連載:第3回 IT・SaaSとの付き合い方
甲子園4強すべてで愛用。ピッチングマシンの老舗。ITフル活用で「昭和」をじっくり脱却中
令和最初の夏の甲子園。そのベスト4全校で長年愛用される製品があります。グラウンドに置かれた緑色のピッチングマシンです。大阪市大正区に本社を構えるトーアスポーツマシーン株式会社は、ピッチングマシンの製造で日本一のシェアを誇る「小さな巨人」。従業員数約20名ながら、甲子園出場校のおよそ7割が同社製品のユーザーだといいます。 この創業71年の老舗スポーツ機器メーカーがいま、圧倒的なスピードで新規事業開発と業務改革に取り組んでいます。改革の旗手は現社長の長男である野里悠平さん。その背景と現状についてお話を伺いました。
【プロフィール】
株式会社トーアスポーツマシーン
企画開発営業部 野里 悠平 さん
中学生時代はボーイズリーグに所属し、野球に親しむ。高校生のころより、家族が経営する株式会社トーアスポーツマシーンでアルバイト。大学四年時に韓国へ交換留学。大学卒業後、アメリカ留学。一度トーアスポーツマシーンへ就業し、フィリピン・セブ島の語学学校などへの海外就職を経て、2019年2月に再び同社に復職。業務改革と新規事業を担当する。
16年続く野球人口の減少。新市場の開拓でぶつかった「営業の壁」
――貴社の事業について教えていただけますでしょうか。
野里悠平さん(以下、野里): 当社の主力事業はピッチングマシンのOEM製造です。いま、ピッチングマシンを製造している企業は国内に4社ほどありますが、当社は国内市場の6割~7割のシェアを占めていると思います。 2019年の夏の甲子園の出場校を調査したところ、約7割の学校が当社のマシンを使っていただいていました。 嬉しいことですね。
当社のピッチングマシンは、30~40年にわたって日本全国の野球部や地域の野球チームなどでご愛用いただいています。最近も、昭和60年に購入したピッチングマシンのメンテナンスについてのお問い合わせをいただきました。OEM製造ですので弊社の名前が表に出ることは少ないのですが、大手スポーツ用品メーカーや、販売店などを経由してご購入いただいたピッチングマシンには、修理先として「トーアスポーツマシーン」のステッカーが貼ってあります。ぜひ見てみてください。
――新規事業として、野球以外のスポーツ用品の輸入販売事業を始められたとのこと。
野里: はい。長年、野球用品を主力としてきましたが、今年から新規事業に取り組み始めました。テニス、卓球、バスケットボール用の練習マシンの輸入・開発・販売です。これまではBtoBのみでしたが、これらの新商品についてはBtoBに加えてBtoCにも取り組んでいます。
当社がピッチングマシンの製造・販売を始めたのは、40年ほど前のことです。当時は野球人口が増えていて、何もしなくてもピッチングマシンが売れる時代でした。しかし今、野球人口は減少しています。夏の甲子園の参加校でいえば、全盛期に全国4,000校以上あったものが、2019年は約3,700校。16年連続で減少しているのです。
我々としても、野球人気の回復を手をこまねいて待っているだけではいけません。今まで培ってきた強みが活かせる分野で新事業に着手しようということになり、まず初めに「テニス用の自動球出しマシン」の輸入販売を開始しました。
――なぜ、テニス用マシンなのでしょうか。
野里:「テニスのコーチの人材不足が深刻だ」 というお客様からの相談がきっかけです。特に地方では、テニスの競技人口に比べ指導者・コーチが減っています。人材不足を補うため、フィリピン出身のコーチを採用しているテニススクールもあります。 自動で球出しをしてくれるテニスマシンが1台あれば、コーチの人手不足に苦しむテニススクールの助けになりますし、より多くのプレイヤーが効率的に練習できる環境を作ることができます。例えば、テニススクールでストロークの練習をする際、生徒は順番に並んでコーチからの球出しを待ちますよね?これまでは、コーチがいないと練習できませんでしたが、 そのマシンがあれば「球出しのための人手」は不要 になります。
テニスの球出しマシンは、まだまだ普及しているとはいえません。しかし、ピッチングマシンも40年前には同じ状況でした。当初は珍しかったマシンが、その後爆発的に売れ、「当たり前にあるもの」に変化していったのです。テニスに関しても、その「爆発」をこれから作り出していきたいですね。近い将来、「どの学校でも当たり前にテニスマシンを保有している」という状態にしたいものです。 同じように、卓球やバスケットボールについても、自動球出し・球拾いマシンの輸入・製造・販売を進めています。
欧米では一般的なテニス練習用の自動球出しマシン。コースや高さ、ランダム打ち分けなど様々な設定が可能。
――新規事業における貴社の強みはどのような点にあるのでしょうか。
野里: 我々の強みは、ピッチングマシン事業で製品の企画、設計、製造から販売、メンテナンスやアフターサービスまでを一貫して行ってきたノウハウです。これまで国内の生産拠点で培ってきた製造ノウハウを生かして、新規事業の輸入販売に際しても、製造元である海外のパートナー企業と連携し、日本市場のお客様に合わせたカスタマイズを行っています。
――テニスマシンの輸入販売事業で直面した壁や課題などはありますか。
野里:難しいと感じているのは、営業 ですね。これまで私たちが手がけてきたピッチングマシンは、BtoBで販売してきましたが、テニスマシン事業では自社直販に取り組んでいます。これまでは「注文が入れば出荷する」スタイルでしたが、これからはテニススクールなどを相手に 「買ってもらう」ための営業スタイルに変わらなければいけません。
そもそもの営業戦略が、立案段階から変わります。 営業戦略に合わせて、社員の考え方・動き方も変える必要があり、また社員が動きやすくなるよう、組織体制やコミュニケーションも変化させていく必要が出てきました。
ITツールによって、少しずつ、着実に業務がスピードアップ
――kintoneやSlackなどでの業務効率化に取り組んでいるとのこと。
野里: kintoneに関しては、まだ取り組みを開始したばかりです。導入準備のため、社内からプロジェクトメンバーを5人選出し、まずはkintoneを勉強しました。他社の活用事例や機能などを一通り把握し「自社のどういった業務に、どういう風に使えそうか?」といったアイデアを出すためのブレインストーミングを行っています。
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