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連載:第45回 IT・SaaSとの付き合い方

紙→kintone→Salesforce。「人依存」からデータドリブン経営へのツール変遷。担当者が考えていたこと

BizHint 編集部 2025年2月14日(金)掲載
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あらゆる業務が紙で管理されていた専門商社。長年にわたる「社長依存」の企業文化も相まって、時代の変化への適応が難しくなっていました。そんな中、経営陣の危機感からkintoneを活用したペーパーレスへの業務改革がスタート。自ら手を挙げた担当者の試行錯誤が始まります。その後同社はさらに変革を進めるべく、Salesforceの導入・活用へと舵を切り、現在はまさに改革の真っ只中。一連の経緯や、その時々で推進担当者が考えたこと、社内で起こったことなどについてお話を伺いました。

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(お話を伺った方)
(静岡県/製造エンジニアリング/従業員数約50名)
取締役 Lさん
経営企画室 Jさん


※本記事は2024年11月の取材に基づいて制作しております。各種情報は取材時点のものであること、あらかじめご了承ください。

改革に手を挙げた理由。「現状への不満」と「自分にしかできない」

――貴社では2021年にkintoneを導入し、業務効率化を進められました。もともとどのような課題感から出発されたのでしょうか?

Jさん: 当時は世の中的に業務効率化・生産性向上の空気が高まっていた頃で、あちこちでペーパーレスの話題が出ていました。そんな中、当時の常務が「何でも紙で回している現状をkintoneで変えられないか?」と発議しました。kintoneだった理由については、CMや周囲の話がきっかけのようでした。

その後、そのプロジェクトを誰が進めるか?という話になります。そこで私が手を挙げ、サイボウズ社と商談を進めていくことに。当時使っていた基幹システムの代理店に相談して、kintoneの営業の方を紹介していただきました。

――Jさんはなぜ手を挙げられたのでしょう?

Jさん: 当時、私は当社に転職して日が浅かったのですが、社内のITリテラシーや周囲の業務負荷を考えた時に、 kintoneでの業務改革やアプリ開発ができるのは自分以外には難しいだろうと考えたから です。

私はもともとパソコンを触るのが好きでITまわりには強いほうでしたし、前職ではNI Collaboというグループウェアを使っていたので、kintoneでできそうなことが漠然とイメージできていました。

また当時、 会社の業務環境や風土に疑問を抱いていたことも理由 です。日報はもちろん、休務届けや休日出勤の申請など、ありとあらゆるものが紙…。オフィスのいたるところに紙が散乱していて、重要なものかどうか、そこにあっていいものかどうか、誰が処理すべきかどうかわからない状態が日常でした。

休務届を出すにしても、社長への紙の手渡しが必要なので、社長がいないと提出できない…。急に休むことになったら、後日、休務届の紙を関係各所に回さなければならない。日報の紙は翌朝までに社長の机に提出…といったことが当たり前に行われていました。

私は転職してこれを目の当たりにしたのですが、正直「どれだけ時代遅れなんだろう…」と思っていました。 ですので私自身、この状況を変えたかった のです。

トライアルの失敗はプロジェクトの頓挫。絶対に避けたかった。

――kintoneの検討はどのように進められたのでしょうか?

Jさん: サイボウズ社の担当者と何度かお話しし、採用決定の前に無料のトライアルを試すことにしました。

ただその際、トライアルの期間については先方と調整しました。というのも、先方からは「アプリ構築と運用テストまでを1ヶ月で」と言われたのですが、正直厳しいと感じましたので。

私は営業も兼務していたので、kintoneの検討・導入トライアルに100%時間を使えるわけではありません。アプリ構築だけで1ヶ月はかかると思いましたし、運用テストでは他の社員の協力も必要となります。

もし、このトライアルで使いにくいアプリを作ってしまったり、現場の要望に応える改良ができなかったりしたら、それこそプロジェクトが頓挫してしまいます。これでは全員不幸になります。また、サイボウズ社のサポートと密なコミュニケーションも図りながら、長くお付き合いできるかどうかも見極めたかったので、それらを説明して、2ヶ月に延長していただきました。 社内から「今の紙のままのほうがいい」という声が上がるのは、絶対に避けたかったので。

――トライアルはどのように進められたのでしょうか?

