連載:第3回 新規事業の作り方
30人の町工場が見つけた、ものづくり企業の生き残り戦略【由紀精密・大坪正人社長】
神奈川県茅ヶ崎市にある由紀精密。元々は顧客である大手電機メーカー2社への依存度が高い小さな町工場でしたが、現在、方針を大きく変えて「航空宇宙」や「医療」の分野にまで展開し、関係者からは絶大な信頼と支持を得ています。会社を危機から立て直し、新たなビジネスにシフトさせたのは、3代目社長の大坪正人さんです。航空宇宙や医療分野に進出するまでの経緯と、由紀精密が組織作りで意識しているポイントをお伺いしました。
株式会社由紀精密
代表取締役社長 大坪正人さん
1975 年に茅ヶ崎に生まれる。東京大学大学院工学系研究科産業機械工学専攻修了後、 2000年インクスに入社し、技術開発に従事。 2005 年自ら立ち上げた世界最高速の金型工場により、ものづくり日本大賞経済産業大臣賞受賞。2006 年、父が経営する由紀精密入社、常務取締役として開発・技術営業業務に従事、2013年に社長に就任し、現在に至る。
由紀精密では航空宇宙、医療を問わず、高い品質の製品を提供できるのが強み
――由紀精密が航空宇宙や医療の領域に進出するまで、どのような経緯があったのでしょうか?
大坪正人さん(以下、大坪): 由紀精密は、80年代には公衆電話のシャフト部品や90年代から2000年代にかけては光ファイバーのコネクタ部品を作っていましたが、今では公衆電話はあまり姿を見ないし、光ファイバーも普及して需要が減りました。 機械が必要とされる領域はどんどん減って、センサーとソフトウェアに置き換わっています。 80年代から現代を振り返ると、計算機やカセットテープ、レコーダーなど機構のあった製品はすべてスマホに置き換わってますよね?
そこで今後も機械が必要とされる領域で、より高付加価値の部品に関わることにシフトしました。アルミなど削りやすい材質の加工は、1度組んだプログラムである程度連続運転が可能です。しかし、インコネルやステンレス、チタンなどの材質は、刃物が磨耗しやすい関係上、連続運転にはノウハウが必要です。例えば、そのような材質が必要とされる部品などを手がけました。
加工や量産が難しい部品は単価が高く、その分収益が見込めます。また、海外に流れるリスクも低いです。別に万人に向けた、大量生産の製品を手がける必要はありません。 世界で数十人程度でも「これはどうしても欲しい‼」と思う人がいてくれれば、高い値段でもビジネスは成り立ちます。
その最たる領域が航空宇宙です。物理的にモノを移動させるニーズ、例えば、飛行機やロケットは『どこでもドア』が開発されない限り今後もなくなりません。そのなかでも宇宙用のロケットは1発打ち上げるのに100億円単位でコストが掛かります。「はやぶさ」のような一大プロジェクトがあったとき、多少値段が高くても、精度の高い部品が求められます。誰がどこで作ってどう品質保証をしたか、材料証明なども必要。トレーサビリティ(追跡可能性)が取れると安心で安全ですがその分大変なので、他社が尻込みする領域でもあるんです。
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