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連載:第28回 IT・SaaSとの付き合い方

クラウドストレージの“リアル”導入事例。一人情シスが振り返る選定プロセスと社内提案のコツ

BizHint 編集部 2024年5月30日(木)掲載
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「紙が多い、情報が属人化…」と現場が叫ぶも、経営層は「何が問題なのか?」と旧態依然の体制が続いていた地方の建設会社。ある一人情シスの気づきと提案から、経営層が翻意し、クラウドストレージを軸にした「情報一元化・ペーパーレス」の社内改革がスタートします。しかしそれは同時に、社員それぞれの情報に土足で踏み込む行為でもありました。上層部と現場に挟まれながら業務改革に奔走した経緯と、そこで得た気づき、教訓について伺いました。

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※本記事は取材に基づいて制作しておりますが、リアルなエピソードをお届けするため、本筋に影響はない範囲で一部匿名にしております。また、各種情報についてはおおよそ2021年ごろのものとなります。


目次

  • 経営層がクラウドストレージで解決したかった組織課題
  • 経営層の決裁を得るために必要な、情シスの考え方
  • サブスクリプションへの抵抗感を払しょくする説明
  • クラウドストレージの比較検討。決め手となった3要素
  • 「一人情シス」として必要なこと、やらないこと
  • 情報管理のためのクラウドストレージ導入。4つの心構え

経営層がクラウドストレージで解決したかった組織課題

(お話を伺った方 / 抱えていた組織課題)
・建設業 / 住宅設計・施工、公共施設の建設・土木
・創業40年
・従業員数:約30名
・情報システム部門の責任者(一人情シス)
・課題:情報の属人化、紙業務による非効率。営業活動のチャンスロスによる売上低迷

――貴社の業務改革では、クラウドストレージとして「box」を採用されました。根底にあった組織課題を教えてください。

当社が抱えていた最も大きな課題は 「ほしい情報がほしい時に手に入らないことによる、営業機会の損失。チャンスロス」 でした。当時は情報を一元管理する仕組みがなく「 その人しか持っていない情報 」を得るためにムダな手間、時間がかかっていました。

そしてその悪影響が如実に出ていたのが、住宅事業部です。 住宅を建てたいお客様は、複数社に見積もりを依頼されるケースが往々にしてあります。その場合「最初に出された見積もり・提案書」が商談の基準になります。後から出されたものはすべて、それと比較されるわけです。

最初の提案書は「最も対応が早い」という時点で好印象を持たれる上、お客様としても初商談ですのでしっかりと話を聞いていただけます。営業マンの信頼構築という意味でも優位ですよね。

つまり、 いかに早くお客様へ適切な提案を出せるかが、受注に大きく影響してくる のです。

もともと当社の住宅提案の強みは「安さ」でした。ですので、後発で提案しても「他社より安くできます!」で逆転する戦略も採ることができていました。

しかし昨今の原材料・住宅資材の高騰の影響を受け、「安さ」で勝負できなくなりました。どうしても相応の金額になってしまう。無理して安くしてしまえば、工事で1つでも段取りを間違えれば赤字という案件になってしまう…。

当社は「安さ」という武器が使えなくなり、他社と同じ土俵に乗る必要が出てきました。しかし社内にあったのは、後出し提案しかできない業務フロー…。

1つの案件に対応するにも、誰がどの情報を持っているかを、誰かに聞いて探している。しかしその誰かにはすぐに連絡が取れない…。情報がわかる紙の資料の在り処もわからない。その場所がわかる人が誰かもわからない…。

個々人が情報を自分のPCで管理して、まさに属人化されていました。また紙の情報も膨大…。「必要な情報を知る」ことの難易度が跳ね上がっていました。

他方、当社の社員が一生懸命、それこそ数日かけて情報を探して集めて、提案書を作っている間に、他社はお客様に連絡して、お会いして、スムーズに提案・商談を進めている…。

正確な情報を素早く得られないことが、ムダな手間を生み、営業機会を失う原因になっていた わけです。さらに言えば、その周辺での社内不和をも引き起こしていました。

このことに経営層が気づいたことが、業務改革の出発点でした。

経営層の決裁を得るために必要な、情シスの考え方

――経営層はどのようして、その気づきを得たのでしょうか?

これは、情報システム部門を担当していた私からの業務改革・効率化の提案に遡ります。

もともと私は、情報の属人化・紙ベースの管理を卒業したい、いわゆる情報の一元化・ペーパーレス化を進めたいと考えていたのですが、それをそのまま経営層に提案しても、首を縦に振ってもらうことはできませんでした。

そんな中で試行錯誤を繰り返し、経営層から業務改革の決裁を得た「解決すべき組織課題」が『営業機会の損失』でした。

ここに至る過程は情報システム部門の私にとって、経営層への提案時の考え方や視点を学ぶ貴重な機会になりました。

――その過程について教えていただけますか?

