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連載:第18回 老舗を 継ぐということ

経営の基本がなければ会社は残せない。親族外承継を決めた中川政七商店が最重要視する「当たり前」

BizHint 編集部 2022年7月11日(月)掲載
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江戸時代から続く麻織物の老舗で、現在は全国に約60店舗を展開する中川政七商店。2008年に十三代の社長に就任した中川政七さんは、その10年後、創業以来はじめて中川家以外から後継者を選びバトンを渡した。中小企業の事業承継と、長く続く企業になるために何が必要かを聞いた。

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株式会社中川政七商店
代表取締役会長 十三代 中川政七さん

1974年奈良県生まれ。家業の中川政七商店で十三代社長に就任するも、10年後に、創業以来はじめて中川家以外から後継者を選び、社長を退く。現在は経営コンサルティング事業のほか、スモールビジネス支援で奈良を元気にする「N.PARK PROJECT」などを手掛ける。著書に『ビジョンとともに働くということ』(祥伝社)など。


会社の安定を考えれば、後継者が一族である必要はない

高級麻織物「奈良晒」を祖業に300年続く中川政七商店で、現在は代表取締役会長を務める中川政七さん。新卒で入社した会社を2年で辞め、2002年に家業の中川政七商店に入社。2008年に十三代の社長に就任し、12億円だった年商を57億円にまで成長させた。

奈良の小さな中小企業が、全国の商業施設に60ものブランド直営店を展開するようになり、「日本の工芸を元気にする!」というビジョンのもと、業界特化型の経営再生コンサルティングもはじめた。2015年にはポーター賞を、翌年には日本イノベーター大賞優秀賞を受賞。その立役者、中川さんが、世の中をまたあっと驚かせたのは、2018年に社長職を一族以外の女性・千石あやさんに交代したことだ。

「入社したときから、次の代は中川家以外の人にやってもらいたいと思っていました。まともな会社にしていこうと思ったとき、一族でなければできないということのほうが危ういじゃないですか。僕はたまたま経営に向いていましたが、子どもが向いていなかったり、やりたくないと言った瞬間、会社は立ちゆかなくなる。そんな不安定なことはやってはいけないでしょう。だから、一族ではない人がやってくれる状況をどう作るか、ずっと考えていたんです」

全国の中小企業で、後継者問題が囁かれている。しかしそれは、論点をすり替えているだけなのではないか、と中川さんはいう。

「その会社に魅力があれば、一族でなくても、やりたい人はいると思うんです。でも、赤字会社では誰も継ぎたいとは思わないでしょう。魅力的な事業で、収入も得られる会社にしておかないといけないということです」

世の中には廃業する会社も増えているが、経営者が自ら選択した上で決めたことなら、それも選択肢のひとつだと語る。最もいけないのは、何も考えないまま、ずるずると時間だけが過ぎていくことだ。

「何も考えていないと、何も起こりません。そうすると、会社を畳むにも畳めない状況に陥る。最後は見かねた銀行が、どこかに売ろうとしたりする。僕のところにも、そういう話がよく回ってきますよ。しかも、外から見ているとうまくいっているように見える会社でも、決算書を見るとまったく儲かっていなかったりするんです」

どうしてこんなことが起きてしまうのだろうか。これまで多くの中小企業の経営者と接してきた中川さんは、経営者の仕事というものが、しっかり確立されていないからだと語る。実は、経営という仕事は誰も教えてくれないのである。

「経営者の仕事を学ぶのに、MBAも違うし、中小企業診断士も違いますよね。だから、多くの人が“社長”ではあっても、“経営者”ではない。経営者としての役割を、きちんと果たせていないんです」

中川さんには、ビジョンやブランディングをテーマにした著書があるが、実はそれ以前に経営者としてやらなければいけないことがあるという。つまりもっと初歩の初歩が、実はできていない経営者が多いというのだ。

「当たり前の収支管理ができていない会社がどれほど多いか。売上原価、販管費、今年の予算、月次の予算、届かないならどう埋めるか……。そういうことを考えるという経営の基本ができていない。損益分岐点が計算できない経営者もたくさんいます。事業計画も作られていない。これが現実なのかと知って、本当に衝撃を受けたんです」

中川政七商店に入社したとき、社長だった父親はしっかりとした経営をし、黒字を出していた。中川さんが立て直したのは、当時まだ赤字事業だった麻織物などを使った和雑貨のブランド。ここに「経営」を持ち込んで、事業を急伸させたのだ。

「日本にはかつて、人口が伸び続けたいい時代があったんです。それほど考えなくても、とりあえずやっていれば、利益を出せて、なんとかなった。でも、時代は変わったんです。それを景気など、外部のせいにしてきた会社がいかに多いか。そんな経営者の会社を誰が継いでくれますか」

一族以外に経営を委ねるにあたっては、中小企業特有の簡単ではない問題があることにも気づいていた。

「社長が銀行の融資に個人保証をしているということです。その状況から脱していないといけない。もちろんやりたいと言ってくれる人材がいて、その人が優秀であることは重要ですが、それだけではなかったんです」

中川さんは20代後半で入社しているが、当初から45歳で一族以外の経営者にバトンをパスすることを考えていたという。年齢を区切ったのには、理由があった。

「そこまでは死ぬ気でやろう、仕事にすべてを懸けよう、という気持ちだったんです。45歳と決めたからこそ、必死で頑張れた。これが70歳まで長々やっていくとなったら、あんなペースではできなかったと思います」

そして、その後も決意が揺らぐことはなかった。人生の選択肢を持つことの価値を改めて強く認識したからだ。

「社長の息子に生まれたから会社を継がなければいけなくて継いだけれども、社員がついてこない、父親ともうまくいかない、などと相談されることがあって、そのときに僕は『辞めればいいですよ』と伝えました。法律で決まっているわけではないんですから。最も辛いのは、選択肢がないこと。そこには幸せはありません。一方で、選択肢がないほうが、ある意味ラクでもある。何も考えなくていいからです。しかし、そうなると、本人も会社も最悪の事態に陥りかねません」

一族以外の経営者にバトンを渡して、うまくいくのか、と問われたこともある。しかし、同族企業がそうでない会社よりも業績がいい、とは聞いたことはなかった。

「一族でも外の人間でも、優秀な経営者がやれば会社は伸びます。唯一、同族のメリットがあるとすれば、やるしかないという覚悟だと思いますが、嫌々持った覚悟だと、ネガティブに出てしまう。むしろリスクになります」

社長が代わっても、ビジョンが浸透していれば混乱しない

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