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連載:第8回 進め方いろいろ「中小企業の働き方改革」

「どの会社もやってるから」をやめる。悪循環を断ち切り、利益率を3倍に改善した社長が目指す「正しくカッコいい運送業」の在り方

BizHint 編集部 2022年3月14日(月)掲載
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千葉県・四街道市に本社を置く、株式会社日東物流。創業者である父の反対を押し切って入社した菅原社長を待っていたのは、会社を揺るがす重大事故と、それによって露呈した業界の悪しき慣習、そして「営業停止処分」でした。立て続けに起こった問題をきっかけに「コンプライアンスの徹底」を掲げ、社内でひとり改革に乗り出します。その改革に必要だったのは、大きな資金。「男気」「お付き合い」で続いていた不明瞭な取引を一つひとつ精査することで、コツコツと原資を生み出し、最終的には大幅な利益率の向上にも繋げました。今回は、同社の2代目社長である菅原 拓也さんに、社内で「正しいこと」を進める上でのポイントや、そのための資金づくりについてヒントをいただきました。

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株式会社日東物流
代表取締役社長 菅原 拓也さん

1981年千葉県生まれ。青山学院大学経営学部を卒業後、西濃運輸に入社。国分ロジスティクスを経て2008年に日東物流に入社。経理としてスタートし、財務全般を担当。その後、2012年に専務取締役、2017年に代表取締役社長に就任した。


重大事故の発生で監査 業界の悪しき慣習にメスが入り「営業停止処分」に

――菅原社長が事業承継された経緯について教えてください。

菅原拓也さん(以下、菅原): まず、当社は1995年に父が創業した会社で、食品や化学繊維の輸送などを主事業とする運送会社です。冷凍・チルド食品を輸送できるトラックやバンを計79台有しており、関東エリアの飲食店やスーパーマーケット、物流センターに、野菜や鮮魚、精肉、飲料水などの食料品を365日24時間体制で配送できる体制を整えています。従業員数は120名(2022年2月現在)です。

僕は大学で経営を学んでいましたが、就職活動をスタートしたとき、漠然と「将来は、自分自身で会社を経営したい」と思いました。そして父に「将来は家業に入るつもりで、就職活動します!」と宣言したんです。

――お父様は、喜ばれたのではないでしょうか?

菅原: いえ、むしろ「継がない方がいい」と言われましたね。「経営者は孤独だし、金銭的には豊かになれるかもしれないが、それに見合わないくらい24時間365日、張り詰めている。そういう仕事をさせたくない」という理由でした。でも、僕の気持ちは変わらなかった。卒業後は社外で物流を学び、3年後に家業に入社しました。

――入社後、「コンプライアンスの徹底」を掲げ、改革を推進されているそうですね。そのきっかけは何だったのでしょう?

菅原: 入社から2ヶ月後、大きな事故が発生しました。2008年6月12日の朝3時頃、当時実家に住んでいたのですが、父が慌ただしく僕の部屋に入ってきて「事故が起きたから、準備して」とだけ言い残し、会社に向かいました。

すぐに、当社のドライバーが配送中に起こした死亡事故であったことが分かりました。父も管理職も、ご遺族、警察、運輸局など、あらゆる方面での対応に追われていました。一方で、入社したばかりの僕はただ会社にいるだけで、何もできず……。大きな無力感を感じると同時に、父の偉大さも痛感しました。その背中を見ていると「この人に任せていれば、間違いない」と思わせる安心感がありました。 会社にとって、どれだけ父が大きな存在なのかが分かった出来事でした。

その後、この事故に起因して国土交通省の監査が入ったのですが、そこで僕の知らなかったドライバーの労務管理についての問題がどんどん出てきたんです。それは、物流業界としては慣習となっているようなことで、どの会社でもやっているようなことだったのですが、法律上許されるはずもなく、 3日間の営業停止処分を受けることになりました。その時に初めて「このままじゃだめだ」と思ったんです。

――業界の慣習とは、具体的にどのようなことだったのでしょうか?