まず、経営層に「そろそろ紙の管理をやめませんか?ペーパーレスを進めませんか?業務効率が上がりますよ。便利ですよ。」と何度も提案しました。しかし、私がどんなに根拠を並べたところで、話は前に進みませんでした。

そこで「社員の困りごとアンケート」を実施して、そこにあった「紙が多い」「情報の属人化」「ITリテラシーが低い」といった回答をもとに、業務改革が必要であることを提案しました。

しかし、そこで返ってきたのは 「それの何が問題なのか?」 という一言。

一連のやり取りを経て、私と経営層とでは「問題として感じるものが違う」ということを痛感しました。そして、 現場の問題意識を経営層に伝え、経営層を動かすには、経営層に響く問題に置き換える必要がある と考えるようになりました。

では、経営層に響く問題とは何か?少なくとも当社において、経営層は利益や売上の話には特に敏感でした。

そのため、現場が抱える課題を放置していることで発生する 売上・利益への悪影響という問題を伝えました。

これはあくまで私の感覚ですが「このリスクを取れば、売上が上がる」というよりも「今まさに、取れたはずの契約を逃し続けている(これをやるだけで、それが得られる)」といった、 「本来あるものを得られていない。もったいない」といったアプローチが効果的だった ように思います。

サブスクリプションへの抵抗感を払しょくする説明

――業務改革として、情報の一元化・ペーパーレス化がスタートします。クラウドストレージとしてboxを採用されるまでの経緯を教えてください。

もともと当社では、ファイルサーバーを買い切りで使用していました。それをクラウドストレージに移管することになるのですが、ここでも経営層からすんなりと決裁は下りませんでした。

その理由はboxの料金体系である「サブスクリプション」。今、そのために毎月出ていくお金はゼロなのに、それが 「使い続ける限り、お金を払い続けなければならない」 ことに引っかかっていました。

決裁をいただいた際、私は以下の3つのメリットを伝えました。

1. box1つで利用できる機能が多様で、使い込むほど割安・お得になる。

boxには、ワークフローを効率化する「box Relay」や、電子署名機能である「box Sign」など、クラウドストレージ以外の機能もあります。

それらをどれだけ使っても月額料金は変わらないので、今後、さらに業務スピードを上げようとすれば、個別の機能ごとに別のシステムを導入するよりも割安になる。

2. 法改正に対応できる

当時は電子帳簿保存法やインボイス制度が始まるころで、それらへの対応準備が求められていました。

電子取引データの保存はもちろん、他のシステムと連携することで法改正に対応した文書管理や活用が容易にできるようになります。

「会社として、法改正対応のために別プロジェクトを立ち上げる必要はない。boxを使えば、ついでにそれが解決できる」というメリットです。

もちろん、実際には私がそれに対応できるようにシステムを組み上げるのですが、あえて「box導入のメリット」として訴求しました。

3. 複数の機能を利用してもUIや操作が同じ。すぐに使える。

1ともつながるのですが、今後、機能ごとに異なるシステムを導入すると、操作を教えたり覚えたりするのに時間がかかる。

boxの機能をそのまま使えば、新しいマニュアルもいらないし、すぐに使える。営業活動にメリットはあってもデメリットは極小であることを伝えました。

もちろん背景には「営業の機会損失を減らす」という大義名分はありましたので、将来的なコストパフォーマンスの良さを訴求した形ですね。

クラウドストレージの比較検討。決め手となった3要素

――クラウドストレージサービスは他にもあります。貴社でboxを採用するに至った理由を教えてください。

前手条件として、当時お付き合いしていた代理店が取り扱っていたサービスを比較検討しました。比較対象としては、DropboxとGoogleドライブです。また当社はoffice365を使っていましたので、OneDriveとの比較も交えて検討しました。

選定のポイントは、大きく3つです。

1. 不正アクセスのリスクが低いと判断。社員教育はじめ、セキュリティ管理の負荷が抑えられる

実際に使って比較検討をしたのですが、少なくとも私のテストでは、DropboxとGoogleドライブに比べ、boxはある異なる性質を持っていました。

それは、LANを経由してPCからアクセスできないこと。

これはつまり、社員のPCがウィルスに感染したとしても、box内のデータへはアクセスされにくいことを意味します。またboxでは、ファイルにウイルスチェックが入ることもポジティブな材料でした。

