連載:第59回 IT・SaaSとの付き合い方
DX・IT補助金のコンサルタントとの計画が途中頓挫。もっと早く当事者意識を持っていれば。


DX・IT補助金のコンサルティングを依頼した税理士事務所に100万円支払ったものの、進捗が緩慢でプロジェクトは途中で頓挫…。札幌の株式会社いとうでは、経理・会計作業を効率化し、事業ごとの正確な収支を見るべくマネーフォワードを2年契約しましたが、設定が道半ばでストップしてしまいました。その後、別のコンサルティング会社との出会いを経てプロジェクトは無事再開したものの、貴重な時間とコストをムダにしてしまうことに。その経緯や失敗から学んだことについて、同社・取締役部長の伊藤駿矢さんに聞きました。

(お話を伺った方)
株式会社いとう
取締役 部長 伊藤 駿矢 さん
(札幌市・ガス機器販売ほか・従業員数約20名)
※本記事は取材時点(2025年5月)の情報に基づいて制作しております。各種情報は取材時点のものであること、あらかじめご了承ください。
作業負荷の軽減と、事業ごとの正確な収支の把握
――貴社では経理・会計業務にマネーフォワードを導入されていますが、もともとの課題はどのようなものだったのでしょうか?
伊藤駿矢さん(以下、伊藤): 大きく2つあります。1つは紙の請求書の処理にかかる作業負荷です。事務員さんがすべて手書き・手作業で取りまとめて作業して、会計システムのTKCに手入力していました。
毎月、税理士さんが来られる3日前くらいに1ヶ月分をまとめて処理するのですが、その直前の 丸2日間くらいは終日その作業に追われていました。
そしてもう1つは、当社の事業ごとの収支を把握したかったこと。当社は燃料販売、不動産、ECという3つの事業を手掛けているのですが、 旧来の経費・会計処理ではそれぞれの事業の収支が正確に把握できてないという課題 がありました。
――経理・会計業務を伊藤さんが担当されるようになった背景は?
伊藤: 事業承継も念頭に、兄弟と一緒に家業に戻ったことがきっかけです。兄弟それぞれで前職の経験などを踏まえて業務が分かれました。私はバックオフィス系の部署での業務経験があり、また経理・会計をあらためて勉強したいと考えていたので、そこを担当することにしました。
いったん、知識がゼロの状態で経理業務をやってみたのですが、正直「単に数字を打ち込む流れ作業」になってしまいました。やはりきちんと勉強しないと、意味のある仕事にはできないと痛感しました。
DX・IT補助金のコンサルタント・税理士事務所との計画が途中頓挫
――マネーフォワード導入の経緯は?
伊藤: その当時は私が主導したわけではなかったのですが、先ほどお話しした課題「部門別の収支」を見られるようにするため、とある税理士事務所にお世話していただくことになりました。その際、税理士事務所からの提案で、IT導入補助金を使ってマネーフォワードを導入するということになりました。
当時、補助金やシステムのことがわかる人が社内にいなかったので、言われるがままというのが正直な所でした。マネーフォワードの2年分の利用料プラス設定をはじめとしたコンサル費ということで合計100万円ほどをお支払いしました。
その後、税理士事務所の方にサポートいただきながら、私のほうで補助金の申請書類を作成して申請。補助金の交付が決定し、マネーフォワードを2年契約しました。
ただ、ここから雲行きが怪しくなります。
基本的にお任せしていたのですが、気づけばマネーフォワードへの移行・設定作業の進捗の気配が感じられません…。スタッフの方が月に1~2回来られては、事務員さんにヒアリングをしたり、パソコンを触ったり、書類を見て帰られるだけ…。進捗が非常に緩慢でした。
マネーフォワードを見ても、設定されていたのは金融機関の口座登録のみ。「どのような状態なのですか?」と何度確認しても曖昧な回答しか得られず、スケジュール通りに進んでいるのかどうかもわからない状態。 ただただ時間が過ぎていき、最後は当社からお断りしました。
こうして、 マネーフォワードの導入は頓挫。向こう1年数ヶ月の契約期間だけが残ることになりました。
過去の請求書を全部ひっくり返して正常な状態に。あわせて仕分けルールも作ってくれた。
――その後、どのようにして現在の運用に至るのでしょうか?
