業代だと考えていた手当”自体も基礎賃金に算入されるため従業員の時間単価が高くなり、その時間単価で計算した未払残業代を支払わなければならなくなるのですから、会社の損害は極めて大きなものとなってしまいます。

このような事態を避けるため、固定残業代制度を使う場合は、それが固定残業代として有効と認められるよう、適切な運用をする必要があります。

固定残業代の有効性判断

では固定残業代が有効か否かは、どのような事項によって判断されるのでしょうか?

現在は、「テックジャパン事件(最高裁H24.3.8判決)」の補足意見内で示された次の考え方が、重要な判断材料となっています。

  • 固定残業時間と固定残業代が雇用契約上明確にされ、給与支給時にも支給対象の残業時間と残業手当の額が、労働者に明示されていること
  • 固定残業に含まれる時間を超えて残業をした場合は、超過分を上乗せして支払う旨をあらかじめ明示していること

【参考】テックジャパン事件 最高裁第一小法廷 平24.3.8判決(二審判決一部破棄差戻し) - 重要労働判例特集

固定残業代についての通達

そして平成29年7月には、固定残業代についての通達も出されています。(H29.7.31基発0731第27号「時間外労働等に対する割増賃金の解釈について」)

この通達では、固定残業代について次の解釈が示されています。

  • 時間外労働等に対する割増賃金を定額で支払う場合は、通常の労働時間の賃金に当たる部分と割増賃金に当たる部分とが明確に区別できるようにされていなければならない
  • 割増賃金に相当する部分の金額が実際の時間外労働等の時間を下回る場合は、差額を追加して、所定の賃金支払日に支払う必要がある

この通達でも、テックジャパン事件と同様、「通常部分と固定残業部分の明確な区分」「固定残業時間を超過する労働分について別途手当を支払うこと」が、固定残業代制度運用時の重要事項である旨が示されています。

固定残業代制度の正しい運用方法

では、固定残業代制度を運用する際の必要事項について、もう少し具体的にみていきましょう。

固定残業時間と固定残業代を明示する

固定残業代の内容として、「〇時間分の残業に対して、残業代として〇円を支払う」ということを、従業員に明示する必要があります。

就業規則の一例として、次のような文言が考えられます。

営業手当は20時間分の時間外割増賃金として支給するものとし、手当額は個別の労働契約書により明示する

“営業手当には時間外労働手当を含む”といった曖昧な文言を使うと、営業手当が固定残業代として認められない可能性が高いといえます。時間外労働時間や時間外労働手当の額が、明確にされていないからです。尚、ここでは営業手当という名称を用いましたが、「業務手当」「時間外手当」等、固定残業代には様々な名称が用いられています。

労働者への周知の義務

固定残業代制度を導入した場合は、就業規則に明記し、従業員に周知しなければなりません。また個別の労働契約書においても、「〇時間分の残業に対する手当として〇〇円を支払う」というように、時間数や金額を明示する必要があります。さらに給与を支払う際も、給与明細には「固定残業手当」「固定時間超過分の手当」等の記載が必要です。

このように、固定残業代制度を運用する際は、労働者側への明確な表示が要求されます。

固定残業の時間(みなし時間)と実労働時間が異なる場合

「〇〇手当は30時間分の時間外割増賃金として支払う」という就業規則等の定めがある場合でも、毎月の残業時間が30時間ちょうどとは限りません。

次は、固定残業時間と実労働時間が異なる場合の扱いについて説明します。

実労働時間がみなし時間を下回った場合

1ヶ月30時間分の時間外労働手当が70,000円である従業員を例にとってみましょう。

この従業員が30時間の残業をした場合の残業手当は、当然、固定残業代と同じ70,000円です。ではこの従業員の1ヶ月の時間外労働が20時間だった場合はどうなるのでしょうか?

答えは、30時間の残業をした場合と同じ「70,000円」です。全く残業をしていない場合でも「70,000円」となります。

固定残業代というものは、上の例で言えば「時間外労働が30時間に達するまでは」固定の額なのです。そのため、賃金支払期の途中での入退社があり日割計算を行う場合でも、別途「固定残業代も日割計算を行う」といった取り決めがない限り、固定残業代は満額を支払うことが原則です。

実労働時間がみなし時間を上回った場合

残業時間がみなし時間を上回ったときは、上回った分の割増賃金額を別途支払わなければなりません。

固定残業時間が30時間と設定されている従業員の場合、実残業時間が40時間の月については、固定残業代に含まれていない10時間分は、追加で支払う義務があります。

固定残業代のメリット

現実問題として、固定残業代導入の目的が「人件費の増大の抑制」という企業は数多くあります。

少し前までは「残業をしても残業代は支払わない」という暗黙の了解のある企業が少なからず存在していましたが、時代の変化に伴って労働者の権利意識が強くなり、そのような違法状態が放置できない状況になりました。しかし残業代を支払うことを決めても、すぐに残業代の原資を準備できる会社は稀です。そこで、法令遵守と人件費の現状維持を両立させるために固定残業代制度を使い、現行の賃金内に残業手当を設定する方法が採られることがあります。

