連載:第25回 慣習に囚われない 改革の舞台裏
賃上げは絶対条件。地方中小を次々と健全化する社長。伸びしろの見極め基準が興味深い
「賃上げできない中小企業は人を採用できないし、いずれ潰れます」「もはや目先の利益より賃上げが先」と強烈な危機感を語るのは、福島の老舗ゼネコン・株式会社小野工業所を中心とするTAKUMINOグループの小野晃良社長。同社は自社の事業運営の安定化を目指してパートナー企業のM&Aを行ったことをきっかけに、建設業界における中小企業の非効率に気づきます。「自社では当たり前の、あることをやっていない…」。M&A後、そこを起点に組織改革を進めることで、次々と収益改善・賃上げ・働き方改革を実現し、事業規模を拡大しています。小野社長の気づきとは何か?今、中小企業の経営者に必要な覚悟とは何か?を聞きました。
TAKUMINOホールディングス株式会社
代表取締役社長 小野 晃良 さん
三井建設株式会社を経て、父の経営する株式会社小野工業所に入社。2012年、同社の代表取締役社長に就任。2015年より地方中小企業の10社、2事業をM&A。2019年、持株会社のTAKUMINOホールディングス株式会社設立。同社の取締役社長に就任。
職人・パートナーがいない。事業安定のためにM&A
――貴社はこれまでに同業界を中心に合計11回(10社の株式譲渡、2事業の譲受)M&Aし、企業再生・事業拡大・賃上げにつなげられています。その経緯について教えてください。
小野晃良さん(以下、小野): もともとのきっかけは東日本大震災です。当社は福島が地盤の建設会社で震災復興の公共工事にも携わっていたのですが、当時の復興予算はそれ以前の約10倍という規模でした。
しかし、予算が10倍になっても、福島の建設業従事者が10倍になるわけではありません。多くの企業で技能労働者や職人、パートナーが慢性的に不足していました。当社でいえば、得意分野である橋梁の修繕の際に、交換部材の加工をしていただける鉄工所が必要なのですが、それがなかなか見つかりませんでした。
そこで、安定的に当社の仕事を受けていただける鉄工所を確保するために、東京に本社をおき茨城県に工場をもつテッコーという会社をM&Aしました。2015年のことです。
――M&Aについて周囲の反応や、当時の貴社の経営状態はどうだったのでしょうか?
小野: メインバンクの担当者には、最初は止められました。
というのも、 そもそも当社は東日本大震災以前から経営が厳しく、2007年、2008年は赤字を計上していました。その後、会社全体でコスト削減・収支改善に取り組み、財務リストラも進めて、2014年にすべての借入金を完済 することができました。
そのタイミングでメインバンクに「事業を安定させるために、鉄工所と資本提携をしたい」と相談をしたので、「もうちょっとゆっくり見定めて、次の一手を考えても良いのではないか?」と返されました。
しかし「完全に自己資金で、借入はしないのでぜひやらせてほしい!」と主張を続けると、最終的には「そこまでおっしゃるのであれば、やってみましょう」とお力添えをいただけることになりました。
――なぜテッコー社だったのでしょうか?
小野: テッコーは長年橋梁の仕事をされていて、素晴らしい技術を持っている会社でした。しかし過去の設備投資が重く、借入金の償還がなかなか進まず、収益力の面では不安定でした。一方で、当社で独自に算出した株式価値は、テッコーの強みや当社とのシナジーを考えると割安だと判断しました。
当時のテッコーの売上は3億円弱。当社は年間5千万~1億円ほどの橋梁部材をさまざまな会社に発注していたのですが、それをすべてテッコーに依頼すれば、当社は供給力を担保でき、テッコー側は安定的な売上を確保できる。非常にいい関係が作れると考えましたし、実際にそうなりました。
不採算の中小企業に必ずあった「伸びしろ」。当たり前のことがなされていない。
――テッコーの後も数社M&Aされています。M&Aを通じた気づきなどはありましたか?
小野: もっとも大きな気づきは、とくに 不採算の中小企業においては「当社が当たり前にやっていたことをやっていない会社」が本当に多かったこと です。
M&A後の収支改善にあたっては、そこから手を付けていきました。
――不採算な中小企業の多くで行われていなかったこととは、何でしょうか?
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