連載:第29回 IT・SaaSとの付き合い方
BtoBの食品受発注システムの“リアル”導入事例。選定者が振り返る検討プロセス
食品卸業界で「FAXでの受発注を効率化したい」と受発注システムを導入したものの、煩雑な作業はなくならなかった…。その根本的な原因は何なのか?どうすればシステム選びの失敗を防げるのか?今回は、食品卸売業者向け受発注システム「クロスオーダー」と「BtoBプラットフォーム」の利用企業の実例から、選定時の心構えやポイントについてお話を伺いました。
受発注システムの設計思想と、自社がやりたいことが乖離していた。
※本記事はインタビュイーの特定を避け、またリアリティを重視するため、本筋に影響がない範囲で内容を一部改変しております。
(お話を伺った方) ・青果卸業
・創業50年以上
・従業員数:約20名
・経営層、現場・情報システム担当者(兼任)
・課題:FAX中心の受注業務の効率化
――貴社では、食品卸売業者向け受発注システム「クロスオーダー」を導入されました。その背景や検討の過程を教えてください。
当社は長年、ホテルのレストランや料亭などに青果を卸していますが、当社の業務を煩雑にする大きな要因に「お客様によって発注方法がバラバラ」というものがあります。そしてその背景にあるのが、お客様ごとに使っている発注システムが異なるという現実です。
とあるホテルでは食材の発注業務にNECのホテル購買システム「IPORTER」を使われますし、別の料亭ではインフォマートの「BtoBプラットフォーム」を利用されます。世界チェーンの外資系ホテルでは注文を記した専用書式のPDFがメールで届いたりします。そして多くのお客様との受発注で主流となっているのは、何十年も変わらない手書きのFAXです。
こうした受発注システムや発注ルールは基本的に発注者側が決めますので、受注者側の当社は、そのすべてに対応する必要があります。こればかりは、当社はコントロールできません。
そしてバラバラの形式で届いた注文は、当社側の基幹システムに手作業で入力。この作業はいつまでたっても自動化できませんね。
――受発注の方法に指定がない場合、貴社が主導して決めることはないのでしょうか?
長年の慣習や、まさに慣れといった部分でFAX注文が多いのですが、2020年ごろから、LINEを使って発注ができる「クロスオーダー」の利用をお客様に提案するようになりました。
当社としては、社内業務の効率化と、お客様との受発注のやり取りをスムーズにしたいという思いがありました。
――なぜ、クロスオーダーを選ばれたのでしょうか?
きっかけは、あるお客様から「クロスオーダー使ってないの?」と言われたことでした。私の性格もあると思いますが「じゃあ、とりあえず使ってみよう!」という勢いで導入しました。
ただ、その時に調べ、また軽く使ってみた感想としては「当社との相性は悪そう…」というものでした。
――相性の悪さというのは?
サービスの設計思想に繋がるのですが、クロスオーダーは『これを売りたい』という推しの商品がある売り手には使いやすそうな印象を受けました。
商品点数が少ない店舗や、個人売買に向くといいますか。当社と同業の卸でいえば、いくつかの商品に特化した会社であれば相性は良いかもしれません。
かたや当社は「400点以上の多品種を取り扱う青果卸」で、当社としての推しの商品があるわけではなく、基本的にはお客様に選んでいただく形。クロスオーダーというシステムが想定する使い方ではないように感じました。
ベンダー側の真摯な対応や熱意、将来性に期待した。
――実際に使ってみて、いかがでしたか?
まず、大量の商品登録が大変でしたね。やはり、そのような設計にはなっていないと感じました。そしてお客様にクロスオーダーでの発注をご案内するものの、今度はなかなか使ってくれません。理由を聞くと「大量の商品の中から、目当てのものを探しにくい」と。
結局、お客様としてはFAXでの注文が一番早くて慣れているので、引き続きそれが主流になっています。
――クロスオーダーについて、当初から相性の悪さを感じていたにも関わらず、なぜ導入し、また使い続けられたのでしょうか?
導入後すぐ、ベンダー側に問い合わせをしたことがありました。「使いにくいのでなんとかしたい!使い方を教えてほしい!」と。
すると経営層の偉い方と営業担当者が当社にわざわざ足を運んで、相談に乗っていただけました。まず、この対応に感銘を受けました。私はいろいろなツールを試すことがあるのですが、問い合わせへの対応はZoomのことが多いです。中には、返事がないこともあります。
実際に来社いただいて当社の実情を聞いていただき、また今後の改善や将来について熱意あるお話をされました。それを通じて、私としては応援したい、今後に期待したい気持ちになりました。実際、クロスオーダーの利用を続けていると、少しずつ機能が追加され、使いやすくなっていることは感じます。
FAXでの受発注という慣習を変えたい
――クロスオーダーを利用したことによる気づきはありましたか?
