連載:第47回 IT・SaaSとの付き合い方
経理・会計ツールを子会社と統一する。kintone連携を軸にした検討・選定の途中経過


北海道帯広市で電気設備工事業を手掛ける相互電業株式会社では、3社目の子会社ができたことをきっかけに、経理・会計まわりの事務作業の課題ができました。それは「子会社と親会社で経理・会計ツールが違う」「万一の際に、子会社の作業を親会社で代行できない」というもの。今現在、それを解決できるツールの選定を進めています。その背景や選定における同社独自の条件など、途中経過を伺いました。

相互電業株式会社
管理部 今野 愛菜 さん
※本記事は2024年6月の取材に基づいて制作しております。各種情報は取材時点のものである旨、あらかじめご了承ください。
経理・会計ツールが子会社と違う。将来起こる社内業務への危機感
――貴社は経理・会計ツールの移行を進められています。背景にはどのような課題があったのでしょうか?
今野 愛菜さん(以下、今野): はじまりは当社の子会社が増えたことでした。もともと子会社は2社あったのですが、その2社では経理・会計業務に当社とは別のツールを使っていました。当社ではTKCのツールを使い、子会社は別の会計システムという具合に。
ツールは異なるものの、それぞれの会社でそれぞれの担当者が作業するといった役割分担で、その段階までは大きな問題はありませんでした。
ただ、2023年に3社目の子会社ができました。その子会社の経理・会計業務は、以前の親会社が行っていたそうで、その子会社が行う経理業務は現金まわりや書類の処理など限られたものだけ。そこで、新たに親会社となった当社で、その子会社の経理・会計業務を行うことになりました。
そこで出てきた懸念が「もし今後、子会社の経理担当の方がいなくなったり、作業ができなくなった場合に、自分たちが子会社の分の作業をすべて行わなくてはならない」ということ。
とはいえ、私たちは子会社の業務フローや経理・会計まわりのシステムの使い方がわかりません。グループとして、経理・会計のシステム・業務全体を見直して共通化したほうが良いという声が管理部のメンバーから上がりました。
また、様々な経営数字や評価指標などについてグループとして統一した基準がなかったことも課題でした。そこで、グループ全体で使う経理・会計ツールの検討が始まりました。
とはいえ将来的には、このプロジェクトをきっかけとして、月次作業の早期化・簡略化、インボイス・電子帳簿保存法への対応、給与計算、入退社の省力化と属人化解消などの効率化を視野に入れています。
――移行するツールを選ぶにあたって、もともと貴社で使っていたTKCに統一するという話にはならなかったのでしょうか?
今野: 選択肢としてはあったのですが、最終的には不採用としました。新ツール選定の必要要件についてゼロベースで考えた結果「kintoneとの連携」が出てきたからです。
当社では社内業務の各所にkintoneを使っているのですが、従来、経理・会計まわりで使用していたTKC(建設業用会計情報データベース DAIC3クラウド)では、kintoneとの接続に難がありました。無理やり繋いでいたのですが、複雑で手間がかかっており…。
例えば、kintoneのデータをDAIC3クラウドに読み込ませるには、まずCSVで吐き出して、その拡張子を変えて特定のフォルダに入れて、TKCのDAIC3クラウドでローカルデータを読み込む設定にして読み込んで、エラーが出たらデータを修正してやり直して…の繰り返しという工程なんです。
この作業は私がやっているのですが、私がいなくなったらできませんし、TKCを子会社でも導入すれば、この作業が子会社でも発生します。グループ全体の業務が安定して回る未来が見えませんでした。
とはいえ、DAIC3クラウドはツールの中で原価管理ができたり、現場別の工事台帳や損益を出せたり、素早く入力できたりと、会計ツールとしてはすごく重宝していました。
ですので、前述の業務をスムーズにするようなツールがTKCシリーズの中に他にないか?と税理士さんに相談して探してもらったり、TKCの方に直接話を聞いたりしました。
その中で提案されたTKCの「FXクラウドシリーズ」を試してみたんですが、最終的には操作感が合わなくて、TKCは候補から外れることになりました。
もともと使っていたTKCシリーズでは、仕訳の入力を帳票画面のような入力画面で日付・借方勘定科目・貸方勘定科目・金額・備考…など、Tabキーを使って入力場所を移動していきます。この操作を行う際、キー操作と画面の反応速度がほぼ同じで、入力スピードがとても速かったのです。
しかしクラウド版を使ってみると、画面の見た目は全く同じですが、項目を移動するときにワンテンポ遅れる…『反応が鈍い』ということがわかりました。それに加え、CSVでの入力はできるものの、原価計算機能はついていない。今までと同じ入力画面ということは長所ではあるものの、今後のことを考えると足りない要素が多かったですね。
――それまで使っていたツールを変えるという方針に、周囲の反応はいかがでしたか?
今野: DAIC3クラウドは使い慣れており、勘定科目の番号が頭に入っているので入力も素早くできます。できれば変えたくないという意見はありました。
ただ、やはり子会社分の業務が必要になった時に対応できないことは、管理部のメンバー全員がわかっていました。旧来のやり方そのままでは、どんなにがんばっても捌ける量ではないと。
ですので、自分たちが慣れたツールでそのような日を迎えて膨大な作業量に忙殺されるよりも、まず全社の経理・会計システムを統一して、グループ全体の経理担当者が同じ作業をできるようにすることのほうが優先順位が高い、という結論に至りました。
3つのツールの比較内容。kintoneとの連携がポイントに。
――既存のTKCとは別のツールを探すにあたり、何から始められたのでしょうか?
