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連載:第54回 IT・SaaSとの付き合い方

メルマガ制作の省人化。自作した5つのAIツール。決意からリリースまでの2ヶ月で何が起きたのか。

BizHint 編集部 2025年6月10日(火)掲載
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「2名退職したが、減員補充ではなくAIを!」という決意から始まった、メルマガ制作におけるAI活用。大量の制作ノウハウを分類し、試行錯誤しながらプロンプトを作成。そこに日々蓄積してきた膨大なナレッジを投入することで「5つのAIツール」が完成しました。結果、チームの働き方や雰囲気は一変し「本来やるべきこと」ができるように。しかしその裏には「血と汗と涙」と評される担当者の努力や、チームが「長年積み上げてきたもの」の存在がありました。その間、2ヶ月。担当者の行動や組織の変化、そして「AIを使ったからこそ見えたもの」についてお話を伺いました。

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(お話を伺った方)
株式会社ビズヒント
カスタマーサクセスグループ
栗田 哲希 さん
加藤 しのぶ さん


※本記事は取材時点(2025年4月)の情報に基づいて制作しております。各種情報は取材時点のものであること、あらかじめご了承ください。

「もう減員補充の採用はやめよう」AI活用に活路を求めた決断

――WEBのビジネスメディア「BizHint」のメルマガ制作では本格的にAIを活用されているとのこと。その経緯について、プロジェクトを主導した栗田さんからお話を伺えますか?

栗田哲希さん(以下、栗田): BizHintでは、会員の方々に向けてメールマガジンを発行しています。その中で私たちが担当しているのが「BtoBの様々なサービスをPRするメルマガの制作」です。

そのメルマガを制作するチームで、2025年2月ごろに2名が退職することになりました。旧来どおりの対応であれば、急いで人員を補充する判断をしたのですが、正直『これ以上、採用はしたくないな…』という思いがありました。

というのも、新しいメンバーを迎えれば当然、一から教えなければなりません。当時のメンバーの人数は入退社を繰り返しながら8~10人の間をいったりきたりしていたのですが、新メンバーの教育・育成は私と同じカスタマーサクセスグループの加藤(後述)が担当し、そのために多くの時間を割いていました。

本来、加藤は自身でのメルマガ制作はもとより、その知見を活かしたチーム全体のメルマガ品質向上や、お客様のサポートに力を発揮してもらいたい人材。

しかし実情は、新人に社内ルールなどを教え、新人が制作したメルマガをチェックしては「てにをは」「レギュレーション順守」といった基本的なフィードバックを延々と続ける日々。自身の役割に疑問を抱いていました。「もっとテクニカルなことをしたい」「私にしかできない仕事がしたい」「これでいいのか?」と。

また一方で、育成・教育とはまさに「人」を相手にする仕事です。思うようにいかないことが積み重なれば、精神的な負担も増します。実際、加藤の口からも弱音が漏れていました。

そのような状況を鑑みて 「ここで減員を補充しても同じことの繰り返し。であれば、別のアプローチを取ろう」という決断に至りました。それがAI活用でした。

――なぜAIだったのでしょうか?

栗田: きっかけは少し遡って2025年の1月。当時の社内では社長や上長、また周囲の社員が様々な生成AIのニュースや活用事例を毎日のように発信・共有していました。また部署や個人レベルでも、生成AIを積極的に使って試行錯誤する光景が当たり前のようにありました。

そんな中で社長が、Claudeという生成AIを使った活用事例・プロンプトを見せてくれたんです。それを見た時に「これ、メルマガ制作で使えるかも…」という可能性を漠然と感じていました。

その時の思いが「人員補充ではなく、AI」という決断につながりました。もちろん私にとっては、チャレンジの部分が大きかったのですが。

――当時、ご自身はどのくらい生成AIを活用されていたのでしょうか?

栗田: 正直、ほとんど使っていませんでした。チーム内でも数名は使っていたようですが、私は全然…。

ですので、私が「人員補充ではなく、AI」「なんとなく、できるイメージがあります」と言い出した時には、周囲が少しだけざわつきましたね…。

株式会社ビズヒント カスタマーサクセスグループ 栗田 哲希 さん

「土台となる考え方」の情報。手間をかけても最初から100点を。

――メルマガ制作への生成AI活用。何から始められたのでしょうか?