前述のように、当社の社員は「ITリテラシーが低い」というのが正直なところです。つまり、ウィルスを持ち込む可能性について十分念頭に置いておく必要があります。

しかしboxのこの性質があれば、よりセキュアな環境を作れますし、何よりセキュリティについての社員教育の時間が大幅に削減できます。

一人情シスである私にとって、社員教育をはじめとした間接コストの削減はとても大きいのです。

正直、機能や費用はあまり変わらなかったのですが、boxのこの性質のおかげで 間接コストを大きく削減できることは、最大の決め手 となりました。

2. 個人にドライブが割り当てられない

boxは、1つのドライブをみんなで使うという形です。

クラウドストレージの中には「個人にドライブが割り当てられ、それを他者と共有する」というものもあります。OneDriveがこの形ですね。しかし当社の場合、それはフィットしないと考えました。

というのも、個人にドライブ管理やフォルダ作成などの管理を割り当ててしまうと、それぞれがいろいろな使い方をしてしまい、データ管理・情報共有に支障をきたす恐れが多分にあります。

当社が「一人情シス」「社員のITリテラシーが低い」「ある程度小規模の組織」という環境ということもありますが、データの取り扱いや格納のルール、フォルダの階層設定などを私が管理しやすい、また社員含む第三者が見てもある程度わかりやすいものにしたいという思惑がありました。

実際、新規フォルダ作成時に自動的に下層のフォルダを作成するプログラムを組み、フォルダマネジメントをしやすくしました。そうしてフォルダ構成が統一されれば、社員にとっても情報の格納場所の検討が付きやすくなります。

さらに言えば、フォルダ管理をシンプルにわかりやすくすることで、ここでも社員教育や運用といった間接コスト抑えることができます。

3. API連携による拡張性

boxはAPIで他のシステムと連携することで、さらに幅広く活用することができます。今後、社内でさらなる業務の効率化を行おうとすれば、この特長は優位に働くと感じていましたし、実際そうなっています。

もちろん他のツールでも同様のことはできますが、その連携の多さや、UIの使いやすさが私にフィットしていたのはあると思います。

当社のbox導入でいえば、この3点が導入の決め手でした。もちろん、大企業でたくさんの社員がいたり、ITリテラシーがもっと高かったり、異なるゴールを持っていたりと、条件が異なればまた別の選択になっているはずです。

「一人情シス」として必要なこと、やらないこと

――「一人情シス」として業務改革を進める上で必要だと感じたことはありますか?

まずは、 上層部や現場の部門長の理解を得ることが何よりも重要 だと思います。それがなければ、業務改革を円滑に進めることは100%できません。

また、基本的には 上層部と現場との板挟み になります。この板挟みというのが精神的にきついと思います。

私のケースで言えば、それを回避、緩和するために、以下の2つのルールを設けました。プロジェクトの途中で取り決めたのですが、最初に決めておくと、もっとスムーズだったと思います。

1. 私の想定外のことは、部門間で解決する。判断できない場合には、各部門長と私(一人情シス)を交えて協議する場を設ける

情報共有、一元管理とは裏を返せば「見ようと思えば、他部署の情報も見られる」ということです。

他方、それこそいろいろな事情で他部署には見られたくない情報も存在します。これを解決するのが「閲覧権限」なのですが、閲覧権限をどう設定するかは、情報システム部門の私にはわかりません。

ですので「閲覧権限は、部門間で決めてください」と約束しました。私はその決定に従って設定するだけです。情報システム部門としてその部分には関与しない、と役割を割り切りました。

それぞれの部門間の事情のほかにも、私が想定できないことは多々あります。その場合の解決法、責任の所在を約束しました。

私が関与する場合も、あくまで「間に立つ」という形。「とある一部門と私」という関係性を極力作らないようにしました。

2. 意見がある社員は、まず部門長に伝える

社員がこの業務改革に関して意見がある場合は、直接私に来ないことを約束してもらいました。まず部門長へ、と。

いろいろなケースがあったのですが、最終的には私の一存で判断、回答できる類の質問は少ないのです。結局は「会社が、その部門が決めたことだから」としか答えられないことが多い。

私はあくまで情報システム部門の担当者であって、会社・組織の意図や思惑を、できるだけ使いやすいシステムに落とし込むことが仕事です。これもやはり、割り切りですね。

こうしたすり合わせ、ルール作りを上層部としておくと、一人情シスとしてスムーズに仕事ができる一助にはなると思います。

――逆に、やらないほうがいいことはありますか?