Jさん: まず「日報」のアプリを作成し、それを社内で「便利」と感じてもらうことをゴールに設定しました。

社長はパソコンを使えないこともあり、40名ほどの社員の日報を毎日紙でチェックしていました。日報作成では、社員はExcelのテンプレートに入力し、本社であれば自分で印刷して社長の机に提出。支店の社員はメールで送付し、それを総務のスタッフが印刷して社長の机にまとめていました。

当時は「日報の内容」と「営業成績・業務成果」で社員の評価が決められていました。これが賞与や職位にも影響するので、社員にとって日報は重要です。

日報は翌営業日の朝までに提出というルールでしたので、日報を書くために休日出勤する人もいましたし、同様にプリントアウト・提出するためだけに出社する人もいました。

勤務歴が長い社員はそれを当たり前に感じていたり、また諦めている人もいたりしたかもしれません。しかし、私や若手社員は違和感を覚えていました。かといって、その違和感を公言することは難しい。

ですので私は、 まず「便利」と思ってもらうことで、社内の空気・意識を変えるきっかけにできればと考えていました。 「このやり方っておかしいよね」「もっと便利なやり方があるよね」と、言いやすい雰囲気を作り出したかったのです。

そのためには、 毎日やっている「日報」は初手として最適だと考えました。以前と同じ運用ルールで、紙がそのままデジタルになるだけ。これがもっともわかりやすいので。

「もうExcelには戻れない」。スモールテスト後、全社展開

――日報のアプリはスムーズに作れたのでしょうか?

Jさん: わからないところは、サイボウズ社のサポートセンターにメールや電話で質問をして教えてもらいました。担当は毎回変わりましたが、丁寧でわかりやすかったです。トライアルを終えてからも、ずっとお世話になっています。

kintoneのアプリ制作は感覚的にわかるものが多いと感じますが「承認のワークフロー」の構築では特に相談しましたね。

いろいろな相談をする中で、プラグインについて教えていただくことがあったのですが「非公式なので保証はできない」という前提ではあるものの、サードパーティ製のものを教えてくれたりして、プラグインの利用法やそれを使って便利にできる業務など、相談を重ねながら私の知見も広がっていきました。

――日報のアプリ。社内での反応はいかがでしたか?

Jさん: 全社で使ってもらう前に、まず1つの部署でテストをしました。私が以前所属していた部署で、環境やメンバーの特性を把握していますし、双方忌憚のない意見を言いやすいので。

結果、細かい指摘はあったものの、総じて「こっちのほうがいい」という反応でした。Excelで地味に手間だった文字量による印刷時の崩れを回避するためのレイアウト変更・文字数調整がなくなったとか、直感的に書けてとにかく楽、とか。 「もうExcelには戻れない」という反応は素直に嬉しかったですね。

日報のチェックは社長以外に上長も行うのですが、そこでも大きな指摘はなく、運用に問題ないことを確認して、全社展開しました。社長はiPadの利用は問題ありませんでしたので、その後はiPadで日報を見ていただくことにしました。

本運用を始めると、若い社員を中心に「すごく助かっています」という言葉をいただきました。多くの社員が「デジタルで仕事が楽になる」といった体験・感覚は得られたとは思いますが、普段の意識や行動が劇的に変わることまでは起こらなかったという感触です。

その後、社内の申請・予約業務をkintoneに移行していきました。振替休日申請、休暇申請、出張申請、社外教育参加申請、会議室予約、トラック予約などです。社内掲示板も用意しました。

そうやってkintoneで進めた効率化・ペーパーレス化ですが、翌年からはSalesforceに置き換わっていきます。これはいわゆるデータドリブン経営を目指すという経営方針の転換が背景にあり、現取締役のLの入社がその契機になりました。

「人」に依存した社内の仕組みを「システム」に置き換える

――ではkintoneからSalesforceへの移行について、Lさんに伺います。

Lさん: Salesforceの導入は私が入社した後、2022年1月頃からスタートし、今まさに進行中です。私の入社の経緯としては、社長から「会社を何とかしたい」と危機感を伴った相談を受けたことがきっかけでした。

当社の周辺は製造業の大手企業も多く、マーケットとしては非常に恵まれています。長年にわたってそんな環境下にあった当社は受け身の姿勢が染みついてしまい、気付けば能動的・創造性のある仕事ができなくなっていました。

これは延々と続いてきた「社長依存」の疲弊の一側面でもありました。 昨今の急激な市況の変化に対応しようにも、それができる組織・人が育っていない。 これが社長の危機感の根底にあるものであり、私が担う役割はそのような組織の変革でした。

――入社後、どう改革を進められたのでしょうか?

