京都の丁稚で得た「最も大切なもの」。山形で200年・10代目が説く「絶対にやってはいけないこと」

株式会社杵屋本店
代表取締役社長　菅野 高志 さん

1957年生まれ。専修大学卒業後、京都の和菓子の銘店で5年間の住み込み修業を経て、85年に家業である杵屋本店に入社。取締役営業部長などを経て2001年、10代目社長に就任。山形県洋菓子協会会長、全国洋菓子協会理事なども務める。

「商売で最も大切なこと」を学んだ、京都での5年間の丁稚奉公

――山形で200年続くお菓子の老舗の10代目です。家業に入られた経緯を教えてください。

菅野高志さん（以下、菅野）： 東京の大学に通い、卒業後は電機メーカーのお誘いをもらっていました。しかし一方で父が手を回して、京都の老舗和菓子屋で働く話が進んでいました。後々わかったのですが、これが丁稚奉公だったんです。もう40年ほど前の話になります。今思えば、父も9代目として思う所があったのかもしれませんね。

――丁稚奉公。最近耳にしない言葉ですね。

菅野： そうですね。それが比喩的なものではなく、本当に丁稚なんです。京都西陣の老舗「千本玉壽軒」に住み込みで見習いをさせていただきました。22歳からの5年間です。社員が2人、私を含め丁稚が4人、パートのおばちゃんが1人、そんなお店でした。もう今は、丁稚奉公を受け入れてくれる所はないでしょうね。

――就職先も決まっていたのに京都で丁稚…。どんな心境だったのでしょう？

菅野： 将来、家業を継ぐことは決まっていたので、サラリーマンとして就職することに（本当にそれでいいのかな？）という思いはありました。

そんな思いを抱えながら、父と先方にご挨拶に伺ったんです。秋の京都は紅葉がきれいで、とてもいい時期でした。ご馳走にもなってまたそれが美味しくて…。それで「京都いいな…」と気持ちが昂ったんです。 ただその時は、丁稚奉公とは聞いていなかったのですが（笑）。

――仕事内容は？

菅野： 丁稚の目的は「お菓子作りの修行」ですので、基本的には作り方を教えていただきます。しかし学ぶことはそれに留まらず「お菓子屋とは何か？」を仕事を通じて体で覚えていきます。店番やお得意様への訪問・配達もやります。経験を積んでいくと、価格交渉なども任せていただけるようになりました。

当時は、西陣織屋さんがまだまだ羽振りのいい時代でした。お茶会などの打ち合わせに行ったり、お正月のお菓子の注文を取りに行ったり。私みたいな者ですら、50件ぐらいお得意様を抱えていました。

――京都の風習や雰囲気。山形との違いはいかがでしたか？

菅野： 私の方から「山形」とは言いませんでしたし、山形弁も出しませんでした。

最初は言葉も文化もまったくわからなくて。でも「京都の老舗の店先」に立っているわけです。そのつもりで京都弁を喋っていました。きっと気付かれていたとは思いますが（笑）。むしろそれで、多くの方に可愛がっていただけたのかもしれません。

お店には、当時高級な趣味だったアマチュア無線が置いてあって、私はそれにはまっていました。配達の車の中でもやっていたほどです。アマチュア無線では上下関係はありません。取引先や、京都の名士の方々などもやっていて、アマチュア無線を通じていろいろな方と知り合うことができました。「麻雀の人数が足りない！」と夜中に大きなお屋敷や高級別荘に呼び出されたりもしましたね。

祇園をどりのお茶席菓子をお出しする際には、裏千家の先生と一緒にお弁当を食べて、 それをきっかけに今でも懇意にさせていただいています。本当に多くの方に可愛がっていただきました。

――そこで学んだ「最も大切なこと」は何だったのでしょう？

菅野： 言葉にするのはとても難しいのですが、あえて言えば…