栗田: まず、加藤が主に担当している業務の1つ「メルマガのフィードバック」を生成AIに置き換えようと考えました。

この業務は、当社がお客様のサービスをPRするメルマガを制作するプロセスにおいて、類似性のある商材の配信結果と照らし合わせながら件名や訴求軸を分析するとともに、お客様の要望に沿っているかなどを確認して、メルマガ制作担当者にフィードバックするものです。

またメルマガの原稿をダブルチェックしながら、質の担保や実践を通じたメンバー育成、成功パターンや思考を共有する機能も担います。

加藤は日々この作業で「延々と続く初歩的な指摘」に悩んでいましたので、まずはその負担軽減が第一。さらには、メンバーそれぞれが加藤ではなく生成AIに原稿のフィードバックをしてもらうことで、チーム全体の制作品質を底上げすることを目指しました。

――どのように進められたのでしょうか?

栗田: まずは準備段階として、加藤が行っているフィードバックの内容をスプレッドシートに書き溜めてもらいました。その数、1ヶ月で50件。そしてそのフィードバックを 「1.どのタイミング」で「2.どんな指摘をしているか」という視点でカテゴリに分類 していきました。

カテゴリは「文章構造と論理展開」「メッセージの一貫性と関連性」など大分類が5種類。さらに小分類が「二重表現の回避」「時間軸の整合性」など25種類です。

この作業は当初、Claudeにやらせようとしたのですが、実際にやってみるとニュアンスが異なる部分が多く見られました。そこでClaudeの調整を試みたものの、どうにもうまくいかない。最後は「自分が目視で分類していったほうがいい」と、力技で進めました。

メルマガ初稿へのフィードバックとその種類を分類したスプレッドシート。1つのフィードバックはおおよそ200~800文字。

――それだけのボリュームを目視で手作業というのは大変だったのではないでしょうか?

栗田: そうですね。ただこの作業は今後のメルマガ制作やそこでのAI活用において、いわば『すべての土台になる考え方』になるものだとイメージしていました。ですので、 小手先でそれっぽいものを作るよりは「最初から100点のものを作っておいた方がいい」と腹を決めてやりました。 泥臭いやり方ではあるものの、それが一番近道だろう、と。

分類だけに集中する時間を作って、延々と作業しました。トータルで5時間くらいかかったと思います。なかなか大変でしたが、周囲から「栗田さんの血と汗と涙の結晶ですね!」と労ってもらえたので、報われた気はしました。

作業フェーズごとに最適化したAIツールを用意する

――そうして作った「土台の考え方」の情報を、どう活用されたのでしょうか?

栗田: メルマガ制作のためのAIツールは、結果的に5種類作成したのですが、それらすべてで「土台の考え方」として参照するようにしました。

なぜ5種類も作成したのかというと、当時「どのようなAIが業務に必要か?」という議論をする中で 「一つのAIですべてカバーするよりも、制作の作業フェーズごとに最適化したいくつかのAIを作ったほうがいいんじゃないか?」という方向性 がありました。

これは、当社のグループ会社でAI活用の事例が共有される中で、人事部門が「候補者探し」「スカウト」など、機能別にAIを用意していることから得た着想でした。

そうして作った5つの AIツールというのが、以下です。

  1. 商材の資料を要約するAI
  2. 訴求を考えるAI
  3. 本文を作るAI
  4. 件名を作るAI
  5. メルマガのフィードバックを行う「AIしのぶ」

※メルマガのフィードバック業務を行っていた加藤しのぶさんのコピーのAIとして命名

栗田: これらを用いた実際のメルマガ制作のおおまかな流れとしては、まずメンバーは1を使ってメルマガでPRすべきお客様の商材や資料を要約し、理解を深めます。そして2~4を使ってAIに相談しながらメルマガの初稿を作成します。そして最後に5を使ってフィードバックを得て、修正して完成というものです。

5つのAIツールの裏側には先述の「土台の考え方」に加え、過去のメルマガで蓄積された結果の数字や、成功・失敗のノウハウのナレッジが紐づけられています。

これら5つのプロトタイプを私がいったんまとめて作成し、加藤とテスト・調整を繰り返しました。そして2025年の4月、チームにリリースという流れです。

――段階的ではなく、5つをまとめてというのは、何か狙いがあったのでしょうか?