Lさん: どんな組織にも「仕組み」というものがあり、それはとても重要なものなのですが、当社においては前述の通り「社長」という『人』が仕組みそのものになっていました。

ですので、その仕組みを「システム」に置き換えることから始めました。営業やCRM(顧客管理)、人事、労務など…。旧来「社長の考え」を基準に各所で属人的に作られていたものを、システムとして再構築するのです。

その仕組みを作るための手段が、Salesforceです。もちろんSalesforce以外にも様々なシステムはありますが、私が前職で利用して機能・使い方を理解していたことや、外部との連携などに鑑みて、当社でも活用できると判断しました。

他方、Salesforceで社内の業務・情報を統合し掛け合わせることでERPを構築し、データドリブン経営に移行していくことを中長期的には見据えています。ERPは「Enterprise Resource Planning」の略で、企業の経営資源(ヒト・モノ・カネ・情報)を統合管理して、経営や意思決定の最適化を図るシステムのことです。

――データドリブン経営を目指すにあたり、先述のkintoneの利用を広げるという選択肢はなかったのでしょうか?

Lさん: kintoneの「設計思想」は、我々の目指すものとは方向性が異なっていると考えました。

kintoneの設計思想は「業務効率化」を目指すものだと受け止めています。それまで当社が行ってきたような、紙をデジタルに変える、情報を見やすくするといった目的であればとても有用だと思いますし、実際に活用できていました。

しかし、日々の人・組織の行動の積み重ねや、その結果顕れる様々な数値から次の意思決定のための情報を導き出す、といったERP的な使い方をしようとすると、やはり 最初からそのような設計思想で作られたシステムのほうがフィットします。私にとってそれは、Salesforceでした。

私は前職で、今でいうERPの概念がない頃から、長年にわたって同様の社内システムを独自に構築・活用してきた企業にいましたので、その経験則も判断の背景にはありました。

パートナー探し。腹を割って確認すべきこと

――Salesforceを導入するにあたり、何から始められたのでしょうか?

Lさん: Salesforceを使って私たちがやりたいことを実現するためには、パートナーの力が絶対に必要です。ですので、最初に行ったのはパートナー選びでした。

ちなみにSalesforceは早くからアメリカで事業を興し、日本でも長年にわたって市場を開拓して多様なパートナーが育っているということも、採用にポジティブな要因でした。

――パートナー探しはどのように?

公文:まず、Salesforceの担当者に「自分は会社をこのようにしたいから、Salesforceの採用を考えている。これを実現できるパートナーを紹介してほしい」と伝えました。その際、以下の4つの条件もあわせて伝えました。

  1. コンサルティングができること
  2. アジャイル開発ができること
  3. CRM特化で、Salesforceの他のツールの使用は考えていないこと
  4. マイクロソフトのツールとの親和性を高めたいこと

そうしてSalesforce側から紹介されたパートナーと、一緒に取り組んでいけそうかどうか商談、見極めを進めました。

その際に 重視したのは「パートナーの担当者がどのような社内KPIを持っているか」です。

――なぜ、パートナーのKPIを確認されるのでしょう?

Lさん: 当社の目標に向かって一緒に歩んでいただけるパートナーを選定するにあたって、「そのパートナーが何を目指しているか?どんな思惑で当社と接しようとしているか?」を確認するのは重要だと思いますし、ミスマッチを防ぐためには必要な情報だと考えています。

例えば「話をよく聞いてくれるから」という理由でパートナーを選ぶケースを度々耳にしますが、これは主観・感情が優先しすぎだと感じます。目指すゴールに辿り着くことが最優先事項であって、話を聞いてくれること自体にはあまり相関しないと言いますか。

なので「あなたの仕事にはどんなKPIが設定されているのか?」を単刀直入に聞くことで、『そのKPIなら、当社のプロジェクトを推進・達成することで、双方Win-Winになれる』という判断ができます。

私たちは会社を大きく変えようとしていて、そのためのパートナーを探しているわけですから、それくらい本気で腹を割って話さないと、また話せる相手でないと、自社に合うパートナーには出会えないと思います。そしてその選択を間違うことは、プロジェクトの正否に大きく関わります。

――パートナーの選定について、初期の段階で「一緒にやれそう」と感じた点などありましたか?

Lさん: いざ一緒に仕事をするとなっても、やはり最初はお互い手探りですよね。その中で、最初に良い印象を抱いた出来事があります。

それは「毎週、定例の打ち合わせをしませんか?」という先方の提案がきっかけでした。我々はいったんそれに乗っかる形で、やりたいことを言いたい放題にお伝えしたのですが、その翌週の定例で早速、その答えをシステム案として示してくれたんですよ。

「こういったやり取りができるパートナーなんだ!」と感心しましたし「この関係性を続けていけば、ゴールに辿り着ける」という感触を得ました。 実際、その姿勢がずっと変わらないからこそ、今もお付き合いを続けられているのだと思います。

データ・情報をカテゴライズし、「資産」として活用する土台を作る

――Salesforceの具体的な活用について教えてください。

Lさん:最初に取り組んだのは「データ・情報をカテゴライズすること」です。 これは様々な情報の紐付け・分析のために必要なもので、将来的に「データ・情報を循環させる仕組み」の土台になります。

