連載:第2回 IT・SaaSとの付き合い方
視察多数の運送×健康経営。企業送迎No.1バス会社では管理栄養士が運転士を健康にしていた
企業送迎で業界No.1の中日臨海バス。社員は出社するとまず体重計に乗り、血圧計に腕を通します。そこで「最近、体重が減りましたね。血圧も下がってますよ。」と声をかけるのは常駐する管理栄養士。ここでは毎日、健康についての会話が生まれています。しかしこの光景、つい3年前まではありませんでした。業界でも極めて稀な「管理栄養士の採用」に踏み切るなどバス乗務員の健康施策を徹底推進し、安全運行のための積極投資で「業界でもっとも進んでいる企業の一つ」として多数の視察が訪れる同社の取り組みについて、常務取締役の荻野進さんに話を聞きました。
【プロフィール】
中日臨海バス株式会社
常務取締役 荻野 進 さん
国内証券会社、リーマンブラザーズを経て、1996年中日臨海バス株式会社に入社。データ管理、労務、人事、運行など同社の改革に幅広く取り組む。課長、取締役所長、取締役支店長、取締役営業本部長を経て、常務取締役。現在に至る。京浜支店に籍を置きつつ、現場主義を重んじ、各拠点を行き来する日々。
中日臨海バス株式会社
厚生課 管理栄養士 樋口 美惠子 さん
証券会社を経て、専門学校に入学し栄養士に。区立保育園栄養士・委託給食会社給食管理に従事、クリニックで管理栄養士として生活習慣病の患者の食事指導を行う。日本糖尿病療養指導士として糖尿病患者の療養を指導。2016年に中日臨海バス株式会社初の管理栄養士として着任。日々400人の従業員・バス乗務員の健康を見守っている。
企業送迎バスでNo.1。旅館のお客様の一言からのスタート
――御社の事業について教えてください。
荻野進さん(以下、荻野): 当社は1946年創業で今期が89期。一般貸切運送事業、いわゆる貸切バス事業を手掛けています。中でも「企業送迎」に特化し、企業の従業員が出退勤する際のバスの運行が主な事業となります。本社がある三重の四日市を中心に、東海・大阪・関東に3支店10営業所を構え、従業員数は約400名です。
バス事業をはじめたきっかけは、先代の創業者が四日市で営んでいた旅館業に遡ります。当時宿泊されていたお客様から「アクセスが悪いから送迎バスを出してほしい」と依頼され、マイクロバスを購入しました。するとその後、同じお客様から「大阪・堺にある自社の工場に通勤する従業員のために、送迎バスを出してもらえないか?」という相談があり、それに応える形で大阪・堺で企業向けのバス送迎サービスが本格化。一部上場企業や有名企業に当社のバス送迎サービスが採用されていきました。
当社の売上36億円のうち、約8割は企業送迎です。 企業送迎に特化したバス会社としては日本一 だと思います。企業送迎は年間を通して時期的な浮き沈みがありません。売上の残り2割を占める観光バス事業もホテル等との契約型ですので、一般的な観光バスと比べると、年間を通して業務量や売上が安定しているのが大きな特徴です。
バス乗務員一人ひとりを健康に。管理栄養士を中心にPDCAが回る
社員は出社後、管理栄養士がいる厚生課で必ず血圧や体重を測り、データが蓄積される
――貴社には「管理栄養士」が常駐されています。珍しい取り組みですよね。
荻野: はい。管理栄養士を2名常駐させています。背景として、過去に当社の乗務員が亡くなったことがあります。法律にのっとり健康診断は受けていましたが、それだけでは十分ではないと思ったのです。健康診断の結果を会社が把握することはできますが、そこで異常が見つかっても、会社はその治療や回復の状況を追えません。会社として、従業員一人ひとりの健康にもっと深く関わらないといけないと考えるようになりました。
そこで、2016年に 社員の健康データを蓄積するためのシステムを構築し、出社後は必ず血圧、体温、体重を測定 するようにしました。管理栄養士がこれらのデータを毎日チェックして、少しでも異変に気付くと、その乗務員や上司である所長に連絡をするところからはじめました。
毎日の血圧測定は管理栄養士の席の隣で行いますので、そこでは従業員自身の健康についての会話が自然と生まれます。「健康を管理してくれる人」が常にいて声をかけてくれることで、社員の意識と行動が変わったと思います。 データを取るだけ、血圧計を置いているだけではダメ ですね。
――管理栄養士の業務を教えてください。
