連載:第17回 老舗を 継ぐということ
次世代経営者には「赤字事業」の立て直しをさせよ、カクイチ田中社長が継いで思ったこと
ガレージ・倉庫・物置などの農業用資材から太陽光発電、AIを活用した農業分野への参入まで多角的事業を展開する株式会社カクイチ。5代目として家業を継いだ代表取締役社長の田中離有さんは、社会環境の変化や経営危機に何度も直面しながらも、赤字事業を立て直して組織を成長させてきました。事業承継して考えたこと、支えとなった経験について、田中さんにお聞きしました。
株式会社カクイチ
代表取締役社長 田中 離有さん
1962年、長野県生まれ。慶応義塾大学商学部卒。1990年、米国ジョージタウン大学でMBA取得。株式会社カクイチに入社。2001年、同年同社代表取締役副社長、2014年、同社5代目として代表取締役社長に就任。11事業で、8つのグループ会社を運営する。
次世代経営者には「赤字事業」の立て直しをさせよ
──田中さんが家業を継ぐまでのご経歴について教えてください。
田中離有さん(以下、田中): 私は四人兄弟の末っ子で、家業には11歳上の兄が後継者として既に入社していました。私はどちらかというと組織に属するのが嫌で、学生時代は建築家や会計士のような専門職に憧れていたんです。
就職活動をしていたのは円高不況の1985年ですから、エリート思考の高い大学の同級生たちは金融業界や大企業に進むのが大半でした。私があえて地味な中堅企業のメーカーを志望した理由は「仕事を通して自己成長できるのでは」と考えたからです。海外進出していて高い技術力があり、教育熱心な会社で経験を積みたいと当時エアコン用コンプレッサー事業で急成長していた自動車部品メーカーを選びました。
3年程勤めましたが、地方の中規模同族企業の良い点と悪い点を、一従業員としてまざまざと感じました。経営者が息子を外の会社に出し修行させるのは、いきなり自分の会社に入れ経営者として育てるのではなく、社員の立場もわかる人間にする為の経験です。父はそれを知っていて私を修行させたのかもしれません。事業は急成長段階で、現場では業務は若手に権限移譲され、右も左も分からない若手にも、どんどん仕事が来る。とにかく追われながらもひたすら学び一生懸命働く毎日でした。
ガムシャラに働きましたが、自分に対し、「論理的思考力」「プレゼン能力」「英語力」にコンプレックスを抱くようになりました。同時に「このままでは、単なるサラリーマンになってしまうのでは?」と危機感を覚えました。そこで、コンプレックスを克服するため、また経営とは何かを学ぶ為にアメリカにMBAを取得しに行きました。
アメリカでの留学生活は刺激に富み、夜も寝ずに猛勉強、授業はディスカッションの日々。自己主張の大切さを学びました。その時の自分は経験もないのに、経営とは何かわかった気になっていたと思います。そして、卒業後に28歳でカクイチに入社します。
──当時のカクイチの業績は?
田中: 1990年代はバブル景気もありその後も業績は右肩上がりでした。環境も後押しして、倉庫需要も増え、バブル崩壊後も業績好調でした。さらに1998年には長野オリンピックが開催されますから、地元・長野の経済も潤っていました。そんな状況だったので、父は安心し、兄に社長を譲ります。
しかし、その後カクイチに冬の時代がやってきます。国内の建築需要は落ち、デフレ経済が加速します。しかし組織は硬直的で、過去の成功体験に縛られており、大胆な改革を行いデフレに対応できる体制ではありませんでした。というのもカクイチの垂直統合型のビジネスモデルは、工場、店舗を社内で全て抱えるため固定費が高く、損益分岐点が高くなります。売上の急落は損益を急激に悪化させていきました。
2000年に、私は役員に就任しましたが、経済構造の変化がさらに進みます。円高のため製造業は海外に工場を移し、日本国内の建築需要はどんどん減っていきました。農業従事者の高齢化も進み、事業の成長には「抜本的な構造変革が求められる」と実感しました。1990年代のカクイチの好業績は、世の中の流れがたまたま良かったから。それに気づけず、自分たちの実力と勘違いし、あぐらをかいていたことに気づきました。
──そんななか、課題解決のためにどんな手立てを打ったのでしょうか?
田中: まずは社内経費を徹底的に削減しましたが、業績が回復しないため新規事業として引き合い需要が多いリフォーム外構事業に参入することになりました。
しかし、この経営判断が失敗でした。私たちは長年倉庫を売ってきたので、自社製品の規格品を販売することには長けています。しかし、外構事業は他社製品を仕入れお客様に合わせて様々なプランを提案する事業です。自社企画品ではなく、他社との価格競争にもなるので、従来とは全く違うスキルが営業には求められました。
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