菅原: 労務管理の面でいうと、ドライバーの勤務時間です。トラックドライバーは、1ヶ月の拘束時間が法律で定められています。しかし、ビジネスモデルの特殊性から、ほとんどの会社が守れていないのが実情です。もちろん、労働時間を短くできるのならしたいですが、そうすると給料が下がってしまうので、当社も長時間勤務が常態化していました。また、給料を上げようとすると、お客様に値上げ交渉をしなくてはなりませんが、簡単な事ではありませんでした。

また、物流業界は立場的にどうしても荷主の方が強くなりがちで、無茶な働き方を強いられる場面も多くあります。例えば、3tトラックに4tの荷物を載せてとお客様からコッソリ頼まれることがあるんです。これは「過積載」といって、法律違反になるのですが、「法律違反になるからできません」と言うと「じゃあ、他社にお願いしますから」となってしまうため、コッソリやらざるを得ない。こういった事が「業界の慣習」であり、これが当たり前だと思っていたんです。

でも、監査が入り営業停止になった。このまま業界の慣習に従い、法令を無視して事業を続けたら、営業許可の取り消しはおろか、廃業せざるを得なくなってしまう。それなら今までグレーゾーンでやってきたことを全て正そうと思いました。 しかしそれは、悪しき「業界の慣習」と真っ向からぶつかることだったんです。

――「コンプライアンスを徹底しよう!」と菅原社長が言い始めたとき、経営陣の反応はいかがでしたか?

菅原: 当然、反対されました。コンプライアンスを徹底するとなると、労働時間の問題からドライバーが足りなくなり、10〜20人くらいの増員が必要になる計算でした。 人件費をコストアップした分は、どこから補填するんだ! と。また、法令遵守することで荷主が離れ、仕事が無くなったらどうするの? その責任を誰が取るの? と問い詰められましたね。 その時は反論できず、辛かったです……。

これまで、グレーゾーンでも何となくうまく回していた仕事を、「2代目」だからといって外から来た人間が「これが正しい」「こうやるべき」というんだから、反発も起きますよね……そこから、社長である父や管理職たちともわだかまりができてしまいました。

グレーゾーンを脱するために 不透明価格の適正化が悪循環を断ち切った

――社内の反発を受け、どうされたんでしょう?

菅原: どれだけ反対されても、最終的には自分が引き継ぐ会社です。 ちゃんとコンプライアンスを守れる会社に変わらなければ、自分が社長になる意味は無いと思いました。 それで、まずはコストのかからない部分、例えば「雇用契約書」や「就業規則」を整えるところから進めていました。そんな時、ユニオン(労働組合)との交渉が必要な案件が出てきたんです。

――具体的に教えてください。

菅原: 通勤途中にバイク事故を起こしたドライバーが、外部ユニオンとともに団体交渉を申し入れてきたのです。先ほどもお話したように、当時の運送会社は叩けば埃が出るような状況だったので、こういったケースでは会社側が要求を飲むことが多かったようです。しかし、 僕は社会保険労務士さんとも相談しながら、勤務時間の記録や雇用契約書の締結などを進めていたので、法的な根拠を持ってユニオンとの交渉に正面から対応でき、相手の要求をほぼ飲むことなく収めることができました。

このユニオンとの交渉を通して、コンプライアンスの重要性と、それが徹底されている組織の「強さ」を、父や管理職が理解してくれるようになりました。人づてに聞いた話では、父は「自分ではできなかった」と言っていたそうです。そこから、社内改革の潮目が変わってきましたね。

――そこから、一気にコンプライアンスの徹底に舵を取られたんですね。ただ、コストのかかる改革に必要な「資金」の問題はどうされたんでしょう? その部分で、諦めてしまう企業も多いと思うのですが……。

菅原: 難しそうに感じますが、全然そんなことないですよ! シンプルに「お金を作ればいい」。

例えば、僕は全ての従業員を、社会保険に加入させたかったんです。信じられないかもしれませんが、社会保険は大きなコストになるため、業界内には未加入事業者も多く、加入事業者であっても全員が加入出来ていないケースも多々あります。

当社の場合でいえば、全ての従業員を社会保険に加入させるためには、追加で年間1,000万円かかる計算でした。当時は会社の利益が年間で2,000〜3,000万円規模だったので、莫大な費用に思えました。でもやりたかった。それなら、1,000万円作ればいい。だから「そのためにはどうするのか」と考えるようになりました。それがあれば、社長や経営陣も納得してくれるんですから。

運送業って、トラック1台を1日動かすのに「相場」があるんです。でもそれって、根拠は無いんですね。まさに「どんぶり勘定」。 だから、人件費、燃料代、高速代、トラックの減価償却、修理費、事務所の土地代など全てを計算してみました。 すると、今受けている仕事の利益がいくらなのか、そもそも赤字なのかも分かる。

その根拠があると、お客様にも交渉しやすくなりました。 例えば、値上げはダメでも「200kmコースのところ、160kmのルートに変更してもらえませんか?」と言える。そこで40km短縮できれば、燃料費だけで1日800円くらいのコスト削減になります。支払う料金が変わらなければ、荷主のデメリットは無いですよね。 不透明だった価格を適正化してお金を作ったケースのひとつです。

また、100台以上所有していたトラックの台数も、見直すことにしました。「100台持っている」というのは、業界では一つのステータスらしいのですが、そんなの1円の利益にもなりません(笑)

必要最低限の台数で回せるなら、維持費も落とせるし、環境にも優しい。 そうやって一つひとつ業務を丁寧に見直していくと、100万円、200万円と大きな資金を作ることができた。本当に「改善の余地」がたくさんあったんです。

これ、大したことではなく、本当に誰にでもできることなんですよね。お金を作るためには「コストを削減する」「利益を上げる」これしかありません。大事なのは、あきらめずやり続けることだと思います。

――なるほど! 「正しいこと」をするための資金は、地道な積み重ねから生み出されたものだったんですね。お客様との交渉も必要になると思いますが、現場の方々の反応はいかがでしたか?