私も失敗してしまったのですが、 「なんとなく」「実施して終わり」の社内アンケートはやらないほうがよいと思います。

社内アンケートは、現場側からすると、一見ロジカルなアプローチに見えるかもしれません。しかし前述のように、経営層に響くのは「アンケート結果そのもの」ではありません。

アンケート結果の先にある「経営層が見ているもの」に辿り着けなければ徒労に終わります。そこまで行ける確信がなければ、アンケートはしなくてもよいと思います。

自分の問題意識を深堀りする、経営層や現場と直接話して、「経営層に響く提案」を見つけるのが近道だと感じますね。

―― 「一人情シス」で心細くなることはありませんでしたか?

心細いとは少し違いますが、四面楚歌になるのは避けたかったので、上述のような上層部との約束事をしたり、ある程度の割り切りを行いました。

また、boxをテーマとしたセミナーに度々足を運んだことも思い出します。社内調整やシステム構築だったり、必ずしもうまくいくことばかりではありません。しかしセミナーに行ってみると、どの会社も自分と同じような苦労や問題を抱えているんです。

「こうやって苦労しているのは自分だけじゃないんだ」とわかるだけでも、大きな収穫でしたね。

情報管理のためのクラウドストレージ導入。4つの心構え

――ご経験から、クラウドストレージの検討・導入の際に持っておくべき心構えはありますか?

当社では、クラウドストレージの導入によって、情報の取り扱い方を変えました。そういった場合の心構えも含みますが、次の4つがあると思います。

1. 情報の取り扱いを変えることは「現場に踏み入る行為」であることを自覚する

当社の場合、それまで個人が「自分のもの」として持っていた情報の扱い方を変える試みでした。

例えるならば、個人の家を捨てさせ、boxという国家に移住させるようなイメージです。つまり、相手からすれば自宅に土足で踏み込まれるような状況にもなります。

そうなれば当然、抵抗があり、返り討ちにもあいます。だからこそ、そこへ立ち入るためには防衛手段が必要です。

その防衛手段となるのが、先述した 上層部や部門長の理解や支援 です。

さらに言えば、 情シス側の現場に対する理解 も重要な防衛手段です。現場を知ることで、その後に起こりうる問題の想定ができ、対策を事前に講じることができます。

逆に言えば、 情報システム部門が現場のことを知っていなければ、知ろうとしなければ、業務改革は不可能 という側面も多分にあると思います。

2. 事前の想定を超える出来事は、絶対にある

リリース後、情シス担当者が想定しなかった使い方がなされることは、必ずあります。「必ず」です。

その時に「なぜ…こんなことが?」という悩みが生まれると思いますが、その 悩みは自分では解決できないものも含まれます。 そこでストレスを抱えてしまわないようにするのが、ちょっとしたコツだと思います。

想定を超える出来事はある。自分では解決できないことも中にはある。こうした割り切りが事前にあると、気持ちが楽になり、追いつめられることが少なくなると思います。

3. 「やらない人」は絶対にいる

会社の方針で決まったとはいえ、長年のやり方を変えたくない人は絶対にいます。

ここで私たちがやるべきは「待つ」ということ。つまり、 やらざるを得ない環境になるまで待つ のです。

仮にその人がやらないとしても、社内システムが変わっているので、周囲がその人の行動を受け付けなくなります。それは日が経つにつれ顕著になります。すると、その人は嫌でも変わらなければなりません。

情シスとして、変わらない人への働きかけに力を入れなくてよいです。そのうち変わります。

4. 「全員がやらないと意味ないでしょ」と言う人がいる

業務改革の前に「全員がやらないと意味がない。無理だ!」「絶対にやらない人がいるのに、うまくいくはずがない!」と詰められたことがありました。

まず考え方として、リリース初日に 100点を取ることはできません 。最初は 20点、30点でもよい。そこから徐々に100点にしていくのが、業務改革というものだと考えます。

当社では、 進捗を記録するリストを制作 して、上長に報告していました。「誰に何をインストールした」「誰に教えた」「この機能を教えた」「この機能はまだ教えていない」などを日付とともに細かく記録し、それをもとに取り組みが完了する時期も予測していました。そうして少しずつ、100点を目指していきました。

もちろん、問題が出てきて予定通りに進まないこともあるでしょう。しかしそれも含めて、一歩一歩、前に進めていくものです。

ですから、 最初は数人からでもOK。小さく始めて徐々に大きくしていくもの、ということを、情シス本人はもちろん、上層部や現場と認識を合わせておくと、よりスムーズなクラウドストレージ導入、さらに言えば業務改革が進むと思います。

(文・安藤ショウカ)

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