連載:第2回 日本企業 海外でのマネジメント
インドで急成長。老舗・貝印の「半分日本人」代表。朝礼・唱和×ITで青春の恩返し
世界の経済成長を牽引し、2029年には日本を抜き世界3位の経済大国になるとの予測もあるインド。そんな国に2012年に進出し、成長を続けているのが創業110年を超える刃物の老舗・貝印株式会社です。同社のインド法人の代表は日本で30年以上暮らし、家庭も日本に持つ「半分日本人・半分インド人」を自称するパンディア・ラジェシュさん。インドでの事業立ち上げ、運営にあたって大切にしている「日本的アプローチ」について話を聞きました。
カイ・マニュファクチュアリングインディア有限会社(貝印インド法人)
MD パンディア・ラジェシュ さん
日本での「カルフール」の立ち上げや「キッザニア」のインド展開事業、「学研」など30年以上のキャリアを経て、2016年「カイ・マニュファクチュアリング・インディア有限会社〉のMD(社長)に就任。現在のモディ首相と同じグジャラート州出身で、公私ともに交流がある。デザインやアート、ものづくりが好き。
インドでの仕事は慣れるのに3年。10年スパンで形にする
――インドは多くの企業から注目されています。インドでのビジネスで気をつけることはありますか?
パンディア: 私は30年以上にわたって日本で生活している半分インド人、半分日本人です(笑)。なので、「日本人から見たインドでのビジネスの進め方」についてお話ししましょう。
まず、インド人の物事の「進め方」や「リズム」に慣れることが必要です。日本とは異なるケースに度々出くわすと思います。まず、ケアレスミスが多い。私はマネージャーとしてたくさんの書類にサインしますが、よくミスを発見します。 「インドでは細かくチェックを繰り返さないといけない」ということを、自分自身に言い聞かせています。 これは日本の生活や仕事の進め方、リズムに慣れていると、なかなかに疲れる作業です。
そしてインド人は、ムードや雰囲気にも影響されがちです。外国人であれば、インド人ならではのリズムに巻き込まれてイライラしてしまうこともあります。こういった場合に、まずは 自分のペースをしっかりキープする、キープできるようになる ことがとても大切だと思います。日本人駐在員やご家族にお話をうかがうと、インドのリズムをつかめるようになるのに大体3年かかると聞きますね。
――「慣れるのに3年」は長くないですか?
パンディア: はい、 インドでの仕事は長いスパンで考える必要がある ということなんです。「インドにはビジネスチャンスがある」「すぐに儲けよう!」という軽い感じでは成功は難しいでしょう。慣れる前に、失敗・撤退という判断をすることになります。当社の社長の言葉を借りると「どの国でも10年プラン」。インドも例外ではありません。
「10年で形にする」と考えると3年は長くない ですよね。切り替えの早い方であれば1年半〜2年で慣れるかもしれません。私はよく「United States of India」という言葉を使います。 各州で言葉が違うし、考え方も違う。拝む神々が違う。 インド人であっても大変なんです。
創業時10数名しかいなかった社員が、今ではオフィスと工場を合わせて190名超に
――現在のカイ・インディアの事業はいかがでしょうか?
パンディア: 2012年に設立され、私が社長に着任して本格的に事業をスタートしたのが2016年。10年を1区切りとすると、5年ほどが経ちました。
今はヒーロープロダクト(Hero Product/売れ筋もの)を作る努力をしているところです。まさにトライアンドエラーです。近い将来、「KAI」の名前でインドでのヒーロープロダクトが登場することを期待しています。
インドで私たちが展開しているのは爪切り・包丁・カミソリ。この3つです。これらをローカライズ、つまりインド人が使いやすくなるような工夫をしています。
まず爪切り。インド人は素手でご飯を食べる人が沢山います。すると爪の裏にご飯がたまる。それを取るために爪切りではピックをつけ、爪が飛び散らないように防止ケースも加えました。そして包丁。インドでは日本のようにまな板はあまり使わず、食材を手で挟んで切ることが多いです。その習慣に合わせ、刃の形を変えています。カミソリの場合は使い捨てと刃を取り替えるものの2タイプを展開しています。
カイ・インディアの主力商品は、爪切り、包丁、カミソリの3種類。いずれもインド国内の文化に合わせた開発を行った
日本語とヒンディー語で毎日行われる朝礼と唱和
――事業運営に取り入れている日本企業の文化はありますか?
パンディア: インドに着任した2016年3月28日からコロナ禍に見舞われるまで、 私は朝礼を欠かしたことはありません。 どうしても朝礼ができない日は、夕礼を行います。
実は朝礼はインドでは一般的ではありません。月曜日に日本語、火曜日にはヒンディー語という形で交互に行なっています。朝礼では、日本や日本の本社で起きたことを話し、日本への理解が深まるようにしています。 工場では日本のラジオ体操も行っています。
朝礼を始めて1年半ほど経ったある日、社員が「社長の朝礼を録音してもいいですか」と私に尋ねてきました。「とても役に立つので、大学生の息子にも聞かせたい」と言うではありませんか。朝礼での日本の話は、たしかに社員の心に伝わっているんだと実感しました。
――社員の皆さんは日本語を理解されているのですか?
パンディア: 日本語を理解する目的で日本語の朝礼を行っているわけではありません。 日本の言葉を耳にしてほしい。貝印のスピリットを、心で肌で感じてほしい。言葉の響きを覚えてほしい。それが、私が強く伝えたい ことなのです。
また、社是の唱和も日本語とヒンディー語で行っています。社是をヒンディー語に翻訳するにあたっては、デリーの大学の先生と相談して、貝印のスピリットをより深く理解できるよう、細かなニュアンスまで伝えられる言葉に落とし込んでいます。
ヒンディー語で唱和をするといまだに鳥肌が立ちます。よくできた社是だと感じるから です。
――朝礼はどういう点に良さを見出しているのでしょうか。
パンディア: 日本式の働き方には良い点がたくさんあります。しかし、日本人にとっては当たり前過ぎてスルーしてしまう場合もあるように思います。そんな時には 「この取り組みの裏には何があるのか?」 と私は掘り下げることにしています。
なぜか?
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