また、求人広告を出す際に、見た目の支給額を増大させる目的で固定残業制度を使う企業も存在します。

このように説明すると、固定残業代はブラック企業のツールのように聞こえてしまうかもしれませんが、固定残業代の制度自体は決して悪いものではありません。ここでは、固定残業代のメリットを挙げてみます。

経営者が的確に人件費を把握できる

会社経営には人件費の把握が必要です。従業員の賃金を決め、労働保険料や社会保険料といった法定福利費を割り出し、キャッシュフローをみていきます。

このとき、仮の残業時間を想定して浮動的な計算をするよりも、固定残業代をあらかじめ給与に組み込んで考えた方が、先々の予測の正確性が増し、人件費把握のぶれが少ないと考えられます。

労働者の雇用環境整備 

固定残業代制度を採り入れることで、労働者の収入の変動が少なくなります。

会社の業績や繁閑は個々の従業員がコントロールできることではありませんから、途中でパタッと時間外労働がなくなることもあり得ます。このとき固定残業制度がなければ、従業員の収入は大きく減少するでしょう。

しかし残業手当が定額であれば、従業員の給与はある程度安定します。このように固定残業代制度は、従業員の雇用環境整備にも役立つものなのです。

時間外労働の抑制につながる

また固定残業代制度は、長時間残業の抑制につながることもあります。

「30時間分の固定残業代」がある場合、10時間の残業でも30時間の残業でも、手当額は同じです。そうであれば「無駄に残業時間を長引かせず、テキパキ仕事をして早く帰ろう」と思う従業員も少なくないはずです。結果、従業員の仕事の能率が上がり、時間外労働の減少、労働生産性の向上にもつながっていくと考えられます。

不測の残業代請求への備え

最後に、少し変形的な例を挙げます。始業前や終業後の時間外労働がほとんどないような会社でも、昼の休憩中に仕事をせざるを得ない場合があります。電話応対や不慮の来客などで、休憩時間がどうしても中断されてしまうのです。

タイムカードでは始業時刻と終業時刻は把握できますが、休憩時間が把握しきれないことがあります。しかし休憩時間中の労働でも労働には違いなく、フルタイム勤務であれば結果として時間外労働が発生することになります。そして、このような残業を記録しておき、退職後に時間外手当の請求をしてくる従業員もいるのです。

こうしたことに対応するために、少額の固定残業代を出している会社もあります。もちろん従業員にはその旨と、対応する時間や金額を明示します。少額な固定残業代にはなりますが、不測の残業代請求への備えともなり、また「休憩時間の電話対応などもみていてくれるのだな」と、従業員のモチベーション維持にも効果があると考えられます。

固定残業代制度の導入

次に、実際に固定残業代制度を導入する場合の手順をみていきましょう。

固定残業代制度の概略の設定

まず、会社がどのような固定残業代制度を導入するのかを決定します。固定残業時間は何時間にするか、組込型・手当型のどちらにするかなどです。

固定残業時間は、会社が自由に設定することができます。20時間でも40時間でも構いません。ただし36協定の上限が45時間であることから、この時間を超えないようにした方がよいでしょう。しかし「60時間」と設定しても、直ちに違法となるわけではありません。

【関連】36協定とは?残業時間のしくみや特別条項・届出・違反まで徹底解説 / BizHint HR

従業員への説明・同意

そして、固定残業代を導入することを従業員に説明します。

固定残業代という制度は、基本的には従業員に有利なものですから、残業手当を別途支払っている会社であれば、制度の導入は問題なく受け入れられるでしょう。

しかし、現在の給与の中に無理やり固定残業代を設定する場合は言うに及ばず、「年俸には固定残業代を含む」といった曖昧な制度を適正化する場合なども、労働条件の不利益変更を伴うことがあります。このような場合は、従業員に詳細な説明をした上、書面による個別同意を取る必要があります。

また、固定残業代制度の導入後に雇い入れる従業員については、雇用契約書に固定残業時間や固定残業の額などを明記することとなります。

就業規則等の変更

固定残業代制度の導入に伴い、就業規則を変更する必要があります。

固定残業代については、固定残業時間や額の明記など、具体的で明確な表記が求められます。「業務手当には時間外手当を含むものとする」といった曖昧な表現を使用すると、固定残業代の残業代性の否認につながりますので、注意してください。固定残業時間を超えた残業をした場合は超過分を支払う旨も、明記しておきます。