栗田: いいえ。特にありません。先述のカテゴリ分類と同じく、集中できる時間を確保して作業をしていたらのめり込んでいってしまい、気が付けば5つできあがっていた…というのが正直なところです。勢いのようなものですね。

この作業はいわゆる「プロンプトを書く」というもの。生成AIに理想のアウトプットを返してもらうために、結果を見てはプロンプトを書き替える作業が延々と続きます。

個人的な話で恐縮ですが、私は自分で服作りをしていて「何かを作る」ということにハマる傾向があります。また人並み以上にゲームにのめり込むタイプでもあり、プロンプトをいじっている時の感覚が、ゲームの中で理想の装備や攻略法を探し求めて試行錯誤する感覚に近くて、気が付いたら時間を忘れていました。「ここを変えたらこれとつながっているから、ここがこう変わるはず…やった!」というサイクルを回すような。

9時間くらい通しで作業したと思います。最初は「退社した2人の分をカバーしてくれているみんなのために、少しでも早く便利なAIを作って楽にしてあげたい…」という責任感、背負うものがあったように記憶しているのですが、プロトタイプが完成した時の気持ちは「できたっ! いやぁぁ、おもしろかった…!」でしたね。

ちなみにこの仕事も周囲から「栗田さんの血と汗と涙の結晶Ⅱ」と評価いただけたので、少しだけうれしかったです。

リリース時の判断。完成度6割と心理ケア

―― 5つのAIツール。チームへのリリースについて教えてください。

栗田: 私と加藤で調整を終えた後、いったんチームのメンバー2名に触ってもらいました。するとそんなに悪い反応ではなく、むしろ積極的に使っていただけそうだったのでリリースすることにしました。

正直、我々としては 6割ぐらいの完成度だったのですが「まずは使ってみてもらって、必要な箇所を改修しよう」という割り切り もありました。

ただリリースに際しては、ツールの完成度以上に気を遣ったことがあります。それが、メンバーへの心理的なケアです。

――心理的なケアというのは?

栗田:生成AIを使うといっても「あなたの仕事を奪うわけではない」というメッセージを正しく伝えることに腐心しました。

というのも、チームのメンバーは派遣社員の割合が高いのです。人員の追加・補充においても、まずは派遣社員という選択肢が挙がります。

そのような組織で「AIをもっと活用する」と発すれば、「自分の仕事がいずれなくなるのでは…」と受け止められるのはごく自然なこと。そうなれば、メンバーは漠然とした不安を抱えながら日々の業務にあたることになります。

私も加藤も、最初は派遣社員として当社に就業しました。ですので、そのあたりの心境については多くのメンバーと共感できるものを持っているつもりです。

チームとして人員補充ではなくAI活用を進めると決めてから、またそのリリースを経てもなお「生成AIは、みんなが仕事をしやすくするためのもの」というメッセージを一貫して伝え続けています。

AI活用を自然と受け入れられる組織風土と人材要件

――ここからは加藤さんに伺います。実際、リリース時にハレーションはありませんでしたか?

加藤しのぶさん(以下、加藤): ありがたいことに、ありませんでしたね。ただその背景として、栗田がお話しした伝え方・メッセージ以外にも、以前からの組織作りは大いに影響していると感じます。特に 「組織風土」と「採用・人材要件の再定義」 です。

株式会社ビズヒント カスタマーサクセスグループ 加藤 しのぶ さん

加藤: まず、「組織風土」について。当社では先述の社長しかり、生成AIを個々人が普段から自由に活用していました。また生成AIだけでなく、何かしらの新しいツールやサービスが出れば、率先して試すような組織文化が根付いていました。「このサービスを使ってみたい!」と手を挙げればほとんど止められません。もちろん、セキュリティや安全性などについての確認はなされますが。

私自身「生成AIを使って自分たちの仕事を楽にしよう」「本来やるべきこと、やりたいことをやる時間を作ろう」という雰囲気は感じていました。

もしそのような雰囲気が醸成されていない組織で、ある日突然「今日からメルマガ制作に生成AIを使います!」とアナウンスがなされたら、それこそ『自分の仕事が生成AIに置き換えられる』という不安がメンバーに生じていたのではないかと思います。

そしてもう一つ、「採用・人材要件の再定義」。実は、メンバーの採用・人材要件について、2024年3月ごろから大きく変えていたことがあります。

以前は業務柄、メルマガの執筆スキルやマーケティング知識などを求めていました。ですが、生成AIの急激な進化や、チームとしてよりお客様のサポートを重視していく方針のもと 「変化に対応し、IT/AIを活用した業務遂行へのチャレンジをいとわない」という志向を持つ方の採用に舵を切っていました。

そうした背景から、5つのツールをリリースした時にもポジティブに受け入れてくれる方が多かったですし、その後のフィードバックもどんどん寄せられました。

もしこうした「組織風土」「採用・人材要件の再定義」がなければ、何かしらのハレーションは起きていたのではないのかな?とは思います。

メルマガの制作時間は半分に。メンバーのエンゲージメントも向上

――メルマガ制作のための5つのAIツール。活用の効果はいかがでしょうか?

