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連載:第9回 進め方いろいろ「中小企業の働き方改革」

シニア社員も使えるIT活用で43%の固定費を削減。社長が目指した「顧客に寄り添う」お葬式の作り方。

BizHint 編集部 2022年3月23日(水)掲載
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長野県内で5つの葬儀場を展開する、つばさ公益社。同社の篠原憲文社長は、自身の父の葬儀を通して「葬儀業界への憤り」を覚え、新しい選択肢を提示すべく業界に飛び込みます。「不透明で高い」という業界慣習に対して、葬儀・お寺・お墓などそれぞれがわかりやすく、低価格なプランを提供。「お葬式のお金の痛みを無くしたい」という業界改革の大きな推進力になったのは「IT活用」による徹底した業務効率化でした。今回、ITを活用することで古い慣習から脱却した方法や、世代を問わず従業員に使われるシステムにするためのヒントについてお聞きしました。

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株式会社つばさ公益社
代表取締役社長 篠原 憲文 さん

1982年長野県生まれ。明治大学在学中、メリルリンチ日本証券、eBay Japan、Macromedia(現Adobe)に勤務。2005年に地元の長野県小海町で葬祭業を創業。その後11年間代表取締役社長を務め、事業譲渡。2017年につばさ公益社を創業。全国中小企業クラウド実践大賞全国大会(2021年)にて日本商工会議所会頭賞を受賞。その他、長野県主催「信州ベンチャーサミット」最優秀賞・グランプリなど多くの賞を獲得している。


「誰のための葬儀なんだろう」業界の常識に感じた憤り

――篠原社長が、葬儀業界に入られた経緯について教えてください。

篠原憲文さん(以下、篠原): 僕の実家は、ガソリンスタンドを経営していました。14歳の時に父と死別し、母と兄、祖父母と暮らしてきました。大学は、学費と生活費の捻出が難しかったため夜間に通い、日中はフルタイムで仕事をしていました。外資系の金融機関やソフトウェア会社で働いていましたが、ずっと興味を持っていたのは葬祭業でした。働いていたソフトウェア会社が大手に吸収合併されるのをきっかけに退職し、創業準備のため宮崎県にある大手葬儀会社に修行に行きました。

――なぜ「葬祭業」だったのでしょうか?

篠原: きっかけは、葬儀業界の常識への「憤り」です。

父の葬儀は自宅で執り行われ、親戚がたくさん集まっていました。ただ、そこで聞こえてくるのは「誰を呼んで、どんな席順で座ってもらうのか」とか、「いただいたお花を並べる順番はどうする」とか、僕にとっては「どうでもいいこと」ばかりでした。葬儀は「地域のイベント」と化し、参列した人の興味は宴会やお花になっていました。

父は、その傍らにぽつんと横たわっていました。お線香をあげているのは、僕しかいない。子どもながらに、「これは一体、誰のための式なんだろう」と思いました。

大学時代に、毎年親戚の誰かが亡くなるという事態に見舞われ、その度に地元に帰って葬儀に参列しました。葬儀の進行は父の時と変わらず、「家族」が置いてきぼりになっているシーンを何度も目にしました。そうした経験を重ねるうちに、「自分自身でお葬式を改善したい!」と強く思うようになり、この世界に飛び込みました。

葬儀、お寺、お墓。不自由な選択肢に自由な選択肢を作りたい

――実際に葬儀の世界に入られて、いかがでしたか?

篠原: 何より驚いたのは「お葬式は、不透明で高い」ということ。当時のお葬式は平均して1件あたり約200万円ほどの経済負担がありました。ご親族が亡くなられて、2〜3日の間にお式がバタバタと執り行われ、一式料金などの形式で表示される費用の中で、何にいくらかかったのか、という点がとても不明瞭なんですね。

さらに、一度葬儀社に依頼したら、なかなか断れないという問題もあります。通夜や葬儀は、死去から数日のうちに終えなければいけません。でも、人数や内容が明確にならなければ見積もりを出せない。相談している段階では、数時間後には通夜を開催しなければならない状態で、そもそも時間が無い。だから、例えそれが不当な金額でも、最初に相談した業者にお願いする流れになります。この「消費者との情報の非対称性」は絶対に見直さなければいけないと思いました。

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