連載:第21回 慣習に囚われない 改革の舞台裏
「経営者の判断は50%間違っている」、4000億円市場を発掘したワークマンの『しない経営』
作業服では圧倒的なシェアを誇るワークマン。近年の成長を支えているのが、株式会社ワークマン専務取締役である土屋哲雄さんです。2012年に入社して以降、大ヒットしている「WORKMAN Plus(ワークマンプラス)」の立ち上げや全員参加のデータ経営「エクセル経営」などの改革を行ってきました。改革の裏で土屋さんは何を考えていたのでしょうか。
株式会社ワークマン
専務取締役 土屋 哲雄 さん
1952年生まれ。東京大学経済学部卒。三井物産入社後、海外留学を経て、三井物産デジタル社長に就任。企業内ベンチャーとして電子機器製品を開発し大ヒット。本社経営企画室次長、エレクトロニクス製品開発部長、上海広電三井物貿有限公司総経理、三井情報取締役などを経て2012年、ワークマンに入社。2012年、ワークマン常務取締役。2019年6月、専務取締役経営企画部・開発本部・情報システム部・ロジスティクス部担当(現任)に就任。著書に『ワークマン式「しない経営」―― 4000億円の空白市場を切り拓いた秘密』(ダイヤモンド社)
『ホワイトフランチャイズ ワークマンのノルマ・残業なしでも年収1000万円以上稼がせる仕組み』(KADOKAWA)などがある。
「何もするな」 転職当日に、創業者から釘を刺された
――土屋さんは入社した当日、叔父でワークマンの会長でもあった土屋嘉雄氏(ベイシアグループ総帥)から「ワークマンはいい会社だから、別に何もしなくていいぞ」と言われたそうですね。その時はどんな気持ちだったのでしょうか。
土屋哲雄さん(以下、土屋): 「え? 何もしなくていいの?」と思いました。一体どういう意味なのか、戸惑いました。そんな自分に対して、「何もするな」とわざわざ言った意味は何かと思いました。
ただ正確には「CIOとしてシステム関連を見てほしい」と言われました。ワークマンは現在、全国944店、1店には1700品ほどの品物を扱っています。当時のワークマンは、店単位での在庫管理はできてましたが、組織全体でのサプライチェーンマネジメントの合理化は遅れていた。全体の物流システムの最適化など課題がいくつもありました。あと、取締役会でのガバナンスが機能しているかどうかも見てほしいとも言われました。
とはいえ、「何もするな」と言われた以上、しばらくは会社を見ていようと思いました。私はこれまで電子機器産業とかITサービス業界が長く、作業服の市場・業界を知りません。なので、全国各地の営業拠点、加盟店を訪ね歩いて、話を聞いて廻ることにしました。
――土屋さんにとってはつらかったのでしょうか。
土屋: いえいえ。2年間ほど続けたのですが、ほんと楽しかった。勉強になりました。振り返ると、あの時から現在の「しない経営」が始まったともいえます。
仕事のノルマも納期も目標もない
――全国を廻っていて、何が見えましたか?
土屋: ワークマンという企業のユニークさです。皆さん驚かれるのですが、ワークマンは(価値を生まない無駄を)何もしない会社なんです。社内行事もしない。会議も極力しない。最も価値を生まない無駄と考えていたのが、仕事のノルマ。期限、目標も設定してないのです。それでも、会社の業績は好調で、10期連続で最高益を更新してます。
「ノルマとか期限とか設定しなければみんな仕事しないのでは?」と思うかもしれません。しかし、人間、好きな仕事であれば制約がない方が効率よく仕事をするし、仕事の質もいい。
ただし、ここで大事なのは、責任感ある人たちが好きな仕事、関心がある仕事をしている、ということです。イヤイヤやっているのであれば、仕事の質は悪くなるし生産性が落ちるのは当然。だからこそ、ワークマンは働く人のストレスを排除するのです。
――ストレスといえばその最たるものといえば人間関係もそうですね。
土屋: ええ。ワークマンは、社員と加盟店の人たちの仲が本当に良いことにも驚きました。自著『ホワイトフランチャイズ ワークマンのノルマ・残業なしでも年収1000万円以上稼がせる仕組み』(KADOKAWA刊)でも加盟店の話を詳しく紹介しましたが、ワークマンの店舗の加盟基準は一つ。「人柄がいいこと」なのです。ガツガツ売り上げを伸ばしたい人よりも家族を大切にし、お友達を大切にして、お客様を大切にできる人。だから加盟店のオーナーたちは社員たちに人気があるし、お客さんと仲がいい。もともと気楽に働ける職場なので、親が運営していた加盟店を継ぐ二代目も増えています。加盟店の中には3人の娘さん全員が別々の加盟店オーナーとなった家族もいます。全員が別々の店のオーナーで家族が集まると仲良くワークマンの話をしているんです。「ああ、地方でこうした生活をおくるのもいいなぁ」と思いました。
土屋さんの書籍『ワークマン式「しない経営」―― 4000億円の空白市場を切り拓いた秘密』(ダイヤモンド社)
『ホワイトフランチャイズ ワークマンのノルマ・残業なしでも年収1000万円以上稼がせる仕組み』(KADOKAWA)
最強ワークマンの死角とは?
土屋: 同時に問題点も分かりました。確かに、ワークマンはプロの職人向けの作業服市場では圧倒的に強い。競合する企業も大手ではいない。だからこそ30数年間以上続いています。しかし、このままではこの市場は2025年に飽和し、その後、成長は見込めないことも予想できました――。叔父をはじめ経営陣はそのことも分かっていたのでしょう。
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