例えば当社には、前述の通り日報の文化があります。社員がそこに日々記した思考や行動の結果は、例えば見積書となって具現化・可視化されるという因果関係があります。そしてその見積書の先には、受注や失注といった営業成果・売上が紐づいている。

つまり、日報の内容から営業成果までの情報を、ルールに基づいてカテゴライズ・紐付けしていくと「どのような思考・行動・情報が、受注や失注と相関しているのか?」といったことが見えてきます。

これは個々人が自分勝手に「こうすれば売上が上がる!」と思い込んでいるだけの状態とは全く違っていて、客観的なデータ・事実をもとに『組織として効率的な業績向上の仕組み』を作るのに役立ちます。

日報や見積書は日々社員がExcelで作っては、それきりになっています。見積書の作成数は、年間1万件です。 それだけの情報が作りっぱなしで放置されている。実にもったいないことです。

これらを「資産」として活用するために、情報をカテゴライズするルール・マスタを作った上で、日報と見積書の作成をSalesforceに移管しました。

またあわせて、見積もりの承認などのワークフローもSalesforceの中に作成。これにより、承認権限や責任もSalesforceの中で明確化していきました。

以前は承認権限などがなんとなく曖昧になっていて、それこそ「人」に依存する部分がありました。そうではなく、それぞれの立場・役職者がその役割・責任をしっかり果たしていく、という当たり前の状態にしていこうと。

こうした取り組みが進んでいくと「上司は部下にどんなアプローチをしているのか?どういう課題、KPIを設定しているのか?」といったことも見えてきます。

もしこれが「部下任せ」「その時々の思い付き」「指示はしていない」ということにでもなれば、それは戦略などないに等しく、まさに属人的な営業活動が行われていることになります。

今後、組織として戦略を立案・実行していくにあたり、情報共有・指揮命令系統・上司と部下の関係性はとても重要になります。今のうちから少しずつ、「属人的な判断・仕事をやめる」「戦略を立て、それに基づいて行動する」といった組織文化に慣らしていくことが必要です。

Salesforceで業務を変えながら、社員に「変化の必要性に少しずつ気付いてもらう」というアプローチをしているとも言えますね。

反対、ハレーションだらけ。でもいつかわかってもらえる。

――とはいえ、社内からの反対やハレーションはありませんでしたか?

Lさん: 反対、ハレーションだらけですよ(笑)。

ただそれは最初からわかっていました。本気で改革を進めようとすれば、抵抗は仕方のないことです。社内の盲目的な環境や、全社一丸などの理想主義ではなく、対局主義的な思考で複数の意見が混在する事で、ベストを求めて切磋琢磨する。この様なプロセスを踏むことで組織や人材の成長を促し、いつか、この変化の必要性や効果をわかってもらえると考えています。

近いところでいえば、2025年にシステムまわりの整備が第一段階としては7割ほど形になりそうなので、その後の人事評価では、社員の日々の行動・プロセスも反映させられるのではないか?と考えています。

これまでは、明確な評価制度や指標もなく、売上や利益、社長や上長の心象で賞与や給与が決まっていました。これでは社員にとって納得度は低いですし、その評価を受けて何をがんばればいいのかもわからない。

Salesforceにストックした情報をうまく使うことで、例えば社員の評価を「結果だけでなく、目標へ向かうプロセス」にまで拡大することもできます。これは社員の日常の意識・行動の変化の必要性を実感できる、大きな契機になるはずです。

「どんな思考や行動が評価されるのか?」が明確になると、社員は自ら行動を起こす指針になりますし、上司は「部下の何を評価したか」を明確に言葉で説明する責任が求められるようになります。 社員の考え方・行動がいよいよ変わり始めると思います。

――今後について教えてください。

Lさん: 具体的にイメージしているところでいえば、お客様の設備情報の整備です。当社は専門商社ですので、例えばメンテナンスや新規提案のタイミングなどを精度高く予測・準備することで、お客様の課題を先回りしたり顕在化したりできれば、より適切な提案を行なえるようになります。

他方、社風の面でも「時間を使ってがんばる」ということが無意識下に根付いているので、これは変えていきたいですね。

そのためには、 まずは我々経営側が率先して「当社が持つ貴重な経営資源を正しく活用する」ことに真剣に取り組んで、社員・現場の働き方・考え方をより生産性の高い方向に変えていくことが不可欠 です。

Salesforceを用いた情報の統合はまさにそのためのもので、社員の理解も促しながら「もっと楽をして利益を出せる会社」にしていきたいですね。結果、会社は大きくなって社員やその家族も幸せになれる。そのような循環を生み出すのが私の仕事、目指す未来です。

(文・安藤 ショウカ)

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