連載:第88回 経営危機からの復活
「あるもの」を捨てたら人が辞めない組織になった。社員の離職を止めたリーダーの気づきと覚悟


2018年の社長就任直後、中途採用者やベテラン社員が次々と離職する深刻な事態に直面した井上直之さん。就任からわずか2年間で約30人もの退職者を見送ることに。その根本原因は、経営者として最も手放すのが困難だった「あるもの」への固執でした。それを捨てることで離職率は劇的に改善。井上さんに、組織改革の道のりと経営者の覚悟について伺いました。

三陽工業株式会社
代表取締役社長 井上 直之 さん
1977年生まれ、兵庫県神戸市出身。2005年、三陽工業に入社後、専務を経て2018年に社長就任。製造業向け人材派遣業を展開し、「日本の製造現場を元気にする」をビジョンに掲げる。
社長就任直後に大量退職。リーダーが捨てた「あるもの」への固執
——現在、御社の業績はどのような状況でしょうか。
井上直之さん(以下、井上): 当社は製造業向け人材派遣業を展開しています。おかげさまで売上は順調に推移しており、2025年2月期には83億円と過去最高を更新しました。
ただ、ここに至るまでには大きな困難がありました。2018年の社長就任当時、深刻な人材流出に直面し、組織として非常に不安定な状態が続いていたんです。
当時はIPOを目指していたこともあり、多くの人材を必要としていたタイミングでもありました。そのため2018年頃から約10人の営業所長を中途採用したのですが、2020年頃まで残っていたのは1人だけ。既存の営業部門からも約20人が辞めていき、その期間で合計約30人が退職したんです。 年間の離職率にすると、20〜30%という状況で、会社の成長に人材の定着が全く追いついていませんでした。
そこにコロナ禍が重なったことでIPOを断念。そして2021年度の売上高は56億9千万円まで落ち込みました。しかしその後は組織の立て直しが功を奏し、V字回復を果たすことができたんです。
——離職率はどの程度改善されているのでしょうか?
井上: 派遣での配属社員を除くと、今トータルで350人ぐらいの所帯ですが、直近2年間で辞めた社員は10人もいないですね。これは社長就任時とは全然違う数字です。
今振り返ると、 経営者として最も手放すのが困難だった「あるもの」を捨てられたからこそ、現在の姿があると思っています。 それができなければ、おそらく今でも人が辞め続ける会社のままだったはずです。
——経営者として、何を捨てられたのでしょうか?
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バックナンバー (88)
経営危機からの復活
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