樋口美惠子さん(以下、樋口): 私が管理栄養士として入社したのと同時に「厚生課」が新設され、全社を挙げて「乗務員の健康日本一」を目指す取り組みが本格始動しました。 私の業務は以下のようなものになります。
-健康診断結果の見える化
-社員一人ひとりに向けた健康管理レポート「ヘルスケア通信」の作成
-従業員との面談
-社内の健康食品の管理・食品の提案(セブンミールの導入&管理)
-ポスター&かわら版の提示
-従業員の家族にも宛てた「厚生課だより」の発行
私が入社して驚いたのは、健康診断で経過観察や再検査等の所見をいただく乗務員が非常に多かったことと、健康に対する意識や知識がとても低いことでした。しかし、それは仕方のないことかもしれません。「血圧が高い」「脂質が高い」といった数値が出るだけでは痛くも痒くもなく、実感がともなわないからです。さらに、専門家によるアドバイスもありませんので、症状に合う予防策や改善策、このままだとどんな状態になってしまうのかも分からず、ただただ放置されてしまうのです。
誰からも何も言われなければ、人の行動は変わりません。 そこで私は、意識向上のための「健康の見える化」と健康に対する「知識の向上」が急務であると思いました。
厚生課では、社員一人ひとりにヘルスケア通信を発行しています。健康診断の結果から生活習慣病に関わる四要素(肥満・血圧・血糖・脂質)の数値を抜粋したシンプルな一覧表です。その生活習慣病に関する数値を元に、健康状態を4段階に分類する形で、 社員一人ひとりの健康度を見える化 しています。いわば、健康の通信簿です。
そしてそれを一緒に見ながら、PDCAを回していきます。「もう少し、こんなことをしたほうがいいかもしれないね?」「じゃあ自分はこれに取り組みます」といった具合に。自分で考え、健康のために取り組むことを明記してもらい、実践していきます。そして「どれくらいできましたか?」と面談でやりとりします。法的には深夜早朝勤務以外の乗務員は年に1回の健康診断を実施すればいいのですが、ヘルスケア通信と面談を始めてからは、年に1度の健康診断では健康に対する意識づけが難しいと感じたため、すべての乗務員に年に2回の健康診断を受けていただくよう制度化しました。
――社内にどのような変化がありましたか?
荻野: 以前は、健康診断で要治療、要経過観察と結果が出て「再検査に行ってください」と促しても、毎回同じ結果が出ていました。しかし素人の僕たちには、その結果だけを見ても、 健康状態が良くなっているのか、悪くなっているのかわからない んですよね。実感が伴わないというか。休憩時間に食事をした後、すぐにベッドで仮眠して、起きたら運行……という、今考えると決して健康的とは言えない過ごし方をしていました。以前は、そういったことにまったく気を遣わなかったんです。
ところが、樋口と定期的に面談し、常に健康についての話をするようになると、休憩時間にトレーニングウエアに着替えて散歩をする従業員が出てきました。「今日は何歩歩いたよ」と互いに報告し合うなど、 目に見えて社員一人ひとりの健康に対する意識が向上したと思いました。社風が変わったんです。
今ではウォーキング大会やボーリング大会を皆でしたり、卓球台を会社で購入して、会議室で月に2回くらい楽しんでいます。また、食事に関しても「おにぎりとカップ麺」が『おにぎりと豚汁』に、「菓子パンと缶コーヒー」が『サンドイッチとトマトジュース』に変わり、間食のスナック菓子もバナナや寒天ゼリーに変わっています。食事・運動ともに健康への取り組みが目に見えて増えました。
また、健康チェックのために会社負担でMRA・MRI検査も導入しました。結果、脳に異常が見つかった従業員もいました。しっかり治療して完治し、無事業務に復帰できたので、 それだけでも導入した意味があった と思っています。本当に良かったです。
――400人以上の従業員の健康情報はどのように管理しているのでしょうか?
荻野: 当社ではセールスフォースを導入して大幅にカスタマイズすることで稟議書、商談、日報、乗務員台帳、会議の議事録など様々な情報をクラウド化しています。従業員の健康診断の結果や日々の測定結果もここに集約し、いつでも取り出せるようになっています。従業員が出社して体重や血圧を測ったら、自動で取り込まれていく形です。したがって、 組織全体の健康状態について、経営層を含めたすべての従業員が最新の情報を確認できます。
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