連載:第6回 経営危機からの 復活
「何もわかっていない! 従業員が可哀相だ」と言われて気づいた経営者の覚悟


「ビール界のオスカー」といわれる、イギリスの歴史あるビールの国際大会「IBA」での金賞受賞を初めとして、世界で数々の賞を獲得している伊勢のクラフトビール「伊勢角屋麦酒」。このビールを醸造する二軒茶屋餅角屋本店は、天正3年(1575年)創業の老舗企業です。元々は伊勢神宮へ通じる舟着場で餅の製造や、味噌・たまり醤油の醸造を手掛けていましたが、これらの製造技術をもとに1997年に同社21代目に当たる鈴木成宗社長がビール事業を立ち上げました。その後は日本を代表するクラフトビールメーカーに成長し、国内外で多くのファンを獲得しています。このような世界に通用するブランドを作った同社のものづくりやマーケティングの取り組みについて代表取締役社長の鈴木成宗さんにお話を伺いました。

有限会社二軒茶屋餅角屋本店
代表取締役社長 鈴木成宗さん
東北大学農学部卒業後、1990年に、創業から444年続く家業の二軒茶屋餅角屋本店に入社。大学時代に専攻した微生物の研究が高じて 1997 年にクラフトビール事業を新規事業として立ち上げる。2003年にオーストラリアの国際大会Australian International Beer Awardにおいて金賞を受賞。2017年にはビール界のオスカーと称されるInternational Brewing Award(IBA)において金賞を受賞。その後も国際大会で数々の賞を受賞している。また、自身も国際大会審査員の資格を取得し、海外の国際大会(コンペティション)に定期的に参加している。
学生時代からの微生物好きが高じてビール事業に参入
――創業400年を超える老舗の餅屋がどういったきっかけでクラフトビールを始めたのでしょうか?
鈴木成宗さん(以下、鈴木): 「夏場は餅が売れないから、夏に売れる商品が欲しかった」とか、「醤油の醸造業の経験があるので、それを活かして更に発展性のあるビジネス展開を考えたい」とか、いくつかの理由はありました。しかし一番の理由は私が純粋にただやりたかっただけ(笑)。
大学までは「家業に関連することではなく好きなことを!」と思って、東北大学の農学部で生物学を専攻していたのですが、僕は微生物や発酵が大好きで、それが高じてビールづくりを始めました。ビール事業を創業したのは1997年です。1994年に酒税法が改正され、ビールの製造免許に必要な最低生産量が大幅に引き下げられました。これにより、日本全国で多くの中小地ビールメーカーが誕生していました。それを見て「自分でもやってみよう」と思って始めたのです。
――ビール事業を始めるに際して周囲からの反対はなかったのですか?
鈴木: 先代社長である父は全く反対しませんでした。ただここまで大々的だとは思っていなかったようです(笑)。それよりも地元の社外の方からの反対が多かったですね。「本業が順調なのに、そんな危ないことはしなくても良いのでは」と忠告を頂きました。また、税務署に製造免許の申請をしたときにも担当者からは、「おたくのような老舗がこんなことやらんでもいいのに……」とも言われました。
世界で認められたビールが売れないという矛盾
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バックナンバー (10)
経営危機からの 復活
- 第10回 看護師200名中60名が離職。医療法に翻弄される地方病院の人材施策
- 第9回 火災で工場が焼失、2代目の町工場社長はどうピンチを乗り越えたか
- 第8回 2回の閉院を乗り越え、働きやすい病院が生まれた。「経営の無知」を自覚した開業医が徹底的に意識したこと
- 第7回 離職率40%から8%への道のり、組織崩壊の状態からグッドパッチが立ち直れた理由
- 第6回 「何もわかっていない! 従業員が可哀相だ」と言われて気づいた経営者の覚悟
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