伊藤: 知人を通じて参加するようになった経理・会計に関する勉強会での縁が転機になりました。
経営コンサルタントの明善株式会社・中谷社長が主催の勉強会だったのですが、そこで「マネーフォワードを導入したものの、全然進まないんですよね…」と相談しました。するといろいろと調べていただいて、サポートしていただけることになりました。
――どのようなサポートだったのでしょうか?
伊藤: まず、溜まっていた請求書を全部ひっくり返して、一枚一枚マネーフォワードに登録しながら仕分けや紐付けのルールを作っていただきました。
請求書は2~3ヶ月分、だいたい3000枚くらいはあったと思います。それまでの業務負債をゼロにして、スタートラインに戻していただくような工程で、3ヶ月ほどかかりました。
明善さんが整えてくれたルールで仕分けを行うようになったことで、 当初の課題であった「事業ごとの収支」も正確に見られるように。以前はざっくりとしかできなかった投資・経営判断も、より精緻なものになりました。
また、効率化の一環でバクラク請求書発行というサービスをおすすめいただいたので、あわせて導入しました。以前は二重入力・二重支払いが度々発生していたのですが、それを防ぐための方策でもあります。
バクラク請求書発行を使えば、 請求書をスキャンしてアップロードすることで、AI-OCRの読み取りにより、振込先の口座情報と紐付けて一括で振込データを作成する、という所までを自動化できます。これにより二重作業をなくせます。
比較対象として別のBPOサービスもあったのですが、そちらは読み取りの正確性を担保するために人がチェックしているとのことで、データ作成まで2営業日かかりました。バクラク請求書発行は 正確性ではそれには劣るのですが、十分許容できるレベルですし、ほぼその場で処理結果が出ることが大きなメリット でした。
こうして運用の土台を作っていただいた後、しばらくは明善さんのほうで請求書の処理や仕分け業務をお願いして、少しずつ私と事務員さんに業務を引き継いでいく流れで進めました。
――現在の運用はどのようになっているのでしょうか?
伊藤: 8割ぐらいは当社で処理できています。
マネーフォワードへの登録も、紙の伝票をスキャンしてアップロードして、ポチポチクリックしていくだけなので、今までとは比べものにならないほど楽になりました。
以前は請求書をまとめて処理する時期になると毎月残業がありましたし、前述のようにミスも発生していました。 一月の中での業務量が平準化され、残業がなくなったことで事務員さんも喜んでいます。
ただ、事務員さんも最初は複雑な気持ちがあったようです。「自分の仕事がなくなる」「自分の仕事を取られるのが不安」ということを仰っていました。しかし実際には、空いた時間で不動産関係の業務を担っていただけるようになって、事務員さんのスキル・業務範囲ともに広がりました。不動産関係の業務はもともと社長がやっていたもので、結果的に社長にも余裕が生まれることになりましたね。
「自分が動かなければ進まない」という当事者意識をもっと早く持っていれば
―― 一連の業務改革で気づいたことはありますか?
伊藤: 「当事者意識」といった部分で反省する所はあったと感じています。音信不通になった税理士事務所さんとのやり取りでは、自分がお付き合いを決めたわけではなかったこともあり、どこかで「なんだかんだきちんとやってもらえるだろう」といった淡い期待がありました。作業風景を見て、進捗していないと感じながらも、自分から特に突っ込むこともありませんでした。
もう少し早く「自分が動かなければ進まない」という意識を持って行動できれば、投資の損失や時間の無駄を抑えられたのではないか と思います。
――その他、DXや効率化を進めているものはありますか?
伊藤: ガス検針票の電子化を検討しています。現在は2500軒ほどの個人宅宛に毎月郵送しているのですが、郵送代が1件70円ほどなので、ざっくり月間25万円ぐらいかかっています。
郵便代は少しずつ値上がりしていますし、紙の請求書をやめるなど業界の流れも感じますので、それに乗る形でメールやショートメッセージなどでの送付を検討しています。
――今後についていかがですか?
伊藤: 経理・会計まわりの日々の運用業務については、事務員さんほか、私以外の人に任せようと思っています。これまでは勉強も兼ねて私が現場に入っていましたが、まずは私がいなくても回るようにしたいですね。
私が本来やるべきは、会社をより前に進める仕事だと思うので、新しいお客様の開拓や新規事業へのチャレンジに時間を使っていきたいと考えています。
(撮影:坂井 亨輔 (GAZEfotographica))
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