菅原: 改革をスタートした当初、社内からは「値上げ交渉なんか出来ない!」とか、赤字なのに「付き合いがあるから断れない!」とか言われました。とある取引先にいたっては「代替わりするからって値上げするのか、何様のつもりだ」とまで言われたこともあります。

物流業界は「男気」とか、「義理人情」の色濃い世界ですが、義理があるとか、大事にしてもらっていると思っているのはこっちだけで、荷主からすると「安く発注できてラッキー」くらいにしか思われていないかも知れない。実際、自分で計算した適正ルートや価格などの根拠を持って交渉してみたら「少しの値上げならいいよ」と言ってくださる取引先も多かった。だから、儲かっていない仕事や交渉余地のない取引先は、はっきり断ることにしました。

そういった考え方を体現していくと、それを見ていた従業員たちも同じ考え方をしてくれるようになりました。適正価格を計算する習慣が身につくと、新しく受ける仕事も、きちんと価格の根拠をもって「儲かる」「儲からない」を判断して受注してくれるようになりました。 そうやって、全体の労働時間を減らしながら、利益率をあげることに成功したんです。

もちろん、それまでの取引の仕方も必要だと思っています。そのおかげで、今の当社があります。創業者は人柄や義理堅さで仕事をとってくる面も大いにあると思いますが、2代目は会社や仕事のクオリティで仕事を取るものだと思っていて。僕たちの品質を買ってくれるお客様、そこに価値を見出してくれるお客様が絶対にいる! と信じて交渉を続けました。

――その積み重ねが、コンプライアンスの徹底に結びついたんですね。

菅原: はい。積み上げた資金を、少しずつ正しいことをやり抜くための活動に投資してきました。週休2日制の導入もその一部です。

以前の当社では、休日は「週1」が当たり前でした。僕は「まず内勤者からでも、週休2日にしてみましょう」と提案したのですが、現場から「どう考えても2日も休めない!」と言われました。人が足りておらず、誰かが休むと現場が回らなくなってしまうから誰も休めないという悪循環があったのですが、人が足りていないのなら採用を進めれば良いし、まずは休める人から週2回休んでくださいと伝え、徐々に改善を進めていきました。現在では当然のようにみんなが週休2日で休めるようになっています。労働時間も1ヶ月で100時間ほど短くなった者もいますし、給与も落とすことなく達成出来ました。そしてドライバーに関しても、改善基準告示といわれる1ヵ月に働ける上限時間の遵守も出来るようになってきました。

それを体感してもらえると、社内が「正しい事をやっていた方が、自分たちにとってもいいんだな」という雰囲気になります。 変化を続けると、組織がそれに慣れてきて自走するようになり、改善することに対する僕の労力は少しずつ減っていきました。

従業員の健康が会社の利益に繋がり、従業員に還元できる好循環に

――健康経営にも取り組まれていらっしゃるとお聞きしました。詳しく教えてください。

菅原: 最初にスタートしたのは「健康診断」の部分です。単純に「健康に起因する事故のリスクを無くしたい」という思いからでした。まずは、ドライバー全員に必ず受診させること。そして、その結果を受けて面談し、体調を改善するために伴走することから始めました。面談は、お金がかからない改革ですから(笑)

所見が出た人に対して、その結果を見ながら食生活についてヒアリングするんです。例えば、仕事終わりのラーメンが日々の楽しみになっている人がいたとします。仕事終わりの楽しみは奪えないけど、健康は大事にしてほしいから、「ラーメンを食べる回数、減らせる?」って聞くと「できないです」って。「じゃあ、スープ飲むのは週1にしてみない?」って提案すると、「それならできそうな気がします」って譲歩してくれて。従業員からすると、社長とラーメンの話をする機会なんて、なかなかないですよね(笑)

現場で「社長にラーメン減らせって言われたわ〜」なんて会話が出るようになったりすると、従業員の間でも「健康」についての話題が出始めるんですよね。それで、少し数値が下がったりするとみんなで喜んだりして、積極的に取り組み始めるようになる。

