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連載:第52回 IT・SaaSとの付き合い方

紙のタイムカードの限界。勤怠管理システムの選定・導入の担当者が語った本音

BizHint 編集部 2025年4月25日(金)掲載
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「勤怠の締日から給与支払いまでの10日、担当部署は多忙を極めていた」という積年の課題を、デジタル化・勤怠管理システムの導入で解決したのが大阪の三田理化工業株式会社。複数拠点からのタイムカードの輸送、管理職の承認、給与計算、振り込みなどが集中する「作業のピーク」をデジタルで「平準化」しました。さらには経費精算や請求書の発行・受領などのデジタル化も推進。その背景や選定・社内展開での紆余曲折を推進担当者に聞きました。

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(お話を伺った方)
三田理化工業株式会社(大阪・製造業・従業員数 約40名)
代表取締役社長 千種 純 さん
取締役 経営企画部 部長 清水 昭宏 さん


※本記事は2025年3月の取材に基づいて制作しております。各種情報は取材時点のものであること、あらかじめご了承ください。

紙のタイムカード運用の限界と社労士の変更

――貴社は紙のタイムカード運用から、クラウドサービスの「ジンジャー勤怠」に切り替えられました。もともとのきっかけ、課題はどのようなものだったのでしょうか?

千種 純社長(以下、千種): きっかけは2つあります。1つは、以前から利用していた 紙のタイムカード運用に限界を感じていたこと。 もう1つは、そういった状況下で、以前から給与計算などでお世話になっていた 社労士さんが病気で業務遂行が難しくなったこと です。

――紙のタイムカード運用の限界というのは?

千種: 当社は兵庫・西脇に工場があり、また東京にも拠点があります。長年、紙のタイムカードで運用していたのですが、 毎月の勤怠確定・給与計算・給与支払いのスケジュールが圧迫されていました。

具体的に言えば、給与は毎月15日締め25日払い。締めと支払いの間が10日間しかなく、銀行への振込手続きは給与支給日の3営業日前に金額を確定しなければなりません。

その間にタイムカードの輸送やチェック、不備があれば修正のやり取りを行う必要があり、毎月この期間の労務・経理まわりは多忙を極め、特に、9月のような祝日が多い月は毎年綱渡り状態です。経営企画部の部長である清水と、役員である会長の奥様が長年、時には休日出勤しながら対応してきましたが、いつまでもその体制というわけにはいきません。休日出勤前提の業務では、社員に引き継ぐこともできません。この問題を長年にわたって解決したいと思っていました。

そんな中で、社労士さんを変更する必要が出てきたことから「勤怠管理のデジタル化」までまとめて進めようと考えました。

代表取締役社長 千種 純 さん

システム選定の基準。価格と拡張性

――新しい社労士の選定や、ジンジャー勤怠を採用されるまでの経緯を伺えますか?

千種: 結果的には同業界の経営者からご紹介いただいた社労士事務所に決めました。決め手としては、事前にいろいろとお話しする中で 「しっかりとコミュニケーションを取っていただける」「属人的ではなく、複数の社労士さんがチームとしてご対応いただける体制が整っている」と感じたこと です。

新しい社労士さんとの契約を機に、勤怠管理のシステム選定を進めました。社労士さん側からは他のクライアントで実績のある「ジンジャー」の紹介を受け、「楽楽勤怠」と比較しました。「楽楽勤怠」と比較した理由は、当社はそれ以前に「楽楽精算」というサービスを導入していたことが背景にあります。

また、システム選定は実際に勤怠管理・給与計算に携わってきた取締役・経営企画部部長の清水が進めました。

――清水さんに伺います。ジンジャー勤怠と楽楽勤怠はどのように比較検討されましたか?

清水 昭宏さん(以下、清水): 両方ともオンラインでデモを見せてもらいました。しかし正直、見ただけでは違いはよくわかりませんでした。そんな中で ジンジャー勤怠を選んだ理由はまず価格。そして、将来的に年末調整もペーパーレスでやっていくことを考えていたので、その部分でジンジャーのほうが拡張性に優れていると感じた ことです。

取締役 経営企画部 部長 清水 昭宏 さん

――社労士側にジンジャー勤怠の実績があったことは判断に影響しませんでしたか?

清水: それはあまりなかったですね。もし当社で検討して「楽楽勤怠を使いたい」となれば、それで進めることもできたと思います。

――千種社長は、清水さんの選択についていかがでしたか?

千種: 私も答えを持っているわけではありませんでしたし、「どちらにしても、やってみなければわからない」と考えていましたので、実際に業務にあたる清水の決定を尊重しました。

「ルール・運用」と「システム」。それぞれに明るい推進チーム

――導入時の設定や社内への告知・展開についてはどのように進められましたか?

