close

はじめての方はご登録ください(無料)

メニュー

BizHint について

カテゴリ

最新情報はメールマガジン・SNSで配信中

給与前払い

2018年11月20日(火)更新

給与の前払い制度とは、アルバイトを中心に人気を集めている日払いなどの即時払いに対応するための制度です。これを導入するためには専門のサービス提供会社を利用することが一般的ですが、導入を検討する企業担当者は、労働基準法の賃金支払いの原則なども理解したうえで、法的に問題のない自社に合ったサービスを選択する必要があります。

給与前払いとは

給与の前払いとは、手続き的には、会社が従業員の請求に基づき、既に労働した分の給与を支給日よりも前に支払うことです。

古くから、財政的に困窮した従業員が会社からお金を借りることはありましたが、若者のライフスタイルの変化や非正規労働者の増加、また、賃金水準の低下などを背景に、日払いなどの即時払いのニーズが高まり、給与の前払い制度が各企業において注目されています。

前払いと前借りの違い

給与の「前払い」と「前借り」は、どちらも同じ意味で使われることがありますが、本来の意味は異なります。

この記事で説明する「前払い」とは、従業員が既に労働した分の給与を支給日よりも前に支払うことであり、「前借り」(会社側からみれば前貸し)とは、従業員がこれから働いて得られる給与を翌月以降の給与を担保としてお金を借りることを指します。 給与前払い制度は、あくまで会社の福利厚生の一環として導入する制度であり、従業員が会社からお金を借りる制度ではありません。

給与前払いが注目される背景

2017年に人材紹介サービス会社が行った、アルバイトの給料に関する意識調査によると、給料で重視することの上位は、「金額の高さ」や「仕事内容とのバランス」、「各種手当の有無」、そして、「日払い・週払いOK」で占められており、「日払い・週払いOK」を重視する者のうち、約半数が日払いを希望しているとの結果が出ています。

【アルバイトの給料で重視すること(複数回答あり)】

【出典】【エン・ジャパン】「アルバイトのお給料」意識調査

【「日払い・週払いOK」を重視する者が希望する支払い方】

【出典】【エン・ジャパン】「アルバイトのお給料」意識調査

日払いや週払いなどが求められているのは、急な出費に対応しやすいためであると推察されますが、現状、多くの求人情報サイトなどでは、日払いや週払い、また、前払いが可能であるかどうかのチェック項目があるほど人気の制度になっています。

このような流れを受けて、これまで月払いのみとしていたアルバイト(長期的雇用を前提としたもの)にも日払いや週払いのような支払い方法を含む前払い制度を導入する企業が増えてきており、中には正社員も利用できる制度とする企業も出てきています。

【参考】日払い給料、正社員にも広がる 思わぬ出費も安心/NIKKEI STYLE

企業の導入状況

給与の前払い制度は、多くのアルバイトやパート従業員、契約社員などを雇用している企業を中心に広がりを見せています。

2005年に給与前払いサービス「前給」を開発し、ビジネスモデル特許を取得している旧東京都民銀行(現きらぼし銀行)によると、このサービスの契約社数、登録者数は以下のとおり毎年増加傾向であるとしています。

【参考】前給/きらぼし銀行

また、この「前給」は以下のような大手企業で導入されていることが公表されています。 主に飲食チェーン店などが中心となっているため、人手不足に対応した導入であるものと考えられます。

  • 日本マクドナルド株式会社(飲食業)
  • 株式会社すかいらーく(飲食業)
  • 株式会社モンテローザ(飲食業)
  • 京王プラザホテル(ホテル業)
  • キリンシティ株式会社(飲食業)
  • 株式会社コロワイド(飲食業)
  • アリさんマークの引越社(引越運送業)

【参考】導入企業一覧/きらぼし銀行

給与前払いのメリット

アルバイトやパート従業員などの非正規労働者を中心に給与の前払いが求められているのは前述のとおりですが、そのような体制を整えることで、会社側には次のようなメリットがあります。

求人応募者の増加

給与前払いのサービス提供会社によると、求人媒体において人気検索ワードである「日払い」の表記をするだけで、求人応募者が3.7倍になるというデータが公表されています。

それだけ日払いを希望する者が多いということですが、給与前払い制度があることをアピールすることで、人手が不足している業界でも求人応募者を増加させ、優秀な人材を獲得しやすくなります。

【参考】Payme(ペイミー)/株式会社ペイミー

定着率の向上

入って1か月程度で辞めてしまうことの多いアルバイトも、給与前払い制度あることで、働くモチベーションになり、結果的に長期雇用につながる(制度導入前と比べて定着率が約2倍)というデータもあります。また、急な出費などを理由とした別の日払いアルバイトとの掛け持ち(最悪の場合、辞めてしまうことも)も防ぐことができます。

【参考】Payme(ペイミー)/株式会社ペイミー

採用コストの削減

採用コストとは、求人情報サイトへの掲載料や人材紹介会社への成功報酬、社内人事担当者の採用活動にかかる人件費などです。求人応募者が増加し、定着率も向上すれば、求人情報サイトの利用をある程度絞り込み、社内人事担当者の採用活動も縮小させることで、採用コストを削減することができます。