今野: 最初のアクションが何だったかは定かではないのですが、kintoneのwebサイトの「kintone×会計システムで一気通貫!ストレスフリーに!」というページに紹介されていた、PCAとfreee、マネーフォワードクラウドの例は参考にしました。
ただ、私自身がfreeeとマネーフォワードを過去に利用した経験があり、また管理部の部長もマネーフォワードを使ったことがあったことなどから、経緯はどうあれ似たようなツールを比較検討することにはなったのではないかな?とは思います。
それぞれのツールについては、主に以下のような点をチェックしました。
- 試算表の見え方
- 勘定科目は現在のものと調整できるか?
- 工事費用や売上の計上、振替方法の流れを再現できるか?
(当社ではすべて未成工事として売上を計上して、完成工事のみ完成原価へ振り替えています) - kintoneとの連携、原価計算の見え方 ※後述
- キーボードだけで入力できるか? ※既存のTKCでは入力作業でマウス操作が不要
- TKCの勘定科目コードは使えるか?
――3つのツールについて、それぞれいかがでしたか?
今野: PCAは「PCAクラウド 建設業会計」というサービスで、建設業の会計に特化したものでした。担当の方にもお話を伺い、デモ環境も触らせていただきました。
クラウドサービスで動きが速く、細かい管理もできるし、今期の予測勘定が見られるといった他にはない機能もあってすごく良かったんです。ただ、kintone連携のプラグインにはあまり対応できていないようで、今は候補から外れています。
マネーフォワードは、経理の知識がある人や、簿記を勉強してきた人にとっては、入力画面や各種集計表などはかなり使いやすいものですし、当社の担当社員も慣れ親しめそうだと感じました。とはいえ第一候補にはなっていません。
会計ツールを検討するにあたっては「工事の原価管理をどうするか?」という視点も必要でした。専用のツールを入れるか、kintoneで行うか、Excelにするか。マネーフォワードを使う場合は、kintoneからの仕分の連携が厳しそうだったので原価管理のツールを入れることになる可能性が高いのですが、その運用がうまくイメージできませんでした。
そして、現時点で第一候補になっているのがfreeeです。「freee for kintone」のプラグインでkintoneとの連携がスムーズですし、最初の印象で、上司も私も一番しっくりきました。子会社でも使っているものですし、現在はfreeeをメインに検討しています。
2025年9月の移行を目指しているので、それに向けて6月中旬から1ヶ月間、デモ環境を使ってテスト中です。
デモ環境でのテスト。関係者の時間確保というハードル
――デモ環境を使ったテストはfreeeだけなのでしょうか。
今野: そうですね。私含め、関係各者が複数のツールを本格的にテストするだけのリソースを確保するのは難しいので。確度が低いツールをいくつも「使ってみてください」とするより、本命のものを優先的に試してもらうほうが効率的だと判断しています。
――テストはどのように進められているのでしょうか?
今野: 内容としては主に請求書と労務費の入力、小工事振替で行っていて、kintone連携後の試算表の見え方や、勘定科目が現在のDAIC3クラウドと調整できるかなどを確認しています。
また、工事費用や売上の計上、振替方法の流れを再現できるかは、特に留意しています。当社では製造業と同じように工事別に仕掛品を作るんです。それが完成したら勘定科目を変える処理をしているのですが、それをkintone側でどのように、またどこまで処理できるかを税理士さんとテストしています。
テストの全体的な流れとしては、1週目はkintoneとfreeeの連携、そしてその癖を把握したり、kintoneでの原価計算の見え方を確認したりしました。2週目は、原価と仕訳情報をkintoneとfreeeどちらに入れるかを考えながら業務フローを設計し、3週目は税理士さんと一緒に原価計算をkintoneでできる仕組みを作りました。先日、税理士さんにOKをいただいたので、最後の4週目は入力しやすさを詰めているところです。
kintoneとの調整がある程度スムーズに進んだ背景としては、私がkintoneに詳しい(kintoneエバンジェリスト)ということはあると思いますが、それでも1ヶ月のデモ期間で万全のテストをするのは難しいです。ですので、freeeの方にお願いしてテスト期間を2週間延ばしていただきました。
連携や機能のテストはもちろんですが、大きなハードルになるのが「人」の部分。テストにご協力いただく方の時間の確保・調整の難易度は想定外のものでした。
――テストの中で出てきた疑問はどのように解決されているのでしょう?
今野: freeeの仕様や機能については主にチャットサポートで聞いています。ただ「freee for kintone」についてはチャットサポートの方では対応が難しいようで、別の担当から数日後に返事が来る形にはなります。このあたりのタイムラグも、テスト期間が限られている中ではもどかしいところです。
また、freeeのシステムとは関係のない会計処理そのものについての疑問は担当の税理士さんに確認しています。
――テストの後は、どう進行されるのでしょうか?
今野: 前述の通り、 もう少しテストすべき箇所は残っているのですが、ちょうど今週末に管理部の部長から、導入を進めたい旨の話を社長にしてもらう予定です。
そこで正式に決まるかもしれませんし、社長からの懸念点が追加で出て、あらためて各所調整が必要になるかもしれないというところですね。移行が決まれば、freeeとkintoneの両マスタの整理を本格的に進め、一歩進んだ作り込み、担当者の実務レベルでの確認などをしていく流れになると思います。
※本記事の続き、社内提案・導入決定後のエピソードはこちらから。
(文:安藤 ショウカ 撮影:クナウパブリッシング)
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