加藤: 本当にたくさんあるのですが、 まずはメルマガの制作時間。これはほぼ半分になりました。 以前は慣れているメンバーで1件あたり2〜3時間かかってましたが、それが1〜1.5時間に。中には8割削減できたメンバーもいます。

またメンバーごとの作業量の不均衡が是正されたことも大きな成果です。以前は、メルマガ制作スキルが未熟なメンバーがあまり件数をこなせない一方で、スキルの高いメンバーがその分をカバーするといったことが当たり前に起こっていました。

そのような日常は 「不公平感」や「引け目」といった形で心理的に負の影響を生み出します。それが改善されたことは、数字で測れるもの以上に大きな効果でした。

AIツールの使用感についても「目から鱗のアイデアがもらえた」「見落としていたキーワードを提案してくれた」など、ポジティブな反応が多いですね。

こうしたAIツールの活用の結果、私を含め 「本来やりたいこと」に時間を使えるメンバーも出てきました。 今までは日々のメルマガ制作やチェックに追われていたものがお客様とのミーティングに参加したり、直接改善のご提案をできるようになったり。

あるメンバーは時間に余裕ができたことで、自身の経験とキャリアを活かせるインサイドセールス分野のプロジェクトに参画し、そのリーダーを担当できるようになりました。

もともとの出発点は「2名の減員補充ではなくAI」というものでした。結果として、1名の補充で十分に業務が回るようになったこと自体も成果です。しかしそれ以上に、一人一人が担う業務の幅が広がり、チームとしての事業貢献・アウトプットが様々な方面に波及したことは、想像を超える成果と言えますね。

――加藤さんのチェック・フィードバックも楽になったわけですね。

加藤: そうですね。メルマガの原稿の質は本当に向上していて、私が初歩的な指摘をすることはほとんどなくなりました。同じフィードバックでも「もっとこうしたらどうかな?」といった、より成果を高めるための意見交換ができるようになっています。

さらには、まったく予想外のうれしい効果もありました。 メンバーのエンゲージメントが向上したのです。

以前の私のフィードバックでは、前述のように初歩的な指摘も多分に含まれていました。同じような指摘を何回も受ければ、誰だっていい気はしません。 ですが同じ指摘でも、私ではなく「AIしのぶ(フィードバック用AI)」に言われると、受け手はあまりネガティブな感情にならないようなんです。

そしてもう一つ。「AIしのぶ」には『褒める』という機能を盛り込みました。これはリリース後に挙がった「しのぶさんに褒められたい!」という要望に応えたもので、いざ実装してみると「しのぶさんに褒められた!うれしい!」「ホワイトしのぶ!」と好評を博しました。ちなみに「AIしのぶ」は、私の言葉遣いなどの特徴も反映しています。

私こと「人間しのぶ」ももちろん褒めることはあるのですが、さすがに生成AIほどの細やかさで毎回褒めることはできません。そこは敵わないですね。ただ不思議なことに、回り回って私の好感度も上がっているような気がしていて、なんだか得した気分です。「褒める」機能、おすすめですよ。

「人が決める」という価値・責任を忘れてはいけない。

――貴社のメルマガはお客様のサービスをPRするものかと思います。メルマガのパフォーマンス・広告効果の変化や、お客様の反応は?

