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連載:第3回 経営危機からの復活

新旧社長の意地と信頼。下請け印刷所の連鎖倒産危機が生み出した「未来を創る空間」

BizHint 編集部 2019年2月4日(月)掲載
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東京・墨田区にある印刷所「サンコー」。1967年創業、従業員約20名の同社は、印刷技術を活かしてお客様の要望を形にして届ける「クリエイティブ集団」でもあります。2015年、同社内にオープンしたシェアオフィス「co-lab 墨田亀沢」には、デザイナーやエンジニアをはじめとしたクリエイターが集い、ユニークなアイデアを具現化・製品化しています。 しかし、2013年に3代目社長の有薗悦克氏が「会社を継ぐ」覚悟をもって入社した当時は、いわゆる「典型的な下請け中心の印刷業」で、売上は右肩下がり。さらにそこに「連鎖倒産」の危機が迫ります。どのような経営判断、社内変革を行なって乗り越えたのでしょうか。現社長と前社長(有薗克明 現会長)に話を聞きました。

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株式会社サンコー

取締役社長 有薗 悦克氏

大学卒業後、カルチュア・コンビニエンス・クラブ株式会社に入社。その後、株式会社新星堂(当時)の事業再生に参画した後、2013年に家業であるサンコーに入社。印刷業を主軸としながら、お客様の「おもいをカタチに」する領域を広げるためのインフラとして、クリエイター専用のシェアオフィス「co-lab墨田亀沢:re-printing」を2015年にオープンさせた。

代表取締役会長 有薗 克明氏

1971年大学卒業後に大手光学機器メーカーに就職した後、三幸写真製版株式会社(現・株式会社サンコー)に入社。85年に代表取締役社長に就任。以降32年間の社長期間に、印刷の一工程であるフィルム製販のみを行っていた会社を、デザインから印刷までを手掛ける総合印刷会社へ変革し、さらにお土産品の企画製造などの新規事業をスタートさせた。2017年より現職。


業界大手に急成長を果たす企業での出世街道「家業の継承から、逃げていた」

――家業であるサンコーを継ぐことは、以前から考えていらっしゃいましたか?

有薗悦克氏(以下、有薗): そうですね。私は長男ですし、漠然とは考えていました。しかし、新卒でCCC(カルチュア・コンビニエンス・クラブ)に入社し、M&Aを任されるなど夢中で働いているうちに、歳月が流れ……。エンタメ商材の販売等を行う新星堂で執行役員として企業再生を担うなかで、それまで「なんとなく逃げていた」サンコーを継ぐことを決めました。社長として事業を継ぐのは連帯保証人として債務も引き継ぐということ。祖父や父が続けてきた事業ですから、従業員ではなく、 家族である私にしかできないこと でした。

――サンコーへ入社して、どんな課題が見つかりましたか?

有薗: 何よりの課題は、当時の社員が「サンコーで仕事をする意味や価値を実感していなかったこと」でした。前職では企業再生で、 『自分達の強みを把握して顧客のために何ができるかを徹底的に追求』 してきたので、入社後すぐに全社員と面談しました。

「サンコーの強みは何だと思う?」社員に問いかけても、みな「わからない」という返事。とはいえ、それは仕方がないことでした。元請けからの指示通りに仕事することが最重要で、考える余裕もなかったからです。

印刷の下請け業務は減り続けていたので、手を打たなければ会社はいずれ倒産する。そこで、 社員と『仕事の意味や提供価値を徹底的に議論』 しました。日々の業務に追われながら、仕事の根本的な意義を考え抜くことは社員にとって本当に大変だったと思います。その結果、絞り出されたのが 『おもいをカタチにする』という事業ドメイン。そして、『任せてよかった。ありがとう! と言われ続けるために、常に変化し、成長し続ける会社でありたい』という企業理念 でした。 仕事上の拠り所を、社員全員で創り上げたことが、社内改革の第一歩 でした。

――企業理念や事業ドメインを浸透させるために、どんなことを行ったのですか?

有薗: 半期毎の個人面談や社内向けのブログ、もしくは機会があるごとに自分の考えや思いを、繰り返し伝えるようにしました。リアクションが来なくても気にしません。 理念を浸透させるには、それしかないと思います。

「中小企業は少人数だから、意思伝達がスムーズ」と思われるかもしれませんが、実は逆。当社は日中に集中して作業をするので全員でミーティングをすると当然ラインは動きませんし、個別に伝えるのも非効率。繰り返し、その都度伝えるしかなかったですが、ある時お客様への提案の際、 当社の営業社員がさらっと『おもいをカタチにする……』と口にしたのを聞いた時には、こみ上げるものがありましたね。

――企業理念の策定や変革の過程で、お父様である会長や社員から抵抗はありましたか?

有薗: まったくなかったです。営業社員は、紙の需要が減っていくのを最前線で感じており、「自分達が変わらなければ、沈む」と理解していました。 社員が味方でいてくれたことは幸運 でしたし、父自身も、一切口を出さず、忍耐強く見守ってくれました。我慢してくれている部分も多々あると思いますが(笑)。

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