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連載:第57回 IT・SaaSとの付き合い方

カワキタエクスプレスの改革を支えたIT活用。「めっちゃ便利やん」から始まった20年間の積み重ね

BizHint 編集部 2025年7月10日(木)掲載
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「教育で人は変わらない」――その教訓とともに、組織の改革を推進してきた株式会社カワキタエクスプレスの川北辰実社長。ピーク時には65%あった離職率を大幅に改善し、現在は社員の平均年齢は29歳、長年の赤字体質からも脱却しました。そんな同社の組織改革を支えてきたのは、実は20年以上前から地道に積み重ねてきたIT活用にありました。Windows95時代から始まった同社のIT活用の歩みを、詳しく伺います。

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IT化の真の目的は「人を大切にする組織づくり」

――前回の記事では、貴社の組織づくりについてお話しいただきましたが、今回はその改革を支えた「IT活用」についてお聞きしたいと思います。

川北 辰実さん(以下、川北):当社の組織改革は、20年以上前から進めてきたIT活用の積み重ねがあってこそできたもの だと考えています。業務を効率化して、データを活用して、社員が働きやすい環境を作る。その土台なくして、組織改革を進めることは難しいのではないかと。

――20年以上のIT活用を振り返って、どのような効果があったとお考えですか。

川北: 一番大きいのは 「時間を作れたこと」 ですね。それにより、社員一人ひとりと向き合う時間、会社の将来を考える時間が生まれました。

また、デジタルを活用した採用活動で若手人材の確保にも成功しています。現在は10〜20代の社員が7割以上を占めており、東京や大阪から三重県に移住する形で入社した社員も在籍しているんですよ。これは、20年以上かけて築いてきたIT基盤とブランディングの成果だと思っています。

――2008年には経済産業省の「中小企業IT経営力大賞」で審査委員会奨励賞を受賞されていますね。

川北: はい。当時は運送業界でITを活用する会社はまだまだ少なかったので、珍しがられたのかなとは思います。一方で、この受賞があったからこそ、ITを軸とした経営方針が正しかったという確信を持てましたし、「他社と違うやり方が我々の強み」という成功体験ができました。

翌年の2009年には、歩合制から月給制への移行、未経験者採用への舵切りという大きな改革を始めたんですが、あの受賞がなければ、ここまで思い切った改革はできなかったかもしれません。

組織改革を考えている経営者の方には、まずは業務のIT化から始めることをお勧めします。それが必ず、より良い組織づくりの礎になりますから。

「めっちゃ便利やん」から始まったIT活用

――それでは、貴社のIT活用の歴史について教えてください。

川北: 1995年頃、ちょうどWindows95が出てきた時期で、「面白そうだな」と思って見ていたんですよ。中でも画期的だったのはExcel。たまたま周りに詳しい人がいて、その人に教えてもらいながら使ってみたのですが、 「なんじゃこれ、めっちゃ便利やん」 となりまして。今まで、電卓をたたいて答えを手書きしていたものが、計算式と数値を入力すれば答えがシート上に出てくるんです。自分で記入する必要もない。画期的でしたね。

当時の運送業界では、まだまだ手書きが当たり前でしたし、当社ももちろん同様でした。しかしExcelを使えば一気に便利になると感じ、業務で使い始めたのが最初ですね。

同時期に、荷物の追跡システムも自社開発しています。誰がいつ荷物を持ち出して、何時に配達完了したか、判子をもらったのか不在だったのか、そういう履歴がすべて残るシステムでした。

手作業でやっていたことをシステム化することで、本来やるべき仕事に時間を使えるようになる。 これはとても大きな成功体験でした。

さらに、「データベースの基礎的な考え方」を習得できたことも大きいですね。システム上にデータがあれば、検索も容易にできる。紙の書類を探すよりよっぽど楽です。 これは当社がすでに紙からExcelに移行してデータを蓄積していたからこそ習得できたのだと考えています。

この考え方が、今でも弊社を支えている基幹システムの土台になっています。

「二度手間をなくしたい」思いから業務管理システムの構築へ

――基幹システムについて教えてください。

川北: はい。受注入力、請求入金管理、そして配車処理といったバックオフィスの中核機能を一元的に管理できるシステムで、外部のシステム会社と連携して開発しました。

Excelはとても便利だったのですが、1回入力した情報を別のシートに何度も入力し直すことが多かったんです。マクロも煩雑でしたし、私にはちょっと難しかった…。であれば、全部が一元化されたシステムがあればいいんじゃないかと思ったのがきっかけですね。とはいえ、Excelでツールを使う、データを駆使するという成功体験を得ていたからこそ思いついた発想かなと。

川北: このシステムの画期的なところは、配車処理の機能です。マウスでドラッグ&ドロップするだけで、ある車両の仕事を別の車両に振り替えることができて、中の情報も自動で書き換わる。手作業による再入力の手間とミスを大幅に削減できるようになりました。