業務効率の向上

定着率の向上は、各従業員の雇用期間が長期化することを意味しますが、これにより各従業員のスキルもアップし、業務効率の向上が期待できます。また、アルバイトの頻繁な入れ替わりに伴う教育や研修にかける時間が減少することにより、本来業務に集中できるようになります。

給与前払いと労働基準法との関係

給与前払い制度は、このあと説明するサービス提供会社と契約して導入することが一般的ですが、このサービスは比較的新しいものであるため、しばしば労働基準法との整合性が問題になることがあります。

給与前払い制度の導入にあたっては、これらの点も十分に理解しておかなければなりません。

賃金支払いの5原則

労働基準法では、賃金の支払いについて、次の5原則を遵守しなければならないとされています。

  1. 通貨払いの原則
  2. 全額払いの原則
  3. 直接払いの原則
  4. 毎月1回以上払いの原則
  5. 一定期日払いの原則

簡単にまとめると、賃金は通貨でその全額を労働者に直接支払わなければならず、毎月一回以上、一定の期日を定めて支払わなければならないというものです。これには例外もあり、「全額払い」については、法令による定め(税金、社会保険料などの控除)や労使協定があれば給与から控除することが認められていますし、「直接払い」についても従業員の同意があれば、銀行口座などに振り込むことなども認められています。

給与前払い制度をこの賃金支払いの5原則と照らし合わせて、特に問題視されるのは、給与前払いのサービス提供会社が前払い分を立て替えて従業員に支払い、サービス導入会社が給料日に前払い分に加えて数パーセントの利用手数料を天引きしているようなケースです。この場合、給与の一部を第三者であるサービス提供会社が支払うことは直接払いの原則に、また状況によっては、給与から利用手数料を天引きすることは全額払いの原則に抵触する可能性があるのではないかということです。

サービス提供会社の利用手数料が高額で、立て替えではなく貸金とみなされれば、サービス提供会社の貸金業登録の有無など、労働基準法以外にも問題となることもあり得ます。

【関連】賃金支払いの5原則とは?労基法の内容や例外、違反時の罰則をご紹介/ BizHint

非常時払いの原則

使用者(会社)は、労働者が次のような非常時の費用に充てるため、賃金の支払いを請求する場合には、支払期日前であっても、既に働いた分に対応する賃金を支払わなければならないとされています。

労働者本人または労働者の収入によって生計を維持する者が、

  1. 出産した場合
  2. 疾病にかかった場合
  3. 災害を受けた場合
  4. 結婚した場合
  5. 死亡した場合
  6. やむを得ない事由により一週間以上にわたって帰郷する場合

労働基準法に給与の前払いについて規定されているのは、この非常時払いの原則のみです。給与前払い制度は、会社の福利厚生の一環として導入するものですが、上記に該当する場合には、会社は必ず前払いに応じなければならないということです。

前借金相殺の禁止

使用者(会社)は、前借金やその他労働することを条件とする前貸の債権と賃金を相殺してはならないとされています。つまり、従業員が会社から給与を前借りしたような場合に、会社側の判断のみで貸した分と給与を相殺することはできない(従業員の希望により相殺することは可能)ということで、金銭貸借関係の基づく強制労働の排除と、退職の自由の確保を目的として規定されているものです。

なお、「前借金」とは、冒頭に説明したとおり、従業員がこれから働いて得られる給与を翌月以降の給与を担保としてお金を借りることで、給与前払い(前述の非常時払いも含む)のように既に働いた分の給与を支給日前に支払いを受けるものとは異なります。

給与前払いのサービス提供会社

給与前払い制度を自社で独自に導入、運用していくことも不可能ではありませんが、日々発生する前払い手続きをその他の業務もある中で対応していくのは容易なことではありません。このため、制度導入にあたっては、各従業員の勤怠実績をサービス提供会社のシステムなどで共有(前払いにあたり、勤怠実績を確認する必要があるため)し、前払い手続きを代行してもらうことが一般的です。

ここでは、いくつかのサービス提供会社をご紹介します。

Payme(ペイミー)

企業側の導入コストが一切かからないこと、また、システム操作のしやすさと万全のサポート体制が人気のサービスです。主に次のような企業メリット、従業員メリットがあります。

  • 初期費用、月額費用が不要。(ただし、初期費用が不要であるのは期間限定)
  • 導入企業毎にサポート担当者(1名)がつき、不明な点があればすぐに確認できる。
  • 従業員はパソコンやスマートフォン、ガラケーなどインターネット環境があればどこからでも申請でき、最短で当日、口座(既に持っているもので可)に振り込まれる。

【参考】【人事・経営者必見】日本の給与を、もっと自由に。給与即日払いサービスPayme

CYURICA(キュリカ)

