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連載:第51回 IT・SaaSとの付き合い方

ChatGPTは「文句を言わない相談相手」。生成AIを愛称で呼ぶ 会社で、日常業務のムダとストレスが減った理由

BizHint 編集部 2025年4月24日(木)掲載
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生成AI・ChatGPTのことを「チャッティー」という愛称で呼び、全社で活用している日本コムシンク株式会社。IT業界で40年の歴史を持つ同社は、2023年1月という最初期からChatGPTを使い始め、バックオフィスをはじめ様々な業務に活用しています。生成AIによってどんな業務が効率化されたのか?人や組織にどんな変化をもたらしたのか?取締役でバックオフィス業務を統括する米坂 安代さんに話を聞きました。

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(お話を伺った方)
日本コムシンク株式会社
取締役 バリューアップセンター センター長
米坂 安代 さん


※本記事は取材時点(2025年1月)の情報に基づいて制作しております。各種情報は取材時点のものであること、あらかじめご了承ください。

今は30秒でできる仕事に、以前は2時間かけていた

――貴社での生成AIの活用状況、またその経緯について教えてください。

米坂 安代さん(以下、米坂):2023年1月頃からChatGPTを使い始め、2年ほどが経ちます。最初の頃はアウトプットに納得できない部分もありましたが、この1年(2024年以降)で、ものすごく賢くなっていると感じます。

例えば契約書チェックでは「私だったらここも絶対チェックするのに…」というスルーされていた部分が最近はなくなり、「そんなところまでチェックしてくれるのか」と、すっかり追い越されてしまった印象です。

現在、当社ではChatGPTを全社的に解禁していますが、導入を検討したのはChatGPTがリリースされた最初期でした。興味を持った本部の数人が試用して、その結果を社長に報告・提案。「これはぜひ使いましょう!」となり、全社展開に至りました。

当社はお客様のIT・DXのお手伝いをしているのですが、現場ではお客様からPCをお借りして仕事をするエンジニアも多いです。そういった環境ではお客様側のルールに従うことになりますので、あくまで自社で支給しているPCでの生成AIの使用というルールで運用しています。

――バックオフィス業務では具体的にどのように使われていますか?

米坂:今朝も新しくバックオフィスに加わったメンバーに向けて、IT業界の契約形態(請負、準委任、派遣など)の説明資料作成にChatGPTを使ったばかりです。

また、最近はいろいろな業界のお客様・取引先と契約書を交わす機会が増えているのですが、そのリーガルチェックでChatGPTのありがたみを感じています。

リーガルチェックは3人で手分けしてやっているのですが、チェックするポイントの認識を揃えるための資料をChatGPTに作ってもらいました。当社では総務部がリーガル業務も兼任しているものの、もちろん法律のプロではありません。それでも相応のチェック品質を担保できるようになりました。

特に、私たちにとって未知の業界のお客様の場合、その業界の商習慣や関連法律がまったくわかりません。そのような場合にChatGPTにチェックを依頼すると、相応の精度で注意点を指摘してくれます。これは本当に助かりますね。

こうしたチェックは、今はChatGPTを使って30秒ほどでできてしまいますが、以前は2時間以上かかっていました。もちろん、法律についてのしっかりしたチェックが必要なときは顧問弁護士にお願いしますが、その前段階で「我々にとってのリスク」などを事前に把握することができます。

また個人的に、法律名を正しく覚えるのが難しいのですが「○○の下請けなんとか法ってなんだっけ?」といった曖昧な質問をしても「それはつまり、この法律ですね」と正式名称を教えてくれて、またしっかり解説もしてくれて感心してしまいます。

いつでもどんな内容でも「文句を言わない」相談相手

――人事系の業務ではいかがですか?

