連載:第86回 経営危機からの復活
3期連続赤字を1年で再生。V字回復したリーダーが気づいた、成功している組織と衰退していく組織の「たった一つの違い」


「新規受注4割減」「3期連続赤字・26億円の債務超過」「4ヶ月後のキャッシュショート確定」——2020年11月、赤羽博行さんが株式会社あしたのチームの社長に就任した当時、会社は文字通りの「崖っぷち」でした。しかし就任後わずか1年で黒字化を実現。以来4期連続黒字を維持するV字回復を成し遂げました。その再建の鍵となったのは、赤羽さんが確信した「組織づくりで一番大切なこと」でした。危機的状況からの劇的な復活の秘密に迫ります。

株式会社あしたのチーム
代表取締役社長CEO 赤羽 博行 さん
1974年4月生まれ。千葉県松戸市出身。大学卒業後、オービックビジネスコンサルタントに入社。その後、2002年にスカイライトコンサルティングへ転職し、コンサルティング実績を積む。2009年より株式会社あしたのチームに社外取締役として参画し、2014年から常勤取締役として経営に携わる(COO、CTO、CFO、CHROを兼務)。2020年11月に代表取締役社長CEOに就任。
「26億円の債務超過状態」から脱するためにリーダーが貫いた、大切なこと
──赤羽社長が就任された2020年11月当時、組織はどのような状況だったのでしょうか?
赤羽博行さん(以下、赤羽): 2017年から2018年にかけて、創業者は急速な拡大路線を進めていました。全国47都道府県に支社やサテライトオフィスを設立し、海外4カ国にも進出、最大で65拠点まで広げました。急激な事業拡大のため、とにかく人を集めるために採用基準を下げざるを得ない状況に陥り、人材育成も追いつかず、 結果的に組織全体の質が低下していきました。
新設した地方の支社長を新卒社員が務めるケースすらあり、商談相手の経営者からの信頼獲得が難しいこともありました。その上、 経営スタイルは超トップダウン型で、「上司の言うことは絶対」という体育会系の組織文化でした。 上司に質問したり反論したりすることも許されないほど厳しい環境。 毎週方針が変わるものの、それに対して全員がイエスマンで従うしかない状態でした。経営幹部ですら意見が通りにくい状況だったことから、自律的に考えて動く余地もなく、指示を待つ体質になってしまっていたんです。
そして2020年初頭、コロナ禍の影響で人事関連の投資が冷え込み、新規受注は4割減という厳しい状況に。さらに同時期に会計処理の誤りが発覚し、過去の2期半の決算を遡って修正する必要が生じました。結果として、2018年度、2019年度と2期連続赤字に陥り、2020年度は10月時点で10億円を超える赤字が確定している状態。 3期連続赤字で26億円の債務超過という極めて厳しい局面に立たされていました。
2020年11月の社長就任から年度末までの3.5ヶ月では、もう黒字化は不可能で、次の年に向けて何とか準備するしかない、という状況でした。しかも、4ヶ月後にはキャッシュショートが確定していたため、個人で5億円の連帯保証をし、当面の資金を調達したほどです。
──当時の社員はその状況を把握していたのでしょうか?
赤羽: 2020年12月1日、全社員に向けて置かれている状況を赤裸々に伝えました。ただ、社員の反応は意外と無反応だったんです。目の前には仕事がある、給与もきちんと支払われている状況ですから、「なんだかこの状況は良くないのかもしれない」程度の認識で、慌てた様子も見られず、どこまで崖っぷちの状態なのかわかってすらいなかったと思います。実際に危機感を持っていたのは私たち経営陣だけでした。
——そのような危機的な状況を赤羽社長はどのような方針で乗り越えたのでしょうか?
赤羽: 私は、指示待ち体質の組織に大きな危機感を持っていました。そこで、 これまでの経験で確信できた「組織づくりで一番大切なこと」に基づき、社長に就任してから、ある方針を貫き通しました。それが、組織を再建させた鍵となったのです。
――詳しく教えてください。
赤羽: 就任直後に私が貫いたこと、それは 「絶対に指示を出さない」という方針 でした。ゴールだけを示し、「あとは自分で考えて、自由にやっていい」と権限を委譲していったんです。
なぜその行動が組織を再建するにあたって有効と確信できたのか。まず、私には非常に対照的な二つの組織での経験があります。最初に勤めたのは完全年功序列の大手企業で、その後は完全実力主義のベンチャー企業でした。さらに、コンサルタントとして数十社の経営改革に携わり、様々な組織の内側を見てきました。
年功序列の組織は安定している反面、「決められた通りにやる」「前例踏襲」文化が強く、変化に対応できない。一方、実力主義の組織は革新的でスピード感がある反面、短期的な成果だけを求め続けると社員が燃え尽きてしまう。どちらにも明確な限界があるんです。
そして多くの企業を見てきて気づいたのは、 成功している組織と衰退していく組織の決定的な違い。それは…
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バックナンバー (86)
経営危機からの復活
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- 第84回 会社が良くなるのも悪くなるのも社長次第。「稲盛会計学」でV字回復のリーダー、自戒と確信
- 第83回 社員の一言で目が覚めた。焦りが招いた失敗を乗り越えV字回復を遂げたリーダーの気づき
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