連載:第2回 テレワーク 生産性の高め方
新入社員約200人。オンラインの入社手続と新人研修を1ヵ月で作るには
4月、例年であれば入社式や新人研修が実施されている時期です。しかし2020年においては、新型コロナウイルスの影響で入社式を中止したり、新入社員が自宅待機をしたりしている企業もありました。そのような状況の中、医療・介護領域における人材紹介・派遣サービスを運営するTSグループでは、約200人の新入社員にオンラインでの入社式・入社手続き、新入社員研修を実施することを決断。しかし、すでに3月上旬。残された1ヵ月間で同社はどのようにしてこれらを実現できたのか? NHKのニュースでも取り上げられた同社の入社式・新入社員研修の舞台裏について、経営企画本部 本部長の三浦 麗理さんに聞きました。
TSグループ
執行役員 経営企画本部長 三浦 麗理さん
大阪府生まれ。東京大学大学院理学系研究科修士課程修了。東京医科歯科大学大学院医歯学総合研究科修士課程修了。三菱商事株式会社、大鵬薬品工業株式会社の経営戦略部長、ソフトバンク株式会社を経て、2020年1月、TSグループ3社(株式会社TS工建、株式会社ティスメ、メディアメイド株式会社)の執行役員 経営企画本部長に就任。
社員数4000名超、組織図はなかった。
―― 御社の事業内容について教えてください。
三浦 麗理さん(以下、三浦): 当社は2004年に大阪で設立された会社です。当初は建設現場への現場監督の派遣からスタートしました。そこから2005年には現在の注力事業である医療福祉事業に参入し、人材紹介・派遣サービス業を中心に事業を成長させてきました。2019年11月には現社長の笹井が就任するなど経営陣が一新され、それにともない私も2020年の1月に着任しました。今はIPOに向けて社内整備を進めているところです。
―― 着任後、まずどのようなことから取り組まれたのでしょうか?
三浦: 社内コミュニケーションや役割・制度の整備などから始めました。当社の事業柄、それまでは営業主体の体制で、「コーポレート部門」と言われる組織はほぼありませんでした。私が所属する「経営企画本部」ができたのも今年の1月、同じく人事本部も1月から。形として「人事を担当する組織のようなもの」はあったのですが、役割・責任を明確化した「○○本部」とは位置付けられていませんでした。
一番びっくりしたことは、着任後に 「組織図をください」とお願いしたら「座席表」が出てきた ことです(笑)。たしかに座席表を見ると、同じ役割と思われる人が近くに座っていましたのでわからなくはないですけど、びっくりしましたね。
2020年1月の時点で社員数はパート・契約社員・派遣社員含め、4000名以上。組織図がないのにどうやってここまできたんだろう……と。逆に「すごいな」とも思いました(笑)。
―― それはびっくりですね。
三浦: 紐解いていくと、会社や組織として「○○する!」と方針が決まったら、社員が柔軟に動く組織だったことが背景にあるのだと思います。細かい役割を決めずとも誰かがなんとかする、なんとかなってしまう、と言いましょうか。
ただ、役割や責任を明確化して生産性を上げていくにあたり、そのやり方では限界があります。そのため、まずは社風から変えていく必要がありました。例えば、挨拶です。
当社は人を相手にする会社ですので、以前から社内外問わず、挨拶を大切にしている会社でした。ただ、社員数がどんどん増えるにつれて、挨拶の声も大きくなってしまって、近隣の企業からクレームが来ることがしばしばありました……。もちろん元気なのは良いことですが、TPOをわきまえる必要がありますよね。
動画でのマニュアルを作成し、社員教育・徹底に活用している
これを是正するために、当社の社員が出演した「正しい挨拶」「正しいマナー」の動画を作り、全社に共有して徹底していくことにしました。声の大きさに対する当たり前の基準が人それぞれのため、最初は苦戦したこともありましたが、閲覧した社員から率先して変更してくれて、全社に浸透させることができました。この辺りは当社の社風のとても良い所だと思います。
この半年で様々な規定を整備し、動画マニュアルを作るなどして周知・徹底しながら、一般的な会社に必要な規定はほとんど揃えられたと思います。
オンライン研修実施は3月上旬に決定。研修の準備期間は2週間
―― オンラインでの入社式や新人研修。実施を決めたのはいつ頃なのでしょうか?