米坂:例えば採用のシーンで「相手に微妙な温度感を伝えたいメール」を作るときにはありがたいですね。

「(採用としては)今はごめんなさいなんだけど、繋がりは保っていたい」「スキルマッチするお仕事はすぐにはないけど、将来を見据えてお話しさせてもらいたい」といったときに『そういう気持ちを伝えられるメールを考えて!』とChatGPTに相談すると、私の思いを言語化してくれます。

そうしてできたベースの文章に「私なりの気持ちや熱量」を書き足して、メッセージは完成です。一人で思い悩んで1時間かけてメッセージを紡ぐこともありましたが、壁打ち相手がいるだけで、自身の考え・思いを整理できて、納得感があるものができます。

また人事まわりの業務では、メンタルの不調な社員や退職予定の社員とのやり取りなど、「相手に気を遣う」シーンがどうしても出てきます。そういった場合には、相手を慮る言い回しを考えるための壁打ち相手になってもらっています。相手のキャラクターやそこに至る背景、目的といった情報も付記することで、私だけでは思いつかない表現の選択肢を提示してくれます。

ここで重要なのは、こうした人事まわりの繊細な対応や悩みは「社内であっても、おいそれと他人に相談できない」ということです。相手がいることですし、コンプライアンス的に誤った対応はできません。

以前は自分だけで考え、一人で抱え込むしかなかったものが、今はChatGPTに相談できます。「他言できない繊細な悩みでも、気兼ねなく相談できる」というだけで精神的にありがたいですね。

さらに言えば、ChatGPTは夜中であっても早朝であっても、決して文句を言いません(笑)。私が何回もやり直しを指示しても不満を言わず、根気強く対応してくれます。「ごめんね。しつこくて」と思わず謝罪を入力してしまったこともありますが、それでも「何回でも聞いてください」と返してくれるので、「人間相手だとこうはいかないな…」と感心しました。

――ChatGPTに相談する際のプロンプト(生成AIに投げ込む質問・指示)で工夫されていることは?

米坂:いろいろなプロンプトを試してはいるのですが、最初のプロンプトだけでは、しっくりくるものは出てきませんね。「ここは気に入ったけど、この部分だけこういう風に気持ちを変えてほしい」などとやり取りしながら修正を重ねていきます。「この部分は好み!」「(いくつか選択肢がある中で)3番目の案はいいね!」と、こちらの反応を返していくと、精度が上がっていく感覚です。

プロンプトのセミナーや記事は参考にはなるかもしれませんが、結局は自分なりのコツをつかむほうが早いのかな?と思います。あまり難しいことを考えず、ChatGPTと自然なやり取りを続けていると、いつの間にか慣れてくるのではないでしょうか。

無駄な時間と機会損失を減らすことができた

――その他、旧来の作業がChatGPTに置き換わったものはありますか?

米坂:稟議書の作成はChatGPTでかんたんになりました。当社の稟議書は比較的フリーフォーマットなんですが、稟議の起案目的や日付、金額、取引先など、必要な項目を箇条書きして「これを稟議書に仕上げて」と指示すれば、ほとんど完成。それをコピーしてワークフローに貼り付けて、チェック・加筆して提出すれば終わりです。

また、かんたんなプレゼン資料の制作は、PowerPointのCopilotボタンを使うようになりました。「こういう体裁にまとめたい」と入力すると、ページ分けして画像を配置して作ってくれます。「かっこいい感じにして!」といった要望も投げ込んでいます。

プレスリリースの作成では、リリースの草稿を書いてもらうことはもちろん、他社と共同で同時リリースを出すときなどは内容の調整が捗ります。他社の原稿と一緒に、自社と他社の関係性をChatGPTに投げ込んで「他社のプレスリリースと整合性のとれた、自社視点でのプレスリリース」をかんたんに書いてくれます。その間、30秒もかかりません。

そして、調べものも捗ります。以前はそこまで手が回らなかった調べものができて、判断が早くなります。例えば「日銀の利上げ」というニュースを目にしたとき、その影響について、以前は自分で想像する域を出なかったのですが、今は「自社の企業活動への影響を教えて」とChatGPTに質問することで、比べものにならないほどの可能性を知ることができます。

また私の手元には、M&A関連で企業紹介の情報が届くのですが、そのような情報が届いても「今は忙しいから」と後回しにすることが多くありました。しかし今は「この企業をM&Aした場合のメリット・デメリットは?自社とのシナジーで想定されることは?」とChatGPTにいったん質問してアドバイスを得ることで、優先順位をつけることができます。