配車処理と受注管理が紐づいているので、請求書や支払書の発行もスムーズになりました。このシステムは今でも使っていまして、当社の基盤となっています。

データで変わった安全管理と指導方法

――車両の安全管理面でも早期からIT活用されているそうですね。

川北: 2001年頃からデジタルタコグラフを導入しました。これは、トラックが何キロで走ったか、何分停まっていたかを時系列で、速度と何をやっていたかがデータとして取れるものです。

当時からタコグラフは大型車に対して装着の義務があったのですが、そのデジタル版ですね。2004年頃にはGPSによる動態管理システムやドライブレコーダーも導入して、リアルタイムな車両管理や顧客対応のほか、事故分析を通じて安全面を強化してきました。

2020年には、安全性をより向上させるため、セイフティレコーダ「SR Advance」を導入しました。上の3つ(デジタルタコグラフ、GPS動態管理、ドライブレコーダー)が全部まとまったシステムで、より細かいデータが取れるようになっています。

例えば、交差点での曲がり方のデータ。信号を曲がった時のスピードや、どういう風に曲がったのかまで計測できます。スピードが速ければ危ないですし、トラックは交差点では大周りが必須です。しかし、内回りで曲がっていれば危険度が上がります。このようなデータが取れることで、細かい面まで運転指導ができるようになりました。

さらに、こういったデータがリアルタイムで確認できるんです。今何キロで走っているかもわかるし、「急ブレーキを踏みました」など危険挙動の際は、そのアラートと映像が事務所にとんでくるんです。

――導入前と導入後でどのような成果が出ていますか?

川北: 事故はどうしても一定数起きてしまうのですが、このツールを導入しているからこそ今の数で抑えられているのではないかと思っています。

大きな変化があるのは、注意の仕方ですね。今までは、ドライバーの言うことがすべてだったんですよ。「いや、そんな運転しませんでした」と言われてしまうとそれを信じるしかない。しかし、SR Advance導入以降はあらゆるデータが残っているので、「実際はこうでしたよね」と話ができますし、一緒に映像を見ながら、本人が気づいていない運転の癖を指導することもできます。ドライバーの納得度も大きく変わりました。

また、若い世代からは、「24時間体制で管理してもらえるのは安心」といった前向きな意見も多く出ています。

コミュニケーションと情報共有を支える仕組み

――近年は、どのようなITツールを活用されていますか?

川北: 2021年に勤怠管理システムを刷新しました。「AppLogi」というツールです。これは、ドライバーがスマホで出勤、積み込み開始、休憩時間などを入力すると、自動で勤怠データになって給与計算に使えるもの。

これまでは手作業で勤怠管理をしていましたが、システム化によってバックオフィスの負担が大幅に軽減されました。ドライバーも積み込み先の写真を撮って位置情報と一緒に共有できるので、情報共有がスムーズになりましたね。

――社内のコミュニケーションという面ではいかがでしょうか?

川北: 互いに感謝の気持ちを持てるような風土を醸成したいと考え、「カンパニーマイル」というサービスを導入しました。これは感謝の気持ちを投稿することでマイルが貯まるというもので、コミュニケーションの活性化に寄与したと思います。

2025年4月から「TUNAG」というクラウドサービスに切り替えました。これは、コミュニケーション活性化だけでなく、社内の情報共有にも役立てることができると考えたからです。以前は社員手帳を作って経営理念や評価制度を共有していましたが、毎年作り直すコストを考えると、デジタル化した方が効率的だと判断しました。

――「TUNAG」ではどのような活用をされていますか。

川北: 就業規則をPDFで共有したり、過去の事故事例と対策を新入社員が確認できるようにしたり、会社の制度やルールを一元管理しています。社内SNS機能もあるので、良いコミュニケーションツールになっていますね。

当社では、高卒で入社した社員をはじめ、 若手社員が安心して過ごせる職場づくり を徹底しています。こういったツールは、その環境づくりに役立っていると感じています。


【会社概要】
カワキタエクスプレス株式会社
設立:1984年
従業員数:約30名(2025年7月現在)
事業内容:トラック輸送業務、国内・海外の引越業務、国際物流、その他 物流全般
所在地:三重県亀山市

【主要なIT活用の歴史】

  • 1991~95年:追跡システム・Excel活用開始
  • 2002年:独自の基幹システム導入
  • 2003年:全国物流ネットワーク加盟
  • 2001年:デジタルタコグラフ導入
  • 2004年:GPS動態管理システム、ドライブレコーダー導入
  • 2008年:経済産業省「中小企業IT経営力大賞」審査委員会奨励賞受賞
  • 2020年:セーフティレコーダ「SR Advance」導入
  • 2021年:AppLogi導入
  • 2025年:組織改善クラウドサービス「TUNAG」導入

(取材・文:櫛田 優子 撮影:カメイ ヒロカタ)

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