三浦: 3月6日にオンラインへの切り替えが決定しました。まずは1ヶ月分の研修内容を考えて、動画やスライドなどの内製を始めました。
―― オンラインでの研修内容は、オフラインで予定していたものをそのまま転用したのですか?
三浦: いいえ。昨年までは、5日間の集合研修を実施していました。今年のように1か月間という長い期間での研修自体が初めてだったので、100%新しいものを作りました。
今年の新入社員研修は、当初は大阪と東京で会場を分けて行う予定でしたが、それをオンラインにそのまま移行できるわけではありませんでした。エクセルやパワーポイントについての研修は外部委託する予定でしたし。
そのため3月上旬、新入社員研修をオンラインで行うと決めた時、その内容は「白紙」に戻し、まず人材開発部と経営企画室のメンバーで集まって「どんな新人を育てたいのか」をディスカッションするところから始めました。ワークショップ形式で毎日2時間、4日間ほど検討しました。
当社ではワークショップをやったことのない社員も多かったので、最初はみんな戸惑っていましたね。けれども進めていくうちに、アイデアがどんどん出てきました。「新入社員に1ヶ月後どうなっていてほしいか。」「1年後はこうなっていて欲しいから、こんなハードスキルやソフトスキルの研修が必要」などの具体的な話がたくさん挙がってきましたね。
あとは、その内容を伝えるために「ロールプレイングが良いのか?」「ディベートにするのか?」など、その方法も相談して。最終的には社長も含めてプレゼンをし、メンバーで投票をしながら決めていきました。 「新人研修をオンラインでやる!」と決めて、大体ここまで4日間ほど だったと思います。
―― 動きが早いですね。研修の動画・スライドの作成で、工夫した点はありますか?
三浦: 「soeasybuddy(ソーイージーバディ)」という動画を共有できる社内SNSプラットフォームを活用しましたね。最近SNSなどでよく見る3分ぐらいの短編動画ってありますよね。あれの企業版のようなツールです。soeasybuddyだと、簡単にトレーニング動画の格納・共有ができるし、この動画を社員が視聴したかどうかの確認もできるようになっています。
時間が限られる中、1週間で40本ぐらいの動画を作成し、soeasybuddy上に格納して、4月の新入社員研修までにはなんとか教材を揃えられました。
約200人の入社手続きをオンラインで。入社式の1週間前の決断
―― 入社手続きもオンライン化されています。こちらの準備はいつ頃から始められたのでしょうか?
三浦: 3月の最終週ぐらいだと思います。残業をしていた時に人材開発のメンバーが、さらっと「入社手続き200人分、どうしましょう?」って聞いてきたんですよ。
例年ならば4月1日に会社へ来てもらい、そこで書面に記入するなどして一斉に手続きをするのですが、今年はそれができない……と。どのような選択肢があるのか聞いてみると「書類は1人あたり10枚超。これを今から印刷して一人ひとりの自宅に送付し、記入して返送してもらう。その後、すべての新入社員から返送されているかを確認して大阪本社に送り、データをとりこんで…」と。それを 3月の最終週、入社日の1週間前から200人分やる って言うんですよ。
もしそこで、「じゃあお願い!」と言っていたら、おそらくやりきってしまっていたとも思います。でもそれって全然効率的じゃないですよね。社員の作業時間も無駄だし、約2,500枚を超える紙も無駄……。その時、「何とかできないか?」と思案したところ、SmartHRを思い出して「これって使えないのかな?」と思ったんです。
―― ここから1週間後の入社式に間に合わせるわけですよね?
この記事についてコメント({{ getTotalCommentCount() }})
-
{{comment.comment_body}}
{{formatDate(comment.comment_created_at)}}
{{selectedUser.name}}
{{selectedUser.company_name}} {{selectedUser.position_name}}
{{selectedUser.comment}}
{{selectedUser.introduction}}
バックナンバー (6)
テレワーク 生産性の高め方
- 第6回 会社が止まる時は日本が止まる時。有事での事業継続を確信した全業務クラウド化
- 第5回 リーダーは無理してみんなを鼓舞しなくていい、オンラインコミュニケーションのコツ
- 第4回 リモート下だからこそ見直したい「組織運営」の在り方
- 第3回 オフィスを解約し全面テレワークに移行した経営者の決断背景
- 第2回 新入社員約200人。オンラインの入社手続と新人研修を1ヵ月で作るには