事前申請の必要がなく、発行されるカードにより対応ATMから引き出せるという他社とは異なったサービスです。主に次のような企業メリット、従業員メリットがあります。

  • 初期費用が不要で、月額システム利用料のみで運用できる。
  • 従業員の負担はATM手数料のみ。
  • 従業員は自身の口座を使用することなく、発行されるカードにより対応ATM(全国65,000台以上)からいつでも引き出すことができる。

【参考】CYURICA(キュリカ)/株式会社ヒューマントラスト

エスプリ

従業員の利用料を企業側も負担することで、従業員の負担を抑えたサービスです。主に次のような企業メリット、従業員メリットがあります。

  • 初期費用や月額基本料に加え、1回の申請につき企業側も利用料がかかるが、比較的低価格に設定されている。
  • 企業側も利用料を負担するため、従業員が負担する振込手数料は前払い額にかかわらず、定額になっている。
  • 従業員は新たに口座を開設する必要はなく、既に利用している口座に振り込んでもらえる。

【参考】給与前払いシステム エスプリ/株式会社シスプロ

前給

きらぼし銀行(2018年5月1日に東京都民銀行、八千代銀行、新銀行東京の3行が合併して発足したもの)が展開しているもので、旧東京都民銀行が2005年6月にビジネスモデル特許を取得している実績のあるサービスです。主に次のような企業メリット、従業員メリットがあります。

  • 初期費用が不要で、月々わずかな手数料で運用できる。
  • 従業員側が負担する手数料も比較的低額に設定されている。
  • 従業員は必ずしもきらぼし銀行の口座を開設する必要はないが、開設すると手数料が安くなる。
  • 従業員はパソコンやスマートフォン、ガラケーなどインターネット環境があればどこからでも申請でき、最短で翌日、口座に振り込まれる。

【参考】前給/きらぼし銀行

サービス提供会社の利用に関する注意点

給与前払い制度は、一般的に上記のようなサービス提供会社と契約して導入、運用していくことになります。ここでは、サービス提供会社の選択やその他いくつか注意しなければならない点について説明します。

サービス提供会社の選択

給与前払いサービスを提供する会社は、いわゆるフィンテック企業や金融機関になります。

フィンテック(FinTec)とは、金融のファイナンス(Finance)と技術のテクノロジー(Technology)を組み合わせた造語ですが、給与前払いサービスのほか、ソーシャル・レンディング(金銭の貸し借りを仲介するインターネットサービス)やスマートフォンの電子決済などの事業を展開している企業のことで、ここ数年で大幅に増加しています。

ただし、ベンチャー企業が多いため、その選択にあたってはできるだけ実績があり、従業員の利用手数料などの負担が少ないところにすべきです。

勤怠管理の必要性

給与前払い手続きをサービス提供会社に委託するにあたり、多くの場合、各従業員の氏名や勤怠実績、口座番号などをサービス提供会社のシステムなどで共有することになります。特に、勤怠実績は定期的にデータなどで提供しなければなりません。(サービス提供会社によってその提供方法や共有方法は異なります)

勤怠実績を共有する必要があるのは、先に説明したとおり、給与の前払いが既に働いた分の支払いになるからですが、そもそも、各従業員の勤怠管理ができていなければなりません。

従業員の手数料負担

多くのサービス提供会社では、従業員が給与の前払いを利用する度に利用手数料がかかります。この利用手数料の額は、前払い分の給与を自社で用意するのかサービス提供会社が立て替えるのかによっても変わってきますが、後者の場合にはより高い割合の利用手数料を請求される場合もあり、年利で換算すると、消費者金融以上の高金利であるとの指摘もあります。

前払い分の給与をサービス提供会社が立て替えてくれれば、導入企業としては手続きも減りますが、導入コストだけでなく、従業員が負担することになる利用手数料も含めた検討が必要です。

【参考】広がる「給料前払い」サービス、法律上は借金?中にはグレーなものも…課題を検証/弁護士ドットコム

今後の法整備

給与前払いサービスは比較的新しいものでもあり、サービス提供会社によっては、先に説明した労働基準法における全額払いの原則や直接払いの原則などとの整理が明確ではないところもあります。また、前述の利用手数料の問題などもあり、労働者保護の観点からも今後は法律が改正され、サービス内容が変更になる可能性がありますので注意が必要です。

まとめ

  • アルバイトなどを中心に、給与については日払いなどの即時払いが求められている。
  • 給与前払い制度を導入することで、求人応募者の増加や従業員の定着率向上などが期待できる。
  • 給与前払い制度の導入は自社のみでも可能であるが、手続きの煩雑さなどを考えると、サービス提供会社を利用することが現実的である。
  • サービス提供会社によって、導入費用や従業員の手数料負担が大きく異なるため、利用にあたっては慎重な選択が必要である。
  • 給与前払いサービスは比較的新しいサービスであるため、法的に整理が明確でない点など今後見直される可能性がある。

<執筆者>
本田 勝志 社会保険労務士

関西大学 経済学部 経済学科 卒業。1996年10月 文部省(現文部科学省)入省。退職後、2010年に社会保険労務士試験に合格。社会保険労務士事務所などでの勤務経験を経て、現在は特定企業における労務管理等を担当。


仮登録メール確認