業務上、決断が必要な仕事がどんどん押し寄せるのですが「まずはChatGPTに相談」というアクションによって無駄な時間を削減できて、機会損失を少なくできているように思います。

最近ChatGPTに相談した例としては「60歳以上の社員雇用の助成金や年金との組み合わせについて経営層に提案できる資料を作って」というもの。中長期的な組織づくり・人材要件を見据え、60歳以上の社員を雇用したときに出る補助金や、社内ルールと年金の組み合わせなどを検討する土台になるような資料を作ってもらいました。

以前であれば、WEBで調べたり、助成金セミナーに参加したり、社労士に相談するような初動やプロセスが必要だったのですが、それがいきなり完成レベルの提案資料を作れてしまう。圧倒的な業務効率化につながっています。

他方、会議の議事録については試行錯誤中です。会議の録音は欠席者への情報共有用に使っていますが、「生成AIによるまとめ」の積極的な利用はまだ難しいと感じます。簡潔すぎると正確に伝わりにくいですし、重要なポイントを適切に正しいニュアンスで抜き出す精度が不十分と感じています。

「チャッティーと呼ぶ」愛称でハードルが下がり社内浸透が進む

――生成AIの使い方で、貴社ならではというものはありますか?

米坂:ChatGPTを「チャッティー」という愛称で呼んでいることでしょうか。いつの間にか社内で愛称が定着し、「チャッティーさんに聞いてみよう」という会話が自然に生まれて、利用の心理的ハードルが下がっていると感じます。ChatGPTって名前、難しいですよね?他社でも「AIちゃん」と呼んでいるところがあるようです。

「チャッティー」という名前については、もともと私がChatなんとか…と名前を覚えきれなくて。周囲に「ChatGPTで調べてみたら?」とアドバイスする場面でいよいよ面倒になってしまい「もういい!うちの部署ではチャッティーって呼ぶ!」と決め、それが普及していきました。

Copilotも「コッピーちゃん」と呼ぶようになっていますし、気軽に呼べる名前のほうが浸透しやすいのかもしれませんね。

また、当社は2024年10月から40期めを迎えたのですが、その際の年間スローガン募集の企画で、個人的にChatGPTを活用しました。スローガンは匿名で応募できるのですが、私はChatGPTと一緒に考えました。

「英語で」「日本語で」「四字熟語で」「俳句で」といろいろ試して、「これは気に入ったから同じテイストでさらに5パターン」という感じで10〜20回くらいやり取りしました。

そうやってChatGPTと対話を重ねて応募するスローガンが決まったのですが、その過程で「そうか。私が言いたいことはこういうことなんだ」という気づきも得られました。

結果、私が応募したスローガンは2位。1位の社員もChatGPTを使っていましたし、多くの社員がChatGPTを使っていたと思います。過去に比べ、応募数が圧倒的に増えていたので。

革新的な使い方よりも、まずは日常業務から少しずつ

――最後に、これから生成AIを業務に活用しようとされる方にアドバイスがあればお願いします。

米坂:当社の経験で言えば、あまり革新的な活用法を模索するより、日常業務の中で少しずつ使い方を広げていくことが大切だと思います。

当社でも最初はちょっとした調べ物やメールの下書きなどから始まりました。その中で「これは便利だ」と実感できる場面が徐々に出てきて、またChatGPTの得意不得意も把握しながら活用範囲が広がっていきました。

もちろん、人間の判断が必要な場面はたくさんあります。生成AIの回答を鵜呑みにせず、専門家の意見も取り入れながら活用するバランス感覚は意識したほうがよいです。当社で言えば、契約書や法律関連について、最後は必ず人間・専門家のチェックを入れていますし、重要な決断の最終的な責任は人が負うものです。

とはいえ、生成AIはやはり心強い存在です。24時間いつでも、どんな相談にも乗ってくれて、質問にも丁寧に答えてくれる。何より、一切文句を言われませんので(笑)。

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