また、雇用契約書や給与明細のフォームも、固定残業代制度に合致するよう改定しておく必要があります。

もちろん、残業がある以上は、36協定の締結は必須です。

【関連】就業規則の変更が必要となるケースとは?ケース別対応法や必要な書類、手続きのポイントをご紹介 / BizHint HR

固定残業代の計算方法

固定残業代の計算には、①現在の給与に固定残業代をプラスする場合と、②既に設定されている給与総額を変えずその中に固定残業代を入れ込む場合の2種類があります。

①現在の給与に固定残業代をプラスする場合の計算式

  • 固定残業代=時間単価×固定残業時間×割増率

【①の計算例】

1ヶ月の賃金500,000円の従業員に30時間分の固定残業代を設定する場合 (基本給のみ、1ヶ月平均所定労働時間160時間、時間外労働手当を固定残業代とする)

固定残業代(500,000円÷160時間※時間単価)×30時間×1.25≒117,188円

②給与総額に固定残業代を入れ込む場合の計算式

この場合、給与総額を固定残業代と基本給に分ける必要があります。

  • 固定残業代=給与総額÷(1ヶ月平均所定労働時間+固定残業時間×1.25)×固定残業時間×1.25
  • 基本給=給与総額-固定残業代

【②の計算例】

1ヶ月の賃金500,000円の従業員に30時間分の固定残業代を設定する場合 (基本給のみ、1ヶ月平均所定労働時間160時間、時間外労働手当を固定残業代とする)

固定残業代 500,000円÷197.5※×30時間×1.25≒94,937円
※160+30時間×1.25

基本給 500,000-94,937円=405,063円

固定残業代が違法になるケース  

最後に、固定残業代の適切な運用がされず、割増賃金の性質が否認されやすいケースを挙げていきます。

固定残業代の金額・時間の記載が不明確

就業規則や労働契約書の表記が、「年俸には固定残業代を含む」「業務手当は固定残業代の性質がある」といった曖昧な文言である場合、固定残業代の割増賃金としての性質が認められない可能性があります。

繰り返しになりますが、固定残業代制度を運用する場合には、「通常の賃金と固定残業代」「通常の労働時間と固定残業時間」を明確に区分し、労働契約書などに記載する必要があります。

超過分の残業代を支払わない 

「うちの会社は固定残業代制度だから、いくら働かせても追加の残業代を支払う必要はないよ」という経営者もいるようですが、その認識は完全に間違っています。固定残業代を支払っていても、対応残業時間を超えて残業をさせた場合は、超えた分の残業手当の支払いは免れません。

30時間分の固定残業代が設定されている会社で、35時間の時間外労働をしたら、5時間分は別途時間外手当を支払わなければなりません。この5時間分を支払わないと、残業代未払いの扱いとなってしまいます。

労働時間管理がされていない

固定残業代制度を導入している会社でも、従業員の労働時間管理は必要です。『実際の残業時間に関係なく手当は同額だから、時間管理はしなくてよい』ということはありません。固定残業時間を超過した残業については別途手当を支払う必要がありますし、労働者の安全衛生の観点からも労働時間管理は必ずする必要があります。

平成29年7月の通達(H29.7.31基発0731第27号「時間外労働等に対する割増賃金の解釈について」)においても、固定残業代運用下でも労働時間の適切な把握が必要である旨がうたわれています。

固定残業代を設定した結果、最低賃金を下回った  

現在の給与総額を変えずその中に固定残業代を設定する場合は、給与単価が低下します。その結果、最低賃金を下回ってしまうことがあります。最低賃金額は都道府県によって異なるため、事業所が複数ある会社の場合は県ごとの最低賃金チェックをする必要があります。

最低賃金を下回ってしまったときは、「固定残業時間を引き下げる」「給与単価自体を引き上げる」などの措置を講じ、最低賃金法に抵触しないよう注意してください。

【関連】最低賃金とは?制度や種類、東京都の推移例、罰則までご紹介 / BizHint HR

周知義務を果たしていない  

固定残業代制度を導入した場合、個別の雇用契約書や就業規則に内容を明示する必要があります。

就業規則により固定残業代制度を明示する場合、就業規則自体が変更され所轄労働基準監督署への届出がなされていても、従業員への周知が行われていなければ、その就業規則は効力が認められません。そのため、固定残業代制度を導入し就業規則を変更したときは、事業所への備付や従業員への配布などの方法により、周知義務を果たす必要があります。

まとめ 

  • 固定残業代を採用・運用する場合は、通常の賃金部分と固定残業代部分を明確に分ける必要があります。
  • 固定残業代を導入している場合でも、固定残業時間を超えた残業に対しては、別途割増賃金を支払わなければなりません。
  • 固定残業代を採用していても、従業員の労働時間は把握している必要があります。
  • 固定残業代は、適正な運用を行わないと効力が否定され、企業は大きな損害を受けることがあります。

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