清水: これは私と社長の奥様の佐貴子さんで、 役割を分担しながらチームで推進しました。

私は長年、経理をはじめとしたバックオフィス分野を担当しており、ルールや現場の運用には明るいのですが、システムまわりは強くありません。他方、佐貴子さんはシステムまわりの経験が豊富です。

ジンジャー勤怠の仕様を見ると、当社の既存のルールをそのまま適用できるものもあれば、そうではないものもありました。 適用できるものは佐貴子さんがジンジャー勤怠に反映させ、そうではないものは私が社内ルールを改定・調整して、ジンジャー勤怠の仕様に合わせていきました。

例えば、出張の多い営業担当者の打刻ルール。会社として訪問時間を把握するために、運用ルールやジンジャー勤怠の設定を調整し、訪問先の訪問前後に打刻をしてもらうことにしました。形式的な始業・終業の二つの打刻とした場合、実際の労務管理に必要な把握が難しかったので。ただ、以前は出張時は“みなし”扱いとし、時間表記を割愛、そのような作業はなかったので『なぜそんなことをしなければならないのか』という社員からの問い合わせはありました。

そして初期設定後は、本格稼働の前に1ヶ月ほどテスト運用をしました。 出張が多い社員や管理職など、想定される利用パターンを持つ人材を選んで試してもらい、フィードバックを集め調整 していきました。

社内展開に向けては、まず説明会を実施。ジンジャー側からいただいた汎用的なマニュアルをもとに当社用にアレンジして説明会用のスライドを作成し、1時間ほど説明しました。スライドは100ページ超というボリュームになりました。これは説明会で全て説明して社員に理解してもらうことを前提にしていません。 実際、使っていないシステムをスライドだけで理解することは無理 だと思いますので。

そして説明会を経て実際に運用するようになると、社員から多くの質問がありました。その際は、 テスト運用でのフィードバック等を参考に質問を事前に想定し、あらかじめ説明会の資料に回答を準備しておいた ことで、効率的に対応することができました。佐貴子さんが細かい部分まで作ってくれたおかげで、本当にありがたかったですね。

スケジュール感としては、2023年の5月に導入を決め、ルール調整・システム設定・社内説明を進め本格稼働は7月という流れでした。

――その間2ヶ月ほどというのは、とてもスピーディですね。

清水: そうですね。実はジンジャー勤怠の導入を決めた後、佐貴子さんが7月から産休に入られる見通しとなり、図らずもタイムリミットが切られてしまいました。当初は楽楽精算の導入直後ということもあり、もう少しゆっくりと考えていたのですが、前述の通り佐貴子さんがいなければ絶対に無理だと判断し、私も佐貴子さんも覚悟を決めてがんばりました。

システムまわりがわかる人材が他にいれば、佐貴子さんの負担をもう少し軽くできたのですが、普通の中小企業ではそういった人材はすぐにはおらず…。 やりきる、間に合わせる、というのが最適解だと判断 しました。社員もシステム導入に理解・協力をしてくれたおかげで、なんとか間に合わせることができました。

勤怠確認・給与計算のピークが低減され、平準化

――ジンジャー勤怠の導入後、現場の反応はいかがでしたか?

清水: 画面上の『字が小さい』『見にくい』といった声は数多くいただきました。

またボタンデザインについても、アクティブなボタンの色がグレーだったり、どう見ても『死んでいるボタン』に見えるのに実は稼働中だったり…。デザインやインターフェースの面でモヤモヤすることはありました。

また、 導入後しばらくして使わなくなった機能もあります。 「笑顔判定」という機能です。打刻の際に、カメラが顔・笑顔を判別して本人確認・打刻を行うものです。

「面白そうだから」と採用したのですが、うまくいきませんでした。工場ではタブレット2台を使って全員が打刻するのですが…笑顔の判定にとにかく時間がかかりすぎる。朝の出勤時、タブレットの前で笑顔を作る社員を先頭に渋滞が発生してしまい、現場には不評。結果、この機能はオフにしました。

これはデモを見ただけではわかりませんでした。 困っている現場の生の声を直接聞くことで「これはたしかに時間がかかって使えない」と腹落ちしました。

――ジンジャー勤怠の導入から約1年半が経過しましたが、勤怠の締日から給与支払いまでの忙しさについて、課題は解決されたのでしょうか?

清水: 労務・給与担当者の全工数としてはおそらく横ばいであるものの、 作業のピーク負荷は下がったことが大きな変化です。

というのも、紙のタイムカードの時は締日後に一斉に集計していたものが、今は日常的に打刻のエラーチェック・修正依頼が発生するようになりました。これは日々、エラー打刻がわかるがゆえの作業ではあります。

一方で、締日後のチェック・修正は大きく減少。紙のタイムカードだと、締日後に紙が揃った瞬間からヨーイドンで作業が始まり、そこに忙しさのピークがきていたものが、ジンジャー勤怠では申請漏れやエラーを事前に潰せるので、 ピーク負荷が下がって平準化されるという具合です。 そして最終的な給与振込手続きについても、以前より余裕が生まれて楽になったと感じます。この結果、 勤怠・給与計算のための休日出勤はなくなりました。

またこのタイミングで給与明細自体も紙からWEBに切り替えたため、発行や拠点への配布作業の時間が削減され、さらに余裕が生まれました。そして、 現場の管理者にとっても『15日の締日に合わせて勤怠まわりの作業をまとめてやらなければならない』という制限がなくなったことは、心理的にもありがたい変化 です。以前は締日に休んでいる人がいると、それ以前の勤怠記録に疑義があった場合に確認できませんでしたが、今はそのような作業を日々行えるようになっています。

経費精算という別の業務で、デジタル化の第一歩を踏み出していた

――「ジンジャー勤怠」の導入前に、「楽楽精算」を導入されていたというお話がありました。これはどのような経緯で?