実は、クロスオーダーが「LINEを使う」という部分で期待していたことがありました。当社だけではないと思うのですが、そもそもFAXって普段使いませんよね?若い人だけでなく、もはや多くの人がそうだと思います。
LINEであれば、多くの人が普段から使っているので、FAXから移行しやすいんじゃないか?気軽に使ってもらえるんじゃないか?と。
そうした「LINEならでは」と思われる現象に出会えたことは、一つの気づきでした。クロスオーダーでは、夜中などにスポットで注文が入るのです。
お客様側の利用シーンを想像すると、例えば帰宅後や寝る前などに「そういえばあれ注文していたかな?」と思い出して、その場で注文されているような使い方です。これはクロスオーダーならではのメリットだと感じました。
一方で、ネガティブな想定外もありました。「お客様からの注文が営業担当者の個人LINEに届くようになってしまった」ということです。
これはお客様と連絡を取る際にLINEを使ってしまっていることも一因なのですが、営業担当者個人宛にLINEで注文が届き、営業担当者はそこから手作業で注文伝票を起票する…ということが起こり始めました。
たしかにお客様としては楽なのですが、これでは当社の営業担当の仕事を増やすだけ…。結局「個人LINEへの注文は受け付けない」というルールを設けるに至りました。
――今後、クロスオーダーはどのように活用していかれる予定でしょうか?
前述のように「気軽にちょっとした注文をする」という使い方は、クロスオーダーの強みだと思います。一方で、それを十分に生かせるのは「自社の推しの商品」がある場合。
ですので当社としては、LINEに公式アカウントを作って「売り手側が主導する形の販促」をやってみようと思っています。
長年続けてきた仲卸としての当社の販売スタイルには合いませんでしたが、クロスオーダーが想定する使い方ならハマるかもしれません。当社側からお客様に対して「ちょっと気になる情報」を発信をして、それをポチっと注文していただく。そういう使い方が合っていると思いますし、当社にとっては新しい挑戦ですね。
受発注システムのポイントは「発注者が使いやすいかどうか?」
――貴社では、インフォマートの「BtoBプラットフォーム」を使われるお客様もあるとのこと。
いくつかのお客様が使われていますね。とある料亭での一例ではありますが、「BtoBプラットフォーム」を導入した目的は、発注負荷の軽減と、発注内容・数字を経営側が素早く把握することでした。
例えば、明日必要な食材の注文を手書きFAXで行った場合、注文内容・金額を集計する業務が発生します。経営側としてはその工数を削減し、発注内容・金額をすぐに把握したいというニーズがあったようでした。
実際、「BtoBプラットフォーム」を使って発注すれば、発注金額はすぐに算出できます。当社としても、そこからの注文のみを受け付けて基幹システムに転記して処理…という流れになればとても楽です。
――お互いにスムーズになりますね。
はい。ただそれは「BtoBプラットフォームだけで注文がくれば…」の話です。実際には、BtoBプラットフォームで注文がきた後、しばらくするとFAXで追加注文が流れてくる、ということが起こっています。
ここでも背景には、「ほしい商品が探しにくい」ということがあるようです。ですので探せない、探しにくい商品は追加でFAX注文が来るのです。
これは結局、受注・発注の双方で業務負荷を増やすことになります。受注側となる当社では同じお客様から2つのルートで注文が来ることで処理が複雑化しますし、お客様側では発注内容の集計にFAX分も含まれることになり、結局、集計業務はなくなりません。
クロスオーダーとも共通する部分はあるのですが、行きつくところは「発注者側が使いづらい」ということが根本にあるように感じます。発注者側が使いやすければ、注文のルートは一本化され、受注側である当社にもメリットが生まれるという構造です。
受発注システムの選定。「自社がやりたいこと」を率直に投げかける
クロスオーダーでいえば、当社の使い方はベンダー側の設計思想、想定する使い方からはズレていたのだと思います。それは利用前にも感じていましたし、使ってみて改めて実感しました。
私はこうした失敗・教訓も込みで「とりあえず使ってみよう!」という考え方なので大丈夫なのですが、ツールの選定にあたって「失敗したくない」という方は多いと思います。
振り返ると、ベンダー側には「お客様に多品種から選んでいただく場合には向いていない」とはっきり言っていただけるとありがたかったかもしれませんね。
それはつまり「ユーザーがどんなことをやりたいか?」という部分を一緒に見ていただくということ。
クロスオーダーはその後も、利用社数をどんどん伸ばされています。それはやはり「クロスオーダーの使い方」がハマる企業が多いということの証左だと思いますし、私も感じた会社としての熱意や改善の積み重ねの賜物でしょう。当社の使い方にはハマらなかった、というだけです。
この事例を読まれる方は、BtoBでの受発注システムを検討されていると思います。この類のシステムは、利用の決定権が取引の相手側にあることも往々にしてあります。しかし、それを選ぶ立場になった場合は「自社がやりたいことが本当にできるのか?」「ベンダー側と自社、双方が想定する使い方が合っているのか?」を、事前に見極めていただくことが肝要だと思います。
受発注のルールや商習慣というのは、企業ごとにまさに千差万別です。自社が知っているのは、自社の周りの慣習だけ…というのがほとんどだと思います。数万社が利用、という実績は一つの目安になるかもしれませんが、だからといってそれが自社に100%ハマるとは限りません。
受発注のシステムを選ぶにあたっては「自社がやりたいこと」を明確にした上で、「そのシステムは、自社がやりたいことができるのか?」という点を、ベンダー側に率直に投げかけることが肝要だと思います。
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