今では、より専門的に指導するために栄養士の先生に面談してもらうようにして、誰が何の薬を飲んでいるのかというところまで管理しています。クリニックの医師とも連携しながら、例えば副作用に眠気のあるようなものは変えてもらうなど、事故のリスク低減につなげています。

健康診断を受診することも「当たり前」になりました。そこで、早期のがんが発見されたこともあります。早めに処置して職場復帰できれば、本人も、僕らも嬉しい。かつての当社だったら、従業員の健康リスクなんて絶対に気が付けなかったと思います。そうして 2021年には、千葉県内の物流会社では初めて「健康経営優良法人2021」の「ブライト500」に認定していただきました。

――従業員の方々の「禁煙」のサポートもされていらっしゃるとか。

菅原: 物流業界って、喫煙率がものすごく高いんです。当社でも、かつては7〜8割のドライバーが吸っていました。でも、これだけ体に悪いと言われているなかで「当社でも、本当はやめたいと思っている人が結構いるんじゃないか」と思ったんです。そんな背中を押せるようにと「禁煙できたら1万円プレゼント」キャンペーンをもともと吸っていない人と「タバコをやめます」と宣言した人を対象に実施しました。

ただ、最初はなかなかうまくいかなくて、宣言したのに陰で吸ってる人もいたんです。宣言を掲示板に貼るようにしたら嘘がつけなくなって、そういう人も減りましたけどね(笑)2021年の10月からはトラックの中も完全禁煙にしたので、今では当社の喫煙率は4割を切っています。

――コンプライアンスを徹底したことで、労働時間の課題も解消され、さまざまな施策もあって従業員の健康も守られています。それが、最終的には会社の利益にもつながるのでしょうか?

菅原: 物流業界は労働力不足が顕在化していて、本当にどこの会社も人手不足なんです。 でも、コンプライアンスを徹底し、人間らしい生活が送れる環境を整える事ができれば、間違いなく良い人材は確保できます。 そうすれば、事業を継続することができるし、サービスの質も高くなる。当然、お客様との価格交渉もしやすくなる。実際に「他社よりも価格は高いけれど、この仕事はミスができないから日東さんに依頼します」と言われることも多いんです。そうすれば、利益に繋がり、 結果的に従業員に還元することができるんです。ポジティブなサイクルが回り始めるんですね。

10年ほど前、当社の利益率は2%くらいでした。業界の平均利益率が1%以下、下手すればマイナスといった状況で、ここ数年は6〜7%くらいをキープしています。 コンプライアンスにかけるコストを含んでの数値なので、事業効率がかなり改善した結果だと思います。 正直、ここまで利益率がアップすることは想定外でしたね。ただ、今後は10%くらいまで利益率を求めていきたいと思っていますし、できると思っています。

物流業界のイメージを変えたい! 人間らしい生活を送りながら働ける業界へ

――最後に、今後目指されていることについて教えてください。

菅原: 物流業界って、まだまだブラックで3K(キツイ・汚い・危険)のイメージがあると思います。実態は、そんなこともないんですけどね(笑)ただ、労働時間が長いとか、法律を完全に守れていない会社が多いのも事実。でも、会社として「コンプライアンスなんか守れなくても仕方ない」から「守らないといけないもの」に考え方をシフトしなければいけないし、個人だって「コンプライアンスを無視して日銭を稼ぐ」ではなく、自身の健康を意識して、人間らしい生活を送りながら働くというようにマインドセットを変えるべきなんです。

多くの産業ではそこを目指しているのに、「物流業界だから無理」と、諦めてしまったらそこでおしまいです。 何度も言いますが、当社がやってきたことは本当に簡単で、誰にでもできること。特別なことは何も無いんです。 だから、他の会社でもぜひ取り組んでほしいと思いますし、そのために当社の取り組みもどんどん発信していきたいと思っています。

そうして少しずつ業界全体を変えていくことで、ネガティブなイメージを払拭したい。そして、うちの会社じゃなくてもいいので、「この業界で働きたい」と思う人が増えたらすごく嬉しいです。

――これからも、コンプライアンスの徹底を進められていくのでしょうか?

菅原: 最低限守らなければいけないコンプライアンスは、十分満足できるレベルに落ち着いてきたな、と思います。当然、これからもコンプライアンスへの取組みは続けていきますが、その推進も現場の担当者に任せられるようになってきました。僕、もうほんとに仕事がなくて、引退してもいいんじゃないかと思ったりしますよ(笑)

ただ、物流業界を変え、会社をもっと成長させるためには、まだまだやらないといけないことがたくさんあります。社長として、今後はそちらもしっかり取り組んでいきたいですね。

(文:三神早耶 撮影:岡戸雅樹 編集:半田早菜栄)

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