清水: 2021年に電子帳票の保存義務化の話が出たところからスタートしました。社員の多くが出張の際ネット購入を利用していた事から、電子帳票の割合も多く、電子データでの保存が必要になるため、管理面・運用面から当初採用していた紙での精算書類については限界を感じていました。

そこで社員に会社用のクレジットカードを所有・利用してもらい、会社に発行される利用明細書で対応することで、社員の一連の経費精算業務の手間や管理面の手間も減らせると考えました。

その後楽楽精算に興味を持ったきっかけは、当時「楽楽」というサービス名が耳に残っていて、とりあえず調べてみたこと。実際に調べてみると、 当社が導入しているクレジットカードとの親和性が高く、業務効率化も期待でき、出張が多い社員の経費精算には外出先から申請できる等使いやすそうと感じ、導入を決めました。 導入にあたって、社内向けの説明スライドは160ページ超になりましたが、ここでも佐貴子さんと一緒に進めました。

実は、楽楽精算を導入してデジタル化の第一歩を踏んでいたことは、勤怠管理のデジタル化にも少なからず影響しています。 「経費精算をデジタル化して効率化できたのだから、勤怠管理・タイムカードの紙運用もデジタル化できるのでは?」 という漠然とした機運が、社内に生まれていました。

――その他、デジタル化を進められているものはありますか?

清水: 2025年1月からは「楽楽明細」を導入して、こちらからお客様へ送る請求書・納品書の発行業務もペーパーレス化・デジタル化を進めました。

背景としては2つあります。 1つは郵便料金の値上げ、もう1つは社内で新設した改善提案制度(改善提案・実行で最大5万円支給)です。 担当の社員と「郵便料金の値上げを機に請求書のデジタル化を検討、という改善提案いけるんじゃない?」と話をして、提案・実行してくれたことがきっかけです。

最近は取引先から当社に依頼される請求書の発行・送付でも「ここにアップロードして」というケースが増えてきました。当社としても、できるだけ早くそのような仕組みを作ることで、他の会社の方針に合わせるのではなく、当社の仕組みに沿った形で他社に対応してもらうことが必要との思いもあり、担当者が導入を進めました。

さらに言えば、 当社の場合は「納品書」の発行も大きな負担でした。 取引先にもよりますが、請求書は月に1回でも、納品書は納品の度というケースもあり、これが担当部署の日々の業務を圧迫していました。その印刷、封入、チェック、発送といった作業が大幅にカットできたことは、請求書よりもインパクトが大きかったですね。これらの結果、 工数・郵送費などで年間80万円以上の削減効果 がありました。

そして楽楽精算と同時に、仕入先からの請求書をデジタルで受領するための「Invox for 楽楽精算」も導入し、これにより請求関係はほとんどデジタル化できました。しかし来春、この「Invox for 楽楽精算」のサービスが終了すると聞いているため、現在「楽楽請求」への切り替えに四苦八苦しているところです。

――ジンジャー勤怠の導入時に仰っていた、将来的な年末調整のデジタル化についてはいかがですか?

清水: 後日わかったことですが、社労士の方がまだペーパーレスに対応していないということでした。ただ、他のクライアントを含めてこういったニーズがあることは把握されているとのことで、今後どこかのタイミングで移行していくことになると思います。

「導入したら終わり」ではない。その後の変化・対応の必要性も念頭に

――最後に、デジタル化を進める上で感じられたポイントを教えてください。

千種: 当社のような中小企業では、100の仕事をデジタル化でいきなりゼロにするといった大掛かりなことはできません。簡単そうなところから少しずつ改善を進め「面倒くさいところ」や「将来的な課題」を洗い出してストックしながら、徐々に潰していくような取り組みが現実的だと思います。

また、デジタル化そのものも当社にとって有益な取り組みではあるものの、それを通じて「今まで融通が利かなかったところが変えられる」という 組織としての成功体験もまた大きな価値があると感じます。

社員がより効率的な仕事・働き方をするために、制度やルールを含め柔軟性を持った考え方・行動ができるようになってきていることを実感しています。

清水: この4年で4つのシステム導入を担当していますが、 できればあまり変えたくない、正直しんどいというのが本音ですね(笑)。 とはいえ、実際に社員の仕事が楽になり、また会社としてしっかりメリットが得られる取り組みですので、人がいない中でも、いつか誰かがやらなければならないことかな、と思います。

ただせっかくがんばって導入したシステムでも、内外様々な要因から、場合によっては数年で入れ替えさせられる可能性もあります。そのような事態は本当に、本当に勘弁してもらいたいですね(笑)。

選定・導入や日々の運用に際しては 「導入したら終わり」ではなく、その後もいろいろな変化・対応が必要になることを念頭に置いておいたほうがよいかな、 と思います。

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