加藤: 制作プロセスは変わっても 「最後は人が決める」という部分は共通 です。しかしその中でも、「明らかにAIのおかげで広告効果が高まった」と言えるものも出てきています。

以前から継続的にご支援しているサービスのメルマガでは、人の発想では出てこなかった訴求をAIが出してくれて、それを使ったところ過去最高の結果が出せました。それ以外にも、制作過程でのAIとの壁打ちが当たり前になるにつれて、全体のパフォーマンスが底上げされてきています。

そしてお客様の反応では、とても印象的だった出来事があります。「こちらの意図をきちんと汲んでいただいてありがとうございます。すごいクオリティです!素晴らしい!」というメールをいただいたんです。

そのお客様は数年お取引を続けていただいているのですが、過去にそのようなフィードバックをいただいたことはありませんでした。

しかもそのメルマガを作ったのが、入社4か月目のメンバー。チームのみんなで喜んだのはもちろん、それを社内に共有すると各所から「すごい!」という声が集まってきました。

――そのメンバーにとっては、大きな自信になりますね。

加藤: そうあってほしかったのですが、思いがけない反応が返ってきました。

「周囲やAIのサポートがあっただけです」と。

もちろん結果の受け止め方は個々人で違ってよいと思うのですが、 不変の事実としてあるのは『その件名や内容をお客様に提案することを決めたのは、あなた』ということ。そこを意識しないと自己肯定感につながらない、ややもすると負い目を感じてしまうのではないか?という懸念も垣間見えました。

これは生成AIとの付き合い方の話にもなるのですが、生成AIを「先生」と捉えていると、どこまでいっても「結局は先生のおかげ」という認識になってしまいます。しかし実際の業務を俯瞰で見ると、 生成AIはあくまで「自分が決めるための道具」でしかありません。

生成AIはたしかに多くの選択肢やヒントを用意してくれますし、その性能は日進月歩で上がっていきます。しかし私たちの業務において「人が決める」という部分は変わりません。 その「決める」という大切な仕事を担うことの価値・責任を忘れてはいけません。その意識づけが、新たな課題として出てきていると感じます。

実際、メンバーに「メルマガの件名を決めた理由」を尋ねた際に「AIに聞いたら、問題ないとのことだったので」というが答えが返ってきたことがありました。これは「AIを使いこなす」ではなく、「AIに使われている」状態だと感じます。

ゴールを知っている、正しい選択肢を見分けられる、誤りに気付ける。人がこれらの能力を発揮して「決める」をしてこそ、「AIを使いこなしている」と言えるのでしょう。

「いつか役に立つ」と積み上げてきた大量のナレッジが役に立った。

――メルマガ制作におけるAI活用。貴社において欠かせなかったものはありますか?

栗田:一番大きいのは「積み重ねてきた大量のナレッジ」 です。

お話ししたような一連の作業は、時間をかけたり別の方法でもできると思うのですが、AIツールの裏にある「大量のナレッジ」は一朝一夕で準備できるものではありません。それがあったことで、短期間で精度の高い、結果を出せるものができたと思います。間違いなく、欠かせなかったものです。

私たちのチームは長い間、業務上での気付きや様々な施策の結果、細かいノウハウをNotionというワークスペースツールに書き溜めて日常的な振り返りに利用してきました。周囲に評された言葉を借りると「編集履歴がエグイ。ちょっとだけ変態」という代物でもあります。

ただその反面「溜まってはいるけど、膨大すぎて一部分しか使えていない」「全部を把握している人はいない」という状態だったことも事実です。

しかしその大量のナレッジが、AIと掛け合わさることで大きな価値を生みました。決してこのような使い道を想像していたわけではないのですが、 「いつか役に立つ」とコツコツ溜めてきて、そのいつかが来たような感覚ですね。

――今後について教えてください。

栗田: 私たちの部署名は「カスタマーサクセスグループ」です。2023年8月に組織して以降、「お客様に真摯に向き合い、本質的な課題解決をする」ことを目指してきました。

しかし実際には、日々大量のメルマガ制作に追われ、その目的を十分に果たせているとは言いづらい状態が続いてきました。

それが今、やっと「本来やるべき仕事、やりたい仕事」ができるようになりました。すでにお話ししたような、お客様とのミーティングへの参加やメルマガ以外のサポートなど、様々な機会が生まれ、その要望に応えられるようになっています。

今後は、これまで蓄積してきたメルマガや数字の分析・活用ノウハウをお客様にお伝えすることはもちろん、その直接の接点から得られるナレッジをさらに積み重ね、より本質的な課題解決の提案をしていきたいですね。

そのために必要なのはやはり「AI」と「人」。「AI」を使いこなすことは大前提なのですが、 当社における「人」の要件については「お客様の課題解決に真摯に、真正面から向き合える」という根っこのマインドが、より強く求められるようになると感じています。

仮にAIの性能が高止まりして誰でも不自由なく使える時が来たとして、結局差が出るのは「人」の部分ですよね。

(撮影:松本 岳治)

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