連載:第3回 中小企業の危機管理術
取引先の倒産・資金未回収のリスクに備える。与信管理 見直しの手引き
新型コロナウィルスの影響により、企業活動は大きく制限を受けています。そのような状況で大きなリスクとして考えられるのが、取引先の倒産によって代金が未回収となることです。そのリスクをコントロールする手法が「与信管理」。与信管理を適切に行うことで、販売機会と回収のバランスをとることができます。当記事では与信管理の概要とともに、与信管理サービスを活用した与信管理方法を紹介していきます。
1.与信管理とは
(1)概要
与信とは文字通り「相手に信用を供与すること」です。現金取引であれば、納品やサービスの提供と同時に現金を受け取るため、代金が未回収になるリスクはありません。しかし、企業活動の中で現金取引が行われるのは稀であり、大半は納品やサービス提供の一定期間後に決済を行います。その販売~決済が行われるまでの間に発生するリスクを管理することが与信管理となります。
(2)与信管理の必要性
与信管理の目的は、取引先の貸し倒れ等による不良債権の発生を最小限に抑えることです。例えば、売上1億円、利益1,000万円の取引先があったとします。この場合、利益率は10%です。この取引先で500万円の売掛債権が貸し倒れとなった場合、この損失を埋めるには500万円÷10%=5,000万円の売上アップが必要であり、多大な営業努力が必要となります。そのため、不良債権の発生を抑えることが企業活動にとって重要となります。
しかし、不良債権を恐れて信用度が高い顧客への販売機会を逃してしまっては元も子もありません。また、同じ1,000万円の不良債権でも年商1億円の会社と10億円の会社とでは影響が異なります。「相手の信用度」「自社のリスク許容度」に応じて、取引先に対する限度額を調整し、不良債権による損失を抑えるための手法として与信管理があります。
取引先を評価する基準として「収益性」「安全性」「成長性」などがありますが、与信管理は「安全性」を重視して行われます。
(3)与信管理の手順
一般的な与信管理の手順は以下の通りです。
①取引先の信用力調査
まず行うことは、取引先の信用力を調査することです。調査は多方面から行われます。代表的なものは、営業担当者からの情報、取引先からの情報、外部機関からの情報に分類されます。
営業担当者からの情報は、取引先や経営者の印象、同業他社からの情報、地域での評判など、定性的な情報が多くなります。 取引先からの情報は、決算書、取引履歴、メイン商材、販売チャネルなどが挙げられます。ただし、機密上の問題から開示されないこともあります。 外部機関からの情報は、信用調査会社の調査レポート、不動産の登記情報などです。調査レポートは点数化されていることが多く、調査会社のコメントが入っていることもあります。また、費用はかかりますが、新規調査を依頼することも可能です。
②取引条件の検討
「①取引先の信用力調査」で得た情報を基に、取引条件を検討します。検討内容は与信限度額、回収条件、担保・保証金の有無などです。
③与信決裁
社内の与信決裁規程に従って、取引条件を決裁します。与信限度額によって決裁者が変わることが多く、専用の審査部門を持っている会社は審査部門の意見を参考にすることもあります。
以上が、取引開始までの主な手順になります。取引後の手順については以下の通りです。
④取引条件が守られているかの確認
日々の取引内容が、決裁された取引条件と合致しているかを確認します。確認内容としては「与信限度額を超過していないか」「回収条件通りに債権が回収できているか」といったものが挙げられます。
営業担当者だけでなく、経理担当者や受発注担当者と共同して確認できる体制が望ましいといえます。また、条件外の取引外の取引が発生した際にアラートを挙げるような仕組みを構築すると与信管理を効率化できます。
⑤取引条件の見直し
取引先の状況は都度変化します。そのため、取引条件を一定期間後に見直す必要があります。見直しの際は「①取引先の信用力調査」で例示した情報や、今までの取引状況を鑑みて再度与信決裁を行います。 また、支払遅延や信用不安などの情報を得た場合には、ただちに取引条件を見直す必要があります。
2.与信管理方法の見直し
(1)一般的な与信管理方法
多くの企業で採用している与信管理方法は以下の通りとなります。
新規契約時に、営業担当者からの情報や、信用調査レポートを基に与信限度決裁を実施。その後、一定期間(1年後が多い)経過後に、再度信用調査レポートを取得し、再度与信限度決裁を実施する。
この方法にはいくつか課題がありますので次項で解説します。
(2)一般的な与信管理方法の課題
状況の変化を見逃しやすい
取引先情報は営業担当者からしか取得できないことが多く、今回の新型コロナウィルス等の影響で取引先の経営状況に変化があった場合に、営業担当者に情報が入ってこなければ、変化を見逃す可能性があります。
主観的な与信限度額になりやすい
経験やノウハウを持っている審査部門等がない場合、与信限度額が与信申請者や決裁者の主観的な判断に依存してしまうことがあります。
与信更新の手間がかかる
更新時期になると、営業担当者が信用調査レポートを取得し、与信決裁申請書を記載することになるため、少なからず手間が掛かります。
(3)与信管理サービスの活用
そこで、筆者がおすすめする与信管理方法は 「与信管理サービスに取引先を登録し、取引先の情報を把握する」 というものです。 提供している会社は様々ありますが、与信管理サービスのおおまかな活用方法は以下の通りです。
①与信管理サービスへ自社の財務情報・取引先情報を登録
与信管理サービスへ自社の財務情報や取引先情報を登録します。すると、取引先の評点や、自社と取引先の情報を踏まえた推奨与信限度額が提供されます。この推奨与信限度額よりも自社の希望与信額が少なく、評点が自社の基準値以上ならば、与信更新を不要にするなどルールを設ければ、不安がある取引先の与信管理に注力できます。
また、不安がある取引先に対して債権保証サービス等を活用すれば、費用は掛かるものの与信審査を簡素化できます。
②登録してある取引先情報に変化がある場合にアラート通知
取引先の評点等に変化がある場合に、メール等でアラート通知が来るようにすると取引先の与信情報の変化に気が付くことができます。これは、サービス提供会社には日常的に取引先に関する情報が入ってくるため可能なサービスです。有料の場合と無料の場合があります。
③定期的に取引先情報の洗い替え
与信更新時期に都度、調査レポートを取得すると手間と費用が掛かります。特定の時期に自社の取引先の評点や推奨与信限度額を一括して取得し、洗い替えすることで、手間と費用を抑えることができます。
(4)与信管理サービス提供会社
与信管理サービスを提供している会社をいくつかご紹介します。
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